第215話 広告、宣伝
「リョウジさん、最近、ベビー用品メーカーからの案件依頼が多いですね」
「全部断ってるけど、確かに多いな」
「子供たちの顔出しは、したくありませんからね」
「大人になって、自分の意思で顔出しをするならいいけど、またよくわかっていないアーサーたちの顔を世間に出すのは嫌だな」
「私もリョウジさんの意見に賛成です」
「育児動画を撮っている動画配信者たちを否定しているわけじゃないけど、ボクもリーの顔を世間に晒したくないな」
「トレント王国の治安はいいとはいえ、誘拐の危険もあります。それに、この前良二様のインチキスキャンダルを雑誌社に売ったのは動画配信もやっている冒険者でした。また同じことをされるかもしれません」
「私たちの子供には全員冒険者特性があるけど、まだ二歳にもなっていないからレベル上げができないものね。私もケビンの顔を動画には出したくないわ。別に、ベビー用品メーカーからの案件なんて受けるつもりもないしね。そういうのは、育児系動画配信者に任せればいいのよ」
「ベビー用品の宣伝をしなければいけないほど、生活に困っていませんしね」
「一言で言ってしまえば、ダーシャの言うとおり、で終わりね」
「私とダーシャの子供は、将来ビルメスト王国とトレント王国の王様になるから、その時には絶対に顔出し必須でしょ? それなら、赤ん坊の頃から顔出しする必要ないわよ」
俺たちは、速攻でベビー用品メーカーからの企業案件を断った。
赤ん坊を動画に出して商売をする必要もないし、本人の意思を確認しようもないからだ。
それでも、多くの企業からベビー用品や玩具が山のように送られてきたのには驚いた。
「サンプルには、高級玩具で高価なものばかりだけど、無料で貰っていいのかな?」
根が庶民である俺は、こんなに高いものを無料で貰ってしまうと悪い気がしてならない。
そこで、子供たちの顔は見えないようにして、ショート動画で貰った玩具で遊ぶ動画を流すことにした。
顔が映っていないのなら問題ないだろう。
それにショート動画なので、 アーサーたちへの負担も小さい。
「アーサーは木馬がお気に入りなんだね。リーはパズルか」
「「きゃっきゃ」」
「このメーカーの木馬とバズルが気に入ったみたいだな」
俺が子供たちと玩具で遊ぶショート動画はドローン型ゴーレムが撮影し、プロト1が配下の編集担当ゴーレムに編集させ、他にも、これまでに更新した動画からも膨大なショート動画が作られ、すべて投稿された。
「ショート動画って今、流行しているんだっけ?」
「社長、遅れてるのだ」
「ゴーレムに遅れてるって言われる俺ってなに?」
「流行は刻々と変化していくのだ」
それはなんとなく知ってるけど、それに対応して動くプロト1は、すでにゴーレムの範疇から外れているのかもしれない。
「最近、ますます人間ぽくなってきたなぁ」
「リョウジって、さすがは異世界の勇者よね。向こうの世界に、こんなに優秀で人間ぽいゴーレムを作れる人はいなかったもの。大半のゴーレムは、拠点防衛用で使い捨て。一部の高級ゴーレムでも、こんなに優秀じゃなかったわ」
「ううむ。ずっと同じゴーレムを改良し続けたからかな?」
「ゴーレム職人って、古いゴーレムのボディーは人工人格を抜いてから、拠点防衛用ゴーレム用に払い下げたり、捨てる人も珍しくなかったわね。材料費もそんなに高くないし」
デナーリスをして、プロト1は特殊なゴーレムだそうだ。
確かに拠点防衛用ゴーレムって、壊れるのが前提だからガワの素材は頑丈で安い。
再利用するにしても、拠点用ゴーレムにして使い潰すしかなかった。
「プロト1が支配下に置いている高級ゴーレムたちも、向こうの世界ではあり得ない高性能ぶりだしね。それだけリョウジが特殊なのかも」
高レベルの影響かもしれない。
どちらにしても、プロト1のおかげで俺は楽ができる。
「リョウジさん、子供たちが貰った玩具で遊んでいるショート動画がバズって、おかげで玩具が売れてますって、玩具メーカーからお礼が。まあ別の玩具なんですけど……」
「もの凄い量の玩具が送られてきているけど、さすがに遊びきれないよね」
俺は基本的に案件は受けないが、サンプル名目でプレゼントされたものの中で気に入った品物はショート動画で紹介するようになったからだろう。
サンプルは貰うけど、案件じゃないから紹介するか保証できない。
使わない物は、児童養護施設などに寄付しますという旨を告げたけど、送られてくるサンプルが一向に減らなかった。
「紹介するかわからないのに……」
「商品を一個送って、気に入ったリョウジがショート動画で宣伝してくれたら、ラッキー程度にしか考えてないと思うわ。正式にリョウジに広告を頼んだら、とんでもない金額になるもの」
「俺は広告案件は受けないぞ」
「だからよ。ウェインたちが貰った玩具で遊んでいるショート動画だけで絶大な広告効果があったんだから」
最近では、デナーリスも色々と仕事をしているからか、この世界に詳しくなってきたな。
むしろ、俺よりも順応性が高かったりして。
「あれには驚いたけど」
「その玩具メーカー、玩具を作っても作っても間に合わないらしいわ」
「リョウジが、自分の知名度と広告価値を理解していないだけよ。プロト1が全部断ってるけど、世界の名だたる企業から広告の案件が来ているんだから」
リンダはアメリカ人だからか、セレブで大統領の孫だからか、そういうのに一番詳しいような気がする。
「しかしなぁ……。俺だぞ」
そういく広告の仕事って、もっとイケメンだったり、美女にくるんじゃないの?
「……リョウジは凄い人なんだけど……自己評価が低いわね」
「そうかな?」
俺は世界一の冒険者だが、別にイケメンでもなく、世間からの評価は高くない。
敵も多いからトレント王国に引っ込んだわけで、広告の仕事には向かないと思ってるだけだ。
「そういうのは、アイドルとかタレント、俳優、モデルの仕事じゃないか」
「リョウジ、知らないの? 最近、そういう人たちの広告関連の仕事って減ってるのよ」
「そうなんだ。でもどうして?」
そうでなくても世間から仕事が減ってるので、芸能関係の仕事をする人が増えてくれないと困るのに……。
実際芸能人を目指す人が増えているので、仕事の柱である広告の仕事が減るのはよくない気がするのだ。
「だって、最近は芸能人の不祥事が多いじゃない」
「そう言われみると?」
テレビやネットで炎上している芸能人が増えた気がする。
不倫、パワハラ、モラハラ、セクハラ、飲酒運転、暴力行為、多額の借金、ギャンブル、薬物などなど。
俺に言わせると、今になって急に増えたのではなく、昔なら隠せてたことが隠せず、暴露されるようになった結果なんだと思ってるけど。
特に、ネット拡散力は凄いから。
「企業も、リスクがある人間を広告宣伝に使わなくなったの。こんな感じに」
このところテレビCMなんて見てなかったけど、テレビをつけてみたら、アニメ、CG、AIで作られたキャラクターのCMが増えていた。
大分減った新聞、雑誌などの紙媒体も、ネット広告も同じだった。
「増えたなんてもんじゃないな! 半分以上か?」
それだけ、人間が広告に起用されなくなったってことだものな。
この分野は人間の天下だと思っていたのに、まさかこんなことになるなんて……。
「作られたキャラクターは不倫したり、暴力を振るわないから」
「確かにそうだけど……」
「なにより、安く、綺麗で、インパクトのあるCMが作れるのよね。他にも人間の芸能人だと、『あれは自分のイメージにそぐわないからできません』とか言われて、面倒なケースもあるらしいから」
「芸能人やインフルエンサーも大変だな」
仕事がない人が芸能人を目指すケースが増えているのに、一番儲かる広告、宣伝の仕事が減っているのだから。
「逆に信用のある人は、広告、宣伝の仕事は減るどころか増えているわね。リョウジもリスクが少ないから、広告、宣伝の仕事を頼みたい人が多いのよ」
「俺? でも俺がノーリスクはないんじゃないか?」
確かに俺は自分で不祥事を起こすタイプじゃないけど、変な連中に目をつけられて、おかしなスキャンダルをでっちあげられたことが何度もある。
そんな俺をCMに使うのはどうかと思うのだ。
「たとえでっち上げでも、俺はリスクあると思うけどな」
「その度に、告発した方が大ダメージを受けているじゃない。総理大臣の圧力すらかわす。それでいて悪評もない、知名度抜群のリョウジなら宣伝効果抜群だって思ってる企業は多いわ」
「ふーーーん」
リンダに乗せられて、俺もCM王を目指すか?
「でも、CMを引き受けると生活に制限が出そうだからなぁ」
CMをやった商品やサービスしか使っちゃいけないとか。
そして、ライバル社の製品を使っているところが見つかったら、広告主から怒られるかもしれないなんて、俺はやだな。
「コンビニで買う飲み物くらい、好きに買わせてくれ」
「リョウジが引き受けるわけないと思ったし、プロト1が広告、宣伝に出すアニメ、CG、AI絵、動画の仕事で荒稼ぎしてるから、目立たない方がいいかも」
「……ブロト1、そんなことまで……。あいつはどこに行こうしているんだろうな?」
「リョウジが、『赤字にならなきゃ、なにをやってもいい』なんて言うから、このまま際限なく仕事をするのかもね。世界中すべての富が古谷企画に集まるまでやるかも」
ジニ係数が1の世界か……。
もしそんな世界が実現したら、さすがに革命騒ぎになるだろうな。
あり得ないけど。
「でも、もしそうなったら広告、宣伝の意味なくね?」
「いくら宣伝しても購入力がないものね」
以後も、広告宣伝にアニメやCGを使うケースは増え続け、古谷企画はその分でトップシェアを誇るようになっていた。
すべてプロト1のおかげなんだけど、ますます才能ある人以外の仕事が減っていくような……。
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