第209話 ロボパーク(後編)

『もっと激しい戦いを希望の方は、こちらの動画チャンネルをご覧ください』



 とある地方に作られた、ガンソードを始めとする、アニメに出てきたメカやロボットを忠実に再現したものに乗れるテーマパーク『ロボパーク』は大人気となっていた。

 あまりに多くのお客さんが押し寄せるので、今では完全予約制で、半年先まで予約が埋まっている状態だ。

 日本に初めて作られたテーマパークなので、海外からのお客さんも多い。

 そのため、現在ではロボパークの拡張と、日本国内で数ヵ所の建設が進んでいた。

 相変わらずロボやメカは地面でしか動かせないけど、それは役人が頑なに許可を出さないので仕方がない。

 政治家の田中総理は新しい仕事を作り出したいと願い、役人はもし事故でも起こって人が死ぬと大変なのでなかなか許可を出さない。

 程度の差はあれ、世界中どこでも展開されている光景だと思う。


 そんな事情があり、冒険者特区内でもっとスリリングに遊べるテーマパークが進んでいた。

 テーマパークの性質上広い土地が必要になるけど、それは魔法の袋や『アイテムボックス』技術を応用した別空間内に作るので問題なかった。

 すでに世界中にある多くの冒険者特区で採用されており、狭いことが多い冒険者特区の土地問題を解決していた。

 この技術は、狭い冒険者特区内では必須といっていい技術であろう。

 国によっては、冒険者特区外でも普及して土地不足を改善している。

 その代わり、狭い土地に沢山の人が住めるので、世界中で一極集中がますます進んでおり、そのことで冒険者を批判する人たちもいたけど。


 上野公園ダンジョン特区に作られる予定のロボパークは、日本国内のロボパークとなにが違うのか?

 それは、日本国内のロボパークでは規制の関係でマシンを飛行させられないが、冒険者特区内のテーマパークでは、ガンソードをアニメさながらに飛行させながら戦わせることができるという点だ。

 すでに技術としては完成しており、冒険者特区は規制が緩いので、すぐにこうやって飛ばしながら戦わせることができた。


「おっと! すごい弾幕だな」


 ガンソードフルバーストファイヤ砲撃戦仕様タイプを操る綾乃は、空中にいる俺を砲弾の網で絡め取ろうと、地上からすべての装備武器で連射を続けている。

 魔法使いである、綾乃らしい戦い方だ。

 なお、これら再現メカの放つビーム、レーザー、砲撃は、すべて『幻術』魔法を応用した偽物である。

 ただし被弾判定が出ると、メカの損傷度が計算されて機動や機能が制限されたり、撃墜判定が出て動かせなくなるので、当たるわけにいかなかった。


『おっと、危ねえ』


『かわされた!』


『反撃だ!』


 俺は、ガンソードの接近戦用の武器『ビームソー』抜き、全速力で降下しながら綾乃の機体に接近する。


『っ!』


 接近戦には弱い機体に乗っている綾乃は、俺を砲撃で始末しようとする、

 だが俺はすべての砲撃を回避し続けながら綾乃の機体の機体に接近し、ビームソードで袈裟斬りにした。

 すると、綾乃の機体に撃破判定が出る。

 今頃、彼女の機体のコックピット内は『あなたの機体は完全に破壊されました!』のアナウンスが流れているだろう。


『無念です』


『まずは一機』


『リョウジ君、油断大敵だよ。接近戦ならば、 ボクの方が圧倒的に有利だ!』


 綾乃の機体を撃破したと思ったら、細身のガンソードに攻撃を受けた、

 この機体は、速度と機動性に性能を全振りし、武器も両拳と両爪先に展開できるビームナックルのみという、かなり特殊な機体であった。

 ガンソードセカンドシリーズに登場した機体で、登場回数は少ないものの、強敵を撃破したりして、マニア的な人気を誇る機体だ。

 同時に、格闘家であるホンファともっとも相性がいい機体とも言える。


『これはかわせるかな?』


『って!』


 ホンファによる怒涛の攻撃をすべてかわしきれず、シールドで防ぎ続けていたら、『シールド破損』の判定が出てパージされてしまった。

 だがそのおかげで、俺はホンファの機体と距離を置くことができた。

 すぐにビームガンの連射で反撃する。


『おっと、当たらないよ!』


 さすがはホンファというべきか、ビームガンから撃たれるビームを、その驚異的な動体視力を駆使してかわしていく。

 だけど、俺の本命はビームガンではなかった。

 彼女の回避位置を予想して、右手の甲に装備しているワイヤーつきビームナイフを放つ。

 するとそれは見事に、ホンファの機体のコックピット部分に命中した。


『してやられたぁーーー』


『ダーシャ、二体一でやるわよ!』


『一対一だと勝てませんからね』


 次は、デナーリスとダーシャがガンソード高速機動タイプで空中戦を挑んできた。

 俺のガンソードは通常タイプなうえ、二体一なのでかなり不利だ。

 何度か二人の放ったビームガンが俺の機体をかすり、微細な損傷判定が出る。

 幸い、機体性能に大きな影響がなく、俺は粘り強く二人の攻撃をかわしながら高速飛行を続け、二人に隙ができるのを待つ。

 そしてついに……。


『よっしやぁーーー!』


 なかなか俺を撃破できずに焦ったデナーリスが、ついに無防備な側面をさらした。

 俺はそのチャンスを逃すことなく、ビームガンと腰のレールガンの同時発射で彼女の機体に複数着弾させることに成功した。


『爆散判定……無念……。もう、リョウジ強すぎ!』


『デナーリスさんが!』


 二体一で俺を追い込んでいたのに、仲間が倒されてしまったダーシャの動きが一瞬止まった。

 その隙を見逃さず、俺はミサイル、ビームガン、レールガンの網にダーシャの機体を絡め取る。


『同じく爆散判定……。やられてしまいました』


 デナーリスも脱落し、残るはイザベラだけだ。

 ただ一つ困ったことがあって、それはビームガンのエネルギーと弾薬が尽きてしまったことだ。

 俺の前に現れたイザベラは、特別武装であるビームランスを選択装備していたようで、それを俺に向けて構えた。


『飛び道具は使わないのか』


『私はイギリス貴族ですので、常に正々堂々と勝負いたしますわ』


『それはありがたい』


 俺はビームソードを構え、いつでも斬りかかれるようにする。

 数秒間、俺とイザベラは対峙を続けるが、先に動いたのは俺だった。


『っ!』


 ビームソードを構えたまま全速力でイザベラの機体へと走り出すと、彼女もそれに負けじとビームランスを構えて走り出す。

 そして双方の機体が交差した。


『……これは……』


 俺のビームソードによる一撃はイザベラの機体の右肩を斬ることに成功していたようだが、残念ながら致命傷ではない。

 逆にイザベラのビームランスによる一撃は、俺の機体のコクピット部分を貫いていた。

 コクピット内で赤色のライトが点滅し、『搭乗者死亡により機体停止』のアナウンスが流れる。


『負けたぁ』


『リョウジさんは、ホンファさんたちを撃破し続けていたので疲れていましたから』


『的確に急所を突かれているから、さすがはイザベラだよ』


 勝負がついたので、俺とイザベラは機体から降りた。

 別次元に作られた広大なロボパークでは、ありとあらゆる条件で実際に戦うことができる。

 その凄さを宣伝すべく、俺たちがガンソードに乗ってオープン前に模擬戦闘を披露し、それを動画で公開したわけだ。

 高速で飛行しながら戦うなど、アニメの挙動に近いガンソードの姿を世界中の人たちが視聴し、これはいい宣伝になったはずだ。


『上野公園ダンジョン特区のロボパークの機体ですが、実弾でなないとはいえ、実際に武器を使えることが特徴的ですね。あとは、飛行しながら高速での空中戦闘を体験できることでしょうか? 対G装置があり、安全装置は幾重にもかけています。さらに……』


 俺は、魔法薬が入ったガラス瓶を『アイテムボックス』から取り出した。


『当然かなり乗り物酔いするわけですが、これを防ぐ特別な酔い止めがあるので、身長が足りていれば動かせます。身長制限が緩い、人型でないメカも多数あるので、是非いらしてください』


 この動画も大いにバズり、後日オープンしたロボパークは、他の日本国内のロボパークよりも多く客さんが詰めかけるようになった。

 日本国内のロボパークは、規制の関係で模造でも武器が使えなかったり、機体を飛行させられなかったり、魔法薬の酔い止めが使えないので仕方がないのだけど。

 その代わり、上野公園ダンジョンのロボパークは一日遊ぶと一人二十万円くらいはかかるので、一人五万くらいで済む日本国内のロボパークと上手く区別できているとも言えた。


『死ぬまでに一度は、上野公園ダンジョンのロボパークに遊びに行きたいよなぁ』


『三年先まで予約で埋まってるけどな』


『他の冒険者特区にも作ってほしいよなぁ』


 数年後、ようやく抵抗していた役人たちが陥落して日本国内の規制が緩和され、上野公園ダンジョン特区内のロボパークと同じ形に改修され、混みはするが予約がなくても遊べるようになる。

 それはよかったと思うけど、アニメに出てきたマシンやロボを忠実に再現する仕事で俺は想定外の忙しさだった。

 まさか、海外にも多数つくることになるなんて。

 世界各国のロボパークでは乗れるロボットやメカがだいぶ違うので、世界中のロボパークを巡るマニアが多数生まれる要因となったのは別の話。


 というかみんな、アニメのマシンやロボットに乗りたすぎ!




「おおっ! これが新型のガンソードか。忠実に再現しなければ!」


「梶原先生、渾身の作でござる」


「そしてそれを、アニメ化発表前に見られる俺、役得すぎ」


「新作アニメ放映と同時に、ロボパークで『ガンソードレボリューション』に搭乗できる。いい宣伝になるでござるよ」


「主演声優さんが実際に動かす様子を配信すれば、絶対に盛り上がるぞ」


「さすがは、古谷殿でござる」


「山田、シナリオは終わったのか?」


「だいたいは。ガンソードは、途中話の展開やキャラの扱いが変わることもあるので、それに対応できるようにしているでござる」


「それは大変だな」


「今、アニメの方は誠意製作中でござるよ。AIとゴーレムのおかげて、製作期間とクォリティーが劇的に上がっているでござる」


「それはよかった」


「AIとゴーレムのおかげで、アニメ業界の人手不足は解消しつつありますが、優れた人材が一人でアニメ製作会社を立ち上げて続々と参戦しているので、ライバルが増えて戦々恐々でごさる」


「うちも、アニメの仕事をやってるしなぁ」


 プロト1に任せきりだけど、AIとゴーレムに様々な学習をさせるため、動画配信サイトで流す短編アニメ、漫画の製作や、他のアニメ製作会社が作っているアニメの背景、彩色、仕上げなども引き受けていた。

 クォリティーは、現在平均80点ってところかな。

 高クォリティーアニメの背景くらいはできるようになっていて、アニメ業界は人手不足だけど、腕の悪い人はいらない、みたいな感じになっていた。

 そして腕のいい人は、一人でも長編アニメを作れるようになっており、さらに職がない人も次々と参入して、現在、かつてない数のアニメが作られていた。

 漫画や動画も、同じような感じだけど。


「小説も参入者が増えたでござる。WEB投稿サイトが乱立しているでござる」


 失業率が上がり、このまま一生仕事をしないで人生を終える人間が増えると予想されているためか、創作の世界に飛び込む人が増えていた。

 たとえ成果が出なくても最低限の生活が保証されているし、少しでも仕事ができれば、作家なり、シナリオライターなり、漫画家を名乗れる。

 働かなくてもいい世の中とはいえ、無職で肩書きがないと辛いと考える人もいるわけで、そういう人たちにとって創作の世界は好都合だった。

 働かずに済むということは時間が余るので、アニメ、漫画、ゲームの売り上げは伸びる一方であり、特に日本はこの分野に強いので、重要な輸出産業になりつつある。

 数少ない就業者を増やせる産業ということで、日本政府も手厚く支援をするようになり、生産性の向上と就業者の増加が同時に進んでいる珍しい産業といえよう。


 『そんな事情で創作の世界に参入して大丈夫なのか?』と考えるみなさん。

 その心配は無用で、大成功する人も少なくなかった。

 大きな夢を持って参入しても失敗する人も多いわけで、お上からすれば、沢山参入してくれた方が成功する人も増えるという計算しか持っていないのだから。


「大変だな、山田は」



「小説は常に新作の準備をしているでござるし、漫画原作も始めるので心配ご無用でござるよ。仕事がなくならなければ勝ちでござる」


 山田は凄いと思う。

 もし俺が向こうの世界に召喚されなかつもたら、今頃は無職だったかもしれないのだから。


「新型ガンソードのお披露目、楽しみでごさるな」


「招待券を送るからさ」


「悪いでござるな」


「ガンソードの制作スタッフや関係者全員に送ってるから気にするなって」


「ガンソードは、もっと世界に広がってほしいでござるな」


「だから、このチャンスを生かすのさ」


 新作ガンソードの放映と合わせて、ロボパークでアニメに登場した機体に乗れるようにする。

 この企画は大当たりし、ガンソードはロボパークを訪れた海外の観光客や俺の動画の視聴者経由で、世界中にファンを増やすことに成功した。

 さらにこのやり方真似て、多くのロボット、メカアニメのコラボキャンペーンが行われるようになり、ロボパークに作成したロボやメカを導入する仕事は、古谷企画に大きな利益をもたらすのであった。





「なるほど。確かにシミュレーションなら、敵機を撃破した際に爆発させられますし、機体も損傷されられますな」


「なにより、ゲーセンに置けるじゃない」


「これは盛り上がりそうですな」



 ロボパークで実際にロボットを動かすと、かなり高額になってしまう。

 そこで、同志山田に紹介してもらったゲーム会社と組んで、リアルに近いガンソードのシミュレーションゲームの開発を行っていた。

 これまでのシミュレーションゲームを遥かに凌駕する、素晴らしい出来になったと思う。

 ガンソードのコクピットを忠実に再現しているのでかなり大きく、ゲームセンターでの運用を想定しているが、金持ちなら個人で買えるかもしれない。

 と思っていたら、実際に個人で購入する人がかなり多かった。

 一台購入すれば、AIパイロットと対戦できるし、ネット経由でゲームセンターで遊んでいる人や、同じ筐体を持つ個人とも対決できる。

 これまでガンソードに出てきたほぼすべての機体を選べ、自由にカスタマイズすることも可能だったので、発売が発表されてから大きな注目を集めてあつめていた。

 今日はガンソードの制作関者向けの内覧会で、当然山田も参加していた。

 彼は、ガンソードの監督と楽しそうにゲームで遊んでいる。


「山田、上手いな」


「いえいえ、この手のゲームには数多の猛者が多数おりますから。拙者などまだまだですよ」


「確かに」


「しかし、このゲーム。実にリアルですな」


「実はこれ、自衛隊に納品したシミュレーションの民生品だから」


 このところの自衛隊は予算も増え、日本は魔石の輸出国なので、訓練不足になる危険はなかった。

 とはいえ、空中都市にあったムー文明の最新兵器の導入を急いでいる関係で、兵器を酷使して整備士たちの仕事を増やすわけにいかない。

 そこで、パイロットたちが使う各種兵器用のシミュレーションを導入したのだ。


「しかしよく自衛隊が、高度なシミュレーションゲームを民間で使う許可を出しましたな」


「当然、自衛隊にも目的があるのさ」


「目的でござるか?」


「腕のいい操縦者が欲しいんだと」


「操縦者? パイロットではなく?」


「現在、兵器類の遠隔コントロールの技術が大幅に進んでいる。自衛隊は完全三交代制を導入して、多くの兵器を遠隔で動かす操縦者を集めている。当然優秀な若者のスカウトもしており……」


「昔、そんなアニメを見たでござるな」


「俺も見た気がする」


 平日の昼間からゲームセンターで遊んでいるような若者は、今の時代、無職である可能性が高かった。

 それなら、その操縦技術を生かして自衛隊という公務員になれば、親御さんも喜ぶし、収入が増えるし、社会的な信用度も上がると。

 

「そのおかげで、ゲームのクォリティーが上がるんだから万々歳だ」


「それは確かにでござる」


 自衛隊や米軍でも使われている高度なシミュレーションマシンを使ったゲームも大ヒットし、特にガンソードのゲームにはプロまで現れ、大会に多額の賞金がかかって大いに盛り上がるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る