第208話 ロボパーク(前編)

「どうですか? 可能な限り手に入る資料を元に、初代ガンソードの機体を再現してみたのですが……」


「ここの部分がちょっと……。頭部のもう少しアンテナが長い方がいいですね。それと、この部品の色が少し違いますね。もう少し暗い赤なんです」


「なるほど……」





 ゴーレム、ロボット、AIが生産性を劇的に向上させた結果、沢山の人間の仕事が奪われてしまった。

 その解決策として、現在日本に在住している人はベーシックインカムを貰えるように。

 全国民の最低限の生活を保証してしまう。

 これが高失業率となった社会を安定させるための政策であるが、もう一つ、田中総理からも依頼を受けていた。

 人間が生きていくために必要な仕事であればあるほど、生産量と生産性の向上が劇的に進んでおり、就業者は減少傾向にある。

 ならば、まったく新しい仕事を作り出せばいい。

 新しい仕事は、以前ならそれがなくても人間は生きていける類の仕事に属する。

 つまり、人が暇を潰せる仕事ということになる。

 そして新しい産業、仕事は色々と模索していかなければいけないので、人間の従業員を多数必要とする。

 仕事として安定し、生産性を向上させるターンに入るまでは新しい人材を欲するので、日本人が多く起業するようになればなるほど失業率は下がる。

 勿論その大半が失敗するだろう。

 だがもし失敗して破産しても、ベーシックインカムがある。

 何度失敗してもまた起業すればいいし、働きたい人はそうやってできた新しい会社に入ればいい。

 もしその会社が成功すれば、大きなリターンを得ることができるのだから。


 そんな新しい仕事を、俺たちは田中総理の依頼で作っているわけだ。

 

『どうせ失敗するからと言って、なにもしなければ新しい仕事も会社も育たない。失敗して無一文になってもベーシックインカムという保証があるのなら、 日本人はもっと起業するようになるだろう。働きたい人間はその会社がダメになっても、また新しくできた別の会社で働けばいいのだから。多くの人たちが常にチャレンジする社会を目指したいので、古谷君にも是非なにか起業をしてもらいたくてね』


『わかりました』


 そんなわけで、俺は新しい事業を始めることにした。

 プロト1に『失敗前提になるけど』というと、『他の事業で黒字にするから問題ないです』と言われたので、早速始めてみることに。

 その事業とは、アニメに出てくるメカや人型兵器、ロボットを操縦できるテーマパークである。

 ヒントは先日見た『高速機甲ガンソード』の映画であり、『本当にガンソードに乗れたら、客が沢山来るんじゃねえ?』と思ったからだ。


 以前手に入れたムー文明の遺産の中には、大型のウィングパックを背中に装着した、まるでロボット兵器のような全高十メートルほどのゴーレムがあった。

 現在、日本、アメリカなどが中心となって詳細な調査と、技術利用のための研究を続けているところだが、やはり人型兵器は兵器としては使いにくい部類に入るみたいだ。

 むしろその技術を利用した、兵士用の大型パワードスーツの開発と試作、量産が進んでいた。

 現在自衛隊の人員不足は深刻で、それを補うためのものらしい。

 宇宙開発や深海探索にも使える可能性があり、そっちの研究も進んでいる。

 ところが想定外のことは起こるもの。

 日本の失業率が急速に上がったため、自衛隊に志望者が殺到しているらしい。

 今の日本は守る物が多いため、自衛隊の予算も毎年大増額されており……ますます少数になってしまった既存の野党は、軍拡反対を叫んでいるけど、支持者はかなり限られるようになったけど……少しでも志願者を増やそうと待遇や福利厚生が急速によくなっており、選抜されたエリートたちで『パワードスーツ部隊』の編成が進んでいる。


 俺は、これとダンジョン由来の魔導工学を利用して、実際に乗れて操縦できる人型の乗り物を試作した。

 そのデザインは俺が愛してやまないガンソードであり、現在ガンソードの版権元と一緒に、テーマパークでお客さんが乗れるよう細かな改修を繰り返している。


「さすが、ガンソードのデザインを担当した梶原さんですね。わずから間違いも見逃さないなんて」


「実際に動かせるガンソードを作ってもらえるなんて、メカニックデザイン冥利に尽きますよ。まさか吉良山先生と古谷さんが親友同士で、吉良山先生経由でこのお話を聞いた時には驚きましたけど」


 『吉良山』とは、同志山田のペンネームである。

 俺は乗れるガンソードを作るに際し、山田経由でガンソードの版権を持つ会社に仕事を依頼したのだ。

  許可を貰えるかちょっと不安だったけど向こうは乗り気で、ガンソードのメカデザインをしている梶原達夫さんが山田と一緒に来てくれた。


「(梶原さん……。あとで限定画集にサイン貰いたい……)」


「古谷殿、さすがに同じ大きさにはできませんでしたか」


「歩かせるだけだからその大きさでもいいんだけど、いくらテーマパークが辺鄙な場所にあっても、あまり大きな機体を運用すると場所の問題がねぇ……。近隣にまったく家屋がないわけでもないから」


「シミュレーション用のビームガン、レールガン、ビームソード、実剣も開発したと聞きましたが、これも使ぬでござるか」


「こっちは、規制で駄目になってしまった。役人ってのは融通が利かないよね」


「困ったものでござる。せっかく最先端の対G対策を含む完璧な安全対策もしてあるのに、地上で動かすのが限界でござるか」


「それでも、かなりリアルに近づけたけどね。空中戦や、シミュレーション用の武装を使った模擬戦は、将来のお楽しみってことで」


「たとえ全高五メートルほどでも、実際に操縦でるのですから、きっと沢山のお客さんが押しかけるでござるよ。梶原殿、このテーマパークオリジナルのグッズも置きたいでござるね」


「吉良山、そのアイデアはもう会社で認可されたので、現在試作を進めていますよ」


「それは楽しみでござる」」




 ちなみにテーマパークの場所は、バブル崩壊後に経営不振で倒産し、ずっと廃墟となっていた遊園地やリゾート施設の跡地を買い叩いて建設している。

 少し不便な場所にあるけど、全高五メートルの人型の乗り物に乗ることができるテーマパークなので、人里離れた方が安全だし、広い土地を確保しやすかったからだ。

 近所の住民たちから苦情が入りにくいというのもある。

 さらにここには、再びホテルやリゾート施設、温泉、カジノなどが建設されているけど、そっちの建設と経営は他の人たちに任せているので俺はよく知らなかった。

 通称『ロボパーク』はちょっと不便な場所にあるので、遠方から遊びに来るお客さんのために宿泊施設などが必要だと考えたのだろう。

 田中総理が、観光業に従事する人を増やすために手を打ったのだろうけど。


「ガンソードでも、人気が上位の機甲兵器を再現する予定です」


「宣伝も兼ねて人気投票をしましょうか? 吉良山先生が小説と脚本を担当する新シリーズの機体も用意して、アニメの放映と同時に乗れるようにするのもいい宣伝になると思います」


「デザインの提供と監修をしていただけるのなら、喜んで協力しますとも。他のロボットアニメのロボットも、交渉して導入したいですね」


「いいですね。私がデザインした作品なら、版権を持つ会社に掛け合ってみますよ」


「他の作品のメカやロボットにものれるなんて楽しみでござる」


 こうして、アニメのロボットをムー文明とダンジョン技術で再現した人型の乗り物が次々と完成し、急ピッチで建設したテーマパークで操縦できるようになった。

 すると日本のみならず世界中から大勢の客が押し掛け、すぐに数ヵ月前に予約をしないと遊べないほど大繁盛することになった。





『リョウジ・フルヤ。 ガンソード・レボリューション、発進します!』


 その日の動画は、様々なコンソール、液晶の画面、スイッチ、レバーで構成された操縦席からスタートした。

 同志山田が原作小説と脚本を務める新作『ガンソード・レボリューション』で主人公が最初に乗る機体が忠実に再現され、俺はそれをアニメではお馴染みの掛け声と共に発進させる。

 カメラは外にも多数設置されていて、全高五メートルの人型兵器のレプリカが歩き始める。

 本当は宇宙戦艦のカタパルトから打ち出されるのだけど、さすがに一般人にそれをやらせるには規制の問題が多くて実現できなかった。

 それでも、まるでアニメのようにスムーズに歩いたり走ったりでき、所定のコース歩かせたり走らせている様子を動画で配信すると、多くの視聴回数を稼げた。 


『本当はカタパルトから打ち出すことも、飛行させることも可能なのですが、安全面の問題からそちらの機能は省かれています(役人が認めねぇんだ!)。とはいえ……。来た!』


『リョウジさん、このロボット面白いですわね』


『イザベラ、ガンソードはロボットじゃないから』


『リョウジさんは、細かいところにこだわりますのね』


『だからこそ、俺はガソヲタなのだ』


『ガソヲタ?』


『ガンソードヲタク、略してガソヲタです』


『はあ……』


 今日の動画はイザベラたちとのコラボ動画で、この忠実に再現したガンソードや他のアニメのロボットたちに搭乗できるテーマパークの宣伝のためであった。

 アニメの登場兵器やメカを再現し、自分で操縦できる場所。

 通称『ガンソードパーク』は、オープン前から世界中の人たちの注目を集めていた。


『では、私も!』


『かかってこい! ガンソード!』


 イザベラが操縦しているのは、初代ガンソード。

 今でも一番人気を誇る、主人公の搭乗兵器だ。

 所定のコースをどちらが先にゴールできるか、競争を始める。

 全高五メートルの人型兵器を全力で走らせているのに、操縦している俺とイザベラたちはほとんど上下に揺れていない。

 古代ムー文明の最先端技術であった。

 この技術は民間分野でも期待されており、人型の建設機械として研究が進んでいた。


『こちらは安全性が完全に確認されてからの導入ですが(クソ役人に嫌な奴がいて、何度書類持っていっても却下しやがるんだ!)模擬戦用のレーザーガンの撃ち合いをお見せしましょう』


 当然本物ではないが、被弾するとその部分が損傷判定を受けて動かせなくなるという、ムー文明の模擬戦シュミレーションシステムを応用したものだ。

 念のため動画の下に、『今回だけは特別に許可を得ました』というテロップを出しておく。


『これ、思ったよりも 当たりませんわね』


『俺も当たらねえ』


 距離をおいてのレーザーガンの撃ち合いは、双方ともに操縦に慣れていないので、なかなか命中弾を出せずにいた。

 俺のレベルがいくら高くても、こういうものは慣れないと上手くならないのだ。

 上達速度は速いだろうけど。


『やったわ!』


『リンダ、上手すぎ! もう戦闘不能判定が出ちゃった。さすがはガンナーだね』


 隣の広場でリンダとホンファも模擬戦闘を行っていたが、ガンナーで銃の扱いに慣れているリンダに一日の長があった。

 ホンファの『ガンソード・ツヴァイ』は、一撃で操縦席を撃ち抜かれて戦死判定を出されてしまった。


『イザベラ、レーザーソードで戦おう』


『はい』


 共に剣には自信があるので、模擬戦用のレーザーソードでの戦いに切り替える。

 これも、役人が許可を出さないので……以下同文。

 接近戦は難しいので最初は双方共にぎこちなかったけど、すぐに慣れて、斬りかかり、防ぎ、鍔迫り合いとなって、撮れ高は十分であった。


『さすがは、白銀の騎士だな』


『リョウジさんもなかなかですわ』


 二体のガンソードによる戦いは多数のカメラでしっかりと撮影されており、これを編集すれば多くの人たちが手に汗を握る楽しい動画となるだろう。


『ロボパークは、○○県○○市で来月からオープンです。みんな、来てね!』


『『『『お待ちしていまーーーす』』』』


 最初に案件動画だとテロップを出してから始まった、『ガンソードを動かしてみる』動画は大いにバズり、ロボパークのいい宣伝となったのであった。

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