第206話 古谷良二、活動再開

「久々に、ドラゴンがハグレモンスターとして出現したな。獅童政権の時じゃなくて本当によかったぜ」


「本当ですよ。もしドラゴン退治を高レベル冒険者に任せたら、獅童総理にベッタリだった署長がご機嫌斜めだったでしょうからね」


「現場に顔すら出さないで、政治家に媚びるクソ野郎だからな」


「腹が立つがことに、田中政権になっても失脚しませんでしたね」


「そういう狡いところがまた腹が立つんだよな。そういう奴は出世しやすいんだろうけど」



 出動の最中だが、所長の悪口になると盛り上がるから困ってしまう。

 あのハゲ、自分が直接ハグレモンスターと戦わないから、獅童政権時は無茶ばかり言いやがって!

 なにが、『すべてのハグレモンスターは、警察だけで対処しなければならない!』だ。

 獅童総理に対し冒険者に頼らない姿勢を見せて、点数稼ぎをしたいのがミエミエだった。

 田中政権になったら、『今度は冒険者との協力関係をしっかりと構築します!』と真逆のことを言っているらしいけど。

 そういう話を聞くと、『小役人って嫌だなぁ』って思ってしまう。


「その署長ですけど、今は田中政権にどう取り入ろうかで忙しいみたいです」


「ふーーーん、そいつはご苦労なこった。現場としては、高レベル冒険者に気軽に応援を頼めるようになったのが一番だ」


「ですよね。署長の点数稼ぎで殉職するのは嫌ですから」


「本当だよ。おっと、来たな」


 最近、ハグレモンスター出現が話題になることが減ったが、出現頻度が減ったわけではない。

 対ハグレモンスター部隊の対処が適切……犠牲者がゼロというのはさすがに無理だが、他国に比べれば圧倒的に少なかった。

 他にも、地上に突如モンスターが出現するのだ。

 最初はみんながその情報を欲し、マスコミがこぞって報道するから世間に注目されたが、人間とはよくも悪くも慣れる生き物だ。

 さらに、我々対モンスター部隊の対応力が上がってハグレモンスターを即座に排除できるようになり、段々と台風や大雪のような扱いになってきた。

 ハグレモンスターが出現しても、急いで距離を置けばそう襲われないこともわかってきたというのもある。

 必ずしも街中ばかりに出現するわけでもなく、山中に出現すれば人間に犠牲者が出にくいというのもある。

 モンスターはダンジョンでも移動範囲が限られており、地上に出てもその性質が引き継がれているらしい。

 これは一度獅童総理に潰され、先週ようやく復活した冒険者大学での研究でわかったことだが。

 そして最大の要因だが、この四年間、高レベル冒険者に応援を頼む機会がなかったというのもある。

 獅童政権下でも、ダンジョン技術を利用した装備の導入は進んでいたし、獅童総理もそれを止めなかった。

 もし対モンスター部隊の装備導入を止めた結果、国民に被害が出たら支持率が下がると思ったらのかもしれない。

 すでに購入と納品が決まってたので、止められなかったというのもあるのだろうが。


「隊長、見てください!」


「ほほう。そんなことがあるんだな」


 そんなわけで久々のドラゴン出現なのだが、なんと今日は古谷良二が当番だったらしい。

 飛行魔法で飛来してきて、剣を構えると、そのまま一撃でドラゴンの首をはねてしまった。

 そしてその様子を、数基のドローン型ゴーレムが撮影しているのは、彼が有名な動画配信者だからだろう。


「じゃあ、ドラゴンの死骸は貰っていきます。後処理をお願いします」


「わかりました」


 お互い手慣れたもので、すでに警察はドラゴンの血を洗い流しながら、破壊された建物や施設の現場検証を始めていた。

 強いハグレモンスターが出現した時、高レベル冒険者にその討伐を頼む条件として、モンスターの死骸の権利を討伐した冒険者に与えるというものがあり、今回討伐されたドラゴンの権利は古谷良二に移る。

 対モンスター部隊がハグレモンスターを討伐すれば、その死骸は警察のものとなり装備の購入などに使われるから、おかしな話ではない。

 我々への特別手当……とはいかないが、新装備が早く導入されれば隊員の安全度が上がるので悪い話ではなかった。

 ただ、それにも文句をつけてくる人たちはいる。

 対モンスター部隊が倒したハグレモンスターの死骸を売却したお金を社会保障費に回せとか、ハグレモンスターを倒した冒険者は死骸の権利を放棄すべきだと。

 自分が命がけで関わっているわけではないから、想像力がないバカほど好き勝手に言うわけだ。

 そしてそれがSNSで拡散されて、支持者が集まってくる。

 バカのサークルをいち早く構築してしまう点が、SNSの弱点だと思う。


「やっばり批判されてますね」


 撤収が終わり、対モンスター部隊専用の運搬車両に乗って警察署に戻る途中、部下の木橋巡査長がスマホを見ながら呆れた表情を浮かべていた。

 どうやら古谷良二が、ハグレモンスターであるドラゴンを倒していた様子はもう動画配信サイトに更新されているようだ。

 そして、その動画のコメントが炎上しているという。


「炎上する要素あるか?」


「古谷良二は世界一のお金持ちなのだから、ドラゴンの死骸の権利を放棄すべきだ! だそうです」


「ああっ、そういう……。言いそうな人が一定数いそうだな」


 このところ、失業率が五十パーセントに迫りつつあるからなぁ。

 仕事がないので、暇潰しにネットを利用する人が増え、その分残念な人が増えたのだろう。

 結局、働くことは美しいとか言ってた獅童総理でも、失業率の改善はできなかった。

 ゴーレムの使用を禁止したら今度はロボットの研究が進んで、それが爆発的に世間に普及したからだ。

 そのロボットの大半が、ゴーレムの生産と管理、メンテナンスで稼いだお金を湯水のように使って高性能ロボットの開発を進めたイワキ工業と古谷企画政というのが笑えなかったけど。

 獅童政権が崩壊して、ダンジョン技術とゴーレムの使用が復活した結果、無人、省力化がさらに進んだように思える。

 田中総理が迅速にベーシックインカムを復活させたので、失業者たちが生活に困ることはなかったが。

 ただアルバイトや単発の仕事はかなりあるので、それをすればたまに贅沢もできるくらいの収入になるのは救いか。

 外国から見たら夢のような社会なのだが、それでも不満がある日本人たちは一定数いる。

 働けないことが恥ずかしいと思っているが、働ける能力に達していない人たちがネット上で大騒ぎするようになった。

 『能力のある自分が、公務員としてや大企業で働けないのはおかしい!』みたいに思っている人たちだ。

 ちなみに、起業したい人はこれを機にと次々と起業していると、この前ニュースでやっていた。

 小規模な起業なら失敗してもほとんどリスクがないので、若い人ほど積極的に起業してしるイメージだ。

 成功率は……なんだけど、一定の確率で大成功を収める人が出てくるし、そのおかげて日本は景気がいいのと、働き口は増えるので失業率の上昇を和らげることができていた。

 残念ながら、一人起業をしてロボット、ゴーレム、AIを従業員代わりにする企業家も少なくないので、失業率を下げることはできなかったけど。


「『自分が輝けていないのは、社会が悪い!』そんな風に思っている人たちが、その不満を古谷良二や他の高レベル冒険者、冒険者資本に向けているのさ」


「はあ……。それなら、装備を買うか借りるかして、ダンジョンに潜ればいいのでは?」


「自分たちは選ばれたエリートだから、冒険者なんて3K仕事はしないらしい」


「なんか、ニートが働かない言い訳みたいですね」


 高性能な装備のおかげで、十階層くらいまでなら冒険者特性がなくても攻略できるようになった。

 仕事がない人たちの多くはダンジョンに潜るようになったと聞くので、古谷良二にケチなんてつけている暇があったら、ダンジョンに潜れば……そう思う人が、ネットやSNS上でそんな文句は言わないか。。


「彼らは、国家公務員や大企業の幹部のような、ステータスがあって高給な仕事をしたいんだ。冒険者なんて野蛮で3K仕事は自分に相応しくないと思っている」


「そう思うのは自由ですけど……」


 いくら望んでも、高給でステータスが高い仕事なんてそうそうないだろう。

 ロボットとゴーレムが導入されたせいで、会社の役員や管理職はだいぶ減った。

 必要がなくなったからだ。

 株主たちに指摘され、多くの会社は人件費の削減に取り組んでいるという事情もあった。


「そんな不満だらけの彼らからしたら、古谷良二がこれ以上金を稼ぐのは悪なのさ」


「もの凄い理屈ですね」


「そうでも思わないと、優れているはずの自分たちが無職だという現実を認められないのだろう」


「となると、古谷良二はドラゴンの死骸の権利を放棄する方がいいのでしょうか?」


 せめて一度だけでも、倒したハグレモンスターの死骸の権利を放棄して寄付でもすれば、彼らも少しは大人しくなるかもしれない。

 そんな風に思うのは自由だが、どうせ大人しくならないし、古谷良二は倒したハグレモンスターの死骸の権利を放棄できなかった。

 いや、あえて手放さないようにしているのだ。


「倒したモンスターの死骸の権利放棄は、古谷良二一人の問題じゃないからなぁ……」


「どういうことですか?」


「もし古谷良二が、自分で倒したハグレモンスターの死骸をどこかに寄付したとしよう。どうなると思う?」


「みんな、喜びます」


「子供のような返答だな。正解ではあるが。次に、他のハグレモンスターを倒した冒険者たちからはどう思うかわかるか?」


「わかりません。古谷良二の才能に嫉妬する、ですか?」


「それもあるかもしれないが、もし古谷良二が倒したハグレモンスターの死骸を寄付してしまうと、他の冒険者も同じことをしなければいけなくなる。彼は同業者たちの利益と権利を守るため、決してドラゴンの死骸の権利を放棄しない、できないのさ」


 今さら古谷良二に金なんて必要ないが、他の冒険者たちは違うかもしれない。

 彼が倒したハグレモンスターの死骸を寄付したことで、他の冒険者たちも同じことをしなければならないという空気ができてしまうと、ボランティアでハグレモンスターを倒している冒険者たちを苦しめることになるかもしれない。

 だから古谷良二は、決してハグレモンスターの死骸の権利を放棄しないのさ。


「なるほど」


「お前、わかってるのか? 本当に」


「わかってますよ」


「わかってないなぁ……。そのせいで古谷良二は世間から叩かれてるのに、それを続けている最大の理由をさ」


「『古谷良二はケチだ!  自分だけがよければいいと思っている』って叩かれてまでハグレモンスターの死骸を寄付しない、一番の理由……。そんなのあるんですか?」


「実は古谷良二は、寄付した方が圧倒的に楽なのさ。同時に、古谷良二ほどのインフルエンサーは寄付した方が得なんだよ」


「寄付は節税になるんでしたっけ? 富裕層が寄付や慈善活動をする理由ってのをなにかの記事で見たことありますよ」


「それもあるが、金持ちや有名人、インフルエンサーが寄付をするとニュースで流れるだろう?」


「ええ


「それが宣伝になって知名度が上がり、同時に評価を、それもいい評価を大きく稼げる」


「評価なんて稼いでどうするんです?」


「知らんのか? 高い知名度と高い評価は金になるんだよ」


 どうしてこの世界で格差がなくならないのか?

 たとえば大金持ちが寄付や慈善事業をすると、世間の人たちに大きく評価される。

 その評価のおかげでますます仕事が増えて、のちに出したお金以上の利益が戻ってくるからだ。


「評価がのちにお金になる。現代は評価社会とでも言うべきか。さすがの国税庁も、金持ちの評価に課税はできないからな」


「じゃあ、金持ちやインフルエンサーは、寄付や慈善事業をやらない方がいいんですか?」


「それで実際に救われている人もいるからな。やらなくても格差は広がるわけで、なんとも言えん」


「難しい話ですね。なににせよ、滅多に出ないとはいえ、ドラゴンが出現しても高レベル冒険者に任せるられるのは嬉しいですよ」


「獅童総理の時に出現しなくてよかったな。あの署長のことだ。俺たちになんとかしろって言っただろうからな」


「ですよねぇ」


 今日の対モンスター部隊は、高レベル冒険者たちの力を借りられることが確認できたのでよかったと思う。

 ドラゴンの死骸があれば新装備を揃えられるのだが、それは贅沢というものか。







『今日は、新しくオープンしたばかりのお店に案内します。おおっと、混んでますね。このお店は、モンスター肉を安く提供しているそうです』


 現在、飲食店の紹介や試食で人気を博している動画配信者の最新動画を見ていた。

 人間は食べないと生きていけないため、食べ物に関連した動画は数えきれないほどあるけど、一歩抜きん出た存在になるのは難しい。

 俺も定期的に食べ物の動画を見るし、自分でもやってみるが。どうすれば人気になるのか、皆目見当がつかない。

 俺の食べ物関連の動画が視聴回数を稼いでいるのは、ダンジョンから産出した食べ物を紹介したり、詳しかったり、元々ダンジョン探索動画で人気だったからだ。

 数多存在する料理系動画配信者の中で、この彼が人気者なのはどうしてなのか?

 俺には全然わからなかった。

 彼の力量が不足してるわけではない。

 彼と同レベルかそれ以上に見える配信者がまったく再生数を稼いでいないので、どこに差があるのか不思議に思ってしまうのだ。


『今なら、ポイズンボアのポークソテーが税込み二千円! 安いですね』


「供給過多なんだよなぁ……」


「リョウジさん、それを言ってはおしまいですわ」


 最初はなんでも高かったダンジョンからの産出物だけど、冒険者特性を持つ大半の人がダンジョンに潜るようになり、段々とレベルアップして討伐効率が上がり、冒険者特性がなくても十階層くらいまでなら到達できるようになったり、フルヤ島ダンジョンの他にも、ゴーレム軍団によるダンジョン攻略を始めた個人と国家、経営者もいて、低階層で手に入る品の値崩れが進んでいた。

 冒険者は以前よりも稼げなくなったが、値下げした分庶民にも手に入りやすくなったともいえ、こうして低階層モンスターの肉を出すリーズナブルなお店が続々とオープンしていた。


「お値段的にジビエ料理に似てるね」


 ホンファの発言にみんなが頷いた。

 ポイズンボアのソテー定食が税込み二千円なので、むしろ猪に比べると割安って説まであるな。

 これまでモンスターの肉を食べたことがない人たちが、こぞって押し掛けてる感じだ。


『柔らかくて、肉自体の旨味が濃くて美味しいですね。ご飯が進むぅーーー』


 この動画配信者、少し太めで『おにぎり君』といった感じの風貌なので、ご飯を食べているととても美味しそうに見える。

 なぜ人気なのか、今わかった。


「ただ、世界中で多くの飲食店が、新店も含めて低階層モンスターの肉を出すようになってしまったので、これからは競争ですね」


「世知辛いなぁ」


 綾乃の言うとおりで、失業率が下がらずなかなか職に就けないので、飲食店を開く人が増えていた。

 ただ非常に競争率が激しい業界なので、それ以上に潰れているなんて話も聞く。

 ロボット、AI、ゴーレム、アイテムボックス、魔法の袋などを用いてコストを極限まで削り、省力化を進め、多店舗展開、薄利多売で稼ぐ大手と、多少価格が高くても名物店主がやっているような……料理よりも店主が売りのお店。

 さほど売り上げがなくても、自宅を改装した店舗なので維持が容易い。

 生き残るのはそんな飲食店ばかりらしい。

 実際、今グルメ系動画配信者が紹介しているお店も、オーナーしか人間がいなかった。

 

「そういえば、リョウジも無人食堂を復活させたんでしょう?」


「別に、潰れてはいなかったんだけどね」


 リンダの問いに答える俺。

 子供食堂を兼ねていた無人食堂は、獅童総理により全店が閉鎖となっていた。

 獅童総理が、懇意にしていた大手飲食チェーン店に無人食堂の利権を渡すためだ。

 無人食堂のあとには大手飲食チェーン店が入って国から補助金を貰い、子供食堂も引き継いでいる。

 ただその大手チェーン店としても、いきなり無人食堂と同じ料理を出せるわけがない。

 ゴーレムが使えず、ロボットの能力が不足していたので人間の従業員に頼っていたが人手不足だったので、結局その飲食チェーン店はメニューを大幅に減らし、食材や加工品を古谷企画、イワキ工業から仕入れて営業していた。


「ついでに全国の飲食チェーン店に食材や加工品も卸していて、実はそっちの方が儲かってたんだ」


 全国の飲食チェーン店をフランチャイズとみなし、トレント王国にあるゴーレム工場で加工したものを日本の飲食店に卸す。

 表面上は古谷企画やイワキ工業などの冒険者資本を日本から追い出すことに成功していたが、日本企業は冒険者資本から商売に必要なものやサービスを仕入れるようになり、以前よりも稼ぐように。

 獅童総理はそのことについてなにも言わなかったと聞くが、それは表面上は冒険者及び冒険者資本を日本から追い出すことに成功していたからか、そこにまでメスを入れると日本が混乱するから、わざと知らないフリをしていた?

 獅童総理が死んだ今、彼の考えを確認する術はなかった。

 懇意にしていた獅童総理のおかげで無人食堂の後釜に座れた大手チェーン店だけど、食材や加工品、店内で運用する最新型ロボットは古谷企画とイワキ工業からで、メニュー数は減るし、価格は上がるはで以前から苦情が多かった。

 獅童政権終了後、イワキ工業と古谷企画は新たに無人食堂と子供食堂を始め、その影響で客数が一気に減って資金繰りが悪化。

 結局倒産してしまった。

 

「シドウ総理に関わると不幸になるよね」


「獅童総理がずっと権力者だったら、世間から『メニュー数が少ない!』、『価格が高い!』と言われつつも、子供食堂もやっている大手飲食チェーン店として生き残れたんじゃないかな?」


「つまりは、政治家に頼らないとどうにもならなかったから潰れたんですね」


 ホンファと綾乃からすれば、こんな社会情勢になってしまうと、政治家のみに頼るのは危険は発想だと思っているのだろう。

 現に日本で上手くやっていたはずの俺たちだって、本拠地をトレント王国に移さざるを得なかったのだから。


「政権交代のリスクがあるから、撤収が楽な仕事ばかりプロト1は始めているみたい」

 

 こうしてますます、冒険者はグローバル資本家らしくなり、格差を嫌う人たちに嫌われるようになる。

 そりゃあ、優秀な冒険者の多くがトレント王国国籍を取得するわけだ。


「リョウジも大変ね」


「俺は別に大変じゃないよ」


 今、日本に残った資産をすべて没収されたところで、痛くも痒くもないのだから。

 無人食堂の再開は田中総理に頼まれてだけど、次の政権がまた冒険者を目の仇にするかもしれず、もう半分諦めの境地だな。


「グランパがもうすぐ大統領を退任するけど、アメリカも割れているものね。トレント王国という安全圏があるだけ、私たちはマシよ」


 冒険者とダンジョンを嫌い、それをすべて排除しようとした日本の獅童総理は死んだが、世界には同じような考えを持ち、政権が交代してしまった国も多い。

 これを人間の多様性と言っていいのかわからないけど、面倒くさいとは思う。






『みなさん、無人食堂がリニューアルしました。子供食堂も併設しているので、一食千円分、一日三回までは無料ですよ。学生さんも無料です。メニューは多彩で、以前よりも大分増えましたが、期間限定メニューはさらに充実させています』


 無人食堂を復活させたので、俺は動画で宣伝をしていた。

 このところ、あちこちから『無人食堂は日本の食文化を殺す!』、『すぐにやめろ!』と批判コメントやら、脅迫メール、なんなら殺人予告も届いているけど、これは失業した元飲食業界の人が出しているパターンが多いと思う。

 実際警察に捕まった犯人は、そういう人たちばかりだったし。


『なんと! 期間限定ですが、無人食堂では二千円でブラックドラゴンステーキが食べられます! ライスかパン、サラダ、スープもついてこのお値段なのでお得ですよ。実際に食べてみましょう。あの巨体からは想像もできないお肉の柔らかさと、強い旨味。是非お試しください』


 動画で宣伝したおかげか。

 全国の無人食堂に、大勢のお客さんが詰めかけた。

 なお、ブラックドラゴンステーキを二千円で出すなんて、普通なら大赤字確定だが、俺の場合自分で討伐できるのでこれでも黒字という。

 

「社長、まだキャンペーン終了まで大分日数があるのに、もうブラックドラゴンの肉が切れちゃった」


「じゃあ、すぐ獲ってくるよ」


 プロト1から、思っていたよりも早くブラックドラゴンの肉がなくなったという報告が入った。

 大した手間でもないので、俺はダンジョンでブラックドラゴンを倒し、それをプロト1に渡す。


「さすがですね、社長」


「しかし、無人食堂が復活して全国に次々とオープンしていることを宣伝するためとはいえ、ブラックドラゴンの肉なんて出して大丈夫かな?」


 『金持ちが価格破壊をして、他の飲食店を潰そうとしている!』とか批判されそうではある。


「大丈夫だと思いますよ。ブラックドラゴンの肉を使ったステーキなんて、出しているお店は超高級店だし、富裕層向けだからそんなに多くないし。庶民的な料理を安く出す方が反発大きいから」


「プロト1に言われると、そんな気がしてきた。今後も、無人食堂の期間限定品は深い階層のいるモンスターの食材を使うとしよう」


「無人食堂にピリピリしている、他の飲食チェーン店と被らないのがいいのだ」


 動画と超お得な期間限定メニューのおかげで、無人食堂はあっという間に復活を遂げ、それどころか以前よりも店舗数を爆発的に増やした。


『海階層である、上野公園ダンジョン七百五十六階層で獲れる、ビッグツナと他の水性モンスターの刺身をふんだんに使った、『ダンジョン海鮮丼』が期間限定で二千円です。酢飯と普通のご飯が選べて大盛りも無料。なんと、アラ汁もついてきますよ』


『新鮮でまったく生臭くなくて、身の甘味と旨味がダンジョン産黄金大豆で作った『海鮮丼専用醤油』、ダンジョンワサビ、ダンジョンジンジャーのガリとよく合うなぁ。おかわり!』


『みんなも利用してね』


 グルメ系動画配信者ともコラボをして宣伝した結果、無人食堂は以前よりも多くの人たちで賑わうようになるのであった。

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