第195話 婿取り

『古谷良二、トレント王国で働いてます!』




 ダンジョン探索チャンネルでは、定期的に階数や構造が変わる世界中のダンジョンの撮影と解説を続け、このところサブチャンネルのダンジョン探索後チャンネルでは、アナザーテラを国土としたトレント王国の様子を紹介することが多かった。

 今日の俺は、地球でいうところの新潟平野で稲作をしている様子を撮影している。

 アナザーテラの新潟平野は人の手が入っていない湿地帯だったので、ゴーレムたちに埋め立てさせ、現在では広大な田園地帯となっていた。


「イザベラ、ちょっと苗が曲がってないかな?」


「ええと……。あら、田植えって難しいんですね」


「リョウジ君、田んぼの泥って美容にいいのかな?」


「よくわかんないけど、魔法薬の保水液でよくないかな?」


「それもそうだね。この田植えはトレント王国の大切な祭事だから、頑張ってこの田んぼだけは手で田植えをしないと。アヤノは上手だね」


「子供の頃に何度かやったことがあるんです」


「デナーリス、アヤノに負けないようにしないと」


「地球の国では、王自らが儀式として農作業をするのね。面白いわ」


「神事という扱いですから。日本でも陛下が毎年、豊作を祈願して田植えをなされますから」


「私もトレント王国の豊作を願いながら田植えをしましょう」


 当然だがこれは儀式なので、稲の手植をするのはここだけだ。

 人間が広大な面積の田んぼすべてに田植えをしていたら、時間がいくらあっても足りない。

 残りは、ゴーレムたちが田植えをすることになっていた。

 俺たちが田植えをしているのは、あくまでもトレント王国の新しい神事、祭事を動画で紹介するためなのだから。

 向こうの世界では、『王族や貴族が平民の仕事を奪うな!』という理由で、デナーリスは田植えなんてしたことがないけど、トレント王国のための人気取りが目的とはいえ、本人は田植えを楽しんでいた。

 新しいトレント王国なのだから、別に昔のやり方を踏襲する必要はないと言って、田植えも行事に組み込んでしまったのだから。


「豊作になりますように」


 デナーリスは、次々と稲の苗を田んぼに植えていく。

 だいぶ慣れてきたようで、田植えは一時間ほどですべて終わった。


「こうやって握るのね、おにぎりって」


 田植えが終わると、今度はみんなでおにぎりを握る。

 これも庶民的なデナーリスを動画で世界中に公開し、トレント王国のイメージをアップする作戦だ。

 去年、銀シャリならぬダンジョン産黄金米の栽培に無事成功し、無事豊作だったので、みんなでお米を炊いておにぎりを作って食べることにする。

 アナザーテラで栽培している農作物だが、ダンジョンで手に入れた種子や苗を増やして栽培するケースが増えていた。

 その方が美味しく、大量に栽培しても価格を維持できたからだ。

 あとは、世界中の国から安価な飼料用作物の引き合いが増えていた。

 こちらはアナザーテラ中の広大な土地に、ゴーレムを使って大々的に栽培させている。

 とても安価なので、世界中に輸出されていた。


「お魚を生で食べられるなんて! お刺身美味しい!」


 デナーリスは、アナザーテラで獲ったクロマグロの刺身がお気に入りだ。

 他にも、タイ、ヒラメ、ハマチ、アワビ、ウニ、サザエ等々。

 お刺身や、焼き魚、煮魚、天ぷら、フライなどをおかずに、おにぎりを食べている。

 和食を美味しそうに食べる、トレント王国の美しい女王陛下。

 これも、日本人に対する人気取りの策だった。

 獅童政権が終わったあと、両国の関係を速やかに回復させるためだ。

 獅童政権下の日本はトレント王国を承認していないため、日本人にデナーリスに対し好印象を持ってもらわなければならない。


『トレント王国産の魚介類の輸出も始まっています』


 俺たち以外魚介類を獲る人がいないので、アナザーテラの漁業資源は豊富で、資源管理もとても楽だった。

 大規模な養殖も始めているので、魚が減ることはないはずだ。

 クロマグロもそうだが、地球では水産資源の減少や漁獲制限があるので、これも不足分を世界各国に輸出するようになった。


「ごちそうさま。美味しかったぁ」


 昼食を終えると、俺は魔法道具、魔法薬などのゴーレム工場の建設の管理を行う。

 獅童政権が続く限り、冒険者特区に生産設備を置くのは危険だという結論に至り、土地はいくらでもあるので大幅に拡張して移転させている最中だ。

 日本の冒険者特区は、居住区と商業区がメインになりつつある。

 観光客も増え続けているので、それでお金を稼いだ方がいいという結論に至ったのだ。

 生産に必要なモンスターの素材、資源、魔石は日本の冒険者特区からの供給が途絶えても、低位品はゴーレム軍団がモンスターを大量に狩っているフルヤ島ダンジョンと海外のダンジョン特区から仕入れ、高位品はアナザーテラのダンジョンから仕入れる計画になっている。


「(まさか、日本がリスクになるなんてな。トレント王国はサプライチェーンの構築を急がないと)」


 まだ日本の冒険者特区から仕入れているものが多いので、一日でも早く、もし日本のダンジョンからの供給がストップしても生産量を落とさないようにしたい。

 『アイテムボックス』技術を応用した倉庫群を世界中に建設してモンスターの素材、資源、魔石の備蓄することも忘れないようにしなければ。


『以上のような感じで、トレント王国の開発は順調です! 将来が楽しみですね。動画撮影を許可していただいたデナーリス女王に感謝します』


『頑張ってトレント王国を豊かにしたいので、リョウジ、これからも協力をお願いします』


『任せてください』


 隠す必要があるところは隠しつつ、トレント王国を開発している様子を、こちらの文化に馴染みつつあるデナーリスの様子と合わせて動画で流すと、世界中から多くの反響があった。


『アナザーテラは、古来より我が国の領土だ! 古い文献にかいてある!』


 などと騒ぐ独裁国家や、国内の統治が上手くいっていない国がいくつかあったが、現実問題としてアナザーテラに辿り着けなければ領有もクソもなく、他の国に無視されていた。

 とはいえ、アナザーテラに辿り着ける宇宙船の開発を始めた国が先進国を中心に多数あり、ここは要警戒というところか。


「とはいえ、トレント王国の開発は順調だな」


「リョウジ、一つ問題があるわ」


「問題? なんだろう?」


「あの娘たちのお婿さん、どうしよう?」


「……その問題があったのを忘れてた」


 トレント王国の人口は少なく、さらに女性比率が圧倒的に高かった。

 デナーリスが向こうの世界から連れて来た娘たちの結婚相手をどうするのか、いまだ解決策が見つかっていなかったのだ。


「アナザーテラのダンジョンを真面目に攻略しているから、なんとかしてあげないと」


 しかも彼女たち全員が、優れた冒険者特性を持つ人ばかりだ。

 デナーリスは巫女として俺を召喚したぐらいなので、優れた冒険者特性持ちを選んで親衛隊を作るぐらい朝飯前なんだと思う。

 

「現実的な問題として、彼女たちが立ち上げる家がトレント王家を支える貴族になるのよ」


 地球の人たちが聞けば怒るかもしれないけど、トレント王国は王政国家で、貴族も任命される予定だ。

 デナーリスが連れて来た娘たちが当主となるので、女性当主が認められているから先進的って思われるよう、動画をあとで撮らないとな。

 なお、俺、イザベラたち、岩城理事長もトレント王国の爵位を持っていた。

 イザベラは二つの国の爵位を、ダーシャはビルメスト王国の女王にして、トレント王国の爵位を持っている状態なので秘密となっていたが。


「富士の樹海ダンジョン2000階層をクリアして、2001階層へと続く階段の途中にある、アナザーテラの富士の樹海ダンジョンへと移動し、無事に地上に出られればトレント王入国できる。それほどの実力を持つ冒険者なら、彼女たちの婿に相応しいと思う」


「それ、いつの話になるのかしら? あの娘たちが嫁き遅れてしまうし、子供を生んで家を維持してもらわないといけないわ」


 地球なら問題になるかもしれない発言だが、トレント王国からすれば当たり前のことであった。

 王族でも貴族でも、 家は存続させなければいけないものだからだ。


「すぐに解決できる方法があるけど」


「あるんだ。どんな方法?」


「リョウジが全員と結婚してあげるの」


「デナーリス、さすがにそれは無茶だろう」


「やっぱり?」


 ここからさらに、286人嫁が増える。

 絶対に勘弁してほしい。


「こうなれば、最終手段だ」


「リョウジさん、最終手段とは?」


「『富士の樹海ダンジョンブートキャンプ』を始めます!」


 俺の奥さんが増えるというピンチを避けるべく、俺は地球の高レベル冒険者たちの実力を底上げすることにした。

 どのみち、アナザーテラにある程度優れた冒険者を移住させるつもりだったからちょうどいい。






「よりすぐりの高レベル冒険者のみんな! 富士の樹海ダンジョン2000階層をクリアしたいか?」


「したいです!」


「命がけでで苦難の道だが、それでもその先には栄光が待っている! 脱落することなくやり遂げてくれ」




 世界中から集めた高レベル冒険者たちの前で、俺は挨拶をする。

富士の樹海ダンジョン2000階層をクリアすると、アナザーテラに繋がる隠し扉がある。

 以前動画で説明はしていたが、残念ながら俺とイザベラたちだけしか辿り着いたことがなかった。

 現在、レベル500から2000を切る冒険者たちを集め、彼らを徹底的に鍛えることでアナザーテラまで行けるようにする作戦であった。


「(親衛隊員たちと、地球の高レベル冒険者たちが出会えば……)」


「(恋も花咲くこともあるってか?)」


 剛が茶化すが、そんな態度だと嫁を複数にしてしまうぞ。

 奥さんが怖そうなのでやらないけど。


「(元々デナーリスの親衛隊たちは美少女揃いだし、ちゃんと美容にも気をつけている。モテるはずだ)」


 俺は古谷企画で経営しているエステをアナザーテラにも作り、無料チケットを配布しているから、みんな利用してお肌がとても綺麗だった。

 女性が冒険者をする デメリットの一つに、怪我をすると消えない傷跡が残るというものがある。

 それを俺が解決したわけだ。

 手配はすべてプロト1だけど。


「みんな! ハーネスは飲んだか?」


「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」


「では、死なないように頑張ってください」


 俺は集めた高レベル冒険権者たちと一緒に、富士の樹海ダンジョンへと入っていく。

 他のレベリングのように報酬が発生することはないが、 この様子を動画で撮影して流すことを認めることと、 もし死んでも文句を言わない。

 それが条件だった。

 あとは俺が見て、『この人は駄目だ』と思った冒険者は『富士の樹海ダンジョンブートキャンプ』には同行させない。

 

「(何人が、アナザーテラに自力で辿り着けるようになるのか……)」


 まさに神のみぞ知るだが、できれば286名を超えていてほしいものだ。





「ふう……1800階層を無事に突破したな」


 僕の名前は石井邦宏。

 古谷良二さんの冒険者高校の後輩で、今は冒険者大学の後輩だ。

 冒険者高校卒業までにSクラスに上がれた僕は『賢者剣士』という特殊な上級職を得ることに成功し、稼いだお金で会社を作って、この世界では成功した冒険者の一人となっていた。

 毎日ダンジョンに潜って稼ぎ、仕事が終わったらグルメを満喫、上野公園ダンジョン特区に高級マンションを購入、資産運用をして老後に備える。

 体が資本である冒険者の仕事はいつまで続けられるかわからないので、 第二の人生と老後に備えて資産を蓄えておく。

 冒険者の資産運用を手伝ってくれるイワキ工業と古谷企画がオーナーの銀行と証券会社があって、手数料が安いので大人気だった。

 冒険者でない世界中の大金持ちですら、両社に資産運用を任せる人が増えているくらいだ。

 僕も古谷先輩の会社に資産運用を任せているけど、高性能ゴーレムに搭載されている人工人格による資産運用のおかげで順調に資産を増やしていた。

 そんな特に不満もない僕だったけど、休日に古谷先輩の動画で見たアナザーテラの動画に興味を魅かれた。

 太陽の向こう側にあるもう一つの地球。

 そして、そこに建国されたトレント王国。

 人生が順調で目標を失っていた僕は、冒険者の国になるであろう、トレント王国に興味を持った。

 現在の獅童政権は冒険者は大嫌いで、実際政権発足直後にダンジョンを封鎖している。

 いつ上野公園ダンジョン特区に住めなくなるかもしれず、ダンジョンに 入れなくなってしまうかもしれない。

 だから僕は自力でトレント王国に辿り着き、トレント王国の国籍を得ようと考えていた。

 久々に合った古谷先輩はあまり変わった印象がないけど、今の僕ならわかる。

 たとえ世界でも上位の冒険者である僕でも、彼に挑めば一撃で殺されてしまうだろうと。

 僕は頑張って彼に追いつこうとしたけど、 さらに離されてしまったようにしか思えなかった。


「今から呼ぶ人は前に。シルヴェスター・クラークさん、クラムさん、バスチアン・チルモンさん、九鬼義文さん、田優浮さん、レオ・バウマイスターさん、草野涼一さん……」

 

 呼び出されているのは、 全員レベルが高く、 レベリングの間も大活躍していた人たちだけだ。

 『なにか特典があるのかな?』なんて考えていたら……。


「石井邦宏さん。以上です」


「僕?」


 最後に、なんと僕の名前が呼ばれた。

 

「今名前を呼んだ人は特に優秀なので、俺と一緒に最速で2000階層突破を目指します。他の人たちも大変順調なので、剛たちと一緒に2000階層を目指してください。以上です」


 古谷先輩は、自分が選んだ冒険者たちとパーティを組んで2000階層を目指すようだ。

 これまでどおり一緒でいいような気がしなくもないが、たとえ富士の樹海ダンジョン2000階層を突破してアナザーテラの富士の樹海ダンジョン2000階層に辿り着けたとしても、地上に出られなければアナザーテラに到着した意味がなくなってしまう。

 だから成績優秀な冒険者たちと一緒に、先行者的な役割を果たさせようとしているのかな?


「では行こう」


「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」


 古谷先輩はわざわざ説明する必要がないほど有名な冒険者だが、たとえ臨時でも彼とパーティーを組める冒険者は少ない。

 冒険者としては、たとえ臨時パーティでも貴重な機会を逃したくないのだ。


「なんて硬さだ! アーマードラゴンは!」


「武器の鋭さを魔法で強化します」


「ありがたい」


 古谷先輩と彼に指名された合計十一名の冒険者たちで臨時でパーティを組むが、彼はあれこれ指示を出すような真似はしなかった。

 無言で自分の進路に立ち塞がるモンスターを、まるで 時代劇の殺陣シーンのごとく次々と斬り捨てて行くのみ。

 僕たちは全員が高レベル冒険者なので、現在のパーティの置かれた状況を冷静に判断し、自分ができることを独自にやらなければいけない。 

 それが出来ない奴は、最初から指名されていない。

 そういうことなのだろう。

  最初は少しぎこちないところもあったが、 それでも僕たちは世界のトップランカー冒険者だ。

 次第に階層突破も上がり、レベルアップのスピードもこれまでとは比べ物にならないほど早くなった。

 毎日、十一名で鬼神の如く戦い、その様子は古谷先輩の動画チャンネルで流されて多くの視聴回数を稼いでいた。

 そのインセンティブがあるから、アナザーテラを目指す冒険者は無料で古谷先輩のフォローを受けられるという仕組みなのだ。

 いくら無料でも、冒険者としての才能がなければ古谷先輩にレベリングを断られてしまうけど。


『やった……ついに僕たちは……』


 富士の樹海ダンジョン2000階層の突破に成功した。

 そして、2001階層へと続く階段を降りていくと、その途中にアナザーテラの富士の樹海ダンジョン2001階層へと続くドアを発見した。


「いよいよアナザーテラに行けるな」


「楽しみだな」


「このあと、2000階層から1階層までの道のりもあるんだけど」


 古谷先輩が、道半ばなので油断しないようにと注意したので、僕たちは再び気合を入れ直して地上を目指す。

 アナザーテラにある富士の樹海ダンジョンのモンスターは強いので僕たちは再び苦戦するが、どうにか一階層にある入り口まで辿り着くことができた。


「みんな、おめでとう」


「もう一つの地球かぁ。楽しみ……あれ?」


 地球の富士の樹海ダンジョンと、そう景色が違わないような……。

 もう一つの地球だから当たり前なのか。

 ただ、ダンジョン付近の施設が一切ないので、ここがアナザーテラなのだということは理解できた。


「空気が綺麗だな」


「本当にな」


「一ヵ月もダンジョンに籠りきりだと目がチカチカするんだな」


 古谷先輩たちを除き、僕たち十名が初めてアナザーテラに辿り着いた。

 のちに、その時の様子を撮影した動画がとんでもない視聴回数を稼いだと聞いたが、 そのおかげで古谷先輩と一ヵ月もダンジョン攻略三昧の生活ができたのだ。

 僕は大満足だった。


「トレント王国に辿り着けたのはいいんですが、問題は今夜宿泊するところですよね」


「野宿じゃないのか?」


 高レベル冒険者ほど、快適に野宿をするための道具を揃えているので特に問題ないけど。


「トレンド王国の王都は拡張中だから、泊まるところはいくらでもあるよ。 しばらくは、アナザーテラのダンジョンで稼ぐのも悪くないでしょう?」


「日本のダンジョンは、これからどうなるかわかりませんからね。僕はしばらくアナザーテラで冒険者を続けようと思います」


「それがいいよ。で、君たちに相談があるんだけど、トレント王国の冒険者とパーティを組まないか?  これまでのパーティメンバーはこの場にいないでしょう?」


「はい」


 十名の冒険者は古谷先輩にその才能を見出され、最速で強くなってしまった。

 これまでの仲間とパーティを組んでも上手くいかないことは明白だ。

 メンバーたちも優れた冒険者だからそれは理解しているし、彼らも少し遅れて富士の樹海ダンジョン攻略を続けている。

  もしかしたら将来再びパーティを組めるようになるかもしれないが、今は実力が近い冒険者とパーティを組んだ方がいい。

 それが正しい冒険者というものだ。


「トレント王国の優れた冒険者たちと、アナザーテラのダンジョンを攻略する。楽しみですね」


「石井君がそう言ってくれて助かったよ。 さすがは俺の後輩。では、早速石井君たちとパーティを組むトレント王国の冒険者なんだけど……」


 もう来ているのか。

 そんな風に思った瞬間だった。


「ちょっと! みんな! レディーがガッつきすぎだよ!」


「素敵な旦那さんがいるホンファさんにはわからないと思いますが、私たちとっては切実な問題なんです! あっ、この人、優しそうでいい」


「えっ?」


 苦労してアナザーテラに辿り着いた僕たちを歓迎するトレント王国の冒険者と親しげに挨拶を交わす……ことはなく、僕は突然とてつもない力でとても綺麗な女性冒険者に抱えられてしまった。

 逃げようにも、向こうの方がレベルが上なようで歯が立たない。

 さらに彼女は機械の竜のような乗り物を口笛で呼ぶと、それに乗って富士の樹海ダンジョンから恐ろしいスピードで 離れていった。

 他の、共に苦労してアナザーテラに到着した仲間たちも、美しいけどとてつもなく強い女性冒険者にさらわれてしまったようだ。



「……ええと、これはどういう?」


「あっ、あの! 私と一緒にオーストラリアにあるダンジョンに潜りませんか? ダンジョンの近くにお屋敷があるので、 衣食住の苦労はさせません!」


「……アナザーテラのダンジョンに潜るつもりだったので問題はありませんが……」


「ありがとうございます、旦那様」


「えっ?」


 これが、これまで彼女いない歴生きてきた年齢だった僕が、トレント王国オーストラリア第4管区担当アーセナル子爵の婿になった経緯である。

 僕と共にアナザーテラに辿り着いた仲間たちも、そのあとに辿り着いた冒険者たちも、みんな同じ運命を辿ったわけだけど、 僕も含めてみんな幸せに暮らしてるから別にいいんじゃないかな?




「……あのう……。最初はお見合いパーティーを開くとかが普通じゃないの?  早い者勝ちで婿を攫っていくとか、どこの蛮族なの?」


「リョウジ、婿取りは早い者勝ちなのよ」


「そんな話聞いたことがないよ」


 向こうの世界から女性だけで転移してしまい、デナーリスたちは相当な危機感を抱いていたようで、俺のレベリングでアナザーテラに到着できた冒険者たちは、突然トレント王国親衛隊に属する美少女、美女冒険者に攫らわれるという、とんでもない体験をする羽目になる。

 その後、大半が無事に結婚して子供も生まれたので、結果的にはそれでよかったのだろうけど。 

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