第191話 トレント王国建国
「動画をご覧のみなさん、デナーリスです。今日もリョウジたちと、富士の樹海ダンジョンに挑みます」
「順調にレベルが上がって……デナーリス女王の手の平の表示はノージョブでレベル1のままですけど、ちゃんとレベルは上がってます。俺と同じくね」
「トレント王国のみんなも、順調にレベルアップいるわよ」
富士の樹海ダンジョンで、デナーリス王女と286名の美少女たちが、レベルアップを続けていた。
その様子をドローン型ゴーレムたちが撮影し、ゴーレムたちが編集して、デナーリス王女が開設した『トレント王国チャンネル』として動画投稿サイトに投稿している。
美少女軍団がモンスター相手に戦うのは絵になるようで、多くの視聴回数を稼いでいた。
多額のインセンティブは、彼女たちに分配されている。
投げ銭も多く集まっており、欲しいものリストも掲載してるので、世界中から多くのプレゼントも集まっていた。
彼女たちのレベルアップをしている理由は、強ければ獅童総理がなにを企んでも阻止しやすいからだ。
自分が強くなれれば生き残れない。
自分たちの世界が滅ぶ様を見ている彼女たちは、手を抜くことなくレベルアップを続けていた。
同じく、日本人や日本に拠点を置く冒険者たちもレベルアップに集中するようになった。
将来、獅童総理のせいで日本に冒険者受難の時代が訪れても、己さえ強ければ海外のダンジョン特区で稼ぐことができるからだ。
結局冒険者は、レベルがすべてだと悟ってのことであった。
『冒険者はその強さをひけらかし、弱者から搾取する! そのような不公平を許してはいけない! なぜ世界中で貧富の格差が進んでいるのか? それは冒険者とダンジョンのせいなのだ!』
事あるごとに獅童総理は冒険者とダンジョンを批判するが、今の社会情勢は、この世界にダンジョンが出現しなくても似たような結果になっていたかもしれない。
学歴や国籍、どこの会社に勤めているのかは重要でなくなり、優れた個人が世界中で活躍して多くの富を得るようになる。
冒険者や冒険者資本は、日本、イギリス、ドイツのように、選挙でダンジョンに否定的な政策を実行しようとする政治家が現れても、己の能力を頼りに海外で活動したり、冒険者特区に籠って国家に対抗するようになったのだから。
日本の冒険者たちは、考え方が極端な獅童総理に危機感を覚えたのだろう。
投資や会社経営が中心になっていた、世間ではゴールしたと思われている、いわゆく上がった冒険者たちも、ダンジョンに戻ってレベルアップをする人たちが増えていた。
海外に拠点を移す準備をしている人もいる。
『今日のダンジョン探索はこれで終わりです。今日もよく働きました。労働のあとはみんなで観光や買い物、食事を楽しむ予定です』
場面が切り替わり、デナーリスたちはアメリカいた。
アメリカは早々にトレント王国を承認しているので、観光や買い物、食事などを楽しみやすかったからだ。
若い子たちばかりなので、向こうの世界よりも進んだ娯楽や食事、服や装飾品を楽しんでいる。
「本当は、イギリスを案内したかったのですが……」
イザベラが残念そうだ。
イギリスも現在、獅童総理と似たような考えをする政治家が政権を取ったので、冒険者特区に籠城したり、海外に活動拠点を移す冒険者が増えていた。
そしてデナーリスたちだが、日本で出歩いていると獅童総理の命令で逮捕されるかもしれない。
そこで俺が、ダンジョン探索後にテレポーテーションで海外に運んでいた。
当然、事前に各国に許可を取ってのことだけど。
元いた世界が滅び、こちらの世界で新しい国を作ろうとしている。
世界は彼女たちに同情的だった。
全員が冒険者特性を持ち、高レベルで稼ぎかよく、自分たちの国でお金を使ってくれるからというのもあると思うけど。
そして、人気の高いデナーリスたちを不法滞在者扱いして逮捕しようとしたり、優れた冒険者なのにダンジョンに潜るな、一般人として働き清貧を旨として暮らせなどと言う獅童総理は、次第に『頭のおかしな独裁者』とまで言われるようになっていた。
それでも彼は、『傲慢な欧米の言い分など聞く必要はない!』と強く反論する。
彼は社会主義者であると同時に、祖父が太平洋戦争で戦死していたため、個人的にアメリカが嫌いなのだそうだ。
「ところでリョウジさん、新しいトレント王国が正式に建国されるのはいつなのですか?」
「もう少しかな。デナーリスたちの好感度もだいぶ上がったからね」
新しいトレント王国は、アナザーテラを領地とすることが決まった。
だがその前に、色々とやらなければいけないことが多い。
動画配信でデナーリスたちの好感度を上げて世論を味方につけておきたいし、建国後、即座に各国の承認を得るため、根回しも必要だったからだ。
「だから、イワキ理事長は忙しいのさ」
あとは、プロト1もか。
「リョウジさんは、アイドル化しているデナーリスさんたちをプロデュースするプロデューサーのようですわね」
「そんなものだろうね。アイドルは偶像だけど人々の好感を得やすい。使わない手はないさ」
獅童総理が選挙で勝てたのも、彼が優れた常温核融合技術の研究者で大きな成果を出したので、マスコミに露出し続けたというのがある。
知名度の勝利というわけだ。
それに加えて世間に、ゴーレム、AI、ロボットが普及した結果、職を失った人たちの支持を得たことも多かった。
「獅童総理が正しいとは思わないし、俺たちが絶対に正しいわけじゃない。社会を構成する人たちの支持が得られれば、どんな酷いことでも実行されるのが人間の社会なのさ。だからこそ、デナーリスたちにはアイドルになってもらう」
大人気のデナーリスたちだけど、一つだけ懸案事項がある。
それは、彼女たちの新しい国がどこに作られるかだ。
もし自分たちの国の国土が奪われたら……と考える人も少なくない。
その心配は無用だが、新トレント王国が正式に建国されるまでに好感度を稼ぎ、新トレント王国がアナザーテラに建国されることで、人々を安心させる。
だからすぐに建国しなかったのだ。
「これまで隠していた、アナザーテラの問題も解決するので万々歳だな」
「もう一つの地球ともなると、国土を寄越せと言われるかもしれませんけど……」
「辿りつけない場所の土地を貰ってどうするんだろうね?」
イザベラの懸念は当たるだろうが、どうせなにをしても文句を言う奴は出てくる。
それに加えて、アナザーテラの所有者が俺だと知られたら、『そんなものをお前が独占するなんてズルい』と言われるだろう。
寄越せと騒ぐ国、組織、人は出てくるし、残念ながら日本政府にその圧力をかわす力はない。
それなら、勝手に新トレント王国の国土にした方がマシってものだ。
すでに有名なインフルエンサーとなり、世界中の人たちから人気があるデナーリスが、アナザーテラの発見と領有をしたことにして、新トレント王国の建国を宣言する。
すると、すぐに多くの国々が新トレント王国を承認。
承認しない国も出るだろうが、それは仕方がない。
ようは、大半の国が新トレント王国を承認してくれればいいし、そのために今、岩城理事長とプロト1が動いている。
今や世界一といっても過言ではないイワキ工業だからこそ、大国のトップと対等に渡り合えるのだから。
そして、獅童政権である日本は完全に蚊帳の外に置かれていた。
「正式な建国宣言はいつなのですか?」
「来月の頭くらいかな。今ちょうど、ダンジョン散探索チャンネルで、俺が魔王を倒すまでの話を流しているから」
そこに、デナーリスが俺を助けるシーンが沢山流れている。
地球にダンジョンが出現した時、俺がそれに対応できたのは、デナーリスが俺を召喚し、助けてくれたから。
事実だけど、さらに誇張して俺とデナーリスの好感度を上げているのだ。
もし獅童総理が俺とデナーリスになにかしようとしたら、世論の反発が出るくらいには。
「今の時代、好感度は大切ですからね」
「そういうこと」
たとえ才能があっても、インフルエンサーがなにか不祥事を起こせば仕事がなくなる世情になったし、有名なインフルエンサーほどいい人戦略を実行している。
本当にそのインフルエンサーがいい人かなんてどうでよく、いい人だと思わせる必要があるのが今の時代なのだから。
「リョウジさんはいい人ですけどね」
「そうかな?」
俺は悪党ではないが、善人でもないような……。
「私がそう思っているから、それでいいんですよ」
「イザベラは、俺よりも優しいと思うけどね」
「リョウジ君はボクたちに優しいと思うな」
「良二様はとてもいい旦那様ですよ」
「アヤノの言うとおりよ。だから私たちはリョウジと結婚して、この策にも協力しているんだから」
「リョウジさん、ビルメスト王国は一番にトレント王国を承認しますから」
「リョウジを召還して魔王と戦わせた私のために滅んだ国を復活させてくれるなんて、本当にリョウジは優しいのね。私、リョウジを追いかけてよかった」
「モテモテでいいな、リョウジは」
俺には妻であるイザベラたちや、親友である剛、イワキ理事長や西条さん、東条さん、その他多くの手を貸してくれる人たちがいて幸せだと思う。
だって、今から俺がやろうとしていることは、最悪故郷である日本にいられなくなるかもしれないことなのだから。
「仕方がないさ。俺たちは冒険者として、みんなの暮らしがよくなるよう、命がけでダンジョンに潜った。だが、過半数の日本人はそれに不満があって獅童総理に投票したんだから」
働かなくても生活できる世の中よりも、たとえ安い給料で体を酷使しても、自分が働いていることの方が大切……というよりも、周囲の人たちに無職だと思われると恥ずかしいから、ってものあるのかね?
とにかく世間の目が気になるとか。
ただ、ゴーレムとダンジョン技術を廃した日本国内では、ロボットとAIが大幅に普及しており、正社員や社会的信用が高い仕事をしている人は全日本人の六分の一にまで減っていた。
結局大半の人たちは、政府が求人を出す単発や短期間の仕事、それもそれは本当に必要なのかという仕事ばかりしていた。
夕方、学校や役所の電気を消す。
ロボットでもできるが、獅童政権が失業率を下げるため、こんな仕事を増やしていたのだ。
しかもそのために、せっかく始めたベーシックインカムは廃止し、年金を復活させたが、なぜか支給額を以前より減らしていた。
増税も相次いでおり、獅童政権の支持率は下がり続けている。
「総理大臣が変わっただけで、こんなことになるとはな」
冒険者が頑張って世の中をよくしても、それに不満がある人たちは、日本のみならず世界中にいる。
彼らは、他の人たちの生活なんてどうでもいいと思っている。
ただ自分のプライドが満たされ、それでいて自分だけは恵まれた暮らしをしたいと思っているだけなのだから。
そして、そういう人たちの代表が獅童総理のような反冒険者、反ダンジョンを掲げる政治家というわけだ。
「多分、今後も第二、第三の獅童総理は定期的に出現するはずだ」
大半の働く必要がなくなった人たち。
いや、今後さらに働く人は有能さを求められるだろう。
お前は無能だから、働いてみんなの足を引っ張らずに遊んでいろ。
そんな世の中で、自分が生きる意義を見い出せず、獅童総理のような政治家を支持したり、『人は働くべきだ! 働くことこそ尊い』と、自分の価値観を押し付ける人たちが一定数出てくるはず。
そうなった時に備えて、やはり彼らと物理的な距離感が必要だと思うのだ。
「それが、トレント王国か」
「デナーリス自体が冒険者だから、冒険者に寛容というか、ダンジョンから必要な物を得て暮らすことに慣れていて、クシュリナ王のせいで酷い目に遭っているからな」
ダンジョンをなくした異世界は、完全に崩壊してしまった。
そのことも繰り返し動画で説明している。
世間には、ダンジョンがなくなれば資源と化石燃料が復活すると断言している学者もいるが、向こうの世界ではそんなことはなかったらしい。
安易にダンジョンをなくそうとするのは危険で、多分向こうの世界の二の舞になると思う。
なぜなら、地球の資源と化石燃料はすでにダンジョンに取り込まれていると、俺は予測していたからだ。
向こうの世界と同じようにダンジョンを他の世界に飛ばすと、地球の資源と化石燃料も一緒に飛ばされてしまう可能性が高かった。
そして、ダンジョンがなくなった地球が脱け殻として残るのだ。
「そこまでやらかす政治家はいるのかね?」
「いないと言い切れないな」
多くの人たちがおかしいと思っても、選挙で当選すれば支持率を上げるため、ダンジョンを別の世界に飛ばそうとする政治家が現れても不思議ではない。
だからこそトレント王国をアナザーテラに建国させ、そこを冒険者とダンジョンの避難所にする必要があった。
冒険者特区もあるが、すでに世界中の冒険者特区が半ば独立国のようなう扱いなので、『冒険者から冒険者特区を取り戻す!』と政争のネタにされることも多かった。
獅童総理はすでにダンジョンの封鎖を実行してしまったので、困窮した国が豊かな冒険者特区を併合する動きに出るかもしれず、だからアナザーテラという遠方に冒険者の国を作る必要があるのだ。
「とりあえず、冒険者特性を持ち、トレント王国が許可を出した人はアナザーテラに滞在できるようにする。無論、納税の義務はあるけど」
「なるほど。つまり、来月は世界中が大騒ぎになるのか……」
そして、翌月の初旬。
ついにその日がやって来た。
「今日は、動画をご覧のみなさんにお知らせしたいことがあります。私は一緒にこの世界に逃げ込んだ子たちと共に、新しいトレント王国を建国できる土地を探していました。そして、ついに見つけたのです! 新トレント王国は、もう一つの地球、アナザーテラに建国します!」
デナーリスがそう宣言した直後、太陽系の地図が表示され、アナザーテラの位置が指し示される。
続けて、アナザーテラを撮影した映像も流れた。
「アナザーテラは地球とよく似ており、ダンジョンもあるので私たちが暮らすのに相応しく、地球の方々に迷惑をかけずに済みます。今後はアナザーテラの様子もお伝えしますので、『トレント王国チャンネル』をよろしくお願いします
デナーリスが女王となり、アナザーテラに新トレント王国を建国した。
このニュースで、世界は大騒ぎになった。
これまで俺が散々動画で伝えていたアナザーテラだが、実はその存在を疑っている人は少なくなかった。
地球と太陽を挟んだ反対側にあるので観測ができず、俺が異世界に召還されて魔王を倒した件と合わせて、視聴回数目当ての創作物だと疑っていたからだ。
ところがそんな人たちは、その直後に驚愕することになる。
「ビルメスト王国はトレント王国を正式に承認し、互いに共存できるよう、防衛同盟を結ぶことにしました」
ダーシャが世界に向けて記者会見をし、トレント王国を正式に承認。
軍事同盟まで締結したからだ。
さらに……。
「アメリカ合衆国は、トレント王国を正式に承認します」
ブルーストーン大統領もそれに続く。
田中総理と岩城理事長による根回しの成果だ。
そしてアメリカに続き、多くの国がトレント王国を承認していく。
先進国でトレント王国を承認していないのは、反ダンジョン政策を掲げた政権となっている、ドイツ、イギリス……は、それでもイギリス王室はデナーリス王女に祝電を送っていた。
イザベラが王室に掛け合ってくれたおかげだけど。
そして、完全に蚊帳の外である日本であった。
事前にデナーリスをインフルエンサーとして人気者にしていたおかげか。
トレント王国建国を歓迎する人たちが多いなか、獅童総理は激昂していた。
「古谷良二の奴めぇーーー! アナザーテラは日本のものだろうが!」
「いえ、アナザーテラを公にすることは世界からの反発が多く、古谷良二個人の持ち物、ドロップアイテムであるという認識で放置していたのです」
「古谷良二は日本人だろうが!」
「そうなのですが、このところ日本の冒険者特区は、日本政府のコントロール下を離れていますので」
いくら説明しても、獅童総理の怒りは収まらないようだ。
冒険者特区は獅童総理の反ダンジョン政策に反抗しており、それは国税の納税拒否など多数にわたる。
だがもしそれを公にし、冒険者特区を再び日本政府のコントロール下に置こうとすると戦争どころの騒ぎではなくなるし、他国に対し隙を見せることになる。
獅童総理は戦後日本の典型的なリベラルなので、内乱を覚悟してまで自衛隊で冒険者特区を制圧する覚悟はなかった。
そんな冒険者特区の住民である古谷良二が、個人で所有しているアナザーテラをどうしようと、日本政府にはどうしようもなかった。
そもそも今の我々では、アナザーテラに辿り着けないのだから。
富士の樹海ダンジョン二千階層にある、アナザーテラの富士の樹海ダンジョン二千階層に繋がる隠し扉から移動するか。
地球と太陽を挟んだ裏側にあるアナザーテラまで飛べる宇宙船を作って発射するか。
もし簡単にアナザーテラに行けるのなら、日本政府はとっくに古谷良二から買い取っていると。
そのことを官僚たちがクドいほど説明していたのだが、やはり獅童総理は理解していなかったか。
いや、彼の頭脳なら理解できないはずがない。
感情が理解したくないのだろう。
「トレント王国は、どうして日本に根回しをしていないのだ!」
どうしてって……。
冒険者特性を持ち、ダンジョンに潜って生活しているデナーリス女王たちに対し、『貧富の格差を広げるので、そんなものは認めん!』、『難民しとして認めるから一般人になれ』、『冒険者なんてやめて普通に働け』と言い放つ奴が国家元首である国に、根回しなんてするはずがない。
「(それを獅童総理に言っても理解してくれないだろうが……)」
徐々に、彼の独善性の強さが鼻につくようになった。
デナーリス王女は余計に感じただろうな。
「外務省はなにをしている?」
「混乱しています」
「外務次官はクビだ!」
さすがの獅童総理でも、同じ日本再生党の仲間である外務大臣のクビは切れないか。
その代わり、トレント王国がアナザーテラに建国する前、他国に根回ししていたことに気がつかなかった外務省では大規模な粛清があるだろう。
トレント王国の件では、獅童総理は大恥をかいた。
先進国で、事前にトレント王国がアナザーテラに建国されることを知らなかったのは、日本と同じく反ダンジョン政策を進めるドイツくらいなのだから。
イギリスも反ダンジョン政権だったが王室には話が通っており、祝電が出されたことがニュースでやっていたからな。
「(イギリス王室に話を繋げたのは、ダンジョンの女神の一人で、イギリス貴族でもあるイザベラさんだろう)」
つまり、トレント王国建国の影に古谷良二もいるわけだ。
『トレント王国には多くのダンジョンがあります。そこに潜れる冒険者には滞在許可を出しますし、大きな成果を出した人は速やかに帰化できるようにします。優れた冒険者の方々の挑戦をお待ちしております』
そして予想どおり、デナーリス女王は優れた冒険者の受け入れを宣言した。
「(古谷良二がトレント王国の建国に手を貸した理由はこれか……)」
この先、獅童総理が冒険者に対してなにをするかわからないので、デナーリス王女にアナザーテラを渡し、トレント王国を建国させた。
世界各国で冒険者とダンジョンを否定する政権が生まれた時、冒険者たちの逃げ場所を確保するためなのだろう。
「(そうした政権が自国のダンジョンを封鎖した結果、ダンジョンが消滅する可能性だってある。アナザーテラのダンジョンを維持するため、優れた冒険者のみをトレント王国の国民として認めるのか……)」
完全なる能力主義による国民の選抜。
獅童総理は強く批判するだろう。
「ところで獅童総理、日本はトレント王国を承認するのでしょうか?」
「……これから考える」
とは言うものの、獅童総理が総理大臣の間はトレント王国を承認しないだろうな。
なぜなら、冒険者とダンジョンを嫌う獅童総理からしたら、それが主たるトレント王国など、国として認められるわけがないのだから。
「(もう一つある。それは、獅童総理が冒険者特区に手を出しにくくなったことだな)」
もし獅童総理が自分に反抗を続ける冒険者特区に手を出すと、多くの優れた冒険者たちがトレント王国に逃げてしまうからだ。
獅童総理は冒険者とダンジョン技術に否定的だが、まだそれらがないと国や経済が回らないことは理解しており、最低限のものは黙認している。
だがその状況をよしとしておらず、代替の科学技術研究を進めていた。
まだ時間が必要なので、今は冒険者特区に対して強硬手段は取らないはず。
最初にそれをやって失敗したというもの大きいだろう。
「(古谷良二、ただの冒険者ではないのか……)」
元々高レベル冒険者は、頭脳も優秀だ。
特に古谷良二のレベルは高そうだから、天才科学者である獅童総理に劣ることはないのだと思う。
なにより、融通が利くからな。
「とにかく、可能な限りトレント国に関する情報を集めるんだ!」
獅童総理が役人たちに指示を出すが、はたしてこれから日本はどうなるのやら。
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