第190話 獅童総理、激怒する

『地球のみなさん、こんにちは。私の名はデナーリス、トレント王国の王女です。みなさんは知らない国だと思いますが、それもそのはず。トレント王国は、この世界とは別の世界、ベスターランドに存在するからです」





 古谷良二のダンジョン探索チャンネルが更新されたから再生してみたら、突然美女が喋るシーンから始まった。

 とても綺麗な人で、その辺のアイドルや女優ではまったく歯が立たないことは確実だ。

 この美女に匹敵する女性は、ダンジョンの女神たちくらいか。


 高レベルの冒険者は、みんな肌が綺麗で若々しい。

 冒険者なんてしていると、肌が傷だらけなのでは?

 そんな風に思う人は考えが古く、なぜなら冒険者は治癒魔法や各種ポーション、美容にいい魔法薬を日常的に使えるからだ。

 冒険者特区内には古谷良二が経営するエステもあり、冒険者ではないセレブまでもが大勢押し掛けていた。

 その効果は絶大で、女性冒険者たちはそういうものを積極的に活用しているから、一般人よりも綺麗な人が多かったのだ。


 冒険者特性があってある程度レベルが上がると、それだけで肌質が段違いだから、最近では冒険者特性を持つ芸能人が増えた。

 容姿があまりよくなくても、冒険者特性があってある程度レベルがあると、人気企画であるダンジョンロケに行けるから、テレビ局で重宝されるらしい。

 そのせいで、非冒険者芸能人の、特にベテラン芸能人たちの仕事が減って反発が大きいらしいけど。

 そしてそんな芸能人たちが多数、獅童総理を応援しているとか。

 彼らは、冒険者に仕事を奪われた犠牲者として見ることもできるからだ。

 話を戻すと、古谷良二の動画ではダンジョンの女神たちとよくコラボしているから、美しい女性が出ても珍しくない。

 だけど、デナーリスという女性は初めて見た。

 しかも、異世界にある国の王女を名乗っている。


「これは、そういう設定の動画なのかな?」


 古谷良二が経営する古谷企画では、ゴーレムとAIで作られた漫画、小説、アニメ、ドラマや映画が多数作られていて、世界中で人気だ。

 制作費が安く、人間の作者、声優、俳優のように不祥事を起こされる心配がないとかで、とても重宝されているらしい。

 今の世の中、出演者の不祥事で作品が公開中止になることなど珍しくないが、AIは不祥事を起こさないからな、

 その代わり、一定以上の作品の質は保証されているが、天才が作る傑作には及ばず、人間の創作物がなくなったわけではない。

 人間が作っていないというだけで、見ない人も一定数いる。

 だけどクリエイターの仕事が減ったのは事実で、彼らの中にも獅童総理を支持する人が多かった。


『これは創作物ではありません。みなさんは、不思議に思ったことがありませんか? 古谷良二が、どうして冒険者として圧倒的な力を得ることができたのかを』


「たまたま?」


 才能があったとしか思えないけど……。


『実はリョウジは、私たちの世界ベスターランドに召還され、勇者として戦ったのです! そして苦労の果てに魔王を倒しました』


「ええっ?」


 そんなことあるのか?

 最近流行している、異世界召還物でもあるまいし……。

 と思ったら、突然映像が切り替わった。


『異世界の勇者様、この世界をお救いください』 


 石造りで玉座のある城内らしき場所に召還された古谷良二が、王冠を被った王様や王女の格好をしたデナーリスに懇願され、魔王討伐を引き受けるシーン。

 CGにしては凝ってるころか、あまりにリアルでその時の様子を撮影していたようにしか見えなかった。

 魔王討伐を引き受けた古谷良二であったが最初は弱く、デナーリス王女の指導を受けながら徐々に強くなっていく。

 彼は数多のモンスターや魔王の手下たちと死闘を繰り広げ……これ、CGなのかな? えらくリアルな映像だけど……。

 まるでハリウッド映画のように、古谷良二が魔王を倒すまでの話が数時間で纏められ、まるで大作映画のような出来なので、つい最後まで見てしまった。

 娯楽としても優秀で、しかも無料で見れてしまう。

 さすがはダンジョン探索チャンネルといったところか。

 動画はデナーリス王女のナレーションで続き、古谷良二は長い年月を経て、ようやく魔王を倒すことに成功した。


「すげぇ……」


 古谷良二は、異世界でこんなに凄い戦いをやってたから、世界最強の冒険者になれたのか。

 この話が本当だという保障はないけど、美しいデナーリス王女のナレーションと、本物にしか見えない古谷良二が戦う迫真の映像を見たら、大半の人間が信じてしまうだろう。

 なにより、みんなが内心思っていたはずだ。

 古谷良二は、どうしてあんなに強いのか?

 それも、ダンジョンが出現してさほど時が経っていない頃から。

 その答えが、彼が異世界に勇者として召還され、魔王を倒したからだと言われたら、みんな納得してしまうに決まっている。


「これまでにない視聴回数だな」


 今回の動画は、無料で観れる映画やドラマとしても出来すぎており、視聴回数が恐ろしい勢いであがっていく。

 同時に、古谷良二が異世界に召還されて魔王を倒していたこと。

 そして、今度は逆に異世界の王女様がこちらの世界に姿を現した。

 異世界人が地球にやって来ただなんて、普通に考えればとんでもないニュースなのだから。


「視聴回数がさらに上がっていくじゃないか。当たり前か」


 宇宙人の来訪並に大ニュースであり、しかも彼女を保護したのは古谷良二で、それを公表したのは彼の動画チャンネルだけだ。

 他のマスコミ媒体は気がついてすらおらず、さすが世界一のインフルエンサーというべきか。


『私の世界にもダンジョンがあり、魔王亡きあとも冒険者がダンジョンに入ってモンスターを倒し、素材、エネルギ、資源を得て生活していましたが、新たに就いた王がダンジョンを否定し、ついに魔法でダンジョンを別の世界に飛ばしてしまいました。そしてその後、ダンジョンがなくなったことで、世界のバランスが崩れてしまったため、ベスターランドは大きく混乱し、滅びの道を歩んでいきました。飢饉、内乱、戦乱が発生して多くの人たちが命を落としまし、もはや私たちの世界が滅ぶことは止められず、このままなにもせずに死ぬのは嫌だと思い、リョウジ・フルヤを召還した魔法の効果を真逆にして、無事、こちらに移転することに成功したのです』


 古谷良二が魔王を倒した様子を伝えた動画が終わると、再びデナーリス女王の動画に代わった。

 彼女の世界は魔王に滅ぼされるところだったが、古谷良二のおかげで救われた。

 それなのに、新しい人間の王が愚かだったばかりに自ら滅びてしまった。


「これって、あきらかに獅童総理への批判も混じってるよなぁ……」


 ダンジョンを否定する。

 獅童総理と、デナーリス王女がいた世界を滅ぼした王様は考え方が同じなのだから。


『今、私たちはリョウジ・フルヤの保護下にありますが、いつまでも彼に頼っていられません。そこで冒険者をしつつ、動画配信をして生活を賄おうと思います。私たちを受け入れてくれた、冒険者特区に感謝します』


 ひとまず動画は終わったが、世界は大騒ぎになった。

 異世界から地球に逃げて来たデナーリス王女たちと、実は古谷良二が魔王を倒して異世界を救っていたこと。

 その様子の再現動画が、まるでその現場を撮影していたかのようにリアルであったことなど。

 あの動画のおかげで、このところ伸び悩んでいたダンジョン探索チャンネルのチャンネルの登録者数と動画再生数を爆発的に増やした。

 それと平行して、デナーリス王女の動画チャンネルが誕生。

 彼女が上野公園ダンジョン特区内を観光したり、早速ダンジョンに入ってモンスターを倒す様子などが投稿され、その美しさと強さから多くのファンが生まれた。


『異世界の王女? 絶対に嘘だろう!』


 彼女を疑う人たちも多かったが、『では彼女は何者なのだ?』という話になると答えが出ない。

 凄腕の冒険者で知られていない人など皆無だし、世界中の国がデナーリス王女に化けた高レベル冒険者の正体に辿り着かなかったからだ。

 それに加えて、彼女と一緒に地球にやって来たという286名の女性たち……みんな若くて美しい人たちばかりだ……が紹介され、彼女たちも冒険者としてダンジョンに潜っていることも動画で紹介された。

 デナーリス王女をトップとするギルドが結成され、やはりその強さと美しさから世界中で大人気となる。

 だが、彼女たちに不審の目を向ける存在が。

 獅童総理と日本政府であった。





「ぐぬぬっ、私は総理大臣なんだぞ! デナーリスとやらは、まずはこの私に庇護を求めるべきだ!」


「彼女たちを庇護している冒険者特区ですが、なんの権限があってそんなことをしているのでしょう? けしからんですな」


「異世界の王女? 古谷良二め! 嘘は大概にしろというのだ」


「古谷良二の強さの秘密が、異世界に召還されて魔王を倒していたからですって? 誰がそんな嘘を信じると思っているのよ!」




 獅童総理の政策は滅茶苦茶で、日本は不景気となり支持率も落ち続けている。

 それでも彼は、衆議院議員の任期四年の間、決して総理大臣を辞めないだろう。

 日本再生党もそうだが、彼らは自分たちがずっと政治家なり政党を続けられるとは思っていない。

 四年間、好き勝手やって逃げ切るつもりなのだ。

 既存の政党や政治家のように、支持率が下がったから政権が保たないので総辞職するなんて考えがないのだ。

 いくら批判されても彼らは次の選挙のことなど気にしないから、強引に色々なことを決めてしまう。

 それがいい結果をもたらせばいいのだが、日本の状況は悪くなる一方だ。

 ゆえにまともな役人は彼らに呆れているが、中にはこれをチャンスと捉えて阿る奴も出てくる。

 そういう役人たちは、ほぼ全員が無能だ。

 無能だからこそ、獅童総理の腰巾着に成り下がって出世を狙う。

 よくある話だな。


「それで、デナーリスなる王女は実在するのかね? 古谷良二の動画チャンネルで作った創作物の人物ではなく」


「それが……確認が取れてません」


「内調、公安、自衛隊保安部に探らせていないのか?」


「探らせているのですが、今のところ確認できていません」


「役に立たない連中だ」


 獅童総理が、あからさまに不機嫌そうな表情を浮かべた。

 多分彼らは、意図的にサボタージュを行っているのだろう。

 もしデナーリス王女が実在するとして、では日本政府になにができるのか?

 せいぜい難民として受け入れるくらいだ。

 獅童総理は社会主義的な思想の持ち主だから、彼女を王族、国賓としては扱わないだろう。

 ダンジョンに入ることもよしとしないはず。

 それならデナーリス王女は、古谷良二と冒険者特区で暮らしていた方がいい。


「(そもそも、冒険者特区がデナーリス王女の存在を公式に認めないのは、日本政府の横やりを押さえるためだろうからな)」


 古谷良二が、異世界で共に戦ったというデナーリス王女を保護したと動画で公表した時点で、日本政府はともかく、外国ではそれを信じる人は多い。

 なぜなら彼は、自分が望むと望まないとに限らす、インフルエンサーとして有名だったからだ。

 彼が投稿したダンジョン攻略動画のおかげで、世界は資源とエネルギーが不足することなく、新しい技術を得て発展を続けているのだから。

 彼はアメリカ大統領とも懇意だし、世界のトップやVIPにも親しい人が多い。

 当選してから、わけのわからないことばかりしている獅童総理やその腰巾着たちよりも、よほど信用されていた。


「(冒険者特区がデナーリス王女の存在を公式に認めなければ、日本政府はなにもできないからな)」


 冒険者特区は日本の一部ではあるのだが、田中総理が冒険者特区特別法を制定した際に、外交権と防衛権以外はほぼ独自の権限を与えているのと、獅童総理が政権初期にダンジョンを封鎖したこともあって、抗議の意味を込めて国税の納付を停止して対立状態にある。

 デナーリス王女の件で、日本政府に嫌がらせくらいするだろう。


「(冒険者特区がデナーリス王女のことを韜晦している間に、古谷良二が動くだろうな)」


 それでも、日本政府は指をくわえて見ているしかない。

 なぜなら日本政府は、いまだデナーリス王女の存在を確認できていないのだから。


「(しかしまぁ、デナーリス王女を確認できないとは)」


 役人たちにサボタージュされるなんて、獅童総理は人気がないな。

 その代わり、変なのには好かれているが。


「いない王女の話などする意味がない。第一王族なんてものは時代遅れの代物だ。もし日本政府が保護したとしても、あくまでも一人の難民として……」


「獅童総理! 大変です!」


「何事だ?」


「古谷良二が新しい動画を更新しました!」


 腰巾着官僚の一人が動画を再生すると、なんと古谷良二が、デナーリス王女を世界各国の王族たちに紹介、歓談しているところが映っていた。


「なっ! 古谷良二の奴! これはどういうことだ?」


『デナーリス王女と世界の王族の方々との橋渡しをしました。同じ王族同士、仲良くした方がいいですからね』


 古谷良二には王族の知り合いが多い。

 学者の頃から社会主義に傾倒していて、『王族なんて廃止しろ!』 と公言している獅童総理とは大違いだった。

 その考えを隠しもせずに外国のトップと会うものだから、彼の外交力は歴代最低と評価されているが、本人は『王族に嫌われるとは、日本の総理大臣として本望だ』と平気で言い放つほどなのだから。


『デナーリス王女は、各国の王族の方々と歓談し、仲良くなることができました。これからもいい関係が続くでしょう』


「ふざけるな!」


「勝手にそんなことをして!」


 外務省の官僚が激怒しているが、 デナーリス王女は別の国王女なので、独自に王室外交をしたところで日本政府がどうこう言える話ではない。

 ところが獅童総理とその腰巾着たちは、デナーリス王女は冒険者特区が保護した人物だ。

 つまり日本の庇護下にあるから、『勝手に王室外交をするなどけしからん!』と本気で思っているのだ。

 獅童総理は王族が嫌いなので、役人たちはデナーリス王女は一般人として振舞うのが正しいと公言し、彼に気に入られようとしている。


「(無能な役人ほど哀れなものはないな。出来の悪いソ連や北朝鮮を見ているようだ)」


 その後も獅童総理と役人はたちは、独自の王室外交を続けるデナーリス王女を批判し続けていたが、それを阻止することもできず、ただ喚ているだけだった。

 

「(古谷良二に完全に翻弄されているな)」


 獅童総理は、古谷良二を嫌っている。

 彼が、日本の格差が広がった元凶だと思っているからだ。

 当然古谷良二の方も、獅童総理など微塵も好きではないだろう。

 自分たちを潰そうと考えている人物に好意を抱くわけがない。

 だから古谷良二は、保護したデナーリス王女を日本政府が確認できないように隠匿しつつ、彼女の動画チャンネルの開設を手伝い、あっという間にインフルエンサーに押し上げた。

 今となっては、彼女が創作物のキャラクターだと疑っている人は少ないだろう。

 なにより滑稽なのは、日本政府はデナーリス王女が実在するかまだ確認できていないのに、他国ではすでに彼女の存在が正式に認められている点だ。

 獅童総理は諜報関係者や、外国要人と会談しているデナーリス王女の姿を確認できない外務省職員たちに激高しているが、他国の政府関係者もバカではない。

 日本の外務省関係者の目がある場所でデナーリス王女に会うわけがないのだから。


「(となると、次はあの手でくるだろうな)」


「総理! 大変です!」


 再び腰巾着官僚が血相を変えて飛び込んできた。

 彼に言われるがままテレビをつけると、とんでない……いや、私が予想していた展開どおりとなっていた。


『デナーリス王女、アメリカ合衆国は、トレント王国政府を正式に承認します』


 なんとアメリカ合衆国や、他の多くの国々も、デナーリス王女改め女王を首班とするトレント王国政府を正式に認めたのだ。

 

『あなた方が一日も早く、安住の地を得られることを祈っています』


 ブルーストーン大統領は、デナーリス王女にそう声をかけた。


『ありがとうございます。私としても、一日も早く正式にトレント王国を復活させたいです』


 美しく強いデナーリス王女の人気は高く、世界中の人たちが一日も早く新しいを再建できるよう、次々とお祝いの言葉を述べた。

 この動画を見た獅童総理は激怒したらしい。

 日本の冒険者特区に匿われている、いなくなればいいと思っていた王女が、勝手に政権を樹立してしまったからだ。

 獅童総理は、デナーリス王女や他の女性たちが王女や貴族の身分を捨てて一市民になれば難民として受け入れる、と本気で思っていた。

 デナーリス王女と獅童総理。

 完全に価値観が合わないことは明白で、私もこの結果の方がいいと思っているが、独善的な獅童総理はデナーリス王女が身分を捨て、日本で難民として慎ましく暮らす方がいいと本気で思っている。

 王女の身分を捨てて一市民として暮らすチャンスを与えようとしたのに、それを無駄にした憎たらしい王族。

 獅童総理のデナーリス王女に対する評価だった。


「ぬぬぬっ! デナーリスを不法滞在の罪で逮捕しろ!」


「どうやってですか? いまだ日本の政府関係者は誰もその姿を確認できていないのに」


「なんとかしろ! 冒険者特区を虱潰しに探すんだ!」


 獅童総理が私に怒鳴るが、怒鳴ったところで問題が解決するわけではない。

 残念ながらこの人は、常温核融合技術の開発以外ではポンコツだな。


「冒険者特区の治安維持は、冒険者特区側に任せているので無理です。ダンジョン封鎖の時に散々顰蹙を買ったのに、同じことはできません」


「うるさい! 全国の冒険者特区を虱潰しに探すんだ!」


 獅童総理の命令で、全国の冒険者特区に多数の警察関係者が入り込んでデナーリス王女の捜索が行われたが、残念ながらその姿を見つけることはできなかった。

 ただ時間と予算を無駄にしただけだ。


『デナーリス王女とやらを不法滞在の罪で捕えるためだけに、大量の警察官を冒険者特区に送り込むなんて。ただの税金の無駄遣いじゃないか!』


『見つかったのならまだいいが、デナーリス王女の影すら見つからず、これにかかった税金は全部無駄になった。命令した総理大臣のお前が弁済しろ!』


『この税金の無駄使い総理が!』


 このところ日本は不景気のために税収が落ち、田中総理時代に国債を発行することが禁止されていたから、獅童総理は増税を繰り返していた。

 それなのに獅童総理自身が税金の無駄遣いをしたので、国民から大批判を食らっても仕方がない。


「どこだ? デナーリスはどこにいるんだ?」


 獅童総理が大騒ぎしている間にも、デナーリス王女は古谷良二と組んで世界各国のトップを訪問し、次々とトレント王国が承認されていく。

 獅童総理は各国の大使館員などに外務省関係者に、デナーリス王女の確認と、できればその拘束を命じたが、前者はともかく後者は、外交官にそんな権限はないので無理だった。

 

『おかげさまで、大半の国の人たちからトレント王国が承認されました。今後は、私たちが生活する新しい国土を探したいと思います』


「古谷良二を逮捕しろ!」


「なんの罪でですか?」


「デナーリスの不法滞在を手助けしているじゃないか!  その罪で逮捕させろ!」


「やれなくはないですが、古谷良二を捕まえるのは不可能だと思います」


 警視総監は、支離滅裂な獅童総理に対し冷ややかな視線を送る。

 いまだ日本政府はデナーリス王女の姿すら確認できず、世界中の国々がトレント王国を承認して将来は国交を結ぼうと考えているのに、先進国で唯一トレント王国に辿り着けない日本。

 自称外交名人であった獅童総理だが、それは口先だけと判明し、さらに支持率を落としてしまうのだった。





「リョウジ、 このハンバーガー、大きくて美味しいわね。向こうの世界では、こうやって ハンバーガーにかぶりつくこともできなかったから、こっちの世界に来てよかったわ」


「このお店のビックバーガーは名物なんだって。なあ、リンダ」


「美味しいでしょう? このお店のハンバーガー」


「大きいので、太らないかちょっと心配ですけど……」


「アヤノ、ボクたちを冒険者が少しぐらい大食いしたところで、太るわけないじゃない」


「それもそうでしたね。フライドオニオンとポテトも美味しい。デザートはアイスクリームにしましょう」


「リョウジさん、明日はロブスターを食べに行きましょう」


「いいね。大きなロブスターを見るとワクワクするよね」


 デナーリスが新女王となってトレント王国を復活させる。

 まずは、多くの国にそれを認めさせることができたので大成功だ。

 それを祝って、みんなでアメリカの有名なハンバーガーショップで大きくて高さのあるハンバーガーにかぶりついているが、日本の外交官にデナーリスを見つけることはできないだろう。


 だって俺たちは魔法で変装しているのだから。

 いつまでも、見つからないデナーリスを探していればいいさ。


「良二、 次はどうするんだ?」


「再建したトレント王国には国土が必要になる。だけど、地球の土地だと色々と軋轢があるだろう? だからさ」


「アナザーテラか! まあ確かにあそこなら、文句を言ったところで手も出せないからな」


「今頃、プロト1が準備を進めているさ」


 間違いなく獅童総理がガチ切れしているだろうが、俺は貧富の差をなくという名目で、ダンジョンを封鎖したような奴と仲良くする理由はない。

 俺たち冒険者が日本政府と完全に敵対しても生き残れるよう、 先に手を打たせてもらうことにするよ。

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