第185話 別荘、転移装置、スキル娼婦

「まさにオーシャンブルーだな。それにしても、ハワイに別荘を建てられる身分になるとは思わなかった」


「いやいや、今のリョウジ君の収入なら全然余裕でしょう」


「ホンファ、俺は元々由緒正しい庶民だったんだ。異世界に召還されて魔王を倒したり、こっちに戻って来てから冒険者にならなければ、精々三十五年ローンで家を建てるのが限界……その前に結婚できたかどうかも怪しい」


「リョウジさんは全然変わりませんね」


「俺は小心者だから」


「急に大金を得ると変わってしまう方も多いので、私は変わらない良二様が好きですよ」


「私もよ。今のリョウジのままでいてね」


「リョウジは優しいから。早く泳ぎましょう」


「ダーシャ、そんなに海が楽しみだったのか?」


「ビルメスト王国は海がないから、海って広くて綺麗なのね」




 今日はハワイに……アナザーテラのハワイだけど……に建てた別荘で妻たちと休暇を楽しんでいた。

 ハワイに一軒だけ建てた白亜の別荘を出るとすぐ、プライベートビーチと海が見える。

 イザベラたちの水着は、俺がデザインして作った。

 ちょっと際どいデザインだけど、他に見ている人たちはいないので問題ない。

 他にも色々とデザインした水着は、幼水竜の産毛を使っているので装着者が溺れにくく、極寒の水に飛び込んでも寒くない特別な仕様になっており、とても高価だが世界中で売れていた。

 イザベラたちが動画で宣伝……は、淑女である彼女たちはそんなことしないが、口コミだけで売れているし、他の動画配信者たちが購入、試着して動画をあげてくれるので、これがいい宣伝になっていて、今では度々品切を起こす状態ほどだ。

 俺がデザイン、試作し、ゴーレムたちが作るアパレルブランドの服飾品とアクセサリーは安売りをしないし、宣伝は自分でするので宣伝費もかからない。

 高利益、高収益で古谷企画の資産を順調に増やしていた。


「リョウジさん」


「リョウジ君、早く早く」


「良二様、サンオイルを塗っていただきたいのですが……」


「リョウジ、私もお願い」


「海水って、本当に浮くのね」


 水着姿の美少女と遊ぶ。

 見た目は全然そう見えないけど、俺もリア充になったものだ。

 俺も自作した水着を着て、この日はハワイの海を存分に楽しんだ。

 夕方になると、ハワイの夕日をみんなと楽しんでから別荘に戻り、一緒に仲良く夕食を作って食べる。


「ダーシャは、普段料理をするの?」


「ほとんどしないけど、思ったよりも出来てたかも」


「それは、レベルアップとステータスのせいだと思う」


 レベルアップすると知力が上がって、なにをしても覚えが早くなる、

 器用さも上がるから、普通の人なら習得に何年もかかることが、早いと数回で完璧に会得できてしまうのだ。


「冒険者を嫌う人が一定数いるわけね」


「なんだよねぇ」


 そうでなくても、人間の仕事がゴーレム、AI、ロボットにを奪われているのに、冒険者の中にはダンジョン探索と普通の仕事を兼職している人も多い。

 たとえ低レベルでも、冒険者特性を持つ人はとても優秀なので、スキルが必要な仕事についたり、自分で起業する人も多かった。

 冒険者のせいで自分たちが失業していると思っている人たちからすれば、冒険者とは憎悪の対象でしかないのだ。


「ビルメスト王国は復興、成長の最中だから逆に人手不足だけど、日本は大変なのね」


「失業しても、生活には困らないけど」


「ビルメスト王国の人たちが聞いたら羨ましいって言うわよ、きっと。でも人間って、お金だけじゃないのね」


「働くことが生き甲斐とか、働くことで自分がまっとうな人間だと思える人は辛いかも」


 なので、日本政府は有償ボランティア活動を増やしたり、文化活動に補助金を出している。

 皮肉なことに、優秀な個人や企業、冒険者がしっかりと納税するおかげで、日本政府の税収は毎年最高額を更新しており、その手の事業に予算をつける余裕があった。

 最低限の生活保証がベーシックインカムで確保できているので、お小遣い、アルバイト程度の収入で、それらの活動を熱心にやる人が増えている。


「ビルメスト王国も、そのうちそうなるのかしら?」


「思ったほど先の話じゃないかも」


「ザーン首相に話しておかないと。リョウジ、食料の輸出を優先してくれてありがとう。地球の寒冷化はなかなか終わらないのね」


「これは想定外だったかも」


 太陽の黒点が増えた影響で始まった地球の寒冷化はまだ終わっていなかった。

 徐々に気温が戻りつつあるので、少しずつ農業生産量は増えているが、輸出できる量には到底届かず、このアナザーテラで生産している食料が世界の命綱であった。

 日本でも、農地の集約、農業工場の建設、農業企業の台頭などが、ほとんど農作物が収穫できない今進んでおり、その影響で農家の数は八割も減っている。

 ただ、減った農家の大半が小規模な農地を耕す高齢者だったので、気候が元に戻ったら、日本の農業生産量は爆発的に増える計算だ。


 農家の数が減って、日本の農業は壊滅した!

 と、日本政府を批判する人たちはいるけど、ただ農業が効率化しているだけ……そういう人たちにいくら事情を説明しても理解してくれないのだろうけど。


「ビルメスト王国でも農地の集約化を進めているし、仕方がないわよね」


「俺もそう思う」


 まさか、小規模農家を多く維持するため、大量の餓死者を出すわけにいかないからだ。

 農地を集約化し、機械とゴーレムを導入して生産性を向上させつつ、農薬などの使用も極力押さえて安全にも配慮した、安い食料を作る企業か、高くても売れる作物を作れる特別な農家か。

 ほぼこの二択しか生き残れないが、この流れを止めることは誰にもできない。

 俺でも無理だ。


「リョウジさん、別荘をアナザーテラに作ったのにはなにか意味があるのですか?」


「あるといえばある。ただ、ハワイに別荘を作りたかっただけとも言える」


「備えあれば憂いなしですからね」


「そういうこと」


 ダンジョンが出現してから、世界はよくなっていると思う。

 現に、世界が寒冷化して農業生産が壊滅的でも、飢え死にした人はほとんどいないのだから。

 だが、冒険者が世界の支配者階層になり、格差が広がり、仕事に就ける人は優秀な人だけという現実に不満を持つ人たちも無視できない数いて、人間って難しいなと思う俺であった。

 もしそんな人たちが主導権を握り、冒険者を迫害する未来が訪れた時、この別荘が役に立つはず。

 ただの別荘のままで終わってほしいけど。




 



『本日は、移転設備のオープンセレモニーに参加しています。これを用いると、日本国内すべての冒険者特区へと一瞬で移動できるようになります。魔法の袋を用いれば、荷物も運べてしまうという便利さ。交通と流通の革命ってやつですね』


 ダンジョン探索後チャンネルで、上野公園ダンジョン特区内に完成した、移動ステーションの完成セレモニーの様子を配信した。

 これは『テレポーテーション』技術を利用した設備で、同じ施設が置かれた日本全国の冒険者特区間を自由に一瞬で移動できる施設であった。

 日本でこの設備を稼働させるのは規制の多さで難しかったが、そこは特区である冒険者特区ということで、世界初のオープンとなったわけだ。


「沖縄の名護ダンジョン特区までお願いします」


「名護ダンジョン特区ですね」


 行き先を告げてからスマホで運賃を決裁し、カプセル状の装置に入ると、ゴーレムがスイッチを入れる。

 一瞬視界が真っ暗になるが、それが晴れると、もう名護ダンジョン特区内にある転移装置まで飛んでいた。


「外に出るともう沖縄です。今日はオフなので、沖縄で遊びます」


「リョウジさーーーん!」


「イザベラ、お待たせ。沖縄観光を楽しむぞぉーーー!」


 そのあとはイザベラたちと合流し、沖縄観光を楽しむシーンになったが、転移装置のおかげもあって、またもや多くの視聴回数を稼ぐことに成功したのであった。






「魔法を利用した転移装置ですが、こんなものは許されません! もし明日にもダンジョンや魔法が消えたらどうするのですか? 既存の交通インフラを衰退させる移転装置の運用は、ダンジョン特区のみの特例とすべきです!」


「鉄道会社組合も、航空会社連合の意見に賛成します!」


「タクシー組合もです!」


「宅配会社としても、移転装置はどうかと思います。魔法の袋で違法な品を野放図に運ばれてしまうので、冒険者特区以外での運用は慎重を期するべきです」


「我々自動車会社も反対ですな」


 飯能総区長と古谷さん、岩城理事長が協力して冒険者特区内で開業させた転移装置は大盛況だと聞く。

 日本中にある移転装置まで一瞬で飛べるので、こんなに時間を節約できるものはないからだ。

 転移装置のオープンセレモニーは古谷さんが動画で紹介したので世界中に知られ、各国から引き合いがあるとか。

 日本でも国内に普及させるべきという意見が多かったが、それは実際に利用する一般市民の側の希望だ。

 既存の電車、バス、タクシー、航空機、船舶を運行している企業から猛反発を食らった。

 自動車会社の反発も大きい。

 もしそんなものが普及すれば、彼らは失業の危機を迎えるからだ。

 日本中に転移装置が普及すれば、人と物の動きに大革命が起こる。

 大革命。

 いい響きの言葉だが、そのせいで自分が不幸になるのであれば、命がけでそれを阻止するのが人間という生き物なのだから。

 過去の歴史においても、世の中を大きく進歩させる新しいものの導入が、既得権益によって阻まれた事例は少なくない。

 さて、今回はどうなることやら。

 もし日本国内に転移装置を設置できなくても、古谷さんはあまり気にしないし、私が怒られることもない。

 『まあしょうがないよね』と言うのが関の山だろう。


「しかしながら、転移装置はお金がかかりますので。一回利用するのに十万円ですから」


「時が経てば、自然と安くなっていくのでは?」


「いえ、コストの大半が安全にかかわることなので、これ以上は安くならないそうです」


 転移装置は一瞬で遠方に移動できるが、利用料が高いという弱点があった。

 冒険者や、お金よりも時間を大切にする富裕層は好んで利用するだろうが、庶民は利用しないだろう。

 その他の交通インフラは、エネルギー代の下落、省力化によるコスト削減、超円高の影響で運賃が大幅に下がっているから、区別できるはずだ。

 という趣旨の説明を彼らにすると、その表情が一瞬で明るくなった。

 と同時に別の思惑ができたようで、最初は苦情を言いにきたはずなのに、揉み手で言葉を続ける。


「転移装置の国内普及ですが、駅やサービスエリアなど、既存の施設を使えばよろしいのでは?」


「転移装置の運行、保守・整備などは、慣れている駅員などに任せればよろしいかと」


「新規に転移装置を置く施設の土地を確保したり、施設の建設は大変でしょう。いかがですか? 西条副社長」


「悪くないお話ですね」


「でしょう? 是非協力させていただきますよ」


 転移装置が自分たちの既得権益を犯さず、その運賃が高額だと知ると、手の平を返して日本国内での普及に協力すると言い始めた経営者たち。


「(プロト1社長の言うとおりだったな)」


 運賃が高額な転移装置を駅やサービスエリアに置けば、鉄道会社と高速道路会社が儲かるのと、このところ交通インフラを担う会社も人員の大幅削減をする必要に駆られていた。

 ゴーレム、AI、ロボットの大量導入で人員を減らさなければいけないのだが、正社員のクビを切るのは難しい。

 最近、人員削減の際に退職金を大幅に増やす会社が増えているが、それでも退職に応じる人が減っている。

 今の雇用情勢を考えると、二度と職に就けなくなると考えた人が多かったからだ。

 特に労組が強い鉄道会社は大変だろう。

 だから転移装置を駅に置くことを提案し、余った正社員をここに配置しようと目論んでいるのだ。

 プロト1社長は、そこまで読んでいた。


「ご協力をお願いできますか?」


「お任せください」


「いやあ、本当によかったです」


 そんなわけで、転移装置は日本国内の駅、サービスエリアなどに置かれるようになった。

 運賃は高いが時間は節約できるということで、転移装置は忙しく働いてる人たちに大いに利用され、ますます古谷企画は大儲けをするのであった。

 







『穂積議員! あなたは国会議員だというのに、浮気をしたというのは本当ですか?』


『お相手の女性は、週刊誌でスクープされた女性で間違いないでしょうか?』


『彼女は冒険者だと聞いていますし、しかもスキルは娼婦だと聞いています。あなたは政治家として恥ずかしくないのですか?』


『奥さんに申し訳ないとは? 穂積議員! 答えてください!』


「大変だなぁ、浮気をすると」


「良二、相手は例の彼女なんだろう? これは浮気なのか?」


「今の時代だと、浮気なんじゃないの?  知らんけど。日本だと彼女の仕事って認められていないからなぁ」


 国会議員の浮気が週刊誌にスクープされ、その後ワイドショーでも派手に放送していた。

 向こうの世界だと、貴族や金持ちは複数の女性と関係を持って当たり前な風潮だったので特に思うところはないというか、『政治家なんてそんなもんじゃねえ?』とも俺は思っていた。

 さらに言うと、俺と剛は浮気相手だという女性を知っていた。

 彼女は冒険者でもあり、そのレベルもかなりのものであった。

 そしてスキルは『娼婦』であり、これは上級職ではないものの、かなりのレアスキルだ。

 その特性はスキル名どおりで、国会議員は彼女の魅力とテクニックに溺れてしまったわけだ。

 彼女は娼婦ゆえに、ダンジョンに潜る傍ら客を取る。

 その値段は一晩一億円。

 とてつもない金額だが、予約は数年先まで埋まっているとか……。

 国会議員氏も彼女のザービスを一晩利用しただけなのに、浮気だと週刊誌に報じられてしまったのだから不幸だ。


「穂積とかいう国会議員って、仲間に嫌われてたんじゃないの?  しかし、よく一晩一億円なんて払うよな」


「極上の気分が味わえる。彼女と一晩過ごすと、他の女性がつまらなく思えてしまう。なんて言われてるらしい」


「そうなんだ」


 俺と剛は興味ないけど。

 日本は法律では売春が認められていないので、彼女と遊ぶには自分で申し込まないといけないが、どこかのお店に所属しているわけではない。

 どうやって予約するのかすら、わからない人が大半だった。

 そもそも一晩一億円なので、普通の人では予約方法にすら辿り着かないだろう。


「すげえ話だが、俺には関係ない話だな」


「俺もそうだ」


 スキル娼婦なのに、仕事をしたらマスコミに叩かれてしまう点には同情するが、俺は彼女と一晩過ごすつもりはなかった。

 剛も奥さん以外の女性に興味がないタイプなので、彼なら一億円払えるだろうが、彼女と遊ぶ気はサラサラないだろう。


「これからも縁があるとも思えないし、こんな冒険者もいるってことで」


 剛とそんなたわいもない話をしてからダンジョンに潜ったのだが、まさかそのあとすぐに彼女と邂逅するとは思わなかった。




「おはようございます、古谷良二さん。私は雛川 明日香(ひなかわ あすか)と申します。スキルは娼婦です」


「古谷良二です。かなりレアなスキルですね」


「はい。このスキルで、ダンジョン以外でも稼がせてもらっています」




 久々にレベリングの仕事をしたのだが、そこに噂のスキル娼婦の冒険者が姿を見せ、俺は内心驚きを隠せなかった。

 スキルが娼婦だと聞くと、他人は驚いたり嫌悪感を抱くのが普通なんだが、彼女に関しては他のレベリング参加者たちは悪感情を持っていないようだ。

 それどころか、今日一緒にレベリングをする男性冒険者たちは彼女を見て目にハートを浮かべていた。

 女性冒険者たちも、極めて自然に接している。

 彼女はそれを自然なこと、自分に相応しいスキルだと思っているように見えるのも大きいのか?

 そう、彼女は自然体なのだ。

 スキルが娼婦だから、俺に媚を売ったり、溢れんばかりにフェロモンを匂い立たせているわけでもない。

 とにかく不思議な感じがする。


「(しかし、危ねぇな)」


 俺は高レベルだから大丈夫だが、他の冒険者たちは彼女と接する時間が長引けば長引くほど、スキルの影響をモロに受けていた。

 彼女がその気になれば、彼らを操ることも可能だろう。


「(この人のレベルを上げるのかぁ……)」


 仕事だから引き受けるけど、彼女のレベルを上げると、ますますその魅力に絡め取られる男性が増えそうな気がしてならない。

 俺は大丈夫だけど。


「じゃあ、始めましょうか」


 私情を捨て去り、俺は冒険者たちのレベリングを始める。

 このところ相場が上がって一回五十億円かかるが、彼女はそれを一括で支払った。

 娼婦って儲かるんだなと思いつつ、俺は強いモンスターを倒しまくってレベリングを続けていく。

 大金を貰った以上手を抜かないのが俺のポリシーなので、レベルリングに参加した冒険者たちのレベルは順直に上がっていった。

 そして彼女のフェロモンはさらに強化され、男性冒険者たちは競うようにその世話を焼こうとした。


「明日香さん、万が一にもモンスターに襲われないよう、僕かあなたをお守りしますから」


「お前よりも、俺の方がレベルが高いんだ。明日香さんを守るのは俺さ」


「いや、俺が明日香さんを守るんだ!」


 そんなことを言い始めたら、彼女を守るのに最適なのは俺になるはずだけど、あえてそれは言わずに、レベリングに集中した。

 なぜなら俺の仕事は、彼らのレベルを一つでも多く上げることだからだ。

 たとえ、男性冒険者全員が彼女の色香に迷っていたとしても。


「あの……。私たちは、古谷さんが一匹でも多くのモンスターを倒せるように足手纏いにならないことが大切だと思います」


「そうだな、明日香さんの言うとおりだ!」


「みんな、決して古谷さんの邪魔をするんじゃないぞ!」


 そんなわざわざ口にするまでもない当たり前のことでも、とにかく口にして目立ち、彼女にアピールしたいだなんて。

 それだけ、彼女のフェロモンが強力な証拠だ。


「(なんか、やりづらいなぁ……)」


 とはいえ、俺は無事に全員のレベリングを終えた。


「明日香さん、このあとお食事でも!」


「いやいや、俺、雰囲気のいいバーを知っているんです」


「まずは食事だろうが! 会員制の隠れ家的なレストランがあるんです。ご一緒にいかがですか?」


「すみません、このあと予定がありまして。また誘ってくださいね」


 レベリングが終わると、再び彼女をナンパする男性冒険者たちに呆れつつ、俺は妻たちの待つ屋敷へと帰るのであった。

 彼女に誘われなくてよかった。

 そう思いながら自宅へと戻った俺だったが……。


「よかったぁ、リョウジさんがヒナカワさんの誘いを受けなくて」


「本当だよ。リョウジ君って彼女の誘惑をかわせるんだ。凄いね」


「雛川さんに落とせない男性はいないって、評判になっていますから。日本の政治家、財界人、芸能人。落ちなかった人はいないと。だからてっきり良二様も……」


「その時は仕方がないって思ってたのよ。リョウジ、偉い!」


「……俺、彼女から誘われなかったけど?」


「……リョウジさん、すぐに夕食にしましょうね」


 イザベラ。

 誤解なきように言っておくけど、俺は彼女を含めた冒険者たちのレベリングの仕事が第一だし、彼女もそれを理解していた。

 そもそも新婚の俺を誘うまでもなく、彼女と一晩を過ごしたい多くの男性たちが、血眼になって彼女のスケジューを押さえようとしているんだ。

 俺なんてお呼びじゃないけど、決してモテないわけじゃないからな!

 

 ……多分……。

 

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