第184話 結婚、新婚旅行
「とても綺麗なウェディングドレスですね。リョウジさん、ありがとうございます」
「さすがはリョウジ君、こんなに綺麗なウェディングドレスを自作できるなんて。ウェディングドレスは女子の夢だから嬉しいよ」
「一生の思い出になります。良二様のタキシードもとても似合っていますよ」
「ウェディングドレスまで作れるなんて、リョウジって最高!」
「リョウジ、私のことも気にかけてくれてありがとう。とても嬉しい」
イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ、ダーシャ。
五人の美少女たちが、俺がデザイン縫製したウェディングドレスを着ているけど、みんな綺麗だな。
もし俺が異世界に召喚されなければ、一生縁がなかったはずだ。
非公式で籍は入れないとはいえ、俺が五人もの美少女たちと結婚できるなんて、人生なにがあるかわからないものだ。
「はーーーい、私が式の司会をしまぁーーーす!」
「突然姿を見せたあの女性……。古谷君?」
「ダンジョンの神様、ルナマリア様です」
「この年になって、神様を見ることができるなんて思わなかった」
田中総理が、ルナマリア様を見て驚きを隠せないようだ。
他の参加者たちも同じように驚いているけど、冒険者で割と熱心な信者の前には姿を見せるから、俺たちからしたらそこまで珍しくはないかな。
よく屋敷で飲み食いしているし。
俺がイザベラたちと結婚するとルナマリア様に報告したら、自分も式に参加して司会をすると言い出したので、断るわけにもいかず、お願いしたというのが真相だった。
「リョウちゃん、じゃあ始めるね。汝は、妻たちを生涯愛しますか?」
「愛します」
「イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ、ダーシャは、リョウちゃんを生涯愛しますか?」
「「「「「愛します」」」」」
「じゃあ、ちゃっちゃと口づけして指輪を交換してね」
「ルナマリア様、すげえ適当だな」
今日の結婚式に招待された剛と冬美さんが、ルナマリア様の適当ぶりに呆れてたけど、彼女は堅苦しい結婚式よりも、豪華なご馳走が出る披露パーティー目当てなので仕方がない。
神様の司会で結婚できたのだから、これ以上の幸運は……そうは見えないのが不思議だけど。
「古谷さんって、指輪も自作できるんですね」
「指輪づくりは、装備品であるアクセサリー作りの応用というか、装飾品の方が効果を付与する必要がないから作るのは楽だし」
俺は冬美さんに、デザインだけ重視すればいい指輪作りはそう難しくないと説明した。
「私も作ってほしいですね」
「材料は剛がダンジョンから手に入れられるから、製造指導をすればイケるはずだよ」
「ありがとうございます、古谷さん」
「良二、冬美。実際に作るのは俺……」
「タケシ、フユミに指輪を作ってあげるのが、イケてる男性だとボクが思うなぁ」
「作るけど、なんか釈然としねえ」
「指輪の交換でぇーーーす」
俺はイザベラたちの指に指輪をはめていき、全員と口づけをして式は終わった。
なお結婚式の名物であるブーケトスは、参加者に未婚女性がいなかったので中止となっている。
もう一つの理由としては、イザベラたちが持つブーケも自作したのだけど、これを受け取るとかなりの確率で本当に結婚できてしまうから。
効果がないようにブーケを作るのが難しかったので、無責任なブーケトスはなしということになったわけだ。
「式は無事に終わったから、祝宴に入りましょう」
とはいっても、特に堅苦しい挨拶やスピーチもなく、この日のために用意しておいたご馳走やお酒を楽しむだけだ。
給仕はゴーレムたちが担当してくれるので、ただ食事とお酒を楽しみながら、参加者たちと話すだけなので楽であった。
「リョウジ、リンダと末永く仲良くしてくれよ」
「ブルーストーン大統領」
「私は君の義祖父になるのか。まあ、その関係を秘密にしなければいけないのが残念だが……」
リンダもそうだが、俺が彼女たちと正式に籍を入れないのは、俺の資産と影響力が大きすぎるからだ。
俺が日本人である事実は変えようがないが、妻がどの国の人間かを問題にする人たちがいて、それが原因で国家間の関係に大きな問題が……。
この話を聞いた時、俺はどれだけ大物なんだよって思ってしまったが、それを否定できないのも事実だった。
この世界で……いや、日本ではか。
一夫多妻制は認められておらず、誰か一人だけが正式に籍を入れると不平等になってしまうから、それなら全員が事実婚状態でいいだろうという結論に至ったわけだ。
「リョウジ、いかに君に力があっても、表だって五人の妻がいると公言したら、確実に世間によって袋叩きにされるだろう。リンダが幸せならこれでいい。リンダのウェディングドレス姿も見られたしな」
ブルーストーン大統領のみならず、ホンファ、綾乃の家族も同じように言ってくれて助かった。
イザベラはすでに両親を事故で亡くしているので、揉めた先代ではなく、当代のグローブナー公爵が親族代表で出席しているし、ダーシャも家族全員を亡くしていたので、親代わりに近衛騎士隊長のヘギドさんとザーン首相が出席しているから、俺とダーシャの決断に文句が出るわけがなかった。
「父がやらかしたグルーブナー公爵家本家としては、イザベラの子供が無事に伯爵家を継いでくれれば文句はない。本当ならまず呼んでいただけないはずの、非公式の結婚式に招待していただき、グローブナー公爵家の面子を保ってくれたことに感謝を」
父親は残念な人だったが、跡取りはまともでよかった。
彼も貴族なので、イザベラに子供がいなくて伯爵家が断絶しなければも問題ないと思っているらしい。
「私たちは、ダーシャ様が幸せならそれでいいんです」
「ダーシャ様のお子がビルメスト王家を継いでくれれば、ビルメスト王国の首相である私からは言うことがないですね」
ヘギドさんとザーン首相も、ダーシャが正式に結婚しなくても構わないが、ビルメスト王家に跡取りがいないことだけは避けてくれと言った。
せっかくビルメスト王家が平和になりつつあるのに、その象徴である王家は断絶するのは勘弁してほしいということか。
「今日はそういうことは忘れて、飲み食いを楽しみましょう!」
ルナマリア様の仕切は超がつく適当さだけど、神様がそう言ってくれたので、みんな日々の仕事の大変さを忘れて披露パーティーを楽しんでいる。
非公式であるというのもあるが、結婚式と披露宴は参加者の面子を考えたら信じられないほど、楽しい時間となった。
「はーーーい、全員で写真を撮りますよ」
最後に、みんなで写真を撮って終わった。
これで俺も妻帯者というわけだが、特になにか変わった気もせず……。
ビルメスト王国の女王であるダーシャとは別居で、週に一度彼女の屋敷で共に時間を過ごす通い婚状態だが、イザベラたちとは一緒に暮らすようになって長いというのもあった からだと思う。
「古谷君、新婚旅行には行かないのかね?」
「時間があると度々一緒に旅行というか、出かけているので特には。でもそのうちにとは考えています」
「古谷君ならいつでも行けるだろうからね。焦る必要はないか」
田中総理からの質問にはそう答えたものの、そのうちみんなで新婚旅行に出かけるのも悪くないかもしれない。
すぐにではなくても、計画を練っておこうかな。
『古谷企画が経営している、高品質なモンスターの素材を用いたアパレルブランドでは、新商品としてウェディングドレスも販売しています。提携している結婚式場でレンタルもやってますよ』
イザベラたちのウェディングドレスを縫うついでに、ゴーレムたちと一緒に大量のウェディングドレスを作ったので、その販売とレンタルを始めたらとても好評だった。
これもプロト1が始めたんだが、これまで一つも新規事業に失敗したことがないというのは凄いと思う。
『今日は、フルヤさん、ホンファさん、アヤノさん、リンダさん、そしてビルメスト王国のダーシャ陛下とのとのコラボ動画です。日本といえば温泉ということで、某温泉にやって来ました。古きよき日本の温泉街、レトロな感じがいいですね』
『木造で雰囲気ある温泉旅館だねぇ。浴衣を選べるのかぁ。どれにしようかな?』
『温泉宿だけじゃなくて、投げ輪や射的、スマートボールが遊べる遊技場まであるなんて。レトロでいいですね』
『アヤノ、射的ならガンナーである私の出番よ』
『日本の温泉宿の食事も楽しみです』
『ダンジョンでの疲れを癒すのに、温泉は最適ですよ。あっ、お風呂シーンはないので悪しからず。動画削除されたくないから』
「プロト1社長、古谷さんたち、楽しんでますね」
「これも、西条さんと東条さんのおかげですよ。社長たちのために、廃墟となって打ち捨てられていた温泉街を探してきてくれたのですから」
「廃墟になっている、簡単に取得できる温泉街を探すのはそう難しくありませんでしたよ。バブルのあだ花と言います。割とありますからね。なあ、東条さん」
「廃墟のままだと治安悪化にも繋がりますし、崩壊して近隣の住民に被害を及ぼすことだってある。かといって倒産してしまった持ち主に解体費用の請求もできず、地元自治体も財政難で解体費用の立て替えすら困難。おかげで、無料に近い金額で取得できました。解体費用はこちらの負担ですけど、ゴーレムたちにやらせれば安く済みましね。あっそうそう、ゴーレムを使って格安で建物の解体をする事業も始めたんですが、こちらも大変好調です」
「解体費用の負担があるから廃墟のままだったんですけど、古谷さんたちの新婚旅行のために超特急で温泉街一つを作るとは凄いですね」
「社長たちが変装する必要なく、のんびりと過ごすためです。再建した温泉街は、そのまま営業を始める予定です」
「古谷企画は観光業にも参戦するのか」
「イワキ工業も始めていますから」
日本にはバブル崩壊以降、倒産、廃業して放置された温泉街がいくつかあった。
廃墟と化した宿を解体しようにも元の所有者にそんなお金はなく、地方自治体も少ない予算からその費用を計上するのは難しく、そのまま放置されていたのをほぼ無償で譲り受け、これを再建したのはプロト1社長だった。
温泉街すべての所有者が古谷企画なので、宿や各施設は外国人観光客が喜びそうな古き温泉街をテーマに統一されており、古谷さんたちが動画で温泉旅行を楽しんでいる様子が世界中に流されたので、宣伝もバッチリ。
廃墟だった温泉街は、見事に再生を果たした。
古谷さんたちのために大金を使ったが、必ず回収できるどころか、利益まで出せる計画だなんて、さすがはプロト1社長だ。
最近、そんなプロト1社長に注目する財界人は多いが、彼はゴーレムなので、日本の財界には彼を嫌う勢力が一定数いる。
『経営とは、血が通ったものでなくてはいけない!』などと新聞や雑誌、テレビのインタビューなどで力説しているのだが、そういう経営者に限って自分の会社の経営状態が悪いという現実があった。
ゴーレムであるプロト1社長に経営者としての能力で負けているから、精神論を唱えているだけなのだと思う。
今、経団連に所属している企業ですら、経営難になって買収されたり、誰も引き取り手がなくて倒産するところも増えてきたので戦々恐々というのもあるのか。
今の日本は、デフレなのに経済成長しているという、経済学者でも首を傾げる状態にあった。
国債は借金なので、これをすべて償還すると田中総理が宣言し、国民がそれを熱烈に支持している以上、通貨管理制度下にある日本では国債を償還する度に通貨量が減るので、必ずデフレとなる。
超円高でもあるからな。
これまでの定説だと経済成長しないはずなのだが、ダンジョンから富が産み出され、大量の外貨が日本に流れ込んでいるので、それを原資に経済成長していた。
ただ、同時にゴーレム、AI、ロボットが普及したので人手不足にはなっていない。
いや、優秀な人は奪い合いになっている。
多数のゴーレム、AI、ロボットを管理できるマネジメント能力に優れた人か、それらでは補えないスキルを持つ人は収入が上がり続け、そうでない人は仕事にありつけない。
大企業でも倒産する時代なので失業率は上がり続けているが、職業訓練と合わせた失業保険の長期給付と、生活保護の支給緩和のおかげて困窮している人は少なかった。
さらに、もうすぐベーシックインカム制度も始まるので、無職でも特に問題ないと思える人なら、これからの日本はそう悪くないのかも。
働くこと自体に生きる意味を見出だしているのに、仕事を得られない人にとっては地獄かもしれない……そういう人たちの親玉が、古谷さん、プロト1社長批判の急先鋒にいるケースが多いのだけど。
大企業の経営者から無職になる瀬戸際なので、気持ちはわからなくないか。
「動画には特にお色気シーンもありませんが、社長たちの温泉動画は視聴回数を稼げていますね」
新婚旅行を隠すため、バブル崩壊で廃墟と化した温泉街を再生、古谷さんたちが堪能する動画は大人気となった。
古き良き温泉街といった造りながら、ゴーレムも配置して人手不足に対応しつつ、経費を削減して利益率を上げられる計算だという。
まずは古谷さんたちが試しに利用して、省人化温泉街に不具合がないか試験をする目的もあった。
来週からオープン予定の温泉街の宿泊費は安くはないが、海外からの観光客も期待できるから、それほど問題はない。
変に安くすると質の悪い客が増えるし、混むとお客さんの満足度を下げてしまう。
他に温泉などいくらでもあるので、この温泉街は高級路線で行くことが決まっていた。。
少ないが人間の従業員もいるので、彼らの給料水準を確保しつつ利益を得る予定だ。
「段々と、グループ化のメリットが出てきたな」
「ゴーレムを用いた省力化、無人店舗は全国に広がっていますが、ついに日本各地の観光地の買収、整備、経営にも参入したというわけです。冒険者には社長ほどではないにしても、普通の観光地にはなかなか行けない人も多いですからね。 彼らを目当てに商売すれば、まず失敗することはないでしょう」
「富裕層と冒険者向けの観光地開発か」
それなら、下手に安くして薄利多売にする必要もないか。
「他にも数十か所、日本全国の寂れた観光地や、新規観光地の開発も進めていきます。宣伝は、社長の動画で行えば十分ですから」
「プロト1社長、それって、古谷さんとイザベラさんたちが夫婦で遊びに出かけても、『 コラボ 動画の撮影なのか』って視聴者たちに思わせるためですか?」
「そうですよ。赤字にならなければ、なにをしてもいいと社長から言われているので」
「……」
古谷さんとイザベラさんたちに夫婦水入らずの時間を楽しんでもらうため、 日本全国で観光地を整備するプロト1社長。
観光業をやっている人たちからしたら堪ったものではないだろうが、これが資本主義社会なので仕方がない。
それに、現時点では黒字になると予想されているだけで、実際に営業してみたら、赤字で 撤退に追い込まれるのかもしれないのだから。
などとその時は思っていたが、古谷企画の完全子会社である古谷観光は、寂れた観光地のリニューアルと新規開拓で荒稼ぎをし、またもその資産を爆発的に増やすのであった。
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