第178話 テイマーの少女

『おおっと! 第一スライムを発見しました! これからテイムしていこうと思います。さあ、怖くないよぉ……ああっーーー! ザザーーー』


「……当然の結果でしょう。動物好きで動物系の動画で生活しているからといって、冒険者特性やテイマーのスキルがあるわけじゃないんだから」


「無謀にもほどがありますね」


「そこまでしてバズりたかったのか?」



 動画を見た俺とイザベラは、呆れるほかなかった。

 ネット上で某動物系動画配信者が、なにを思ったのか、ろくな装備もせずダンジョンに潜り、スライムをテイムしようとして殺されてしまう動画が流れていた。

 当然だが、俺も動画を投稿している動画配信サイトでは、この動画配信者がスライムに押し潰されて全身の骨を砕かれ、取り込まれてゆっくりと消化される部分が問題となって配信停止となっていた。

 だが、配信停止前に動画を保存していた人がネット上にあげるので、そういう動画をサイトで恐ろしいほどの視聴回数を稼いでいたのだ。


「怖い物見たさなんだろうね。ボクはちょっと苦手だけど」


「良二様は大丈夫なのですか?」


「当然『うわぁ……』ってなるけど、自然と動じなくなってくるよ」


 向こうの世界の話だけど、数えきれないほどのモンスターを倒し、 時に同業者が惨たらしい死に方をするのを目撃もした。

 それに加えて魔王討伐を邪魔する人間を討っていると、悲しいかな、そういうものに慣れてしまうのだ。


「リョウジ、そういえば『テイマー』のスキルが出た人って少ないなわね」


「そのうえ、あまり役に立っていない感もあるな」


「そうよね。テイマー持ちで有名な冒険者って一人もいないもの」


 モンスターをテイムして使役する、『テイマー』というジョブというかスキルを持つ冒険者が徐々に表れ出したのだけど、残念ながら冒険者としてはイマイチな人が多かった。

 向こうの世界にもテイマーはいたけど、やはり優秀な冒険者はいなかったような気がする。

 どうしてなのか自分なりに考えてみたけど、多分効率が悪いのだろう。

 テイマーはテイムしたモンスターを使役して戦うので、強いモンスターをテイムしないと成果を稼ぎにくい。

 では、どうすれば強いモンスターをテイムできるのかといえば、レベルを上げることだ。

 テイマーでなくても冒険者がレベルを上げるには、モンスターを倒さなければならないが、テイマーが一番モンスター効率よくモンスターを倒すには、強いモンスターをテイムしなければいけないわけで……納得した!


 レベルアップがクソ面倒なんだ!


「そういえば、良二様のようにホワイトミュフを召喚できる人も少ないですね」


「『召喚師』と『テイマー』。この世界だとかなり希少な存在なんだろうな」


 特にテイマーは。

 さすがの俺でも、モンスターのテイムなんてできないのだから。

 生け捕りは可能でも、どうせ使役もできないので生け捕る意味がないという。


「召喚師は、別世界の生き物を召喚して使役する。テイマーはモンスターを飼い慣らしてて使役する。似ているけどかなり違う。そういえば、両方のスキルを持つ冒険者って見たことないな」


「もしいたら、もの凄い冒険者になりそうですね」


「ただ、これは俺の勘だけど、召喚師は上級職っぽいから、かなりレベルを上げないとスキルが出ないはずだ。もしテイマーと召喚師の才能を持つ冒険者がいたとしても、レベル上げで挫折しそうだな」


「難しいものなのですね」


「俺がモンスターをテイムできないってことは、テイマーの上級職が召喚師ってわけでもなさそうだし、テイマーと召喚師を両方持つ人は滅多にいないのだろう」


 そう言葉を締めくくりお茶を啜る。

 綾乃が淹れてくれたお茶が美味しい。


「でも、去年の茶葉だ」


「さすがですね。今年の茶葉の収穫は本当に少なくて、しかも質が悪いので買っていないんです」


 すでに寒冷化のせいで、農業生産が壊滅的な打撃を受けているから仕方がないか。

 それでも世界が混乱していないのは、必要な食料を日本から輸入できているからなんだけど。

 アナザーテラは地球と太陽を挟んで反対側にあるので、太陽の黒点増大の影響を受けていなかった。


「植物をテイムして成長を促す……無理か」


「この寒さはどうにもならないと思います」


「だよねぇ。それにしても、天才的なテイマーがいたら是非会ってみたいものだ」


 そんな話をしていたからか、 俺たちはとある人物に呼び出され、なんとテイマーのスキルを持つ人物を紹介されることになったのであった。





「良二、あの娘すごくね?」


「間違いなくテイマーだろうな」



 剛が驚きの声をあげた。

 飯能総区長から呼ばれ、奥多摩に移転した上野動物公園……上野にないのに上野動物公園とはこれ如何にだけど……に到着すると、俺たちはライオンの群れと楽しそうに遊ぶ少女を目撃し、ただ驚くばかりであった。


「リョウジさん、テイマーは動物に好かれるものなのですか?」


「動物に好かれないと、モンスターに好かれて、ましてや使役するなんてできないからね」


「それもそうですね」


 新設されたサファリゾーンに放たれたライオンの群れは、まだ小学生にしか見えない一人の少女の回りにまるで猫のように集まり、首筋を撫でてもらっている。

 幼く可愛らしい少女が、よくライオンの群れに襲われないものだって?

 それは、彼女にテイマーとしての才能があるからだ。


「確かに、テイマースキルがあるな」


 『鑑定』で調べると、『レベル1テイマー』と出た。

 レベル1なのは、彼女がどう見ても小学生低学年にしか見えないからだ。

 子供をダンジョンで戦わせるバカはいない……と思いたいな。

 外国ではそうでもないらしいけど。


「今の日本政府は、小学生にもスカウターで調査しているんですか?」


 俺は、ライオンの群れと戯れる少女を一緒に眺めている飯能総区長に尋ねた。


「世の中は大きく変わったからね。冒険者特性を持つ者がダンジョンから持ち帰る資源とエネルギーがあってこそ、人類は存続、繁栄することができる。国家としては、早めに冒険者特性がある者を知り、保護したい……抱え込みたいのが本音でだろう」


「でしょうねぇ……」


 これからの世界では、冒険者が大きな力を持つようになる。

 いや、もうなっている。

 それが気にくわない加山都知事が抗おうとして、最後は自滅した。

 彼女が優遇した、冒険者特性がない人たちも冒険者としてダンジョンに潜っているが、彼らは優れた武器と装備、そして綿密な戦術を用いてようやく四階層までしか到達できていない。

 しかも三階層以下の死傷者は多く、そもそも彼らを支える最新装備は、冒険者特性を持つ冒険者が作ったものだった。

 冒険者特性がない人が、冒険者特性を持つ人の支援なしにダンジョンに潜れるのは二階層まで。

 この結果は覆しようもなかった。


 さらに言うと、彼らがダンジョンから持ち帰るモンスターの素材、資源、魔石の評価額は、冒険者特性を持つ冒険者が獲得している成果評価額の五分の一でしかない。

 安価なスライムの粘液などがあるので量は多いけど、高品質で希少性が高い素材、資源、魔石は、冒険者特性を持つ冒険者の独占状態だった。

 スライムの粘液がなくても代替品はあるが、深い階層で手に入るものに代替品はない。

 冒険者特性を持つ冒険者がそれらを高額で売却して荒稼ぎし、稼いだお金で資産を築いて資本家のような存在となり、世界に大きな影響を及ぼしていく。

 俺もそうなっているが、これは仕方がないことだった。

 平等のために冒険者の活動を禁止としたら世界は確実に衰退するし、餓死者が出る大惨事となるだろう。

 だから冒険者大国と呼ばれるようになった日本は、早めに冒険者特性を持つ子供たちを把握するため、小学生入学前にスカウターでの測定を始めたそうだ。


「このところ、日本人冒険者の他国への引き抜きが増えているからね。未来の冒険者たちに、早めに対処したいんだと思うよ」


「海外に拠点を移す日本人冒険者は増えてますね」


 ダンジョンは人が潜らなくなるとハグレモンスターが出現しやすくなるし、最悪消えてしまう。

 そして最下層のボスが多数倒されるダンジョンは、成長して階層が増えやすい。

 深い階層ほど価値があるものが産出するから、どの国もダンジョンの最下層を攻略できる優れた冒険者を欲し、取り合いになっていた。


「でも命がけの仕事だから、多くお金を出してくれるところに移動するのも仕方がないのでは?」


 引き抜かれたくなかったら、お金を出すしかないと思う。

 子供のうちから冒険者特性があるのか調べても、あまり問題の解決にならない気が……。


「子供の頃から冒険者特性を持つ子たちに対し、適切なフォローを云々……。日本の政治家や官僚、財界人にはそう思ってる人が多いんだよ。子供の頃にフォローしておけば、恩に感じて多少待遇が悪くても日本に残ってくれるはず……だってさ。そんな都合のいいことはないと思うけど、彼らはデフレマインドの申し子たちだ。なるべくお金を出したない癖は抜けきれないね。でも中堅冒険者たちの海外移住は、人生の選択肢としては悪くないだろうね」


「そんなことを言うと、あとで政治家たちからなにか言われませんか?」


「言わせておけばいいさ。別に深刻な事態ってわけでもないから、気にしないはずだ」


 別に日本の冒険者の待遇は悪くないし、深い階層のダンジョンは日本に集中しているから、世界中の優れた冒険者たちは日本で活動することが多い。

 なので、海外に活動拠点を移す日本人冒険者の多くは、日本だとさほど目立たない中堅冒険者だったりした。


「日本だと平凡な冒険者でも、海外の国ならトップ冒険者扱いで待遇もよくなるし、その冒険者がダンジョンの維持と成長に貢献する。悪い話じゃないですよね?」


「そのとおりなんだけど、日本人の冒険者が海外に行ってしまう、というだけで大騒ぎする人たちがいるんだよ。困ったものだね。おっと、あの子のことだ。木戸 百合(きど ゆり)ちゃんは、現在小学生二年生。小学生入学時の検査で冒険者特性を持つことが判明した。しかもスキルは、『テイマー』ときたものだ。ご両親によると、百合ちゃんは生まれた頃からどんな動物にも好かれるという特殊な体質の持ち主だったらしい」


 ライオンたちが、百合ちゃんに頭を撫でてもらいたくて、大人しく待ってるんだ。

 尋常でない才能の持ち主のばすだ。

 さらにレベルが上がると、召還師のスキルも獲得できるかもしれない。


「そんなわけで、彼女は日本にとって貴重な冒険者となるはずだ。今のうちにレベリングしてくれないかなって。古谷君がレベリングするなら安心だから」


「それは駄目でしょう」


 今の法律では、義務教育を終えていない子供はダンジョンに入れないのだから。


「百合ちゃんが中学校を卒業するまで待ちましょうよ」


 万が一にも、百合ちゃんになにかあると困るのだから。


「古谷君が同行して、そんなことある?」


「世の中に絶対なんてないですし、そもそも小学生二年生の子にモンスターとはいえ、生き物を殺すところを見せるんですか?」


 せめて中学生くらいになっていないと、子供の成長に悪影響がありそうな気がする。


「たとえば、百合ちゃんが寝ている間にレベリングするとか?」


「そこまでやるんかい! ……つまり、なにがなんでも百合ちゃんをレベリングするつもりなんですね」


「田中総理がうるさいんだよねぇ……」


 今の日本が、無理に小学生の子をレベリングする必要はないと思うけど、飯能総区長が梃子でも引かないので、百合ちゃんのレベリングをすることになった。

 完全に法律違反の気がするけど、そこは別の方法で突破しようと思う。






「リョウジ君、それは?」


「ああ、レベルアップ薬だよ」


「そんなものあったんだ!」


「入手するのに必要なコストが尋常でないほど高額の割には使い勝手は悪く、あるにはあるけど、なかなか普及しない魔法薬だよ」


「プリンなのに?」


 俺はプリン作ったのだけど、卵にフェニックスの卵を使っている超高級品だ。

 そしてプリンの中に、レベルアップ薬が入っている。

 ただこのレベルアップ薬の最大の欠点は、レベル100までしか上がらないことだ。

 そしてこれを入手できる頃には、みんなレベル100を超えているケースが大半なので夢のような魔法薬と思わせて役に立たないケースが多い。

 せいぜい、楽してレベルを上げたいレベルが低い金持ちに売るくらいか。

 ただ、これを作るのにも必要なコストを考えると、普通にレベリングした方がいいという。

 そもそもそんなに便利なレベルアップ薬があるのなら、こんなに知名度が低いわけがないし、みんな使っているはずなのだから。


「このレベルアップ薬って、こういう時に使われることを想定したのかな?」


「そこま考えて、アイテムが存在してるのかな?」


 ホンファと首を傾げながら、俺は召還したホワイトミュフ……俺の別チャンネル、『ホワイトミュフ観察日記』で世界中一稼ぐ動物と世間で言われていた……と楽しそうに遊んでいる百合ちゃんを見ていた。

 可愛い少女とホワイトミュフ……絵になるな。


「ただ一つ言えるのは、あの娘はとてつもない天才テイマーだってことだな」


「さすかですね、良二様は。それがわかってしまわれるのですから」


 綾乃は俺に感心しているが、俺としてはとてもわかりやすかった。

 どうしてわかったのかと言うと、ホワイトミュフは俺を無視して、楽しそうに百合ちゃんと遊んでいるからだ。


「召還獣が、召還者を無視して百合ちゃんと遊んでいるんだ。それだけ、彼女のテイマー能力が高い証拠だ」


 レベル1なのに、俺の召還獣のコントロールを破っているのだから。


「ねえ、本当にユリをレベルアップするの? かえって悪い影響がなくない?」


 リンダが心配しているのは、まだ子供の百合ちゃんが短期間で大幅にレベルアップすると、急激に成長した身体能力を持て余すはずなので心配しているのだろう。


「この点も大丈夫そうなんだ。俺の推察が正しければ。とにかく、試しに少しレベルアップさせてみよう。百合ちゃん、オヤツだよ」


 相手は子供なので、俺はレベルアップ薬(フェニックスプリン)をオヤツとして百合ちゃんに食べさせた。

 見た目が薬のままだと、子供は嫌がるかもしれないから、俺なりに知恵を使ったのだ。

 すると無事にレベルが一つ上がった。

 一日にレベル一ずつなら問題ないだろう。


「このレベルアップ薬(フェニックプリン)を毎日食べさせれば、すぐにレベル100になるはずです」


 なぜなら、俺は百合ちゃんのご両親から百合ちゃんがプリン好きだと聞いていたからだ。

 もし一日三個プリンを食べれば、一ヵ月ほどでレベル100になる計算だ。


「ダンジョンに潜らないのだから、このくらいで十分だと思う」


「レベルアップ薬、他の未成年冒険者のレベリングにも使えないかな?」


「一個十億円払えるのならいいですけど」


「十億円?」


 俺がレベルアップ薬の値段を告げたら、飯能総区長の体が硬直した。

 これでもゴーレム製薬工場で、品質を下げないようにコストカットを続けてようやくここまで安くしたんだ。

 昔なら、一個五十億円は貰わないと割に合わない。


「だから、本来使い道がないんですよ。これに中億円出せる冒険者は、とっくにレベル100を超えているんですから」


 今回は、百合ちゃんのレベルを急ぎ上げてくれ。かかる経費は問わないって懇願されたから、俺はレベルアップ薬を九十九個用意した。

 これで俺は、一円も利益を取っていないのだから。


「だから中学校を卒業してから、普通にレベリングした方がよかったのに」


「……まあ、いいさ。百合ちゃんはまだ小学二年生だけど、動物に好かれる特技のおかけで上野動物公園の特別職員でもあるんだ。ここには、古谷君が寄贈してくれた過去に絶滅したはずの動物たちや、飼育が難しい動物たちも多い。百合ちゃんがいるだけで動物たちがご機嫌になるし、彼女にテイマーの才能があるのなら、将来はモンスターの展示も可能になりそうだなと思っての、古谷君への依頼というわけだ」


「なるほど」


「だけど、急激にレベルが上がると、普段の生活が大変に入ってなるもの事実。その辺は注意しないと」


「多分、大した問題にはなりませんよ」


「それは古谷君の予言かな?」


「百合ちゃんが優れたテイマーなら、そうなるって話だけですよ」


 そして、それから一ヵ月後。




「百合ちゃんのレベルを100にしたけど、不思議なことがあってね」


 また呼び出されたので、上野動物公園に向かうと、飯能総区長は浮かない顔をしていた。


「ああ、百合ちゃんの身体能力にほとんど変化がないんでしょう?」


「以前は運動が苦手な方だったのに、今では学年で一番運動ができる子になってる。だけど、レベル100にしては……」


「身体能力が低すぎると?」


「そうなんだ。学力はとてつもなく上がったけどね」


「それはよかったですね」


 俺が予想していたとおりだ。

 間違いなく百合ちゃんは、天才的なテイマーになだろう。


「どういうことか、説明してくれないかな?」


「飯能総区長、テイマーの最大の長所はなんです?」


「モンスターを使役できることかな?」


「だから、テイマー自身が強くなる必要なんてないんですよ。むしろ、一流のテイマーほど自分はそんなに強くない」


 だって、テイマーは自分が戦う必要なんてないのだから。


「テイマーの真骨頂は、自分よりも強いモンスターを手懐け、使役して戦うことです。本人が強くても意味ないですし、二流テイマーがレベルアップで強くなっても、他のスキル、ジョブには及びません。むしろ、下手に自分が強くなるテイマーって例がいなく、テイマーとしては微妙です」


 大したモンスターを使役できないから、自分が強くなろうとする。

 テイマーの末路として、前の世界でよく聞いた話だ。


「つまりレベル100になっても、常人な範囲内の強さしかない百合ちゃんは、天才テイマーであると?」


「間違いないでしょう。実際にほら」


 レベルアップの影響だろう。

 百合ちゃんは、ライオンだろうが、象だろうが、ゴリラだろうが。

 どんな動物でもすぐに手懐けてしまう。

 あの動物たちは、その気になれば百合ちゃんなんて簡単に殺せる。

 それなのに、百合ちゃんの前ではあんなに従順で大人しくなってしまうのだ。


「モンスターも同じですよ。自分よりも強いモンスターが従ってしまう。テイマーとは、そんなジョブなんです。本人が強い必要なんて微塵もない」


「タロウ、百合ちゃんだぞ」


 俺がホワイトミュフのタロウのタロウを召還すると、タロウは一目散に百合ちゃんの下に駆け寄った。


「レベル1の時よりよ、力が増してるな。タロウ!」


 俺がタロウを呼ぶと、タロウは俺のところに戻ってくるか、百合ちゃんのところに駆け寄るか、本気で悩んでいた。


「普通、召還者からの命令に迷う召還獣なんていませんよ。それだけ、百合ちゃんにテイマーとしての才能がある証拠です。あと、召喚師もか」


「それなら、もっとレベルを上げたいなぁ」


「今はこれで十分ですよ」


 百合ちゃんほどのテイマーがレベル100って、上野動物公園はしばらく安泰だろう。

 だって、百合ちゃんがいれば動物たちはみんなご機嫌なのだから。



『今日はホワイトタイガーに、りょうじお兄ちゃんがくれた、モンスターのお肉を食べさせます。どれが好きかな?』


 冒険者になるよりも、将来獣医さんになりたい百合ちゃんが始めた『百合ちゃん動物チャンネル』は、すぐに他の動物系動画配信者を追い抜き、このジャンルで世界一となった。

 可愛らしい少女がなに食わぬ顔でホワイトタイガーの檻に入り、モンスター肉を食べさせているのだから、人気が出て当然か。




「じゃあ、俺たちも動物ネタやろうぜ。動画では鉄板じゃないか」


「やめとけ。剛。絶対に失敗するから」


「はははっ、俺のレベルでは動物に殺されないから、少しずつ慣らして……あれ? なんで逃げるんだよ!」


「だから、動物は本能で自分よりも強い存在に気がつく。俺たちはライオンやトラから化け物だと思われているんだ。動物ネタはやめとけ」


「良二のホワイトミュフは?」


「あれは俺が召喚した召喚獣だから。他の召喚獣で人気が出そうなのを撮影して、新しいチャンネル作るかな?」


 ただ残念なことに、ホワイトミュフほど人気は出なかったし、百合ちゃんの動画チャンネルにはボロ負けしてしまったけど。

 



「やはり、召喚獣、木岩人(ぼくがんじん)では人気出ないか……」


「怖くて不気味ですからね」


 木と岩でできた人型の召喚獣、木岩人を動画で紹介したけど、恐ろしく人気が出なかった。

 やはり可愛いは正義か。

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