第175話 古谷良二VS加山都知事

「この満ち溢れる力の素晴らしさといったら……。私がこの世界を統べる資格がある証拠なのよ! あーーーはっは!」



 少しくらいレベルが高くて、モンスターとの戦闘経験があるからって、この私に指図するなんて!

 野蛮な高レベル冒険者たちは、同じく少しばかり勉強ができるからって私に差し出口を利いてきた岩合と一緒に殺してやったわ!

 魔王となった私は戦闘経験なんてなくても最強で、小賢しい岩合とは比べ物にならないほど賢くなった。


「一旦ダンジョンを出ましょうか。はぁーーー!」


 魔王の力があれば、ダンジョンの天井を叩き割って外に出るくらい簡単なことね。

 一階層と二階層で、ゴミたちがスライムやゴブリンたちを倒していたみたいだけど、魔王たる私がダンジョンの外に出たいのだから、それが最優先よ。

 せいぜい、生き埋めにならないことを祈るわ。

 そもそも土砂に埋まったくらいで死ぬような連中なんて、邪魔だから要らない。

 だって私は、個人で完璧な存在になったのだから。

 そう、私だけが完璧な存在になったのよ。


「それなら、愚民たちなんていらなくないかしら?」


 むしろ邪魔よね。

 どうせ、この私の足を引っ張ることしかしないのだから。

 私一人がいれば、この世界も完璧で美しいものとなるはず。


「人間なんていらなくない?」


 この私がこの世の中のために頑張って政治家をやっているのに、愚民はただ無駄に食料と資源とエネルギーを消費するばかり。

 この世界のためにも、人間なんて滅ぼしてしまいましょう。


「加山都知事! 突然ダンジョンが破壊されてしまいましたが、なにがあったのですか? 岩合はなにをしているんだ?」


 最近、すっかり私の側近面している高田と、その手下の雑魚冒険者たちが駆けつけて来た。

 その忠誠心には感心するけど、冒険者特性をなくした雑魚たちなんていらないわ。


「高田、早いわね」


「はい!  俺は岩合よりも役に立ちますから!」


 冒険者特性がなければ、ただのフリーター風情がよく言うわ。

 普段は私の権力を利用して、冒険者特性がない冒険者たちを率い、好き勝手やっているだけのチンピラのボス程度のくせに。


「私と世界」


「加山都知事?」


「たったこれだけで、この地球上に完璧で美しい世界が完成するのよ。他は全部いらないわ。高田もそう思わない?」


「ええと……。俺もそう思います」


 やっぱりバカね、高田は。

 岩合はマシだったけど、それでもいらないから消した。

 当然高田たちも……。


「いらないわね」


「なにがいらないんです?」


「お前たちだよ!」


「まって!」


 私はすぐに、高田たちの首を引き千切ってやった。

 さらに、上野公園に集まっている冒険者たちも一匹……こんな連中は匹でいいわね……残らず殺してやった。

 どうせ大半が、冒険者特性を持たないとゴミたちなのだから。


「あーーーはっは! 私一人がいれば、この世界は完璧なのよ! 人間なんていらないのよ!」


 特に、この私を総理大臣にしなかった日本人なんて皆殺しにしてやる!

 日本人が終わったら、次は世界中の人間よ!

 だって、私と世界かあれば完璧だから。


「まずは都内に残ってる愚民たちね。サクッと殺してやる……」


 まずは上野周辺の愚民たちから皆殺しにしてやろうと思った瞬間、私の視界に誰かが飛び込んで来た。

 まったく気配を感じず、このスピードの速さといったら……。


「何者?」


「魔王のスキル、強力だが副作用が強すぎるな」


「お前はぁーーー!」


どうして、ここに古谷良二がいるの?


「そんなに恐ろしい魔力と殺気を漂わせて、俺が気がつかないと思うのか? しかしまぁ、人間ではなくなってしまったか」


「人間を捨てたからこそ、私は世界を統べる力を手に入れたのよ」


「お前一人で、人間が全滅した世界をねぇ。それが心地よいと感じるお前はまさに魔王なんだが、もう本人はそのおかしさに気がつかないか……」


「古谷良二、どういう意味?」


「バカは自分でバカだってことに気がつかない。お前はもう完全に魔王になってるってことさ」


「この私に協力しないばかりか、散々バカにし腐って! 殺してやる!」


「政治家が言う言葉じゃないよな」


「もう私は東京都知事じゃないし、もう総理大臣も目指さない。だって、私は個で完璧な存在になったんですもの。どうして愚民を統べるなんて面倒なことをしないといけないのかしら? 私と世界があればいいの! 人間は皆殺しにしてやるつもりよ」


「職務放棄か……、まあお前は、、元から東京都知事の器ではなかったが……。魔王のスキルに呑み込まれたな」


「呑み込まれた? 違うわ、本当の私に戻っただけよ」


「お前がそう思うのならそうなんだろうな。だが俺はそんな世界はゴメンだから、お前を倒させてもらう。ダンジョンの外に出たハグレモンスターは退治しないとな」


「この私をモンスター扱いしやがってぇーーー!」


 古谷良二!

 お前は絶対に殺してやる!

 そして、私だけの心地よい世界を作るのよ!





「みなさぁーーーん! こちらです!」


「慌てずに避難してね」


「走らないでくださぁーーーい!」


「えっ? なにが起こるのかって? 大変なことよ」


「都知事が魔王になったんだよ。死にたくなければ、東京の中心部から避難……おわっと!」


 突然、リョウジさんが『これは大変だ! とんでもないことになるぞ!』と声を荒げ、私たちは普段とはまったく様子が違う彼の指示で東京都に突入。

 こういうリョウジさんも格好いいなと思うつつ、都民たちの避難を手助けし始めました。

 リョウジさんは田中総理や飯能総区長にも連絡を取り、多くの冒険者たち、警察、自衛隊も動員して、都民たちの避難を開始。

 東京都の中心部からは、人の姿が消えつつあります。

 都民たちはどうして自分たちが避難するのかよくわかっておらず、中にはこちらに詰め寄る人たちもいましたが、今彼らは自分たちが避難している理由を理解できました。

 突然東京都庁の中階層が大爆発を起こして真ん中からへし折れ、上の階が地面へと落ちていく。

 続けてその周辺に、巨大な火の玉が落下して新宿エリアが業火に包まれる様を目撃したのですから。


「とまぁ、こんな感じなので避難してください」


「……そうだな」


 避難指示に懐疑的だった人たちも、新宿の都庁と惨状を見てからは素直に避難指示に従うようになりました。


「それにしても、とてつもない火炎魔法です! こんな威力の火炎魔法を放てる人は……」


 いまや、リョウジさんを除けば世界一の魔法使いといっても過言ではないアヤノさんでも、あの威力の火炎魔法は放てないであろうことは、私たちにもわかりました。

 そして、この魔法を放っているのが誰なのかも。


「めちゃくちゃだな。自分の住み処を魔法でぶっ飛ばして焼くなんて……」


「カヤマ都知事は、本当に化け物になってしまったのね。リョウジの『探知』は凄いわ」


 私もリンダさんと同じく、遠く離れた富士の樹海ダンジョンの中から、カヤマ都知事の魔力や殺気が爆発的に増えたことを察知し、迷うことなく田中総理に全都民の避難を要請したリョウジさんの先見の明に驚いていました。

 普段とはまったく違うその迫力に、一国の総理大臣にである田中総理ですら躊躇うことなく従い、飯能総区長もできる限りの冒険者を動員して都民たちの避難に協力したのですから。


「普段は優柔不断なところもある良二が、あそこまで断言するんだ。ただ事じゃないって思ったんだろうな」


 剣さんですらリョウジさんを疑うことすらせず、都民の避難に協力しているのですから。


「しかし、加山都知事はなにを考えて都庁を破壊したんだろうな。あと新宿もか」


 田中総理が反対する意見を押しきって強引に都民たちを避難させたので犠牲者は極力抑えられているそうですが、現在上野公園近くでは、とてつもない力と力がぶつかり合っているのが私たちでも『探知』できるようになりました。

 その余波で都庁を破壊され、新宿が大業火に包まれ、魔王と化した加山都知事が放ち続ける火炎魔法により都内は破壊され続けているのです。


 そして世界中の人たちが、現役都知事の暴走に恐れおののく事態となりました。

 なぜなら、その様子がリョウジさんの動画チャンネルでリアルタイムで流れていたから。


『上野動物園が移転していてよかった。動物たちがお前の犠牲になったら可哀想だからな』


『抜かせぇーーー!』


『お前は、迷惑な魔法をぶっ放すしか能がないのか?』


『当たるまで放ち続ける! 細胞一つ残さず、お前をチリにしてやるわ!』


「そこ言葉、そっくりお前に返すぜ。加山都知事さんよ」


 破壊された上野公園ダンジョン、首をはねられた高田以下の冒険者たち。

 大業火に包まれる上野公園。

 そして、普段テレビで話している時とまるで違う強圧的で傲慢な加山都知事と、彼女と戦うフル装備のリョウジさん。

 それらすべてがリアルタイムで動画配信されており、これまでにない視聴回数を稼いでいたのですから。


「リョウジさん、ご無事で……」


「リョウジ君なら大丈夫だよ、きっと」


「良二様は無敵ですから」


「リョウジ、カヤマなんてぶちのめしちゃえ!」


「良二、負けるなよ」


 都民たちの避難を助けながらスマホを見て、私たちは祈るような気持ちで、リョウジさんを応援し続けるのでした。





「魂すら焼き尽くす業火を食らうがいい!」


「『アイシクル』!」


 俺の姿を見た途端、俺を恨んでいた加山都知事は強力な火炎を放ってきた。

 最初はかわすか弾くしかできなかったので、それが都庁や新宿、池袋、渋谷、上野、他にも都内の各所に着弾、破壊と大火災を起こしている。

 事前に田中総理、飯能総区長、イザベラたちに都民の避難を頼んでいるから犠牲者は少ないと思いたい。

 今は加山都都知事の火炎魔法に慣れてきたので、それを氷魔法で相殺しつつ、久々に装備したゴッドスレイヤーでダメージを与え続ける。

 相手は魔王なのでなかなか倒せないと思うが、不死の魔王など存在しない。

 どんな手を使っても、俺は加山都知事を殺すと決意した。


「細胞一つ残さず、この世から消し去ってやる!」


「そうなるのはお前よ! 世界を支配するために生まれたこの私を無視して、挙句の果てに動画でバカにし腐りやがって!」


「俺はお前を場かになんてしていない。事実を羅列しただけだ。動画の視聴回数が多いのは、みんなそれが事実だって思ったからだろう」


「殺す!」 


 魔王と化し、岩合、高田以下、自分の手下たちを多数殺している加山都知事は、もはや極刑は避けられない。

 だが今の加山都知事が大人しく逮捕されるわけがなく、彼女は過去の魔王たちと同じく人間の絶滅を目論んだ。

 向こうの世界の魔王がそうだったが、魔王は最強の存在ゆえに、己一人で完結したがる。

 自分以外は世界に無用だと考え、それでもモンスターなどを使役するが、所詮は使い捨ての駒でしかない。

 だから簡単に、手下だった高田たちを殺してしまった。

 多分、姿が見えない岩合たちも駄目だろう。


「都知事なのに、東京を破壊するなよ」


「こんな雑然とした東京なんて、魔王たる私に相応しくないわ。だから魔王の業火で焼き払うのよ!」 


「何様なんだよ?  前は!」


「世界を統べる者よ!」


 ここまでやらかした以上、俺は加山都知事を殺すつもりでいた。

 どうせバカな連中が、『話し合えばいい』とか『捕まえて裁判を受けさせるべきだ』とかとか抜かすんだろうが、そう思うのならお前がやれと思う。

 逆に俺が殺人罪で捕まるかもしれないが、もしそうなったら国外に逃げればいいのだから気にしない。

 それよりも、魔王と化して人間を皆殺しにする気満々な加山都知事が生きている方が不利益だと判断した。

 一応対策として、魔王となった加山都知事の体が二回りも逞しくなり、火炎魔法を無差別にぶっ放し、人間など皆殺しにだと言っているところは動画で生配信しているのだけど。


「『アイシクル』!」


 俺は、火炎を防御にも使っている加山都知事に氷魔法を放ち、火炎のガードが消えた体をゴッドスレイヤーで袈裟斬りにする。

 ただ手応えはあるが、すぐに回復してしまう。

 かなりのHPを持っている証拠だ。


「ならば! お前のHPが消えるまで、お前を攻撃し続ける!」


 加山都知事が何度回復しても、俺はひたすらゴッドスレイヤーで攻撃を続ける。

 これまでの覚えた多彩な剣術で何度も何度も斬り捨てるが、やはりすぐに回復してしまうな。


「(HPが無限なんてことは、絶対にあり得ない。いつか限界が訪れるはずた!)」


 こうなれば体力勝負だ!

 俺はただひたすら、加山都知事をゴットスレイヤーで切り続ける。

 やはり何度斬っても傷がすぐに回復してしまうが、ようはどちらが先に力尽きるかということだけだ。


「おりぁーーー!」


「しつこいわね!  死ねぇーーー!」


 加山都知事が俺を攻撃しようとするが、戦闘経験がほとんどないので当たらない。

 俺はその辺の高レベル冒険者とは違うので、戦闘の素人が魔王になったくらいで攻撃が当たるわけがないのだ。


「これなら!」


 加山都知事が、次になにを繰り出すのか?

 やはり戦闘経験がないせいか、魔力が漏れるのですぐにわかってしまう。


「『タイフーン』!」


 加山都知事が繰り出した『竜巻』と、同じ威力で逆回転の竜巻を繰り出して相殺する。

 これが弾かれると、都内が大竜巻で大被害を被るからだ。


「まったく、町を破壊するしか能がないのかよ!」


 放出系の魔法をかわされると東京に被害が出るので、魔力で身体能力を強化してからゴットスレイヤーで何度も斬りつける。

 加山都知事はレベルとステータスは高いが、戦闘経験は皆無に近い。

 簡単に攻撃できるが、膨大なHPと回復力のせいですぐに回復してしまう。


「(これでは、攻撃している方が先にバテてしまうかな)」


「私は魔王! 無敵の魔王なのよ! だからこんなことも……『クラスターメテオ』!」


「こいつは……」


 俺は半ば本能で強力な『マジックバリアー』を張った。

 その直後、まるで集中豪雨のように隕石の欠片が降り注ぎ、『マジックバリアー』を破ろうとしてくる。

 俺は慌てて、『マジックバリアー』を厚くする。


「(かなり魔力を持ってかれたな……。まあいいか)」


 魔力は魔力回復剤で回復できるので、あとはどちらが先に力尽きるかだ。

 ダメージを食らわせ続ければ、どうやらオート回復機能があるらしい加山都知事の魔力を減らせるので、攻撃にも手を抜かない。


「俺とお前、どっちが先に倒れるかな?」


「人間! あんたに決まってるでしょうが!」


「俺はもう、ただの人間じゃなくなってるからな。それにだ……」


「それになんなのよ?」


「俺はこれでも、魔王を名乗る奴は複数倒している。魔王イコール最強だと思ったら大間違いだぜ」


「私は完璧な存在よ」


「完璧じゃない奴に限って、自分は完璧だって言うんだ。これは俺の経験則だかな」


「古谷良二ぃーーー! お前は殺すぅーーー!」


「奇遇だな。加山都知事さんよ」


「っ!」


「俺もお前を殺すつもりだからな。今のうちに注意しておくが、情けない命乞いなんてするなよ。化け物になったお前を生かしておくわけにいかないんだから」


 それにしても、人間の執念とは凄いものだ。

 俺を殺したいばかりに、魔王になっていまうなんて。

 確実に向こうの世界の魔王よりも強いが、この魔王は何者なんだろう?

 ダンジョンに封印されていたようだが……。

 それよりも、こいつを細胞一つ残さずに倒す方が先か。





「頑張れーーー! 古谷良二ぃーーー!」


「負けるなよぉーーー!」


「加山のババアなんて、ボコボコにしてやれ!」


 スポーツ観戦は人気のあるジャンルだが、それと似たようなものかもしれない。

 この一週間、動画配信サイト、テレビを問わず、世界で一番見られている映像は、古谷良二と魔王と化した加山都知事との死闘だった。

 古谷良二が大きな剣で加山都知事を斬るも、すぐに回復してしまって致命傷には至らない。

 お返しとばかり、加山都知事の反撃を受けた古谷良二がボロボロになるも、すぐに治癒魔法で回復してしまう。

 先に回復力がなくなった方が負けという、見ているだけで痛々しくなる死闘が一週間も続いていた。

 一週間寝ないで戦い続ける古谷良二のタフさに、同業者である冒険者たちも驚き、嫉妬し、称賛し、今の自分ではまったく敵わないとコメントする者も多かった。


 もし古谷良二が負けると、魔王と化した加山都知事がまずは日本を。

 続けて世界をその支配下に置こうとするだろう。

 ニュースによると、日本政府は野党の反対を無視して自衛隊を防衛出動させ、東京を囲うように部隊を配置している。

 東京都民の都外への避難誘導も警察、消防、冒険者有志と共に行っており、都内に残っているのは魔王となった加山都知事を熱烈に支持する人だけとなった。

 彼らの中にはすでに、古谷良二と加山都知事との戦いの余波で死んでしまった者たちも多数いるとか。

 だが彼らは、日本政府よりも魔王となった加山都知事を選んだのだ。

 彼女の放った魔法の流れ玉で死んでしまったのは、むしろ本望だったかもしれない。


「争いはよくありません! 話し合うことが大切なんです! 古谷良二は戦うことで金を稼ぐ、汚い人間なのですから。彼は死の商人なんです!」


 それにしても、この期に及んでまだ話し合うことが大切で、戦うばかりの古谷良二は殺人者だと、動画で批判している人たちがいた。

 古谷良二を批判すると視聴回数が稼げるから、今回も世界規模で出現している。

 もっとも、そうやって古谷良二を批判すればするほど、彼の動画の視聴回数も増え続けるのだけど。


 ライブ配信、編集動画、切り抜き動画、日本ばかりでなく、世界中のテレビ局に動画を販売している古谷良二は、動画配信サイトのインセンティブと、投げ銭も合わせて、加山都知事との決戦動画で数千万ドルは稼いだはずだ。

 それがいいことなのか、悪いことなのか。

 少なくとも、このまま魔王と化した加山都知事を放置すればろくなことにならないことは確かだ。

 だからこそ、彼女と戦っている様子を配信している古谷良二には多額の投げ銭が集まっているのだから。


『クソォーーー! この化け物が!』


『お前の方が化け物だろうが』


『はぁ……はぁ……』


『さすがの魔王も、これだけ削ればそろそろ限界か』


『私は、世界を支配するために生まれてきた! それを邪魔しやがって!』


『俺は、お前みたいな扇動政治家に支配されるなんて嫌だね。挙げ句の果てに、東京をこんなに破壊しやがって』


 加山都知事が放つ魔法のせいで、東京都内は燦々たる有り様だ。

 復旧費用を考えると、日本政府は頭が痛いだろう。

 日本政府の避難指示を無視した、加山都知事を熱心に支持している人たちもそれに巻き込まれて多数が死んでいる。

 特に加山都知事に都職員にしてもらった人たちが都庁に多数いたはずだが、最初の都庁崩壊で何人生き残っているやら……。

 他の東京都の施設にもいたはずだが、自衛隊でも流れ弾として放たれる魔法が危なくて救援は不可能だった。

 多分助けに行っても、彼らは脱出した都民たちとは違って、絶対に東京からは離れないはず。


「 日本に大きな被害をもたらした魔王加山都知事は、永遠に歴史に残りそうだな」


 日本と世界を支配できなかったが、魔王として東京を破壊、多数の人間を殺した大虐殺者としては名が残るはずた。


「それを本人が喜ぶがどうかは別として。それにしてもよかったぁ。古谷良二が勝利できそうで」


 俺は、古谷良二か勝つのにベットしていたのだ。

 魔王に勝たれたら堪ったものじゃないと思っているが、それを賭けにするのも国民性ってものでね。

 ブックマークの賭けでは、どういうわけか魔王加山都知事が勝つと予想する人の方が多くて、俺しては万々歳だけどな。


「少し投げ銭しておくか」


 翌日のニュースで、古谷良二が受け取った投げ銭の額が歴代最高であると放送され、それだけ手に汗握る死闘を一週間も続けたからなんだろうけど、俺も無事に多額の配当金を手に入れることができてよかった。


 この手の死闘を賭けごとにするなんて不謹慎だって?

 でもねぇ、今回の加山都知事の騒動を見てわかるだろう?

 あんな魔王を熱心に応援するバカな都民が沢山いたんだ。 

 この世なんて、みんなが思っているほど誠実でも、真面目でもないのさ。




『もう回復する魔力も、それを回復する手段もないはずだ。魔王、死ね!』


『どうして同じようなペースで戦っていたお前は大丈夫なのよ?』


『俺はお前より、受けたダメージの総数が圧倒的に少ないからな。この一週間、俺は戦えば戦うほどお前の攻撃パターンに慣れてダメージを食らわなくなり、お前の回避パターンを憶えて、確実に攻撃を当てられるようになった。レベルやスキルばかりあっても、お前のように言うだけでなにもしない奴には負けないさ』


 本当なら加山都知事も、レベルとステータスに相応しい戦闘技能をこの一週間で覚え、俺を追い込めていたはず。

 だが現実には、加山都知事の戦闘技能はこの一週間、ほとんど変化がなかった。


『どこまでも、肝心な部分は自分でやらないのか。そんなお前に相応しい末路だ。

食らえ!』


 俺は目にも止まらぬ早さで、加山都知事を縦に真っ二つに切り裂いた。

 これまでなら回復できたが、もうコイツは魔力切れだ。


『回復できない!』


『すげぇ、さすがは魔王』


 顔も体も縦に真っ二つにしたのに、まだ喋れるのだから。

 さすがは魔王というべきかな。


『私は総理大臣に……いえ、日本の支配者に……世界の愚民どもは、私に支配されるべきなのよぉーーー!』


『嫌だよ、お前みたいなその場のウケだけ狙う無能な政治家なんて。もういい加減、消え去ってしまえ!』


 俺が火炎魔法を放つと、すでに防御力がない加山都知事は簡単に炎上した。


『みなさんも、炎上には注意しましょう』


 と、冗談で言ったら、投げ銭が沢山入った。


『バカにしやがってぇーーー! 私が支配者になれない世界なんて消え去ればいいのよぉーーー!』


 最後にそう言うと、加山都知事は大爆発を起こした。

 死なばもろともなのはいかにも魔王らしいが、俺がそれを知らないと思っているのか?

 これ以上東京に被害が出ると大変なので、俺は咄嗟に『マジックバリアー』で自爆する加山都知事を抑え込んだ。

 その爆発の閃光と威力はすさまじく、俺じゃなかったら、加山都知事の自爆に巻き込まれて死んでいたはずだ。


『ふう……加山都知事は最後に自爆しました。東京は救われた』


『『『『『『『『『『おおっーーー!』』』』』』』』』』


『おめでとう!』


 生配信はまだ続いていたので、多くの応援や追加の投げ銭が飛び交い、俺の勝利を祝ってくれていた。


『さすがに眠いので、今日はこれで寝ます』


 徹夜で一週間戦うなんて随分と久しぶりだったせいか、俺は急ぎ『テレポーテーション』で自宅に戻り、それでも睡魔には勝てずに玄関で寝てしまうのであった。

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