第173話 食料配り動画配信者
『(みなさぁーーーん、ここは都内某所です。今日はゲリラ食料配りをしたいと思いまぁーーーす)』
今日の動画は、都内に潜入して食料を配るというものだった。
加山都知事の悪政により困窮する都民が増えており、少しでも彼らを助けるためだ。
アナザーテラや農業工場で収穫した農作物やそれを加工した、長期間保存できるレトルト食品、缶詰、お菓子、栄養食品などを、イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ、剛と共に次々と配っていく。
『無料の試供品はいかがですか?』
『試供品だから無料ですよ』
『古谷良二は関わっていませんよ』
『よろしければ、こちらのQRコードからアンケートに答えてください。抽選でモンスター肉の豪華セットが貰えますよぉ』
『坊主、遠慮するな。友達の分も持っていけ』
みんな、堂々と嘘をついて食料を配りまくっているが、ここはダンジョンから離れた場所なので加山都知事の私兵たちは現れなかった。
『アイテムボックス』に大量に用意した食料を、都内各所で大量に配っていく。
他の冒険者たちも協力してくれており、都内で一斉に食料を配っている状態だ。
「現在の東京で配給なんてするとは思わなかったです。加山都知事、無能だよなぁ」
夜、都内で食料配りを終えた俺たちは、都外のレストランで夕食をとっていた。
食料配りの動画はすぐにプロト1が編集していたが、この動画は新しいアカウントを作ってやっている。
『多くの都民が東京から逃げ出し、物価高と食料不足で困っている人がこんなに沢山いて、加山都知事はダンジョンでレベリングとはいいご身分だ。確実に歴史に残る無能な政治家となるだろう。一日も早く退任することを、本人と腰巾着以外の全員が望んでいる』
顔を出さず、ボイスチェンジャーで加山都知事を批判する。
大分胡乱な方法だが、それだけ彼女の独裁者スキルが強力なせいだ。
加山都知事自身、すでに崩壊寸前な東京を立て直す能力も気概もない。
扇動政治家であった頃の人気取りすらできないから、ただひたすらダンジョンに籠ってレベリングをしていた。
なぜなら、レベルが上がれば上がるほど、どれだけ悪政を働いても、少なくとも今都内に残っている都民たちは自分を引き摺り下ろさないことを理解したからだ。
せめて自分でモンスターと戦ってレベルアップすればいいのに、東京都の予算で海外から高レベル冒険者を呼び寄せてレベリングしていて、裏では『自分のような選ばれた人間はモンスターと戦うなんて野蛮なことはしない』なんて言っているらしいから救えない。
「カヤマの批判動画、世界中でバズってるよね。ボクたちからしたら、こんな政治家が日本にいるなんて驚きだから。よくも悪くも、日本の政治家って目立たない人が多いし」
「注目を浴びて当然よ。あの東京に、某北の国の独裁者といい勝負の独裁者がいるんだから」
俺のみならず、徐々に状況が悪化する東京に潜入して困窮している人たちに食料を配ったり、東京の予算の支出に不自然な点があると指摘したり、私兵たちが自分たちの意に従わない都民を東京から強引に追放する動画なども流れていて、『独裁者加山都知事』動画は世界中でバズっていた。
「元々そういう気質なのか、独裁者スキルに引きずられているのか。判断が難しいですけど。ですが、田中総理も胡乱な方法で加山都知事を追い込みますね」
「リョウジさんが彼女を暗殺した場合、すぐにバレてしまいますし、デメリットが多すぎますので。それに……」
「それになんですか? イザベラさん」
「日本は民主主義国家で、都民が彼女に投票してしまった以上、その責任は取らないといけませんから」
「かなりのしっぺ返しを食らっていますけどね」
戦争中でもあるまいし、日本の首都の住民が実質食料の配給を受けている有り様だからな。
これ以上の罰はないと思う。
「良二、次の選挙で加山都知事は落ちるものなのか? 独裁者スキルがあるから難しい気がする」
「加山都知事のレベルと、東京の状態によるとしか」
東京がこれからどうなるのか、まったく想像がつかないが、実はこの食料配りは国からお金が出ていて、日本政府はそれだけ東京の現状に危機感を抱いている証拠であった。
「俺はもうそろそろ、加山都知事は破綻すると思っている」
「どうしてそう思うんだ?」
「自分でレベル上げをしないで、高レベル冒険者のレベリングに頼っているが、世界中に加山都知事の悪行が知られている以上、いくら東京都は金を積んでもレベリングを引き受けない高レベル冒険者が増えるからだ。それに……」
「それに?」
「レベリングは、最初効率よくレベルが上がるが、すぐに頭打ちになるじゃないか。で、東京の荒廃は恐ろしい速度で進んでいる。そのうち、加山都知事の独裁者スキルは通用しなくなるさ」
そうなれば、政治家として無能な加山都知事に打つ手はない。
田中総理はそうなる前に都民に餓死者が出ると困るから、俺たちにこんなことをやらせたのだから。
「加山都知事は、最後は都民に石でも投げられそうだな」
「自業自得だ」
加山都知事が総理大臣になられたら困るので、今は彼女の追い落しに協力しておくとするか。
加山都知事の批判動画が、思った以上に視聴回数を稼げているってのもあるけど。
「またメニューが値上がりなんておかしいじゃないか! これで何度目だよ!」
「すみません、食料の値上がりが激しくて、値上げしないと赤字なんです」
「店長、今の給料じゃあやって行けません。なんとかしてくださいよ。光熱費もどんどん値上がりしていますし……」
「今でも採算ギリギリなんだ。三食賄いを出すから勘弁してくれ」
「もっと安い物件に移ろうかな? いや、敷金と礼金がないし、今でも格安のボロアパート住まいなんだよなぁ……」
好景気だったはずの東京だが、今は不景気に喘いでいた。
みんなに仕事があって、なんでも安い夢のような都市。
加山都知事がそれを実現したと宣言し、最初は多くの都民たちがそれを実感していたのだが、今では物価が急上昇したのに給料はなかなか上がらず、むしろ下がっていた。
多くの都民が、仕事をなくすよりはマシだと減給を受け入れるパターンが多く、それなのに最近光熱費や物価の上がり方が酷いので、生活苦に陥る人たちが増えていたのだ。
特に酷いのが食料品の値上がりだろう。
東京は食料自給率が低いのに、実質日本から独立したような状態だ。
それでも、これまでのように食料を安く輸入できれば問題ないのだけど、今は世界中の平均気温が低く、今は夏なのに肌寒い。
今年の農作物の収穫は絶望的と言われており、世界中で混乱……はしていなかった。
なぜなら……。
『食料はすべて去年と同じ値段で販売します! 量は十分にあるのでご安心を!』
田中総理が全世界に対し、食料の安定供給を約束。
一部の国を除き、世界各国の政府もこれに協力することを約束した。
元々食料自給率が低い日本がどうやって……古谷良二が関わっているのは明白であったが、とにかく世界中に食料が安定供給され、便乗値上げをした者たちは厳しく罰せられた。
それなのに、どうして東京の食料が高いのか。
それは、加山都知事が嫌っている、古谷良二が関わる食料の購入を禁止したからだ。
まだ寒冷化は始まったばかりなので、古谷良二が関わっていない食料もないわけではなく、東京はそれを輸入するしかなかったのだが当然高くつくし、東京はデフレ下にある。
飲食店が安売り競争を続けていた中での食料の大幅な値上げにより、各店は商品の値上げをせざるを得なかった。
だが、値上げ分はすべて食料の仕入れ代金と光熱費の上昇に奪われ、人件費を上げることはできなかった。
むしろ値上げによる客数の減少により、従業員のリストラと減給が行われた。
従業員たちは少ない給料で厳しい労働を課せられ、過労死する者まで出てきた。
では、ゴーレムを使えばいいという話になるが、残念ながら加山都知事を支持している冒険者の大半が冒険者特性を持っておらず、持っていても大したスキルを持っていない。
普通にダンジョンで稼げている冒険者が加山都知事と組んでもあまり意味がないので、大半が東京の外に逃げてしまったからだ。
加山都知事が古谷良二に儲けさせないため……この主張は、彼が気に入らない、格差是正を訴える市民団体などのウケがよく、さらに加山都知事は人間の職を奪うとしてゴーレムの使用を禁止していたため、東京では安い給料で人間がヘトヘトになるまで働かなければならなかった。
今の東京だから優遇してもらえる冒険者たちが、加山都知事の私兵となって彼女の独裁を助けているのもあり、東京の景気は回復しないだろう。
俺たち東京都民は、これからどうなってしまうのか……。
「とまぁ、今の東京は衰退一直線で、まさに世も末だな」
「この手の創作物って、舞台となっている国が全体主義国家だったりするんですけど、民主主義下でこうなってしまっているのが驚きですわね」
「イザベラもそういう小説や漫画を読むんだ」
「嗜む程度ですけど」
「しかしみんな、加山都知事に逆らわないんだね」
「ホンファ、逆らわないんじゃなくて、逆らう気力がないうえに、東京から逃げ出すふんぎりががつかないんだと思う」
「どっちにしても不幸な話だね」
「私兵たちがいるってのもありますね」
「むしろ私兵たちは、加山都政の邪魔になる異物の排除に一生懸命らしい」
「政治の主流から転落した貴族の子孫が人のことは言えませんが、加山都知事を選挙で選んでしまった人たちは反省した方がいいと思いますよ」
「カヤマとその取り巻きたちだけは我が世の春だけど、東京はもう終わったわね」
東京が某北の独裁国家のようになってしまい、状況は加速度的に悪くなっているようだ。
東京から逃げ出していない都民たちは、彼女が私兵として囲っている冒険者たちを恐れている。
彼らの大半は冒険者特性を持っていないが、モンスターとの戦闘で体が鍛えられていて、一般人からしたら怖いはずだ。
彼らはあまり暴力を振るわない……いわゆる反社会組織に所属している連中には容赦しないらしい……が、加山都知事の独裁に邪魔だと思った都民は容赦ないと聞く。
そのせいだけてはないが、自主避難を含めて、すでに三分の二の都民が東京から逃げ出した。
かなりの数だが、本来人間は環境を変えることが苦手な生き物なので、それだけ加山都知事の独裁が酷い証拠とも言える。
逆に加山都知事がおかしいと思っても、我慢して東京に残り続ける人もいる。
どんなに酷いDV、モラハラ夫でも離婚しない女性もいるから、それと同じようなものだろう。
もしくは、加山都政で利益を享受している人か。
ただ日本政府が、経済対策と防災、安全保障を兼ねた政府機能や企業の分散と、第二次国土開発計画を始めた結果、東京の地価が大幅に下がり、東京に土地を持っている人たちは大損害を受けていた。
元々加山都知事は統治者としての才能がないので、いくら独裁者のスキルがあっても、東京が貧しくなれば支持率が下がってしまう。
逆に考えると、独裁者のスキルあっても東京をここまで衰退させてしまい、都民たちが次々と逃げ出している加山都知事は、政治家としては無能なんだろう。
こんな人が長年政治家をしていたのが不思議で堪らない。
「加山都知事は、海外の冒険者にレベルアップしてもらっていると聞きましたが、それでも東京の衰退は避けられないのですね」
「独裁者のスキルって、有能な政治家が持っていると最強なんだけど、無能が持つと効果が薄れるんだよね」
「魔法の効果が、知力に左右されるようなものですね」
独裁者スキルが上手く機能するには、支配している人たちの支持が必要だ。
たとえレベルが低くても、優れた統治ならみんな言うことを聞くが、加山都知事は政治家として無能なので、三分の二が離脱した。
だが逆に言えば、今の彼女のレベルがあれば悪政を敷いても三分の一の都民が加山都知事を支持……その支配を甘受しているし、不思議なことに東京はまだ崩壊していない。
独裁者スキルの恐ろしさが、よくわかるというものだ。
「レベルアップすればするほど、加山都知事の支配力が増していくわけか。リョウジ君、ヤバくない?」
「実はヤバいから、今日はみんなで嫌がらせにやってきたわけさ」
加山都知事の暗殺ができない……やれなくもないというかできるが、当然俺がもっとも疑われるから、やりたくないに決まっている。
そんなわけで、飯能総区長と俺たちで変装して東京都内にいた。
その目的は……。
「お前ら! 加山都知事が禁止している、古谷良二が栽培、製造に関わった食料を購入したなぁーーー!」
「これがないと、子供たちが飢えてしまいます」
「いいかぁ! 加山都知事は格差を広げている古谷良二と戦っておられるのだ! お前たち都民がそれに協力しないでどうするんだ?」
「ですが、食料が高すぎて……」
「働けぇーーー! 都民に怠け者などいらん!」
「仕事がないんです」
「贅沢を言うな! 仕事なんて探せばある!」
失業して困窮している女性に無茶を言う冒険者。
こいつらは都外なら最下層の冒険者だが、東京のダンジョンでスライムを狩り、加山都知事の私兵をやれば特権階級になれるものだから、すっかり調子に乗っていた。
現在の東京都はデフレなのに物価が上がり、低賃金労働者を増やしてまで下げた失業率が再び悪化しつつあった。
そのため俺たちは密かに、生活に困っている人向けに食料を配ったり、安く売っており、それは都内ではいわゆる闇食料……実はなんら法に触れていないのだが、独裁者のスキルを持つ加山都知事が作った条例では禁止なので、都内では闇食食料が見つかり次第、彼女の私兵たちが没収している。
実は、没収した食料は私兵たちが高額で横流ししているので、主人が主人なら犬も犬と言った感じか。
俺たちは現在の東京で困っている人たちに食料を配りつつ、この犬たちに対し加山都知事に与した罰を与えにきたわけだ。
加山都知事の力を徐々に落としていかないと。
「飯能総区長、いいんですか? 俺たちについてきて」
俺とイザベラたちだけで実行する作戦だったのだけど、なぜか飯能総区長も同行していた。
「東京に与している冒険者たちには負けないさ」
飯能総区長も冒険者としては凄腕なので、加山都知事に与している冒険者には負けないか。
「それしても、人間のプライドとは恐ろしいものだ」
「そうですね……」
綾乃は、飯能総区長が言わんとしていることが理解できたようだ。
冒険者特性を持たないことにコンプレックスを抱いていた冒険者たちだが、加山都知事が独裁者として君臨する都内で彼女を支持し、手助けすることで、支配者層に君臨して多くの利権を得ている。
そしてその生活を失いたくないから、困窮している都民たちを怠け者だと言って虐げているのだから。
「今の東京都は衰退一直線だけど、カヤマを支持している冒険者たちは、そんなことどうでもいいのよね。自分たちが稼げてチヤホヤされていればね」
「独裁者とその取り巻きたちだけがいい思いをして、都民たちは飢えていく。東京は独裁国に成り果てたわね」
リンダも、加山都知事応援団である冒険者たちに呆れていた。
現に今も、俺が関わった安い食料を闇市から買った……終戦直後でもあるまいしって思うだろうが、これが今の東京の現実だ。
アメ橫周辺を歩いているが、大分錆びれたな。
冒険者特性を持つ冒険者の大半が東京都外に逃げ出してしまったので、彼らがお金を落とさなくなった影響だろう。
俺も、プロト1に任せていたお店や飲食店を富士の樹海ダンジョン特区に移転させていたし、冒険者特性を持つ冒険者向けの高級店も同じだった。
冒険者特性を持たない冒険者向けの、ちょっと高級なお店は順調そうだが、デフレと不景気で潰れたお店も多いようだ。
「リョウジさん! 助けましょう」
私兵たちが若い母親と小さな子供から闇食料を奪っているところに出くわしたので、助けに入ることにする。
そして、その様子を目撃しながら助けることはしない通行人たち。
彼らを『鑑定』してもレベルとスキルが見えないから、冒険者特性を持たない冒険者たちなのだろう。
冒険者特性を持たない冒険者は、概ねこんなタイプ……ヤンキー、アウトロータイプが多いのでわかりやすい。
それにしても、大人数で若い女性と小さな子供から食料を奪うなんて、とんでもない連中だ。
「加山都知事の犬たちなんでしょ。弱い犬ほどよく群れるよね」
「だな」
彼ら、冒険者特性を持たない冒険者たちが我が世の春を謳歌しているのは、加山都知事の独裁のおかげた。
だから彼らは、加山都知事の私兵と化した。
東京都の予算から手当てを貰って、彼女の統治の邪魔をする都民たちを取り締まっているのだ。
「あーーー、君たち。周囲の目は気にならないのかな?」
俺は私兵たちに声をかけた。
周囲にいる人たちは、俺に対し驚きの視線を向けている。
加山都知事の私兵を務める冒険者たちは、体が大きくてガラが悪い者たちも多いからだ。
俺が一時の正義感に惑わされて、酷い目に逢うと思っているのだろう。
「なんだ? お前は?」
「だから、そんなにいいガタイをしたおっさんたちで、か弱き女性と子供を脅して食料を奪うのはよくないでしょう」
「こいつらは、闇食料を購入した!」
「没収して、少しばかり叱るだけだ! 働けば東京都公認の食料を買えるんだからな」
「怠け者が古谷良二が関わった安い食料を買うと、この世界の格差が広がってしまうのだから」
「理解できたら、トーシローが余計な口を出すな!」
俺が関わっている安い食料が闇食料扱いだなんて、人間生きていると不思議なことがあるものだ。
「古谷良二か関わった食料の輸入、購入禁止だったか? 一応条例は作ったらしいが、あの頭の悪い加山都知事が作ったに相応しいから悪法だな」
「なんだと?」
これも、独裁者スキルのおかげなのか。
俺が加山都知事をバカにすると、冒険者たちの顔色が変わった。
「聞こえなかったのか? バカな加山都知事が考えそうな悪法だって言ったんだ。あのババアに政治家の性能なんてないんだから、条例なんて作らせない方がこの世のため……ああっ! どうせ秘書にでも作らせて、さも自分が作ったかのように言っただけか。あのババアらしいな」
「貴様ぁーーー!」
「加山都知事閣下への批判は許さん!」
冒険者たちは、闇食料を購入した親子のことなどどうでもよくなったらしい。
今度は俺を囲み、その間にイザベラたちが別の食料を渡し、親子を逃がしてくれた。
「この東京の! 」
「そして将来ほ日本を!」
「さらに世界を支配するであろう、加山都知事をバカにするのか?」
「俺は加山都知事をバカにはしてないよ。彼女がバカなのは周知の事実だから、俺は正直にそうだって指摘しただけだから。なあ? みんな」
「はい。世界中を探しても、あんなにバカな政治家は滅多におりませんわね」
「ただバカなだけならよかったんだけどね」
「無駄にプライドが高いので、ちょっと厄介な人ですね」
「本当、カヤマのせいでみんな疲労困憊よ。無能な働き者は厄介よね」
「ガキぃーーー! 小娘どもがーーー!」
「許さないぞぉーーー!」
「加山都知事閣下を批判したこと、後悔させてやる!」
冒険者たちは、俺たちの変装を見抜けないようだな。
俺たちを、たまに出現する加山都知事を批判する普通の都民だと思ったようだ。
簡単に制裁を加えられると思って一斉に襲いかかってきたが、綾乃が一人前に出て、彼らに魔法をかけた。
「『ウィークネス』」!
「なんだ? 魔法ゴッコか? あれ?」
「そんなもので俺たちが怯むか! ……なんだ?」
「俺たちの恐ろしさを知るがいい! 体の力が……」
俺たちに襲いかかろうとした冒険者たちだが、まるで体の力が抜けたかのように動きが遅くなり、その攻撃は俺たちによって簡単に回避されてしまった。
それもそのはず。
綾乃が使った魔法は、対象の力、体力、素早さなどを半分にしてしまう効果があるのだから。
「(綾乃、上手くいったな)」
「(はい)」
暴力自慢の、加山都知事の犬たちに相応しい弱体化だ。
「お前ら……。冒険者特性持ちか?」
「だとしたら?」
「俺たちを上から目線でバカにするだけでなく、こんな嫌がらせまでぇーーー!」
「意味がわからん」
冒険者特性を持たなくても、加山都知事の靴を舐めずに、東京都の外でちゃんと稼いでいる冒険者は少なくない。
そんな冒険者たちをバカにする、冒険者特性持ちの冒険者はゼロではないが、ほとんどいなかった。
「お前らがバカにされたと思うのは勝手だが、だからって加山のババアの犬になってれば世話ないな。犬の方がバカにされるだろう」
「加山都知事の犬……可愛げがなさそうですわね」
「そのうえ警察気取りで、一般市民にまで迷惑かけて、格好悪いったらないね」
「本当に困った方々です」
「ちなみに、その『ウィークネス』の魔法だけど、効果は五十年間あるから」
「なっ!」
リンダの宣告を受け、冒険者たちの顔色が一斉に青くなった。
加山都知事の力を落とすには、彼らは私兵たちを排除すればいいのだが、まさか殺すわけにもいかない。
そこで、綾乃の魔法で弱体化されることにしたのだ。
彼らは冒険者特性を持たないので、弱体化魔法の影響をモロに受ける。
しかも高レベルとなった彼女が、冒険者特性すら持たない人たちに対し魔法をかければ、その効果を長期間保たせることが可能だった。
勿論綾乃だって、普通の人たちにこんなことをしない。
彼らが進んで加山都知事の手下となり、多くの人たちに迷惑をかけているからだ。
「元に戻せ!」
「明日も討伐があるんだぞ!」
「知らんな」
それなら、加山都知事の私兵になんてならなければいいのに……。
それに彼らは、彼女の犬になることを強制されたわけではない。
自分の利益のために、積極的に加山都知事に協力した結果、多くの人たちに迷惑をかけた天罰を食らったのだから。
「普通に働いて食うだけの力は残している。頑張って働けよ」
「そんなぁ……。武器と鎧がこんなに重いなんて……」
「無職は甘えなんだろう? 自分の発言に責任を持てよ」
「……」
俺たちは、その場に座り込む冒険者たちを放置してそこからを去った。
さらに続けて都内を回り、加山都知事の犬として活動中の冒険者たちに『ウィークネス』をかけていく。
冒険者特性がない冒険者の力が半分になったら、もうスライムすら倒せないので彼らは普通に働くしかない。
これまで、加山都知事の威を借って好き勝手やってた報いを受けるがいいさ。
「次の標的を探そう」
その後も俺たちは、加山都知事の私兵になっている冒険者たちに『ウィークネス』をかけて弱体化し、数少ない冒険者特性を持つ者たちから冒険者特性を奪っていく。
「加山都知事の犬をやっていると、力を奪われる。これで、彼女に積極的に力を貸す奴は減るだろう」
「ゼロにはならないんですね」
「それが人間という生き物さ」
俺はイザベラに持論を語る。
自分が大した冒険者ではない自覚があるからこそ、権力者にすり寄って成り上がろうとする者たちもいる。
それを止めるのは難しく、それに加えて加山都知事には独裁者スキルもあるのだから。
結局のところ、加山都知事の独裁者スキルでも誤魔化せないほど、東京には悪くなってもらうしかない。
俺たちの作戦の効果があったからなのか。
大量の取り巻きを失った加山都知事への支持は、徐々に減りつつあった。
冒険者の弱体化により、頼りの綱だった魔石の輸出量が大幅に減り、エネルギー、資源、食料が大幅に値上げしたのに給料は下がり、失業率は上がっているからだ。
いくら独裁者スキルがあっても、無条件で民衆から支持を得られるわけではなく、東京の人口が大幅に減って不景気になれば、加山都知事を支持しない人たちが出て当然だ。
「加山都知事の犬たちが弱体化したので、東京に安い闇食料の供給がやりやすくなった」
「加山都知事の独裁者スキルに影響されない都民たちに協力者を見つけたから、彼らに闇食料の販売を任せよう」
飯能総区長が同行したのは、都内に残る加山都知事に反抗する人たちと連絡を取り、寒冷化による食料難で都民に餓死者を出さないよう、闇食料の供給ルートを構築宇するためだった。
とにかく、無事に作戦が成功してよかった。
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