第171話 東京情勢

「この一年で、東京はおかしなことになっていますわね」


「ボクたちが今都内に入ったところで、絶対にろくなことにならないし、ここなら毎日簡単に富士の樹海ダンジョンに通うことができるから悪くないよね」


「謎なのは加山都知事です。以前の彼女はどちらかというと新自由主義的な考えで、東京国際金融都市する、なんてことを言っていたのですが、いつから社会主義者になったんでしょうか?」


「実は彼女自身にイデオロギーなんてないんじゃないの? 支持率さえ上がれば、政策なんてなんでもいいんだと思う。アメリカにもいるけど、カヤマは典型的な扇動政治家よね。でも独裁者のスキルのおかげで、東京都内ならなんでも自由にできてしまう。恐ろしいスキルよ」


「東京都内の失業率が下がっているおかげで、加山都知事の支持率は高いけどな」


 東京都はいまだ日本に所属しているが、加山都知事の独裁下にあるという、とても不思議な土地になった。

 さらに彼女は東京都の予算……つまり税金だ……で、海外の優れた冒険者たちに頼んでレベリングを今も定期的に実施。

 そのおかげで、大半の都民は加山都知事が独裁者として君臨しても疑問に感じるところか、積極的に支持するようになった。

 これがスキルの恐ろしさであるが、彼女は基本的には善人寄りの人物なので、今のところ東京都民を大量虐殺したなどという事実はない。

 ブレーンが東京大学出身の岩合だからか、以前俺に敵対した元キャリア警察官後藤と同じように、社会主義的な政策を次々と実行して人気を得ていた。

 現在世界中で爆発的に普及しつつあるゴーレム、ロボット、AIの使用を禁止し、とはいえ条例で罰則もないのだが、加山都知事は自分の熱烈な支持者たちを集めて民兵組織や、自分のやり方に反抗する人たちを密告させる『報告隊』なる組織を作り、この政策を実現させている。

 呆れて東京都を出た都民もいるが、加山都知事のスキルに抗える人は少数しかおらず、彼女の政策に疑問があっても、仕方なしに従っている人も多いはずだ。

 加山都知事は、ゴーレム、ロボット、AIが人間の仕事を奪うから失業率が上がるのだと考えたようで、それなら禁止してしまえばいいという結論に至ったらしい。

 非常に短絡的な考え方だが、 実は彼女は政治に詳しくない。

 すべて公設秘書である岩合に任せているから、こんな時代に逆行した政策が一年も続いているのだろう。

 そのせいで本社機能を東京から移した企業も多く、もしくは東京都の拠点や工場、店舗のみで多数の人間を使うケースが増えている。

 その代わり、東京以外の拠点ではゴーレム、ロボット、AIを普通に使うなんて会社も珍しくなかった。

 なぜなら、東京都以外なら加山都知事の『独裁者』は通用しないからだ。


「東京の就業者数は大幅に増えたが、そのせいで給料は最低賃金になった。あっ、実は東京だけ最低賃金を大幅に引き下げたんだよな」


 仕事はいっぱいあって、常に人手不足で困っている業種も多いが、超円高とデフレのせいで給料を上げることができず、ゴーレム、ロボット、AIは東京都の条例で禁止されているので使えない。

 確かに失業率は下がったが、生産性の低い劣悪な待遇で働いている人も多いと聞く。

 よく経済学者が『こうすればすべて解決!』なんて言っているが、どんな施策にもメリットとデメリットがある証拠だ。

 

「生産性を上げるため、ゴーレム、ロボット、AIを導入すると賃金は上がるけど、ゴーレム、ロボット、AIでもできる仕事に人間が就けなくなり、失業率は上がってしまう。逆に人間のみを使うと失業率は下がるが、生産性と利益がなかなか上がらず、従業員の給料も上がらない。どちらにもメリットとデメリットがあって、どうなんだろう?」


「さあ?」


 剛は首を傾げた。

 俺もそうだが、いくら高レベルでもすべての人が納得する政治はとても難しそうだ。

 そもそも俺たちは政治家じゃない。

 

「イザベラ、東京都と東京以外。 どっちが正しいのかな?」


「バランスの問題だと思いますが、私が思うにゴーレム、ロボット、AIの普及を止めて一時的に失業率が下がったところで、東京だけが時代遅れになって、世界の発展から取り残されるだけだと思いますけど……」


「だよねぇ」


 田中総理からしたら、首都である東京が全速力で時代の流れに逆行しているのだ。

 しかもそんな状態でも、都民たちの多くは加山都知事を支持している。

 この一年、ずっと頭を抱え続けているはずだ。


「確かに仕事はあるのですが、辛くて給料が安いから就業者が集まらず、ゴーレム、ロボット、AIに任せることにしたのに、また人間にやらせても手間ばかりかかって生産性が上がることはありませんし、給料が増えることもないでしょう。ましてや東京は、デフレと円高の影響をモロに受けていますから。残念ながら東京の経済は、これから大幅に落ち込むでしょう」


 なぜなら、これまで東京に本社があって、ゴーレム、ロボット、AIを使って生産性を上げ、売上と利益を伸ばしていた企業は東京を捨てるか、東京の拠点に足を引っ張られながら、色々と諦めるしかないからだ。


「経済政策って必ずメリットとデメリットがあって、でも扇動政治家って、都合のいいことしか言わないからね。失業率は低いけど給料は上がらないか、失業率は高いけど給料は高い。どっちかになってしまう可能性が高いよね」


 ホンファも加山都知事に対し、『処置ナシ!』と思っているようだ。

 大幅に経済成長できれば、次々と新しい仕事が作られて失業率を減らせるかもしれないけど、現在の東京では大幅なデフレが進行中だ。

 新しい産業に投資する余裕はないだろう。

 

「給料は安いけど、選ばなければ仕事は沢山ある。でもほとんどの仕事で給料が上がることは決してない」


「確かに、今の東京は酷いデフレが進行中ですからね」


 そもそも日本自体が、国債の大量償還で市場に流通する貨幣量が大幅に減っている。

 田中総理もそんな政策はやりたくないが、そうすると国民からの支持率が上がるからやるしかないのだ。

 日本の1200兆円を越える国債発行高が、あと二十年ほどでなくなるとなれば、それを支持する国民が多くても当たり前なのだから。

 国債発行高は通貨発行量でもあるので、これが消えると日本の通貨量が減る。

 国民が産み出した富を税金をして集め、これで国債を償還すると、二度と集めた税金が世間に流通することなく消滅し、経済発展にも寄与しないまま虚空に消えてしまうからだ。

 市中に出回るお金が減ればデフレになるし、国家と企業はまるで違うものだ。

 国債イコール借金と短絡的に考える人が多いから、日本も東京もなかなか賃金が上がらない。

 冒険者と、一部の人たち以外は。

 だが、俺たちお金を稼げる者たちからしたらデフレは悪くない。

 利息なんかつかなくても、デフレ下では持っているだけで現金の価値が上がるのだから。

 日本はよくそんな状態で経済成長できるなと思うが、魔石、モンスターの素材、魔法薬、アイテム、ゴーレム、魔導技術の産物などを多数輸出しているので、貿易収支が大幅な黒字だからだ。

 ただ、当然他国からのやっかみがあるので、現在日本は大幅に自衛隊の規模を拡大していた。

 ダンジョンでアイテム化した軍艦で海自を大幅に増強し、空中都市フルヤが生産する古代ムー時代の兵器も多数配備している。

 相変わらず野党が、『軍備増強、防衛費の増額に反対! それよりも日本は、困っている世界の国々に手を差し伸べるべきです』などと言っていたが、多くの国民は呆れ顔で彼らを見ていた。

 事実、同じようなことを主張していた野党の都議たちや候補者たちは、都議戦で大半が落選してしまったのだから。


「私たちにはやることが沢山ありますから」


「そうよね、富士の樹海ダンジョン周辺を、上野公園ダンジョン特区よりも発展させないと」


 綾乃とリンダの言うとおりだ。

 俺たちは活動拠点を移した富士の樹海ダンジョンに潜り、動画を撮影。

 飯能総区長は急ぎ、富士の樹海ダンジョン周辺を大規模に開発しなければならない。

 今後東京は没落するだろうが、代わりに東京以外の開発が進むから日本全体には大きな影響もないはず。 

 しかしまぁ、東京が衰退するなんてSFというか、栄枯盛衰だな。 







 

「とにかく、今の東京は悪くない。いや、俺たち冒険者特性を持たない冒険者のパラダイスだ。スライムを真面目に狩っていれば、俺たちは王侯貴族でいられるのだから」


「努力は報われるだな」


「本当、加山都知事様々だぜ」


 今日も上野公園ダンジョンでスライムを狩る仕事が終わり、今日は不届き者もいないので、高価なお店で夕食をとることにする。 

 そんな楽しい生活を維持するため、俺たちは加山都知事を支持し続けるし、彼女に反抗的な一般人は排除しなければならない。

 それこそが、俺たち加山都知事の私兵集団『応援団』の役割なのだから。

 普段はスライムを狩る俺たちも、『報告隊』から不届き者に関する連絡があったら、彼らに罰を下すのが仕事というわけだ。

 

「とはいえ、滅多に実力行使に及ぶことはないけどな。俺たちの説得で改めるか、東京都を出て行ってしまうのだから」


「今日も無事に仕事が終わったし、上野の高級焼き肉店で夕食としゃれ込もうか」


「いいねぇ」


「賛成!」


 ゴーレム、ロボット、AIを使えないので、飲食業界で多くの雇用が発生した。

 デフレが進行しているので給料は安いし、中にはブラック労働も蔓延っているようだが、東京の外のように仕事が減るよりはマシだろう。

 ただ飲食店側もただではコケず、東京都から『人間オンリー』シールなるものを貰って、自分のお店ではロボット、ゴーレム、AIを使っていませんとアピール。

 密かにロボット、ゴーレム、AIを使っているお店は、『報告隊』の密告と、都民たちが利用しないことで次々と潰れていき、東京は人間にとって実にいい場所になった。

 料理の値段は、高レベル冒険者が主な客だった時よりも大分下がり、俺たち稼ぐ冒険者の春といった感じだ。

 

「とはいえ、モンスター焼き肉は種類で大分値段に差が出ているな。強いモンスターやドラゴンの肉は以前の価格のままか。俺たちの収入なら出せなくもないが……」


「東京都外からの輸入品が多いからだろう」


 冒険者特性を持たない冒険者は、低階層のモンスターなんて倒せない。

 だから強いモンスターとドラゴンの素材は、どうしても東京都外からの輸入品になってしまう。

 東京の富が流出するのはよくないんだが、俺たちは頑張ってスライムを倒し、魔石を海外に輸出して貢献しているから大丈夫なはず。

 だから東京の企業や都民たちも頑張って稼ぎ、貿易収支を赤字にしないよう努力してほしいものだ。


「いや待て! ドラゴン肉ステーキが五千円に値下げだってさ」


「安いな」


 店内の張り紙を見ると、ベビードラゴン肉を使ったステーキが大幅に値下げしていた。

 以前は一人前数十万円することも珍しくなかったものだが、今では高レベル冒険者が増えて供給量が増えたため、数万円で食べられるようになったとはいえ安すぎるだろう。


「実は、賞味期限ギリギリなのかも」


「はい。実はそうなんです。このまま腐らせるよりはと……」


 俺たちが安いドラゴンステーキを怪しいと思っていると、馴染みの店主が声をかけてきた。


「賞味期限? アイテムボックス倉庫があるだろうに」


 スキル『アイテムボックス』の機能を利用した倉庫を設置する飲食店は多く、これに入れておけば食べ物は悪くならない。

 加山都知事も、食品ロスに繋がるから普及を推奨していたはずだ。


「アイテムボックス倉庫の使用が、条例で禁止されたんです」


「それは知らなかったな」


 アイテムボックス倉庫は、古谷良二とイワキ工業が製造したものが大半だからだろうか?

 それなら仕方がない。

 食品ロスの削減は、消費者や飲食店が頑張ればいいのだから。


「本当は完全に赤字なんですけど、ただ捨てるよりはマシだと思いまして……。また従業員の給料を下げるしかないかな」


 従業員の給料を下げるのはよくないことだが、今は雇用を確保する方が大切だ。

 それでも、人間の仕事がなくなるよりはマシというもの。

  俺たちも頑張ってお店を利用するから、少しくらい給料が安くても頑張って働いてほしいものだ。

 この楽園となった東京を、二度とイケ好かない古谷良二たちの搾取対象としないため。

 格差を是正するため、加山都知事と俺たちは頑張っているのだから。







『東京都公認冒険者チャンネルでぇーーーす! 今日は上野公園ダンジョンの一階層を探索しまぁーーーす』


「岩合、上野公園ダンジョンの構造が変わったって本当なの?」




 私は都知事室に姿を見せた岩合に、高田が出演する頭の悪そうな動画を見せながらそう尋ねた。

 もし本当にそうなら、新しく構造が変化したダンジョンの攻略を動画撮影を急がせなければ、と思ったからだ。


「はい。推定ですが、二千階層以上になったはずです。古谷良二や上野公園ダンジョン特区の冒険者たちが活発に潜っていたので、ダンジョンが活性化しやすいみたいです」


「だから冒険者特性はなくしてしまったけど、今は冒険者特性がないスライム専門の冒険者たちを取り仕切らせている高田が、こんな動画をあげているのね」


「ただ、東京には冒険者特性を持つ冒険者は少ないです。階層が増えた上野公園ダンジョンの動画は低階層のみとなるでしょう」


 問題はそこで、東京都には高レベル冒険者は一人も存在せず、冒険者特性を持たない冒険者の数が多かった。

 彼らは私の政策を支持しているから大切な票田だけど、問題はどうやって上野公園ダンジョンを三度攻略し、その様子を動画撮影させるか。

 高田は冒険者特性を失ってしまったので無理だけど。


「高レベルの冒険者に任せるしかないわね」


「ただ、彼らは報酬が高いですし、加山都知事のレベリングには応じましたが、長期的に東京都内で活動させるのは難しいです」


「外国人冒険者たちを、特例で活動させればいいじゃない」


「まさか、古谷良二たちが都内を立ち去った直後、上野公園ダンジョンの階層が増えるとは想定外でした。外国人冒険者たちの多くは、古谷良二の動画を見てからダンジョンに潜る人が多いようで、残念ながら動画の情報が無効になってしまった上野公園ダンジョンで活動している外国人冒険者は少ないです。元々冒険者特性がある人でなければ、日本政府は就労ビザと居住許可を出しませんから」


「どうすればいいの?」


「新しい上野公園ダンジョンの動画撮影は、古谷良二に任せるのが一番手っ取り早いのですが、当然ながらこの選択肢はあり得ません」


「当たり前よ! とにかく手を打ちなさい!」


 冒険者特性をなくしてしまった岩合は、独裁者スキルで実質東京を支配する私の公設秘書として毎日忙しく働いていた。

 同じく冒険者特性を奪われた高田も、東京都が結成した冒険者特性を持たない冒険者を纏めるNPOのトップとなり、彼らを指導、動員する仕事をしている。

 動画の撮影も宣伝を兼ねてだ。

 東京は、私のスキルのおかげで田中総理でもそう簡単に手が出せない状況になり、支持率上昇のため、ゴーレム、ロボット、AIの使用を禁止した。

 これは東京都が作った条例なので以前ならほとんど意味がないものとされたが、私がそう命じれば、独裁者スキルのおかげで都民たちの大半はそれを受け入れてくれる。

 ゴーレム、ロボット、AIを使わなければ、会社もお店も役所も人間を大量に使わなければいけない。

 その分失業率が下がるので、私の支持率が上がるという仕組みよ。

 基本的に人間は、働き口がなければ政治家を恨むものだから。

 ただ東京の物価は下がり続けているので、あまり給料がよくない仕事が多いのが珠に瑕ね。

 どうにかして、東京の景気をよくする方法はないかしら。

 




「(俺は東京都公認の冒険者系動画配信者だ。東京都が積極的に広報してくれているから、きっと視聴回数を稼げるぜ)こんにちわ、高田でぇーーーす」


 俺は冒険者特性をなくしてしまったが、スライム専門の冒険者たちかすれば超のつく有名人だ。

 冒険者特性がなくてもダンジョンに潜る人を増やそうとしている東京都と組み、彼らをフォローするNPO団体を立ち上げ、俺は社会的な成功を収めた。

 動画の配信もやっていて、これも東京都が全面的にバックアップしてくれる。

 だから順調に視聴回数を増やしていた。

 加山都知事への献金はあるが、今の実入りなら大した負担でもない。

 それにしても人は、『お上公認』と言われると必ずテレビでも動画でも見るよな。

 だからこそ、加山都知事と組んだ俺は大成功したけだけど。


「今日は上野の名店探索のコーナーです」


 まるでテレビのグルメコーナーだが、飯物は常に一定の需要がある。

 剣剛のB級グルメ店探しの動画は大人気だし、古谷良二とダンジョンの女神たちも、度々食事の動画をあげて視聴回数を増やしていた。

 彼らの動画で紹介されたお店や料理が、翌日以降大盛況になることも珍しくない。

 それだけ古谷良二に影響力がある証拠だけど、加山都知事は気に入らないだろう。

 俺も、あいつは気に入らないがな。


「(東京都は古谷良二を、格差を広げる敵認定しているから、奴のダンジョン探索チャンネルに対抗するため、俺の動画チャンネルが贔屓されているのだが)」


 そう簡単に古谷良二の動画チャンネルを抜けるわけがないが、その目的のため、東京都が俺を全面的にバックアップしてくれるという事実が大切なのだ。


「(俺は表向き、加山都知事の前では、ダンジョン探索チャンネル打倒を口にしていればいい)」


 それを続けていれば、加山都知事は俺をバックアップし続けてくれるのだから。

 たとえ冒険者特性がない俺と岩合でも、加山都知事からしたら大切な駒なのだから。


「高田さん、今日はこのお店にしましょう」


「あれ? ここ、そんなに美味しくないって評判だが」


「このお店のオーナーは東京一番党の幹部なので、是非お願いしますと、加山都知事が」


「わかった」


 剣剛と古谷良二、ダンジョンの女神たちは、自分たちが気に入り、動画の撮影許可が出ないと動画にはしないと聞く。

 ステマばかりやってる俺とは大違いだが、これもお金のためさ。


「(俺は、冒険者特性を失くしてしまった。だからこそ、知名度を上げて金を稼がないと)」


 それに、岩合がどう考えているのか知らないが、いくら加山都知事が冒険者特性を得て、スキルが独裁者でも、こんなわけのわからん状態は決して続かないだろう。

 だからその前に、お金を稼いで逃げ出す準備をしておかないと。


「それになぁ……」


 俺たちが苦労して十万再生を稼いでいる横で、古谷良二たちはすぐに数億再生なんだ。

 俺たちは元々分の悪い争いをしているわけさ。






『富士山というか、山梨に来たらホウトウを食べないとね』


『リョウジ君、ホウトウとウドンはどう違うの?』


『……麺の太さ?』


『ホウトウとウドンの違いは、ほうとうは塩を加えずに練るので、コシが生まれないことと、煮込むとデンプンが溶け出して、汁にトロミが出ることです』


『綾乃、さすが』


『このお店のホウトウは美味しいですね』


『リョウジさん、帰りにお土産を買って帰りましょう』


『『ふじさんプリン』、『世界の富士山』、『富士フォン』、『富士山羊羹』、『フジヤマサイダー』、『フジヤマクッキー』他にも沢山あるわよ。リョウジ、どれにしようか悩むわね』


『全部買って帰ろう。俺が出すし』


『リョウジさん、ありがとうございます』


 東京は大変らしいけど、俺たちは富士の樹海ダンジョンでの活動を終えると、そのまま富士山周辺の観光を楽しんだ。

 そんなデートの様子を動画あげてみたら思った以上に再生数を稼げるので、プロト1がこれからもこの企画を続けてほしいと頼まれたからだ。

 こうして俺とイザベラたちによる、『日本ダンジョン周辺観光』、『世界ダンジョン周辺観光』シリーズが始まり、デートを楽しみつつ、多額のインセンティブ稼ぐことに成功するのであった。


「しかしまぁ、イザベラたちはともかく、俺が地元グルメ楽しんだり、観光する様子で再生数を稼げるんだな」


「社長はレベルアップで魅力の数字が上がってるし、これからの世の中は知名度の高さが社会で成功するコツだって、オラはどこかで聞いたから」


「知名度ねぇ……」


「同じ内容の動画をその辺の人がやっても、再生数は稼げない。社長、これが現実だから。東京都が推してる高田とかいう冒険者の動画、アレだけ梃入れして大赤字だから」


「その赤字って、誰が負担……税金かぁ」


「加山都知事の周辺には、公金チューチューしかいないから」


「プロト1も大概毒舌だよな」


 最近、ますますプロト1はに人間らしくなったような気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る