第169話 独裁者誕生?

「リョウジさん!」


「リョウジ君!」


「良二様!」


「リョウジ!」


「良二!」


「あはははははっ! 少しばかり冒険者として実績をあげたくらいで調子に乗るからこうなるんだ! ざまぁないな!」


「貴様ぁーーー!」


「剣剛、その手を離した方がいいぜ。そうでなくても、常人離れした冒険者は世間から怖がられているんだ。テレビカメラの前で暴力はよくないよなぁ?」


「お前が良二を魔法で殺したことは暴力じゃないのか? それどころか殺人じゃないか!」 


「剣剛、お前はなにか勘違いしていないか? 確かに僕は、古谷良二を疎ましくおもっていたさ。でも、直接手をくだしていない」


「今、魔法を使ったじゃないか!」


「魔法? 僕はそんなもの使ってないけどね。僕はちょっと古谷良二にイタズラをしただけさ。この、姿と気配を完全に消す『深紅のマント』を用いてね。古谷良二が死んだのは、不慮の心臓発作なんじゃないか? 僕が彼を殺す魔法を使った証拠はあるのかな?」


「それは……」



 高田のガキが。

 少しばかり調子に乗って剣剛から疑われているけど、岩合の話によると、『レベル5即死』は魔法だけど魔力をほとんど使わないから、鷹司の小娘でも察知できなかったようね。

 さすがは、『真実の魔眼』を持つ岩合といったところかしら。

 ちょうど運良く『レベル5即死』が通用するレベルだった古谷良二は、私の命を受けてパーティー会場の外に潜んでいた高田によって殺された。


「救急車だ!」


「医者を呼べ!」


 古谷良二の功績を利用していた田中総理と飯能総区長が、倒れ伏し血の気のない彼を見て慌てふためいているけど、無事に死んでくれた。

 彼さえいなくなれば、懇意にしていマスコミとネガティブキャンペーン張れば、田中政権はすぐに支持率を落とすはず。

 そうなったら、この私の出番よ。

 私が初の女性総理大臣になって、歴史に名を残すのだから。


「(それにしても、『レベル5即死』なんて反則な魔法があるなんて……)」


 おかげで助かったわ。

 もし高田がこのあと殺人罪で捕まったら、弁護士の世話くらいはしてあげようかと思ったけど、彼の『レベル5即死』は、古谷良二にくっついている剣剛やダンジョンの女神たちにも察知できなかったのね。

 つまり、高田はこれからも私の手駒にできる。

 これから総理大臣となって日本を支配する際、冒険者を管理するのに使えるわ。

 私に逆らったら、高田に殺させればいいのだから。


「(これから、私の時代が始まるのよ!)」


 憲政史上初の女性総理大臣となるべき、優秀な私をこれまで妨害してきた古谷良二は死んだ。

 これまですべて間違っていたけど、これから正しい時代が時を刻む。

 私がこれから、正しく日本を導いていくのよ。


「……残念ですが、すでに亡くなられています」


「リョウジさん!」


「けけけっ、それは御愁傷様ですなぁ。古谷良二がいなくなって体が寂しいだろう? これからは、古谷良二の代わりに世界一の冒険者になった僕が可愛がってやるぜ」


「……誰があなたなんかと!」


「君、ゲスなんてもんじゃないね!」


「……あなたのそのレベルは!」


「尋常じゃないレベル……そうか! リョウジを殺したから!」


 鷹司の小娘と、ブルーストーン大統領の孫娘がスカウターで高田のレベルを見て感づいたみたいだけど、残念ながら高田が古谷良二を殺した罪で捕まることはないわ。

 今の警察と司法では、高田を逮捕できない。

 疑わしきは罰せず。

 高田が攻撃魔法でも放っていたら話は別だったけど、『レベル5即死』には優れた魔法使いである鷹司の小娘も気がつかなかった。

 高田が古谷良二を殺したことで大幅にレベルアップしたことも、殺人の決定的な証拠にならない。

 なぜなら、高田がダンジョンでレベルを上げたと言い張ればそれまでだから。


「(もし高田に嫌疑が及んでも、私が弁護団を用意して無罪にするもの)」


 いわゆる人権派の弁護団たちを集めれば、高田を殺人で有罪にするのは不可能よ。

 懇意のマスコミを利用して国家権力による不当逮捕だと訴えれば、私の支持者たちは必ず賛同してくれる。


「(本当、いい気味だったわ)」


 さて、これから忙しくなるわよ。

 田中総理を攻撃して、支持率を落とさないといけないから。

 それと、私が国政に戻る準備もしないと。

 総理大臣になるべく、国会議員に戻らないといけないから。


「岩合、戻るわよ」


「わかりました」


 このまま泣き叫ぶ小娘たちを見ているのも一興だけど、選ばれた存在である私は忙しいの。

 それにしても、高田は小娘たちに興味があったのね。

 これからも私に協力してくれるのなら、高田の玩具として与えるのもいいかもね。

 同じ女性をって?

 私はマスコミの前以外ではフェミニストではないし、みんな知ってるでしょう?

 女のライバルは女なのよ。

 私よりも若くて美しい女たちが輝いてしたら、私が霞むじゃない。

 叩き落として汚して、私が世界で一番輝いていないといけないの。


「(とはいえ、私も年を取ったわ。総理大臣になったら、若返りできる魔法薬でも探させようかしら?)」


 これから世界に羽ばたく私は、若く、美しくないといけないもの。

 若返えることができる魔法薬を、岩合と高田に探させましょう。

 これにより、私は若く美しいままで日本を長期間支配できるわ。


「(加山都知事、例の樹木伐採の件ですが……)」


「(はあ? 中止になんてできないわよ! 樹齢が長い木がなんなのよ? 木なんてまた植えればいいだけなのに、これだから愚民たちは……)」


 そんな雑事は、岩合に任せるに限るわ。

 私は急ぎ、総理大臣になる布石を……。


「随分と面白い魔法を使うんだな、高田だっけか?」


「リョウジさん!」


「リョウジ君!」


「良二様!」


「リョウジ!」


「良二、お前生きていたのか!」


「なっ!」


「(岩合! これはどういうことなのよ?)」


「(……わかりません……)」


 私は咄嗟に、どういうことなのか岩合に問い詰めた。

 いくら古谷良二が高レベルでも、必ず殺せる魔法なんじゃないの?

 それなのに、死んでたはずの古谷良二が起き上がったなんておかしいじゃない!


「(岩合、なんとかしなさい!)」


「……」


 駄目ね。

 岩合はあまりに想定外の出来事が起こったようで呆然としたまま。

 古谷良二を殺せたと思っていた高田も、驚きのあまり目を丸くさせながら、甦った古谷良二をただ見つめるだけだったのだから。


「(まさか、死んだ人間が復活するなんて!)」


 古谷良二はいくつ隠し球を持っているのよ!

 それでも、今の古谷良二なら『レベル5即死』が通じるはず。

 高田は一秒でも早く、もう一度『レベル5即死』を使って古谷良二を殺しなさいよ!


「(本当に使えない冒険者ね!)」


 それでも私の願いが通じたのか。

 高田が古谷良二に向き合い、再び魔法を使おうと……無詠唱だからわからないけど。


「ふんっ! 今度こそ死ね!(運よく『レベル5即死』から一旦逃れたとて! 古谷良二のレベルは5で割れる状態だ。もう一度……レベ……レ……あれ? 僕の『レベル5即死』は無詠唱なのに……)」


「お前の特殊な魔法は、『静寂』、『サイレント』が通じない無詠唱で使えるのにおかしいな? って思ってるか?」


「……」


 古谷良二、もう高田のスキルを見抜いたっての?

 高田、こんな危ない男は早く殺してしまいなさい!


****


「『静寂』と『サイレント』を極めると、魔法やスキルを完全に封じることができるのさ。たとえ無詠唱でもな」


「なぜだ? なぜ生きている?」


「俺が甦った件か? いまだ、ダンジョンから死人を甦らせる魔法なりアイテムは見つかっていないと?」


「そうだ! おかしいじゃないか!」


「ほう、お前は魔法で俺の抹殺を謀った事実を認めるんだな」


「しまった!」


 高田という男は、かなり軽薄というか、脇が甘いな。

 俺を殺すのに失敗したくらいで動揺し、俺を魔法で殺そうとしたことを認めてしまうのだから。


「(それにしても……レベル195364か……)」


 俺を一度殺したからだろう。

 凄まじいレベルアップのおかげで、一時この世界のナンバー2冒険者になったが、こんな男を野放しにはできない。


「(自分が気に入らない冒険者を殺そうとする男だからな。覚悟するんだな)」


 俺も無詠唱で、まずは高田の体を完全に『ホールド』した。

 いくら大幅にレベルが上がったとて、奴のレベルは俺の三分の二にも届かない。

 先手を打って、その身を拘束するくらい簡単なことだ。

 そして、普段は使わない『レベルドレイン』を用いる。

 すると、高田のレベルはどんどん俺に吸い上げられていった。

 だが、高田はその場に立ち尽くしたまま動けず、俺も彼と少し距離を置いて対峙しているのみ。

 第三者からはお互い、なにもしていないように見えるはずだ。

 高田は急激にレベルを吸い取られてしまい、叫びたいだろうが、『ホールド』のせいでなにもできなかった。

 そしてついに、高田のレベルが1になってしまう。

 こうなってしまえば、あとは奴の最初のスキル、とっぴょう師を奪い取るだけ。

なお、奴の経験値をすべて吸い上げた俺は、レベル502356まで上がった。


「(こいつには、死ぬ以上の苦痛だろうな)」


 俺はなるべく人を殺したくないので、高田の冒険者特性を奪って普通の人間に戻してしまった。

 その方がかえって、高田には大きな罰になるだろうからだ。

 それにしても奴が高レベルになるまでに、いったい何人の冒険者をこの魔法で殺してきたんだ?

 俺が高田の冒険者特性を奪い取ったことで、奴が俺を殺した魔法の正体がわかった。


「(『レベル5即死』か。これまた厄介な……)」


 これ以上の初見殺しは存在しないだろう。

 なにしろ、一度は俺を殺すことに成功しているのだから。


「(この魔法は封印だな)」


 続けて俺は、この騒ぎを遠くから見ている加山都知事の隣にいる岩合にも『ロック』をかけた。

 岩合のレベルは大したことないので、簡単にレベルと『真実の魔眼』を奪い取ることに成功する。


「ぷはっ! 古谷良二ぃーーー!」


「貴様ぁーーー! 私の『真実の魔眼』をよくもぉーーー!」


 『ホールド』が解けると、冒険者特性を奪われた高田と、普段は冷静そのものの岩合までもが俺に食ってかかる。

 冒険者特性を奪われたので冷静ではいられなきのだろうが、先にお前らが俺を殺そうとするからだ。


「(お前たちは俺に好き勝手できて、俺がお前らに手を出せないなんてルールはない! 報いを受けるんだな)突然死なんなんです? あなたたちは。加山都知事の関係者って、こんな人ばかりなんですか?」


「っ! 君たち、いい加減にしたまえ! 警備員!」


 死んだはずの俺が甦って驚きのあまり硬直していた田中総理だったが、俺がやったことに概ね気がついたようで、冒険者特性を奪われて俺に食ってかかってきた二人の排除を警備員に命じた。


「離せ!」


「そいつは、私の冒険者特性を奪ったんだ!」


「そんな便利な魔法やスキルはありませんよ」


 実はあるけど、今のところ唯一使える俺が隠せば誰もわからない。

 そもそも今の日本の警察が、冒険者特性やレベルを奪った者を罰することなんてできなかった。

 立証が非常に困難だからだ。

 高田もこれまで、警察が介入してこないのをいいことに、多数の冒険者をダンジョンで殺してきたんだ。

 その報いを受けるがいいさ。

 同時に、それを『真実の魔眼』で知っていた岩合も冒険者特性を失ってしまった。

 もう、俺が他の冒険者の冒険者特性を奪える事実を証明する手はない。


「彼は加山都知事のお付きの方々ですか? 政府主催のパーティーの会場入口で、ジョークグッズで俺を脅すから、情けないことに気絶してしまったじゃないですか。目を覚ませば、今度は自分の冒険者特性が奪われたと大騒ぎ。こんな人たちが秘書で大丈夫なんですか?」


 俺が、形勢逆転されて渋い表情を浮かべる加山都知事を挑発すると、彼女の表情はさらに渋くなった。


「(権力に溺れた老婆は醜いねぇ)」


「(イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ、剛。心配かけたな)」


「(俺に謝る必要はないけど、イザベラたちは心配したんだから、このあとちゃんとフォローしろよ)」


「(それは勿論)」


 ここで自分たちが涙を流して俺に抱きつくと、今、俺が加山都知事一派に食らわせたカウンターの効果が薄れることに感づいたイザベラたちは、極力冷静さを保っていた。


「(さすがだ)」


 高田が幼稚にも、魔法道具のマントで俺を脅かしたせいで気絶してしまい、目を覚ましたら、今度は冒険者特性を奪われたと大騒ぎ。

 表向きはそういうことにしたせいで、パーティーに参加していた人たちは、加山都知事への評価をさらに落とした。

 それにしても、すぐ俺の報復手段に気がつき、それに合わせて動いてくれるイザベラたちと接していると、他の女性には興味なくなるよなぁ。


「(今夜は心配かけた分、しっかりとフォローするよ)」


「(そうしとけって)」


 しかし剛よ。

 お前は見た目とは違って、本当に女性へのフォローが完璧だよな。

 だから幼馴染みと婚約するなんて、リア充振りを発揮できるんだろうけど。






「『リレイズ』ですか?」


「そういう魔法ってゲームだとあるけど、ダンジョンで魔法の書物やスクロールって出たことあるっけ?」


「かなり魔法を極めたはずの私でも使えません」


「リョウジはそれを事前にかけているから、死んでも蘇ったのね」



 翌日。

 俺は、どうして一回死んだのに甦ったのか。

 昨晩心配かけたのでそのお返しをした結果、お肌かツヤツヤなイザベラたちに説明をした。

 向こうの世界でも、死んだ人間を甦らせることができるアイテムはとてつもなく貴重だった。

 ようやく手に入れても、死んですぐに使わないと効果がなかったり、半々の確率でしか甦らなかったりと。

 そのアイテムによって効果に大きな差があるし、なかなか手に入らない。

 では魔法はというと、某有名RPGの蘇生魔法である○オリクや、○イズみたいなものは存在しなかった。

 俺が唯一覚えられたのは、事前にかけておくと、死んでも一回甦ることができる、『リレイズ』のみであった。


「へえ、便利な魔法なんだね」


「それがそうでもない」


 俺は、ホンファに断言する。


「生き返れるのに?」


「この魔法、効果は半日しかないから、一日二回かけるのを忘れないようにしないと駄目だし、たとえ甦っても無駄になってしまうパターンが多いんだよ」


 俺はさらに説明を続ける。


「たとえば、とても強いモンスターに殺されてから、上手くリレイズで甦ったとする。次こそは上手くその場にから逃げ出せないと……」


 一度死を回避できたとしても、危機的な状況に変わりはない。

 自分を殺した状況なりモンスターから逃げ出せる算段がなければ、ただ二度殺されて終わりという結果になってしまうからだ。


「そうか。一度甦ったことろで、なんら危機状況に変化はないんだね。甦ってすぐ、なにかしらの手を打たないと、また死んじゃう可能性が高いんだ」


「殺されたってことは、殺した相手は自分よりも強いんだから」


「リョウジ君は、よく生き残れたね」


「それは、高田が俺よりも強いわけではなく、『レベル5即死』という、初見殺しの魔法を使う男だったからだ」


 それがわかっていれば、高田が俺を殺して大幅にレベルアップしたとしても、まだ俺の方が強いから先手を打てる。

 甦った直後には、高田の特殊な魔法の正体は判明しなかったが、もう一度食らわないよう、極めた『サイレント』でそれを封じることができたというわけだ。


「『レベル5即死』。レベルが5割りきれる人を確実に殺せるなんて、恐ろしいスキルです。それと、高田という人は……」


 綾乃の想像どおりだ。

 あいつは、経験値が美味しい冒険者を殺すことで一流の仲間入りをした。

 同業者殺しのとんでもない悪党だったというわけだ。


「リョウジは、タカダを殺さなかったのね。どうして?」


 リンダは、俺が高田を殺さなかったことが不思議で堪らないのか。


「あいつの悪行が、今世間に漏れると色々と面倒なことになるからさ」


 高田は5で割れるレベルの冒険者を探すべく、世界中のダンジョンを回っていた。

 彼の『レベル5即死』の犠牲者の数は相当な数になるはずだが、正確な人数を調べるのは難しいだろう。

 高田は罰せられるべきというのは当たり前の考えなんだが、残念ながら証拠がない。

 高田が何人の冒険者を殺したのか。

 逮捕して取調べをしたところで正直に話してくれる保証もなく、他の理由で死んだ冒険者とも区別しにくい。

 そんな状態で『レベル5即死』のことが世間に漏れると、日本の冒険者たちが世界中から袋叩きにされる可能性があった。


「理由は理解できましたが、どうして良二様は高田を殺さなかったのですか? 人を殺すことはよくないですが、今回のケースでは仕方がないのでは?」


「それは俺の性格が悪いからだ。すべての経験値と冒険者特性を奪われて普通の人になってしまった高田の地獄は、実はこれから始まるのだから」


「確かに、今の高田は死んだ方がマシな状況でしょうね……」


 冒険者特性とこれまで他の冒険者を殺して獲得した経験値をすべて俺に奪われてしまったのだから。

 これまで高レベル冒険者として加山都知事に囲われていたわけだが、冒険者特性がなくなれば簡単に捨てられてしまうだろう。


「岩合もですか?」


「あいつも危険だからね」


 彼は俺に対し異常なまでの敵意をもっているらしく、だから『真実の魔眼』で俺を殺せるスキルを持っていた高田を見つけてきた。

 だからそのまま、『真実の魔眼』を持たせておくことは危険だと思ったのだ。


「岩合が『真実の魔眼』を持ち続けている限り、今後も執拗に俺を狙ってくるはず。だからこれも、経験値と共に奪わせてもらった」


 冒険者特性を奪われた高田と岩合は不幸だが、俺を殺そうとするからだ。

 俺は無抵抗主義者ではないので、仕返しするに決まってる。

 間違いなく加山のババアの差し金だろうから、あいつの切り札を破り捨てる効果もあった。

 これでまた、加山のババアに従っていた冒険者が死んだ。

 今回は物理的には死んでいないが、冒険者特性を失くしてしまったので、今後の人生の困難さを考えると、死んだようなものだろう。

 彼らの末路が知られるようになれば、今後、加山都知事と組もうと考えると冒険者はかなり減るはず。


「これでカヤマが諦めてくれればいいけど……」


「どうかな?」


 そんな諦めのいい人とは思えないけど……。


「しかしまぁ、これから加山都知事はどうするのかね?」


「レームダック状態じゃないかしら?」


 リンダの推測だと、加山都知事を辞めさせたり、俺に対する殺人未遂で逮捕することはできないそうだ。

 俺は『リレイズ』のおかげで甦りって傷一つないし、即死魔法による傷害罪や殺人未遂の立件は難しいからだ。

 逆に言えば、俺が岩合と高田のレベルと冒険者特性を奪い取った件も立件できないとも言えたけど。


「あのおばさんが、自ら潔く辞めるなんてあり得ないから、次の選挙まで空気にはるでしょうね」


 加山都知事と田中総理、飯能総区長、俺たちとの対立は決定的となった。

 与党が議席の過半を占めている都議会は、加山都知事の言うことを聞かなくなるだろうから、彼女はなにもできないまま支持率を落としていく。

 そして次の選挙で負けて、政界引退だろう。


「もうなにもして来ないはずですわ」


「岩合は秘書としての能力もあるから、このまま加山都知事の公設秘書を続けるとして、高田なんて冒険者じゃなければ、思慮の足りない兄ちゃんでしかないからな」


「さすがにもう、加山都知事に手を貸す冒険者はいないんじゃないかな?  ったく、リョイジ君を殺そうとするなんて最悪だね!」


「本当です。できれば私が自ら処罰したいくらいです」


「アヤノの魔法だと騒ぎが大きくなっちゃうからダメよ。今頃、カヤマとイワゴウとタカダは泣いているのかしら?」


「泣きたい気分ではあるだろうけど」


 その後、俺たちは予定を変更して、上野ダンジョン周辺で久々にデートを楽しんだ。

 俺たちを探る岩合がいなくなったおかげで、元の生活を取り戻せて本当によかった。







「……岩合、これを食べればいいのね?」


「ええ、効果は半々。まだ『真実の魔眼』を持っていた頃に手に入れ、『鑑定』を持つ冒険者に効果を調べてもらったアイテム『ジョブの実』です。ですが……」


「ですがなに?」


「ジョブの実とは本来、冒険者特性を持つ冒険者が使うことで、新しいスキルなりジョブが半々の確率で発生するアイテムです。実は冒険者特性を持たない人が使うと、やはり半々の確率で冒険者特性を会得することができますが、半分の確率で死んでしまうという危険なアイテムでもあります」


「使うに決まっているでしょう!」


 ここまでコケにされて、このまま大人しく引っ込んでいられないわ!

 私は必ず、日本初の女性総理大臣になるのだから。


「それにしても、岩合はよく残ったわね」


 古谷良二に冒険者特性を奪われてしまった高田は、呆然としながら自宅に引き篭もっているというのに。

 元高レベル冒険者だからお金は持っているけど、やはり冒険者でなくなったことはショックだったみたいね。

 そんな高田に比べると、岩合はそこまでショックじゃないみたい。


「これで高田みたいに逃げたら、惨めじゃないですか。私はバカな高田と違って、冒険者でなくても生活できますから」


「あなたは優秀で、東京都知事の秘書が務まるくらいだものね。ならば私も、最後の賭けに出てもいいはずよ」


 女は度胸。

 私は岩合が用意した、ジョブの実を頬張った。

 一個五十億円くらいするそうだけど、そのくらい私が総理大臣になればすぐに取り戻せるわ。


「あら、美味しいじゃない」


 冒険者特性を持たない人間が食べると半分の確率で死ぬって聞いたから、もっと不味いものだとばかり思っていたわ。

 そして私の手の平が輝く、それが晴れると、そこにはレベル1『独裁者』と記されていた。


「独裁者? かなりのレアジョブですよ」


「まずはこれを使って、東京都を完全に掌握するわよ」


 東京都を完全に支配できるようになれば、東京都知事を傀儡に任せ、私は東京都の選挙区から国会議員に簡単に戻れるはず。

 

「確実性を持たせるため、私のレベルを上げないとね。岩合、レベリングをしてくれる冒険者を集めなさい」


「畏まりました」


 私も冒険者になれたから、この力を利用してまずは東京を完全に支配してやるわ。

 田中総理や飯能総区長は失業率の改善に失敗しているから、すぐに全東京都民が私を希望の星だと思うようになるはず。

 東京都知事としての仕事は岩合に任せて、まずはレベルを上げるわよ!

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