第163話 飲食店の経営は難しいと聞く
「バーとカフェの経営はやめといた方がいいです! 一年で八割は潰れます!「
「……動画でコンサルタントの人が言ったとおりだったな……」
脱サラして、自分のカフェをやりたい。
その夢を叶えたまではよかったが、店は閑古鳥が鳴いている。
オープン前に思い付く限りの準備しておいたのに、混雑していたのはオープン直後だけだった。
徐々にお客さんが減っていき、資金繰りが悪くなって従業員をクビにするしかなかった。
借金が嵩むなか、毎日空席ばかりの店内を見てため息をつく日々。
色々と新しいメニューを開発してみるもお客さんは増えず、もうそろそろ限界だなと思い始めていた。
自分以外人がいない店内で動画を見てみると、飲食店のコンサルティングをしている人が、カフェとバーの経営は難しいから悪いことは言わないからやめとけ、と動画で力説していた。
「そんなこと、わかってたさ」
それでも私はカフェをやりたかった。
自分なら大丈夫だと思って、カフェをやり始めたのだから。
「でも、もう限界だな」
さすがにこれ以上の借金は難しいだろう。
この店を閉じて、自己破産するしかない。
死にはしないが、これからどうやって生きていけばいいのか。
会社に残っていれば……いや、私が辞めた直後からリストラが始まったという噂だから、残っていてもクビにされていたのかもしれない。
「あと何日続けるか……」
「お久しぶりです。叔父さん」
「なんだ。雄一か……」
「なんだはないでしょう。一応客だよ、俺は。アイスコーヒーください」
今日始めての注文であったが、せめてアイスコーヒーだけでなく、食事も注文してほしいところだ。
「叔父さん、このお店は大丈夫なの?」
「駄目に決まってる。もう万策尽きたよ」
「カフェは難しいからなぁ」
「動画でも、当たり前のように言われていることだからなぁ。で、雄一はなんの用事なんだ?」
「ああ、そうだった。実は俺、古谷企画の子会社で仕事をしていてさぁ。必ず飲食店の経営を成功させるコンサルタント業務ってのをやっているんだ」
「必ず飲食店の経営を成功させるコンサルタント業務とは大きく出たな。しかしお前、えらくいいところに転職したんだな。羨ましい限りだ」
俺は、明日にも潰れるカフェのオーナーだというのに。
「古谷企画は正社員を採用しないから、正確には古谷企画の子会社から仕事を請け負う個人事業主だけどね」
「儲かるのか?」
「かなり。大変ではあるけど、長時間労働じゃないし、普通に休めるからね」
「それはいいな」
我が甥は、転職に成功できたのか。
羨ましい限りだ。
「で、叔父さんの客がいないこのカフェだけど、立て直しのご用命を承っております。親戚価格で安くやりまっせ!」
「悪いが、もはやそんな余裕すらなくてな。もう自己破産するしかないのさ」
今から立て直そうにも、コンサルタントに支払うお金すらないのが現状なのだから。
「代金は成功した時払いでいいからさ。やるだけやってから諦めようよ」
「……雄一……」
こいつ、たまたま訪ねて来たように見せかけて、本当は私のお店の状況を知って助けに来てくれたのか……。
「本当に金がないんだ。お前に迷惑はかけられん」
「大丈夫、俺は稼いでいるから、儲けてから支払ってくれればいいし、必ずこのカフェの立て直しには成功するさ」
「すまないな」
「気にするなって。このお店だけど、古谷企画、イワキ工業が手掛ける予定の個人飲食店のリニューアル事業のサンプルにするから、実はほとんどお金がかからないようになってるから」
「そうなのか……」
「その代わり、俺に全面的に任せる。これが条件だよ」
「このままなら、あと一ヵ月も保たずに潰れるところだったんだ。雄一に任せるさ」
「ありがとう。必ずこのお店を黒字にするよ」
そんなやり取りののち、私は自分が経営するカフェの立て直しを、甥の雄一に任せることにした。
しかし、あの雄一が一端の口を利くようになるなんて、私も年を取ったものだ。
「それで、どうやってお店を立て直すんだ?」
「正直なところ、これからの個人飲食店はかなり厳しいと思う。薄利多売でゴーレムを使う大手か、少々高いけど店主の顔が売りの個人店。このどちらかばかりになる。中途半端なところは、かなりの割合で潰れるだろうね」
世間では、人間の店員はいないけど、安値でなんでも食べられて、子供は無料の無人食堂が大人気だ。
確か、古谷企画とイワキ工業がフランチャイズでやっているって聞いたような……。
「正直なところ、このカフェは叔父さんの顔が売りになるとは思えないし、叔父さんは大資本家でもないから、多店舗展開なんて無理だ。さらにここは郊外で、繁華街ほどの客数は見込めない」
「ここは、家賃が安かったからなぁ……」
「だから、叔父さんのカフェが生き残る方法は、極限までコストを削って利益を残すやり方だね」
「そんなことが可能なのか?」
コストの削減は極限までやっていて、だから従業員のクビを切る羽目になっていまったのだから。
「俺に任せてよ。三日ほど臨時休業してリニューアルオープンの準備だね」
私は雄一の言うとおり、すぐにお店を閉めてリニューアルオープンに向けた改修工事を始めることにした。
駄目元とはいえ、このカフェを立て直せればいいけど。
「……外見はなにも変わってないような……」
「ところがどっこい。色々と変わってるんだよね」
カフェを閉めると、すぐに十数体のゴーレムたちを率いた工事業者が店内に入った。
確か彼らは、イワキ工業が持つ建設会社だったはず。
人手不足が続く建設業界だが、ゴーレムのおかげでそれも緩和しつつあり、工事期間の短縮や建設コストの削減も進んでいた。
現在は超のつく円高だから、輸入品の建設資材の値段も下がっているからなぁ。
為替相場なんて相対的なものだから、本当に安くなったのかは不明だけど。
「店内に入ってみればわかるよ」
雄一と一緒に店内に入ると、内部には広大な空間が広がっていた。
私が借りた店舗は、もっとこじんまりとしていたはずで……。
「内部を広大な別空間に繋げているんだよ。ダンジョン由来の技術で、安全性が認めれて冒険者特区以外でも普及しつつあるね。狭い場所でも有効活用できるし、家賃の節約になるから」
それはそうだ。
本来の広さの数十倍~数百倍の広さを同じ家賃で有効活用できるのだから。
「子供食堂のフランチャイズを入れて、他にカフェメニューをやってもいいし、バーをやってもいい。従業員はゴーレムだけで事足りるから、きっと黒字化できるよ」
「すまないなぁ、雄一」
あの小さかった雄一が、古谷良二やイワキ工業と仕事をしているなんて、出世したものだ。
改修、改装作業は約束どおり三日間で終わり、私のカフェは無事リニューアルオープンを迎えた。
たちまち私のお店は満席となり……なんて上手くはいかない。
むしろお店が広くなった分、以前と混み具合は変っていないかも。
無料だから、子供の数は確実に増えた。
その分の赤字が心配だったけど……。
「ちゃんと黒字が出てる……」
「店舗が広がっても維持コストが圧倒的に下がったし、客数は増えているからね。子供は無料だけど、ここは郊外だから家族が一緒に来て売り上げを立ててくれるから。食材のロスもほぼゼロになったでしょう?」
「それも大きいよなぁ……」
無人食堂の多彩なメニューは、厨房に設置した魔導倉庫から取り出すだけでよかった。
この中に入っている様々な料理は、ゴーレムが多数働くセントラルキッチンで作られており、全国の無人食堂に設置された魔導倉庫に繋がっているそうだ。
さらに魔導倉庫に入れた時点で時間が止まるから、取り出さなければ腐らないどころか、いつでも出来立ての味を楽しめる。
事前に作り置きが可能なので、調理担当者の労働管理が楽で……ゴーレムが作ってるけど……無人食堂や、ゴーレムを使い始めた大手飲食チェーン店が幅を利かせるようになっても潰れなかった飲食店の中には、この魔導倉庫を導入するところが増えた。
事前に料理の作り溜めができるから労働時間が減り、食材のロスも減るからだ。
このところ話題になっていたフードロス対策にも効果的で、食料の廃棄率の減少に貢献していると聞く。
「無人食堂のフランチャイズで黒字化して、叔父さんはカフェをやれば問題なしさ」
雄一のおかげでお店を潰さないで済んだし、この余裕を生かして、もっとちゃんとカフェの経営を考える時間もできた。
「無人食堂やゴーレムを使った飲食店がここまで普及してしまうと、人間がやる飲食店は個性を全面に押し出さないと駄目だろうな。価格を安くしても、無人食堂には勝てない。むしろ値段は高くても、このお店に行きたい、とお客さんに思わせるようにしないと。ようし、一からカフェのメニューを考え直すぞ」
「それがいいと思うよ」
無人食堂のおかげで経営が安定した私は、カフェメニューのリニューアルに集中するようになった。
成功するかはわからない。
だが、私はカフェを経営したかったんだ。
無人食堂のフランチャイズで経営は安定しているのだから、挑戦しない手はない。
そして、それから半年ほど経った……。
『この無人食堂を併設しているカフェで、イザベラとお茶しようと思います』
『このカフェは、水出しコーヒーと焼き菓子が評判だそうです。楽しみですわ』
毎日ダンジョン関連の動画ばかり撮影していると疲れるので、今日はイザベラ
と、郊外にあるカフェでお茶をすることにした。
イザベラだけなのは、みんな一緒もいいけど、たまには二人きりでデートしたいと、女性陣からリクエストが出たからだ。
コラボという体で、話題のカフェでデートする。
俺たちも動画配信者らしくなったものだ。
俺たちがデートする動画がお金になるというのも、不思議なものだとつくづく感じる。
こういうのを富の独占だって騒ぐ人たちもいるけど、俺には解決手段がわからない。
このまま、突っ走るしかないのが現状だ。
そんなわけで俺とイザベラは、カフェで動画を撮影しながらティータイムを楽しんでいた。
「イザベラは紅茶じゃないんだ」
「普段は紅茶ですけど、このカフェの売りは水出しコーヒーですから。このクッキー、美味しいですね」
「本当だ。サクサクで美味しい」
カフェで、二人だけの時間を過ごす。
『変装』のおかげで他の客たちには別人に見えているから、声をかけられる心配もないし、撮影の件も事前に店主に許可は取っている。
無人食堂のおかげでカフェが潰れなかったことをえらく感謝されたが、そういえばプロト1が、無人食堂のフランチャイズ店舗と、本当に自分がやりたい店舗の併設で黒字化するケースが多いって言ってたな。
だからこそ、無人食堂のフランチャイズは条件が厳しかったし、近接店舗を複数出してドミナント戦略を行い、フランチャイズオーナーを地獄に追いやることもしていなかった。
おかげで100パーセント潰れないフランチャイズとして有名になりつつあるが、真実はプロト1が出店希望地でお店を出してコスト的に見合うのか、AIも駆使して調査し、駄目なら断っているだけなんだけど。
もはや飲食店の出店すらAIと人工人格任せで、経営者はただ許可をだすだけという。
商売は七割立地で決まる、というのが正しい証拠であった。
「まあ、スコーンもあるのですね。これも注文してお土産として持ち帰りましょう」
「ホンファたちへのお土産か」
ただ水出しコーヒーと焼き菓子を楽しんだだけの動画だったが驚異的なPVを稼ぐことに成功し、その後も古谷良二お勧めの飲食店シリーズとして続き、俺の動画で紹介された飲食店は海外からも客がやってくるようになり、このカファは大繁盛店になったのであった。
「叔母さん、頼むよ」
「この私に任せなさい」
「レストランを始めたんだけど、客入りがイマイチでさぁ。ここで古谷良二に紹介されたらイケると思うんだよね。この前の動画見た? 彼が紹介するお店って、みんな繁盛するからさぁ」
「例のカフェね。相当な人気店になったらしいわね」
「外国人観光客の来店も多いって聞くからさ。伯母さん、頼むよ。これからも票を入れ続けるからさぁ」
政治家なんてやってると、無茶な陳情なんてよくある話。
今日、都知事室までやって来て私に陳情しているのは私の甥だった。
姉の子だけど、これまでなにをやらせて失敗ばかりで、その都度借金を姐夫婦が精算するというのを繰り返していた。
今回も、儲かると踏んでレストランの経営を始めたけど、フランチャイズ含む無人食堂の全国展開、大手飲食チェーン店の無人店舗化、優れた個人の店舗だけが生き残る時代になってしまった。
残念ながら、私の甥では単独で飲食店を繁盛させることはできないでしょうね。
このまま見捨てるのも手だけど、彼は都内在住で、選挙の時は姉夫婦と共に票を取りまとめてくれるから無視はできない。
なんとかして、甥のお店を繁盛させないと。
「(とはいえ、手がないわけではないわ)」
こんな時代だからこそ、飲食店は知名度が重要よ。
実際、古谷企画とイワキ工業が手掛ける無人食堂や、飲食店へのゴーレムレンタル、魔導倉庫による食品ロスの削減は、古谷良二の動画による宣伝で大成功を収めていた。
SDGsとも相性がいいから当然ね。
無人食堂の廃棄率の低さは驚異的で、そのことでも無人食堂や魔導倉庫を導入した飲食店は世間で評価されていた。
もっとも廃棄される食料が減るということは、逆に言えば売れる食料の量が減ってしまうわけで、生産者の中には古谷良二とイワキ工業を憎んでいる人もいる。
世の中、正論だけではやっていけない証拠よ。
「叔母さんなら、古谷良二にうちのレストランの宣伝をさせることも可能だよね?」
「そのくらい簡単よ」
「よかったぁ」
「……」
隣にいる陣内の目がパっと大きく開いたけど、仕方がないじゃない。
確かに甥には経営者の才能もないしバカだけど、その両親である伯父と伯母も合わせて、私の選挙を応援してくれる有力者なんだから。
「じゃあ、お願いね。伯母さん」
古谷良二に動画で宣伝してもらって、海外からのお客さんも多数詰めかけるようになる。
そんな夢を抱きながらウキウキな表情で都知事室を出ていく甥だけど、さてどうしたものかしら?
「都知事が古谷良二に頼んでも、彼が首を縦に振ると思いませんけど……」
「そこなのよね」
そもそも、古谷良二が甥のレストランに来店するわけがない。
私が頼んでも無駄でしょうね。
甥のレストランには私もオープン時に招待されたけど、特に料理が美味しかったわけでもなく、無人食堂のフランチャイズや魔導倉庫の導入も断られたと聞いた。
古谷良二とイワキ工業の潰れないフランチャイズに断られたってことは、甥のレストランは勝算のないという判断なのでしょう。
「どうするんですか?」
「こうなったら、他の有名動画配信者たちに宣伝させればいいのよ。企業案件ってやつね」
「ですが、古谷良二ではありませんよ」
「ようは、甥のレストランにお客さんが入ればいいのよ」
結果さえよければ、甥もそこに突っ込まないでしょう。
「しかしながら、有名な動画配信者に企業案件を出すとお金がかかりますけど……」
「陣内、都の補助金から出せそうなものを調べておいてちょうだい。若者のスタートアップに関する補助金とか。そんな系統のやつ」
このところ、ゴーレム、ロボット、AIの普及で失業率が上昇傾向にあるから、起業に関する補助金が増えていた。
就職先がないのなら自分で起業すればいいじゃないってことだけど、元々起業というのは成功率が低いから、これを利用して美味しい思いだけしている者も多い。
甥は私の選挙応援をしているから、このくらいは問題ないわよね。
だって私は、将来総理大臣になるのだから。
「今はいかに宣伝するかが重要なのよ。知らなければ、甥のレストランに客は来ないわ。補助金を宣伝費にしても、レストランの経営に成功したら税金を払うからいいのよ」
これも、古谷良二が偉大な政治家である私に配慮しないから!
今後どうにか彼を追い込んで、私に救いを求める方向に持っていきたいわね。
まったく!
飯能とばかり癒着して!
まあいいわ。
今は、甥のレストランを応援して足元を固めましょう。
次の選挙では、対抗馬と僅差にならないように。
『天にも昇るような美味しさですねぇ、うーーーん! 美味しい!』
『まだこのレストランに来ていない視聴者のみんな! 行かないと損だぞ!』
『味、雰囲気、接客満点!』
「……ステマ臭がするなぁ。このレストラン、そんなに料理もよさ気に見えないし……」
イザベラから見せられた動画だが、有名な動画配信者が大して有名でもないが、豪華なレストランの紹介をしているものだった。
誰が見ても企業案件だと丸わかりだが、さすがはトップ動画配信者。
視聴回数はなかなかのものだった。
「日本で有名な動画配信者ばかりが同じ内容のものを同時更新ですか。随分とお金がかかっているでしょうね」
「そうなんだ。でもよくイザベラは、日本の動画配信者を知ってたね」
「私も動画配信者なので、ライバルのお名前と顔くらいは。リョウジさんは、同業の人たちのことをあまり気にしませんが……」
「気にしないんじゃなくて、仕事が忙しいのと、ワークバランスを大切にするから、動画は好きなものしか見ないんだ。あと、漫画とアニメ」
動画配信者の名前を覚えるよりも、好きなアニメのキャラクター名を覚える方が先だ。
「リョウジ君らしいね。これって企業案件ぽいけど、大したレストランには見えないよね」
「外観と内装だけは豪華ですけどね。お料理は……撮影用で豪華にしている感がわかりやすいです」
「お値段はなかなかだけど、なんか価格に見合ってないわね。そういえばリョウジ、このレストランの近くじゃないの? 今度、私とリョウジが動画撮影で行くところ」
「ダンジョンで種子や苗を採取し、アナザーテラで育てた果物のツイーツを出すお店だな。フランチャイズで無人食堂も併設するから、俺も企業案件みたいなものかな」
新店の場所は、プロト1がAIを駆使してここがいいという場所に店舗を持つオーナーが始めるので、リンダとのデートを兼ねて宣伝動画を撮る予定だ。
店舗改装、ゴーレムと魔導倉庫のレンタル、食材の仕入れなど。
古谷企画とイワキ工業が直接お店を経営すると人間の職を奪うなという批判が強いので、今ではフランチャイズオーナーにゴーレムと魔導倉庫を貸出し、食材を仕入れてもらう形で利益を得ることが多かった。
「場所はいいし、私とリョウジでバッチリ宣伝するから、ちゃんと繁盛するはずよ。有名動画配信者たちが宣伝していたレストランも、最初は上手く行くんじゃないかしら?」
数日後、俺とリンダは宣伝レストランの近くにある新店へと出かけると、目と鼻の先にある例のレストランはもの凄く繁盛していた。
料理は微妙そうだったが、有名なインフルエンサーの宣伝効果って凄いんだな。
「リョウジ、あのレストラン、お客さんがいっぱいね」
「有名動画配信者の宣伝が上手くいったみたいだ。俺たちも負けないようにするか。とはいえ、ただスイーツを食べるだけだけど」
「デート優先よ。スイーツも沢山食べるけどね」
ところが、最初は有名動画配信者による宣伝のおかげで多くのお客さんが詰めかけていたレストランだったけど、やはり動画で出した料理は撮影用だったらしい。
すぐにSNS等で実際の料理が投稿されてしまい、料理が手抜きすぎ、不味い、その割に高い、人手不足なのかサービスも最悪、などと批判され、すぐに閑古鳥が鳴くようになってしまう。
一方、俺とリンダが動画撮影した新店は、連日多くの客が押し掛けるようになった。
『ダンジョン産フルーツをふんだんに使用したパフェ、ケーキ、クレープ、ジュース。そして、このお店の名物は『ダンジョンカウ』の生クリームをふんだんに使った『フルーツサンド』です」
『濃厚なのにあと味がサッパリした生クリームと、フルーツの酸味がよく合うわね。全種類制覇よ!』
『ううっ……。リンダには勝てなかったよ。季節限定でカキ氷もやってるよ!』
その後、資金繰りが悪化したレストランは潰れてしまったが、プロト1曰く『場所はいいので、普通に飲食店をやれば失敗するなんてあり得ない』そうだ。
居抜き物件で経費も安いという理由で、その跡地にはモンスター肉のシュラスコレストランが入ってすぐに大繁盛するようになった。
「この前のカフェもそうだけど、動画で撮影したお店が潰れると悲しいからよかった」
「あのレストランは、宣伝する前にもっとちゃんと経営をすればよかったんじゃないの? オーナーってどんな人だったのかしら?」
「さあ?」
飲食店なんて、三年で三割しか残らない世界だ。
潰れたレストランを宣伝した有名動画配信者たちもとっくに忘れているだろうし、世の中なんてこんなもの……。
金持ちの道楽だったんだ、と思うことにしよう。
なお、これ以降もランチャイズの無人食堂を併設した個人飲食店が、順調に全国に広がりつつあった。
「伯母さん、酷いよぉ! 動画で宣伝してすぐはお客さんも多かったけど、すぐに閑古鳥が鳴いてレストランが潰れちゃったよ。やっぱり、古谷良二に宣伝してもらわないと駄目じゃないか。また新店を出すから、彼に頼んでよ」
「……そうね……」
いくらお店を潰しても、資産家の子である甥が路頭に迷うことはないけど、いい加減自分が経営者として無能だってことに気がついてくれないかしら?
それにしても、古谷良二が都知事である私に配慮しないなんて、こんなに無礼な話はないわ!
しかも、甥が経営に失敗したレストランの跡に、居抜きで新店を出して大繁盛させるくらいなら、私の甥が無人食堂のフランチャイズを希望したのに断るなんておかしいじゃない!
そこまで私が憎いというのかしら?
いいわ。
あんたがそう出るのなら、必ず古谷良二を私のコントロール下に置き、総理大臣になって日本はおろか、世界中から称賛される存在になってやる。
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