第157話 有名税、結婚観、婚活パーティー

『報告します! 私は、古谷良二さんとおつき合いしています!』


『ええとぅ、ユリリンと『りょうちゃん』……古谷良二君ね、はラブラブでぇ』


『この婚姻届けを見てください。明日、役所に出しに行くんです。これで私と古谷良二さんは晴れて夫婦となります』


『ダンジョンの女神たち? あんなの仕事上だけのつき合いで、良二君は私にベタ惚れなの』






「……今週は四件か。大分落ち着いたかな?」


「ええ、彼女たちは売れないグラビアアイドルや女優、動画配信者で、完全に知名度目当てでしょうけど。それにしても、役所に古谷さんとの婚姻届を出そうとする人はあとを絶ちませんね。不受理届を出しているので無駄なんですけど」


「役所の人たちが大変だな」


「ええ。そういう人の中には、経験もしていない古谷良二さんとのデートや、情事の様子を事細かに大声で喚き立てる人もいて、人間の職員はストレスを抱えてしまうので、専用のゴーレムを配置したそうです」


「まあゴーレムに喚き立てている分には、チラシの裏に書いているのと同じようなものだからな。ゴーレムを他の仕事に回せると考えると、生産効率は非常に落ちているわけだけど……」


「お役所だから、そこまでコストを追求してもどうかと思いますよ。ああ実は、人間の職員のメンタルが病まないよう、ゴーレムを導入する役所が増えているようですけど。受付に置いているところも増えたそうで。まあ、全部イワキ工業製か古谷企画製ですけどね」


「ゴーレムは、もうそこまで対応できるようになったのか。これはますます人間が必要なくなるな」


「中には、『俺がわざわざ役所に来てやったのに、ゴーレムに対応させるとは何事だ!』って大騒ぎする人もいるそうで……」


「その手の輩は昔から、『若造に対応させるな!』とか、『女に対応させるな!』とか言って大騒ぎしていたから、以前と変らないのかも。そんな残念な人でも相手をしないといけない役所の職員やお店の店員が大変なだけで。ただ役所はともかく、今ではモンスタークレーマーはそのお店への入店やサービスの提供を拒否するケースも増えてきた。人格に問題があると、子供食堂や生活困窮者向けの食堂も併設している古谷企画経営の『無人食堂』ですら利用できなくなってしまうのは辛いな。逆に役所や警察、消防、病院は、彼らを拒否できないのが辛いところだが……」




 父が経営する佐藤法律事務所が、古谷企画の専属となって大分時が経った。

 以前にどこかで聞いた話だが、世の中を変えるほどの天才が出現したとして、必ずしもその人物が世の中のために活躍できるという保証はないそうだ。

 なぜなら、時に天才は凡人たちの嫉妬によって足を掬われるから。

 そうやって足を掬われた天才を我々が認知できるケースは少ないから、そのことを残念がることもできないのだけど。

 天才の足を引っ張ることで、その社会なり、組織なり、会社が改善されなかったり、存続の危機を迎えるほど状況が悪くなってしまっても、嫉妬に狂った凡人は天才の足を引っ張ることをやめない。

 いや、それがわかっていて天才の足を引っ張る凡人はまだマシだ。

 世の中にはとてつもなくバカなことをする人たちがいて、彼らは自分が愚かなことをしている自覚がまったくない。

 むしろ、自分はとてもいいことをしていると本気で思い込んでいるのだから。

 極論すると我々の仕事は、そういう人種に迷惑をかけられた人を助けることが多い。

 逆に、色々と世間に対してやらかしてしまった残念な人たちの弁護に回ることもあるが、 正直に言うとそういう人たちの相手はとても疲れる。

 なぜならそういう人たちは、自分が悪いことをしている自覚がなかったりするからだ。

 それにそういう人たちは、あまり報酬も支払えないケースが多い。

 我々弁護士はボランティアではないので……まあ中には手弁当でそんな人たちを弁護する人もいるが……私は本当に困っている善良な人しか助けない。

 幸い、父が経営する佐藤法律事務所の経営状態はとてもいいので、本当に困っている善良な人を手弁当で助ける余裕があるのはいいことだと思う。

 古谷良二さんは今や世界一冒険者にしてインフルエンサーであり、事業家、資産家でもあるので、とにかくトラブルが多い。

 彼自身はとても善良な人物で、世間にはダンジョンの女神たち全員と男女の関係にあることを強く批判する人も一定数いるけど、それ以外の悪評は皆無だ。

 世のセレブな人たちの多くは報道されていないから知られていないだけで、異性関係にだらしなかったり、薬物、暴力、DV、モラハラ、パワハラ、反社勢力との繋がり等々……。

 色々と問題がある人も多い。

 古谷さんはあまり贅沢もせず、たまに上野公園ダンジョン特区内の高級飲食店を利用するくらいで、それも彼の稼ぎからすれば微々たる金額だし、古谷企画の交際費で落とせるほどだから大したことはなかった。

 車、服、ブランド品にも興味はなく……ダンジョンの女神たちから贈られたものを身に着けたり、着ることはあるけど、自分でファッションブランドを持っているので、他から購入することもなかった。

 あのレベルのお金持ちになると、他人から貰う方が多いのが普通というのもある。

 ただ、動画配信者としての彼は企業案件を受けないので、他人から贈られた服やアクセサリー、ブランド品を動画でつけることはない。

 常に自作した服を着るようになったがデザインはシンプルだし、アクセサリー、バッグや小物などを自作して、定期的にダンジョンの女神たちにプレゼントしたりする様子を動画にしていた。

 彼はジョブ、スキルが表示されない冒険者だが、とにかく器用でなんでも作れるから羨ましい限りだ。


『詩人、歌手、踊り子のジョブも存在するようですが、確かに俺にもできるな』


 以前、 チャリティーオークションに出品した絵画も高額で取引されており、彫刻、版画なども作成して動画で公開。

 それを販売したり、チャリティーに出品することも多い。

 作詞、 作曲もできて、これは動画内のBGMに使用したり、ダウンロードで販売してヒットチャートでトップになったこともあった。

 ピアノ、バイオリン、フルート、三味線、ギターなど。

 どんな楽器もプロ並みに演奏できるし、自分で振り付けした踊りを披露したこともある。

 そんな古谷さんは自然と女性にモテるようになり、そうなると自分は彼と付き合っていると言い始めたり、もうすぐ結婚する予定だなどと、誰でもわかる嘘をつく女性が世界中で増殖しつつあった。

 よくあるパターンが、動画配信者と売れない芸能人だ。

 古谷さんと付き合っていると、動画で言うだけで視聴回数が増えるので、一時期は雨後の筍の如く嘘を動画で発信する人たちが増加した。

 当然嘘なので、こちらとしても法的な処置を取らせていただいたが。

 訴える手間と費用が面倒くさいので放置すると考えた人たちが多かったようだが、古谷企画ではその費用と時間を惜しまない。

 どうせ経費で落とせるし、そのために佐藤法律事務所は大規模化し、古谷企画専属になったのだから。

 誹謗中傷、脅迫、タカリなどに厳正に対処することは、古谷良二さんのイメージを守るために必要なことだ。

 とはいえ、膨大な業務が存在していても、うちの職員はたった五名しかいない。

 父、私、若手弁護士二名、そして昔からいる事務員のオバちゃんのみだ。

 これでもゴーレムとAIの大量導入で、百名以上の弁護士を抱える大企業よりも、多くの仕事を効率よくこなすことができるのだから凄い。

 AIとゴーレムは完璧に法律を覚えており、過去の判例もすべて参考にして我々に最適な対処方法や法廷戦術を指示してくれるから、一人の弁護士が大量の案件を担当できるようになった。

 事務仕事もAI任せでほとんどしないで済むし、儲かっているので給料も上がった。

 ただ、いくら業績が上がっても新しい人を取る必要がないので、このところゴーレムとAIの導入で仕事をクビになった士業の事務所に勤めていた事務員たちは職にあぶれ、他業種に移る人たちも増えたとか……。

 弁護士は自分一人で大量の依頼をこなせるようになったのと、冒険者需要のおかげで職にあぶれていないとは聞く。

 ゴーレムとAIに対応できない、主に老人の弁護士は、今恐ろしい勢いで失業しているが。

 AIとゴーレムの導入によりコストが下がって弁護士報酬を安くすることができるから、これまでは弁護士を使えなかった人たちの利用も増え、今のところは弁護士業界は好景気だそうだ。

 ただ、恐ろしいスピードで他の士業も含めて事務所の規模が大きくなっていくので、さらに集約化と大規模化が進んで、将来失業する士業の人たちは増えると予想されていた。

 今はよくても、一年後がわからない世界だ。

 私も、佐藤法律事務所の後継者として頑張らないと。


「それでも、古谷さんとの婚姻届を出そうとする人は大分減ってきたな」


「ええ、以前に動画で婚姻届の不受理届を出しているから無駄だって言いましたからね。ゼロにはなりませんけど」


 個人的には今の日本の景気は上向き、私も収入が大幅に上がったが、残念ながらその恩恵を受けられない人たちもかなり多かった。

 政府も生活保護と失業手当の支給条件を緩和し、ベーシックインカムの導入に向けて動き出したが、中にはそれが嫌だという人もかなり多い。

 だがそういう人に限って、新しい時代の流れについていけるよう努力をするわけでもなく、『古谷良二の妻になれば、贅沢三昧に暮らせる!』と安易に考えて、彼との婚姻届を勝手に提出しようとする人が跡を絶たなかった。

 勝手に婚姻届を出すことは、有印私文書偽造等罪、偽造有印私文書等行使罪、行使罪、電磁的公正証書原本不実記録等罪に引っかかる。

 さらに付き纏いがあればストーカー規制法に触れるが、残念ながらすべて未遂に終わっていた。

 古谷さんたちもイザベラさんたちも、最近ではお休みの日に上野公園ダンジョン特区の外に出ることが増えたが、魔法で変装してしまうので、一般人が追いかけることも、気がつくこともできないからだ。


「ただ、動画で古谷さんとの交際宣言や、婚約しました宣言をする人はいなくなりませんね。この前は、テレビの生放送で新人アイドルが言っちゃいましたからね」


「動画視聴回数を殖やしたり、知名度を上げるためとはいえ、リスクの方が大きいのに。個人的にはいい加減気が付いてほしいものだと思うよ」


「彼女たちに法的な処置を取りつつ、民事で告発して賠償金を取り立てる仕事は大分ルーチン化してきましたけど、たまにヤバイ人がいますからね。この前なんて、八十代の老婆が古谷さんの妻だと言い張り続けて、こちらが訴える旨連絡したら、『夫の良二を出してください!』って電話越しで大騒ぎしていましたからね。アレ、どう見ても認知症か、電波が見えてしまう系統の人ですよね?」


「だろうな。有名になるってのは、それだけ大変なことだ」


 彼はまだ弁護士になって日も浅いから、そういう人には慣れていないのだろう。

 世の中には、本当にヤバイ人がいるのだから。


「あまり深く考えても仕方がない。仕事は沢山あるが今日も定時で終わるので、夕食は 焼肉といこうじゃないか。モンスター肉の焼き肉、ダンジョン産食材を使った料理の食べ放題、ドリンク、お酒の飲み放題も合わせて三万円。かなりリーズナブルだ」


「いいですね。じゃあ、頑張って仕事を終わらせましょう」


 佐藤法律事務所の経営は安泰なので、ミスをして古谷さんに契約を切られないようにしないと。

 ただ、彼が有名になればなるほど、この手のトラブルは増えていく。

 仕事はますます増えるので新しい人員を……いや、ゴーレムとAIで十分か。

 個人的にはどうかと思うが、もしこの世界にダンジョンが出現しなくても、我々士業はAIの普及で廃業者が増えると予想されていたから、それが少し早まっただけのこと。

  とにかく仕事を失わないように頑張らないと。






『古谷さんは私を誘ってくれて、○○○○ホテルのスイートルームで情熱的な一晩をあかしたの』


『良二さん! いい加減自宅に戻って来てください! 息子の昭利も待っていますよ!』


『良二は私と結婚してくれるって言ったもの!』



「……怖い、怖いよぉ。女性が怖い。というか、お前ら誰だよ!」


「リョウジさん、 残念ですがこれが有名税というものです」


「リョウジ君にはボクたちがいるから大丈夫だよ」


「ううっ……」


「膝枕をしてあげますから、安心してくださいね」


「リョウジ、いい子いい子」


 これまで一度も会ったことがない、名前も顔も知らない人が俺と付き合っていると公言し、デートの内容を事細かに話し始めたり、全然当たっていない俺の好きな料理や趣味の話を始めたり、挙句の果てにすでに婚約していると笑顔で話す。

 一見すると彼女たちが嘘をついているようには見えず、そのせいで、彼女たちの言い分を信じてしまう人たちがいて、そのせいで顧問弁護士である佐藤先生の事務所が大変だと聞いた。

 しかし、実際その動画を目の当たりにしてしまうと、これはもうホラーの類だな。

 もう俺はドラゴンなんて恐れていないが、実はそれよりも人間の方が怖かったというオチを確認する羽目になってしまった。

 俺は綾乃に膝枕されながら、リンダにいい子いい子されている状態で、さすがにメンタルにくるな。


「リョウジさんは、私たちだけとこうしてノンビリ暮らしていけばいいんです」


「そうだよ。ボクたちがずっと一緒にいるから」


 イザベラとホンファから慰められていると、そこに雑用専用のゴーレムが大量のダイレクトメールを持って来た。


「なにこれ?」


「ご主人を婚活パーティーに招待したいそうです。冒険者専用婚活を主催している会社が、それも沢山」


「……俺、まだ十八歳なんだけど……」


「ピンポーーーン!」


 続けて、いまだ書類上の古谷企画本社のあるマンション一室のベルが鳴り、カメラで確認すると剛だった。

 中に入れると、彼も大量になにかを持っていた。


「剛、それは?」


「良二と同じく、冒険者専用婚活パーティーの誘いだ。俺たち選ばれた冒険者たちは参加費用がゼロだそうだ」


「無料でもありがたくないな」


「俺だって婚約者がいるってのに、ただ迷惑なだけだよ。しかも、こんなにいっぱい」


「実は、 冒険者専用の婚活パーティーって増えていますから。私の知り合いにも主催している人がいて、良二様を参加させてほしいと頼んできましたから。当然断りましたけど」


「なんというか……」


 冒険者は稼ぐ人が多いし、このところ俺の動画を始めとしてダンジョンの正確な情報が大量に手に入るようになったので、死ぬ冒険者はかなり減った。

 減ったとしても戦争中の軍人に次ぐ死亡率だが、政府が残された家族のために、冒険者専用の公的保険制度を整備したしたおかげで、冒険者と結婚したがる人が男女共に増えていた。


「日本政府としても、少子化を解決するために婚姻率の上昇を目指しているそうで、 補助金が出るから冒険者婚活を主催する会社が増えているのだと思います」


「税金の無駄遣いとは言わないけど、余計なお世話感が満載だな」


「アメリカでも、冒険者と結婚したがる人は増えているわよ。だって稼ぐもの」


 リンダが身も蓋もないことを言ったが、 配偶者にお金がないより、あった方がいいと考えるのに民族性は関係ない。


「十八歳で婚活パーティーになんて出ないよ。 そういうのはもう少し 年を取った冒険者に言ってくれ」


「ところがどっこい、一部の結婚自体に興味がない人を除くと、稼ぐ冒険者の大半はすでに結婚してしまっているそうだ。なんなら隠してはいるけど、複数の女性と事実婚状態で、妻全員に子供がいる冒険者なんてのも珍しくなくなってきたからな」


「まるで向こうの世界みたいだな」


「ああ、西洋ファンタジー 風の世界なら一夫多妻制 もあり得るか」


「いや、向こうの世界では多夫一妻制もあったけどな」


 一夫一婦制が正しいとされる現代日本や先進国とは違い、俺が召喚されていた世界では 一夫多妻制も多夫一妻制もあった。

 王族や貴族は一夫多妻制だけど、平民の冒険者や商人で稼ぐ人の中には多夫一妻制な人がいたのも思い出す。

 魔王の侵攻もあって生きていくのが大変な世界なので、稼ぐ人が家主になって家族を率い養うことが自然とされ、男性が死にやすかったので、嫁げない女性の面倒を見る一夫多妻制が広がったのだという現実もある。

 逆に生活力がない男性を複数面倒みる女性ってのも、数は少ないけど存在はしたけど。


「実はこの世界の冒険者の中にも、複数の男性を養う女性がいるらしいけど」


「自然とそうなるんだろうな。あまり表沙汰にはできないけど」


 不倫しただけで世間から叩かれてしまう世の中だし、俺とイザベラたちの関係だって、以前かなり批判されたのだから。

 その時は俺が反省して冒険者活動を自粛したら、 俺を批判した雑誌社の方が潰れてしまったけど。


「目に見える地雷だな。こんな婚活パーティー。一億円貰っても行くものか」


「俺は百億円貰っても嫌だ。イザベラとホンファと綾乃とリンダがいればいいから」


 もし冒険者特性がなかったら、 俺なんて将来結婚できたかどうかも怪しい男だ。

 そんな俺が四人の美少女たちと一緒に暮らしているのだから、これ以上の贅沢はないと思う。

 

「というか、もしその婚活パーティーに参加したとして、イザベラたち以上の女性はいるんかい?」


「期待はできないだろうな」


 元々四人はとんでもない美少女たちであり、それに加えて高レベルなのでステータスも上がっており、魔法薬やらエステでその若さと美しさを保っているのだ。

 マイナーアイドルや、少し人気が出たくらいの動画配信者では歯が立たないと思う。

 こう言うと失礼かもしれないが、俺と付き合っていると公言していたアイドルや動画配信者にまったく興味がなかったのだ。


「俺はイザベラたちがいれば、他の女性なんて……」


「ところでリョウジさん、ビルメスト王国のダーシャ陛下はお元気ですか?」


「……動画によると元気みたいだねぇ……」


 ビルメスト王国復活後も、新女王になったダーシャは冒険者としての活動と、動画配信をやめていなかった。

 ビルメスト王家は自力で資産を形成して、二度と国民からの税金を貰わないと決めていたからだ。

 レベリング目的で、半ば名誉職扱いとなった近衛騎士団と共にダンジョンで稼ぎ、動画を配信するダーシャはその美しさもあり、世界で一番人気の王族だろう。


「リョウジ君、必ず週に一回は会いに行っているよね?」


「……う、うん。ほら、動画配信者の先輩としてアドバイスをね……」


 まずい。

 俺が定期的にダーシャに会いに行っていることが、ホンファに気がつかれている。

 いや、イザベラたちも知っているからこそ、今この場で質問されたのか。 


「ダーシャさんには女王陛下としてのお立場がありますから、私たちは特になんとも思っていませんよ」


「彼女はね。でもそのうち、一緒にダンジョンに潜るのもいいかもね」


「日本の美味しいスイーツを食べたり、観光地に出かけてもいいでしょう」


「リョウジなら、 魔法で変装させることも可能だからね」


「みんな、ありがとう」


 というわけで、俺はダーシャも含めて、イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ以外の女性に興味はないかから!


「嘘くさ」


「剛、酷くないか?」


「そうやって、一人ずつ増えていくのが男性の本能だったりして」


「そういう剛はどうなんだよ?」


「えっ、他の女? 興味ないな」


 そういえば、剛はそういう男だった。

 婚約者以外の女性にまったく興味がないタイプなのだ。


「と言っているのに、政治家やら、資産家やら、地方の名士とやらが、『うちの娘とお見合いをしてくれ』ってうるさいんだよ。政略結婚って……いつの時代の話だよ」


「タケシさん、別に現代でも政略結婚はなくなっていませんわよ。特に上流階級では大半がそうです」


「そうなんだ」


「たまに、ヨーロッパの王族がちょっと毛色が変わった方と結婚するとニュースになるではないですか。珍しいからニュースになるんです」


「アメリカの名族たちもそういう人は多いわね。結婚って契約だから、政略結婚の相手がそれを守るのなら恋愛も自由だし。私が知ってる名族の当主夫婦なんて、お互いに愛人や恋人が複数いるもの」


「まあ、そんなものだよね」


「良二は達観してるな!」


「向こうの世界の王族や貴族がそうだったから」


 ちゃんと跡取りを作ったら、あとはお互い自由に愛人を囲ったり、恋愛をしたり。

 そんな話を、王城にいるメイドたちが噂し合うなんて世界にいたからなぁ。

 あのイケメン男爵は、実は王妃様の恋人だとか。

 

「となると、良二は資産の額を考えると現代の王侯貴族みたいなものだから、結婚は政略結婚なのかね?」


「いいえ、剛さん。リョウジさんと私は、真に愛し合っている関係ですから。グローブナー伯爵家の跡取りに関しては、私がリョウジさんの子供を産めば問題ありませんから」


「リョウジ君を独り占めできないのがもどかしいとは思いつつ、これもずっとラブラブでいるためさ。ボクの資産を継ぐ子供は、リョウジ君との間に生まれた子供だから問題ないよ」


「私も同じです。分家ですけど鷹司家が存続できないとうるさい方がいますので。良二さんとの間に生まれた子供に跡を継がせれば問題ないですし、それとは別に私たちの関係は良好ですから」


「グランパはずっと日本でリョウジといてもいいって言ってくれたし、将来はリョウジとの子供が欲しいわね。私の資産はその子に受け継がれるけど、そんなことよりも、今はリョウジと一緒にいられる方が嬉しいわ」


「リョウジはモテモテだな」


「イザベラたちにモテるのはいいけど、婚活パーティーは勘弁してくれ」


「しかしこの婚活パーティー、随分と補助金が出ているけど、効果あるのかね? ええと……『東京都協賛』かぁ……」


 冒険者向けの婚活に、東京都が補助金を出したのか。

 いかにもあの加山都知事がやりそうなことだけど、残念ながら彼女は大半の冒険者に嫌われている。

 冒険者は集まらず、税金の無駄遣いになるだろうな。






「きぃーーー! どうして補助金を出した結婚相談所が主催する婚活パーティーに冒険者が集まらないのよ?」


「(それは、ろくでもないところにばかり補助金を出したからでは?)上野公園ダンジョン特区を始めとして、すべての冒険者特区では、冒険者しか参加できない婚活パーティーが定期的に開催されていますから」


「冒険者同士で結婚したら意味がないじゃないの!」


「冒険者特区内の婚姻率と出生率は改善していますから、飯能総区長は意味があると思っているのでしょう」


「飯能ぅーーー!」


 今日も、加山都知事の機嫌は最悪だ。

 冒険者を東京都に引き戻すため、結婚相談所を運営している会社に補助金を出し、冒険者向けの婚活パーティーを開催させたのに、肝心の冒険者が全然参加しなかったからだ。

 これでは野党から税金の無駄遣いだと批判されるだろうし、加山都知事はこの婚活パーティーに支持者の子女を沢山参加させた。

 『あなたの子たちを冒険者と結婚させるチャンスですよ』と言ってだ。

 だが現実は、冒険者はほとんど参加していなくて地獄の惨状だったらしい。

 支持者たちが、『話が違う!』と加山都知事に詰め寄ったとか。

 彼女が事前に、冒険者の参加状況を聞けばよかったって?

 彼女にそんな配慮を求めるのは不可能だし、元々補助金に頼るような会社は微妙なところが多く、もし婚活パーティー参加者の詳細を聞かれても誤魔化していたはずだ。

 そしてそんな嘘を見抜けるほど、加山都知事は優れていない。

 このところ日本の出生率は持ち直してきたくらいだが、少子化には様々な要因があるのでそう簡単に改善はせず、政府や政治家たちは稼ぐ冒険者に期待していた。

 お金がある冒険者が、結婚して沢山子供を作ってくれるだろうと。

 見事彼らは期待に応えたわけだが、まさか冒険者同士ばかりが婚姻数と子供の数を増やす事態になるとは思っていなかったのであろう。

 そして冒険者は、ますます財源が豊かで子育て支援が手厚い冒険者特区から出なくなった。

 あてが外れた地方自治体の首長は多く、加山都知事ほどではないが怒っている人が多いと聞く。


「生まれた子供の数は去年よりも増えたので、成果が出ていないということもないのでは?」


「東京都が協賛する婚活パーティーに、冒険者が多数参加しないと意味ないじゃないの!」


 意味がないのは、東京都ではなく、あんたの支持者たちだろうな。

 加山都知事を応援しているのは基本的に残念な人たちが多く、箸にも棒にも引っかからない自分の残念な子供を冒険者と結婚させて玉の輿、逆玉の輿を狙い、自分たちも贅沢に暮らすことを夢見ている人たちが多いのだから。


「(目玉だった冒険者が参加していない婚活パーティー、さぞや寒かったのだろう)ですが、このところ賃金も上がってきていますから、冒険者じゃなくても条件のいい参加者はいたのでは?」


「あんた、私の支持者を舐めているの? 年収二千万円以下のゴミなんて相手にしていないわよ。冒険者たちは結婚すべきなの!」


「はあ……(あんたの支持者たちが大勢集まった婚活パーティーで、あんたの支持者たちが冒険者と結婚するべきって意味なんだろうな……)」


 確かに、冒険者特性を持つ冒険者で年収二千万円以下なんてあり得ないけど、どうしてそんな冒険者が、加山都知事を支持するような残念な人間の息子や娘と結婚するなんて思っているのだろうか?


「(二十代、高収入、高学歴、顔は星野源で、自分を専業主婦にしてくれるとか。二十代、美人、家事はすべて女性がやって自分を主夫にしてくれる人か。まずあり得ない条件だけど、そういうおめでたい頭をしている人たちの支持を得るため、今日も加山都知事は奮闘中ってことか。無理だろうけど……)」


「なんとしてでも、冒険者を東京都協賛の婚活パーティーに参加させるのよ!」


 当然そんなことはまず不可能なんだけど、こうなった加山都知事にそれを言っても無駄だからな。

 結局その後、対立している与党の議員から結婚相談所運営会社に不透明な補助金を出した件を追及されるも、加山都知事は担当部署の職員を左遷して逃げ切った。

 

 彼女は政治家としては無能に近いけど、扇動政治家としは百点満点である証拠と言えよう。

 こんな人をトップに据えている東京都民でしかないが、自分たちが選んだ人なので次の選挙まで我慢するしかないか。

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