第145話 無人食堂
「という形態の飲食店を、全国に多数出しましょう。古谷さんならできますよね?」
「できますけど、それって世間からの反発が多そうですね」
「それ以上に、多くの人たちに支持されるから問題ありませんよ。なにか新しいことをするに際し、一人の反対もない事例なんてあり得ません。大体、今の日本人はテレビをつければ、『日本は世界に取り残される!』と騒いでいるじゃないですか。古谷さんがそんな彼らが『日本って世界で一番進んでる』って思わせればいいんですよ。反対意見なんて気にしなくていいんです。でないと、新しいことはできませんから」
「無人飲食店を増やすのはいいんですけど、テレポーテーション技術を利用して大丈夫なんですか?」
「ええ、コントロールセンターを上野公園特区に設置して、人間の移動はまだ禁止にする、という条件で官僚たちに飲ませました。テレポートさせた物品のリストを、経済産業省が新しく作る関連団体にすべて提出し、違法性のある品物のテレポートが行われたら、速やかにテレポート時の映像も提出して警察の捜査に協力する。官僚と交渉するには、彼らの面子を考慮して、さらにお土産を用意すればいいんですよ」
「経済産業省の関連団体……」
「いい天下り先が増えて、彼らも大喜びでしょうな。あっ、あと別空間の利用についても大分条件が緩和されました。都市部の駐車場不足と、違法駐車、駐輪対策にもなるので、警察の支持も取り付けられました。こちらもすぐに取りかかってください」
「まあいいですけど……」
「簡単に儲かっていいじゃないですか。お願いしますよ。それにですね。今の日本では、古谷さんが思っている以上に冒険家への風当たりが強くなってきたんです」
「みたいですね」
日本にダンジョンが沢山できて、エネルギーも資源も輸出できるようになり、長年のデフレ状態を脱して経済成長する。これでめでたしめでたしになるのは、創作物の世界だけですよ。一部の冒険家が稼ぐので貧富の格差が広がり、ゴーレム、AI、ロボットが人間の仕事を奪っていく。既存の生き残った資本家や金持ち、優れた冒険者が富の過半数以上を独占する状態をよしとしない層がいるのです。ジリ貧の野党は本来の社会主義的な政策に回帰して、富を独占する冒険者を敵として攻撃することで、議席を確保できる支持者を集められるようになりました。彼らが既存の資本家や金持ちをどうすることもできずに破れ去るどころか、実は仲良くなってしまったせいで、冒険者という新しく敵を攻撃する必要が出てきた。この危ない傾向を解決するには、古谷さんが積極的に社会に貢献していくしかないですね」
「社会的に貢献ですか……」
世界中のどの国も、いかに国民を食べさせるかで苦慮しているのです。食べ物があれば、とりあえず革命は防げますから」
「わかりました」
飯能総区長からの要請という名の命令が増えてきた。
これも俺とイザベラたちが静かに暮らすため……彼の言うとおりにすると社会が大きく変わってしまうのだけど、まさか人間がずっと変わらぬ生活を送れるわけがなく、これも時代の変化ってことか。
「じゃあ、頼むね」
実は軽い人なんだなと思いつつ、飯能総区長がいる区役所内の区長室をあとにする俺。
上野公園ダンジョン特区庁舎内は、すでに人間よりもゴーレムの方が圧倒的に多く、他自治体からの出向職員たちも元の所属先に戻りつつあるから、余計に人間が少なかった。
すでに大半の仕事をゴーレム、AI、ロボットがするようになっており、数少ない人間の職員たちはゴーレムたちに仕事を割り振り、その結果を見て判断をするだけ。
とはいえ、無能が間違った判断をすると行政機能の効率が落ちてしまうので、優秀な人しか特区の職員にはなれなかった。
優秀な人間は安月給では来てくれないので、冒険者特区の職員は総じて高年収だ。
即戦力しかいらないので、新卒者が採用試験を受けるといった光景もなくなった。
人員に空きが出たら、主に民間企業で働いている人たちから中途採用をして人手不足を補っているが、待遇がいいので辞める人があまりいないと聞く。
給料を大幅に上げても職員数は少ないので、役所も人件費が節約でき、冒険者特性の持ち主は病気になりにくいので病院にかかる人が少なく、おかげで冒険者特区の税金はかなり安かった。
そんな事情か世間に知れ渡った結果、『冒険者はズルイ!』と言い出す人たちが出てくるのは歴史の必然らしい。
イザベラたちがそう教えてくれた。
みんな、家の歴史が長いセレブだから、先祖が過去にそんなことを言われたのかもしれない。
なので、冒険者の俺は少しでも世の中がよくなるよう、ますます頑張らないと……俺は、プロト1に指示するだけだけど。
「というわけだから、よろしく」
「お任せください、社長」
スマホからプロト1にそう指示を出したので、あとは彼が上手くやってくれるだろう。
用事は終わったので、今日は予定どおり休日を楽しまないと。
「リョウジ君、お待たせ」
「別にそんなに待ってないよ」
「飯能総区長だっけ? 人使い荒くないかな?」
「彼が冒険者特区の面倒を見ている間は安泰だから、手くらいは貸すよ」
「スキル政治家だものね。世界の政治家で持ってる人は少ないだろうから。なくてもどうにかなっている……なっていないところもあるけど、世の中ってそんなものだからね」
「ホンファも大概毒舌だよな。お昼はどうしようか?」
「香港の知り合いが、飲茶の専門店を特区内に出したんだよ。そこに行かない?」
「飲茶って経験ないから行きたいな」
「ボクが奢ってあげるからね」
「なんか、久しぶりに人に奢ってもらったかも」
「リョウジ君は大金持ちだものね。今日は遠慮しないで食べるといいよ」
その後は、ホンファとのデートを楽しんだ。
さて、プロト1は、ちゃんとやってくれるかな?
「駐車場がない! クソッ! これだから都内を車で移動するのは嫌なんだ!」
仕事の打ち合わせで都内に車で向かい、目的地に到着したのはいいが、車を停める駐車場がなかなか見つからなかった。
ようやく見つけても満車が多く、しかし都内の駐車場料金の高さには驚くな。
まさか路上駐車するわけにもいかず、パーキングメーターも全部埋まっているか……。
途方に暮れていると、視界に駐車場の看板が見えたのはラッキーだった。
「よかったぁ」
ようやく見つけた駐車場へと車を走らせるが、残念ながらこの駐車場も駄目なようだ。
なぜなら、小さな古い雑居ビルの一階部分にある駐車場の入り口から察するに、せいぜい数台分の駐車スペースしかないようにしか見えなかったからだ。
「いらっしゃいませ」
「ゴーレムが管理しているのか……。この駐車場はまだ空いているのか?」
駐車台数が少ないから、人間を置いてないのだろう。
念のためゴーレムに駐車場の空きを聞いてみるが、きっと満車のはずだ。
「空いてますよ、ここに車を停めてください」
「助かったぁ」
ボロくて狭そうな駐車場だけど、駐車できるのならいいか。
私はゴーレムの指示に従って、古いビルの一階部分に車を停める。
上の階には会社やら会計事務所が入っているが、ビルがボロくて家賃が安いから入ってますって感じの零細企業っぽかった。
「雑居ビルの一階部分が駐車場なんて変な造りだけど、屋根はあるし、停められればいいか」
バックで車を駐車してから降りると、ゴーレムが車を停めた時刻が書かれた紙を胸の部分からプリントアウトして手渡してくれた。
「ゴーレムに、駐車場に設置されている機械を内蔵しているのか……」
こうすれば駐車料金を払う機械を設置する場所を取る必要がなく、設置工事も必要ないから経費も安く済む利点があるのか。
「車をお出しする時は、再びご申し付けください。駐車料金は24時間で二百円です」
「安いな……あっ!」
なんと駐車料金は、二十四時間以内なら何時間停めても二百円(税込み)だそうで、あまりの安さに驚いてしまったが、さらに駐車したはずの車がまるで手品のように忽然と消えてしまい、つい心配になってゴーレムに食ってかかってしまった
「おい! 突然私の車がなくなったぞ!」
「別空間で保管しておりますので、ここからは見えませんよ。この方法だと狭いスペースに大量の車両を停められますし、土地代や固定資産税が節約でき、利用者も駐車場の代金も安く済みます。雨、風からも守られるから、お車が汚れませんよ」
「本当に車を出せるのか?」
「はい、どうぞ」
ゴーレムが合図してから数秒後、再びビル一階の駐車部分に私の車が置かれていた。
本当に別空間に収納されていたのか……。
「アイテムボックスの機能を利用した駐車場、駐輪場業務、荷物の預かり、長期の保管など。フルヤスペースをよろしくお願いします。貸し倉庫業もやっていますので、ご用命ならお声かけください」
「あっ、うん」
都心部でもこんなに車を安く停められるので、安月給の俺にはこういうサービスはありがたい。
なにより、これのおかげで駐輪違反、放置自転車が大幅に減って町の景観がよくなった。
……その代わり、既存の駐輪場が大分苦戦していると聞くけど、俺は都内の一等地土地を持ってないから関係ない。
「小関さん、これからもよろしくお願いします」
「無事に契約が纏まってよかったですよ。そういえばそろそろお昼ですね。ご一緒にいかがですか?」
「いいんですか?」
「安くて美味しいお店なので気にしないでください。二人で入れば経費で落とせますしね。最近できたお店なんですけど、安いのに美味しいんですよ」
「そんなお店があるんですね」
「なんでも、あの古谷良二のお店だそうで」
古谷良二は、無人駐輪場に続き、無人飲食店の数も増やすのか……。
これまで彼の事業に失敗はなく、それどころか大儲けしているが、数を増やしすぎではないかな?
大丈夫なのだろうか?
「古谷良二は他にも、貸し会議室やレンタルスペース、イートインスペース、カフェなとを大量出店しているそうですよ。別次元に広いスペースを展開できるから、ゴク狭の物件で家賃を節約でき、あそこは古谷良二が採集した魔石で自家発電をしているので光熱費も無料に近い。水も別次元で濾過循環装置を動かしているそうで、かなり安いとか。競合するように、イワキ工業も同じ事業を拡げていますね」
「小関さんは詳しいんですね」
「ええ、弊社は古谷企画とイワキ工業と少し取引がありますから」
古谷企画とイワキ工業と取引があるとは凄い。
さすがは大企業だ。
地方の零細中小企業であるうちの会社では無理だな。
「しかし、そんな営業形態でよくお役所が許可を出しましたね」
日本は規制が厳しいからお役所に申請を出さないといけないが、それで苦労した人は多いはずだ。
しかも彼らは細々としたことまで、重箱の隅をつつくように指摘……文句を言ってくるのだから。
勤め人で、仕事をする時にお役所と関わった結果、嫌いになる人は決して少なくなかった。
仕事なのはわかるけど、融通の効かなさと、究極の前例踏襲主義に腹を立ててしまうのだ。
「全国各地に独立したインフラがあれば、災害時に役に立つ。そういう建て付けで政治家か働きかけて、別空間の利用が緩和されたそうです。もう一つあるのですが……これは、お店で実際に見た方がいいですね」
小関さんと一緒に会社の近くにある飲食店へと向かうと、お店は繁華町ある古い雑居ビルの一階にあり、かなり狭いお店に見える。
しかしお店に入ってみると、店内はかなり広かった。
すでに多くのお客さんが入っており、食べてるものも様々だ。
なんのお店なのかわかりにくく、食事だけでなく、コーヒーやデザートを頼んでカフェの代わりに利用している人も少なくなかった。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「二人です」
「空いているお好きな席にどうぞ」
出迎えてくれたゴーレムにそう案内され、近くの空いているテーブル席に座ると、テーブルにはタッチパネルが置かれていた。
「これで注文するのか」
「お水も頼めば、すぐに持ってきますよ」
小関さんがタッチパネルで水を注文すると、ゴーレムがすぐに持ってきてくれた。
「ここは、メニューの数が多いんですよ。しかもどれも一定以上の美味しさです」
「一定以上ですか?」
「専門店や高級店ではありませんからね。でも、下手な専門店よりも美味しいですよ」
早速タッチパネルで料理を注文してみるが、本当にメニュー数が多い。
「ラーメンは……。醤油、味噌、塩、豚骨、煮干し系、背脂系、ガッツリ系、他にも沢山ある」
ラーメンは大体の種類が揃っていた。
しかもどれも安い。
他にも和洋中華、大半の料理が注文できるけど、メニューの写真を見ると、料理も盛り付けが工業製品のように均一だ。
名物店のような個性はないけど、働いている間の食事だからそれで十分だと思う。
場所もいいので、お店はとても繁盛していた。
一番安いラーメンは一杯三百円。
このご時世、一杯千円を超えるラーメンも珍しくないというのに、これが人件費と光熱費、家賃が節約できるメリットなのか……。
「ありとあらゆる料理が注文できますけど、千円を超えているメニューは少ないですね」
「A5黒毛和牛ステーキが千五百円かぁ。奮発するかな。武藤さんも遠慮しないでくださいね。経費で落としますから」
「じゃあ、私も同じものを」
小関さんがタッチパネルで料理を注文すると、すぐにゴーレムが料理を持ってきた。
早いなんてもんじゃなく、本当に肉を焼いたのかってほどの早さだ。
「えっ? 肉を焼く時間は? 早っ!」
配膳されたステーキは、鉄板の上でジュージューと音を立てている。
焼きたてなのに、注文してから一分と経たずに料理が届くなんて、不思議としか言いようがない。
どんな手品なんだ?
「謎だけど、本当に焼きたてで美味しそうだ」
「ライスとパンはおかわり自由だそうです。まずはいただきましょうか?」
「ええ、いただきます」
二人でステーキを食べ始めるが、とても柔らかくて最高のお肉だ。
とにかくご飯が進むので、ついおかわりをしたらお腹がいっぱいになってしまった。
あとで眠くならないといいけど。
「ステーキは高いから、食後のコーヒーもサービスなんですよ」
取引先の社員がタッチパネルを操作すると、ゴーレムが食器を下げてから、コーヒーをテーブルの上に置いてくれた。
その動きのスムーズさは、下手な人間よりも上だな。
「凄いお店ですね」
「じきに、全国に支店ができるそうですよ。イワキ工業も同じようなお店を全国展開しますし」
「既存の飲食店の危機ですね」
「ええ、ですがこの流れは止められませんよ。それに、すぐに出来立ての料理が出てきたでしょう? コーヒーもです」
「どういう仕組みなんですか?」
「一部の冒険者が使っている『アイテムボックス』というスキルと、その仕組みを利用した魔法の袋。それを利用したシステムを調理に利用しているんです。このお店には食材も料理が置いてありません。上野公園ダンジョン特区にあるセントラルキッチンでゴーレムたちが纏めて調理をして中に入れると時間が経過しなくなるアイテムボックス倉庫に入れます。各店舗のゴーレムたちが料理の注文を受けると、セントラルキッチンのアイテムボックス倉庫と繋がっている、各店舗のアイテムボックス倉庫から収納してある料理を取り出し、お客さんに配膳する仕組みです。この方法だと、食材や料理の輸送費も節約できますし、お店に食材や料理もないので、在庫管理も必要ない。さらにこのお店では現金が使えないので、強盗も入る意味がなくて、警察も楽でいいそうでよ」
「無人店の方が、従業員が強盗の被害に遭う危険もなくなりますしね」
「実は人間の従業員もいるそうですよ。万が一お店のゴーレムで対処できないトラブルが発生した時のため、各エリアにマネージャーが配置されているそうですけど、見たことない人が多いと思います。そんな機会は滅多にないそうで。セントラルキッチンにも数名いるとか……。かなりの高給だという噂ですね」
高売り上げ、高利益の会社では、数少ない人間の社員は高給であるケースが多い。
イワキ工業もそうだからな。
「このお店で働ける人は楽でしょうね」
飲食店は人手不足で大変だというイメージを覆すのがこのお店だった。
「ほら、このところ、働き方の問題があるじゃないですか。フードロスの問題と合わせて、それを解決したお店ってことですよ」
小関さんによると、食材も料理も、セントラルキッチンがアイテムボックス倉庫に保管してあるから常に新鮮、出来たてであり、食品のロスもほとんど出ないそうだ。
例外はお客さんが残した料理と、希にゴーレムが注文を間違える……それも滅多になさそうだな。
食品のロスが出て、それを事業用のゴミとして捨てる必要がないからその分また安く提供でき、廃棄率ゼロを謳えるので宣伝にもなる。
アイテムボックス倉庫だと時間が経過しないので、いつ取り出しても出来たて熱々。
カキ氷すら永遠に解けないけど。
事前に料理を纏めて作れるから調理人の労働管理も楽で、長時間労働にしようがなかった。
「そして、この食堂の一番のアピールポイントは……ほらあの親子を見てください」
取引先の社員が示したテーブルには、どこにでもいそうな親子が座っていた。
飲食店ではよく見られる光景だと思うけど……。
「実はこのお店、子供食堂も兼ねているので、子供とその保護者は一日三回まで無料で利用できるんです。なにを注文してもいいそういですよ」
「それは豪気ですね。でも、経営が成り立つんだ」
「成り立っていますし、たがらお役所もこのお店にケチはつけられません。実に上手い経営方法ですね」
今の日本は少子化に悩んでいるから、親と子供が毎日三食無料で食事をとれるのは素晴らしいと思う。
これは古谷良二を称賛する声が大きいはずだ。
「確かに凄いですけど、本当にこんな経営をあの古谷良二が考えたのでしょうか?」
「冒険者は、レベルが上がると知力が上がりますからね。考えたのかもしれませんし、彼ほどの有名人になれば、アドバイスをする大人もいるでしょう」
「そう考えた方が自然ですか」
そのあとだが、常に混んでいる店内で長居するのはどうかと思ってすぐにお店を出たのだけど、会計もクレジットカードか、デビットカード、各種電子マネーでしかできなかった。
なお、お会計自体はゴーレムに内蔵された機械で一瞬で済み、領収書もすぐに出してくれる優れものだったという。
そういうところは特にしっかりしていると思う。
「現金を持っていないゴーレムを襲うバカはいませんか」
「たまにいるそうですよ。ゴーレムを盗んで自分のお店で使おうとしたり、転売目的で盗もうとする人は」
「あれ? それって意味がないのでは?」
「ええ、武藤さんのおっしゃるとおりです。古谷良二とイワキ工業のゴーレムは、これまで集めた膨大な行動パターンデータをすべてのゴーレム間でリンクさせています。だから段々と動きがスムーズになっていくのですが、ゴーレムのガワだけ盗んでも、上手く動かないから意味がないんですよね。ゴーレム内部にある霊石で作られた人工人格なら高く売れますけど、ゴーレムはとても重たいし、人間に危害は加えませんが、すぐに警察に通報しますからね。稀にゴーレムが盗まれるケースもありますけど、どうせGPS機能がついているので、すぐに捕まってしまいます」
ゴーレムは外皮でしかなく、実は古谷良二とイワキ工業のゴーレムの中心は、ゴーレムデータセンターにある、これまで集めた膨大な経験とデータなのだから。
なお、データセンターの場所は完全非公開になっている。
「ますます、従来の飲食店が危ないですね」
「ええ、だけど意外な結果になっているそうですよ」
「意外な結果ですか?」
「人間は、効率を最重視するゴーレムじゃないってことです」
小関さんによると、地元の人気店、料理に特徴がある専門的なお店、名物店主、などなど。
個性的な個人経営のお店は、客が減るところか、むしろ増えているらしい。
「仕事や学業の合間の食事はあの無人店でもいいですが、さあ美味しい物を食べに行こうとか、SNSで映える料理を食べに行こうとなると、そういうお店を選ぶ人が多いってことです。ゴーレムがいるお店を嫌う人もいますしね。だけどやっぱり、潰れるお店は多いですよ」
古谷良二とイワキ工業が無人飲食店を増やしたおかげで、飲食業界の再編が促進されたわけだ。
だけど、そのおかげで日本では食べる物に困っている人が、特に子供が大量に救われたのは事実だと思う。
「帰りに、フルヤ食堂でパフェでも食べようぜ」
「いいな、それ」
「俺、ホットケーキ」
学校の帰りだろうか?
子供たちが無料で食べられるオヤツを目当てに、私たちが出たお店に入っていく光景を目撃した。
「うちは片親だから、子供と一緒なら一日三食無料で食べられるフルヤ食堂はありがたいわね」
「ママ、ハンバーグ食べたい」
「僕はドリア!」
シングルマザーだと思われる母親と小さな子供たちが、楽しそうにフルヤ食堂へと入っていく。
「人間の雇用を奪う古谷良二に鉄槌を下せぇーーー!」
「「「「「下せぇーーー!」」」」」
かと思えば、駅前の広場では野党の議員が労働組合と一緒に古谷良二を批判していた。
「古谷良二も、すっかり時の人ですね。まさにインフルエンサーだ」
「この世の人気者は、半分の支持者と半分のアンチで構成されていると聞きますからね」
「それでも田中政権の支持率は高いままですし、世の中の急激な変化はそのまま続くんでしょうね。うちの会社も、頑張って古谷企画とイワキ工業から切られないようにしないと」
「(うちも、小関さんに切られないようにしないと)」
食べる物が安くなっても、私が無職になるのは嫌なので、これからも頑張って仕事をしないとな。
古谷良二と違って、小市民の私にできることなんてそれくらいしかないのだから。
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