第139話 軍艦コレクション

『おっ、紫色の宝箱が出現しましたが、大袋が入ってますね。外に出てからなにが入っているのか確認したいと思います』




 富士の樹海ダンジョンへのアタックを続け、ついに七千階層まで到達した。

 ムー文明の遺産やら、フルヤ島のダンジョン攻略で大分時間を使ってしまったが、そのおかげでレベルも上がっており、エンペラータイムの効果がさらに早まったので、攻略は順調に進んでいる。

 モンスターの見た目は、上野公園ダンジョンとそう変わらない。

 ただ、千階層ごとにスライムが強くなっていき、すでに七千一階層のスライムは金色のドラゴンよりも強かった。

 その分魔石の品質は高く、その粘液は高品質な魔法薬や魔法道具の原料となり、空中都市フルヤを管理する黒助曰く、ムー王国製の高性能兵器に使われる『超硬化セラミック複合材』や『超高性能半導体』の材料としてとても役に立つので、すべて持ってきてくれと言われているほどだ。

 ゴーレム兵、円盤型の万能兵器、水上艦と潜水艦を兼用する船舶、人型の高機動兵器は、今の性能を保ちたいのであれば、空中都市フルヤ内部にある無人工場で作るしかない。

 俺たちから兵器類を提供された国々では、早速分析と研究が始まり、作れそうな部品から試作が始まっているが、残念ながら今の地球の技術では重要部品にはまったく手が出せず、 かなりの低性能品を作るのが精一杯だという。

 それでも目標となる現物はあるので、日本を始め、先進国ならなんとかなると思うけど。


『やはり、深い階層の方が紫色の宝箱が出やすいですね。そして、その場では開けられない巨大なドロップアイテムが入った『大袋』がこんなに。俺は『アイテムボックス』を持っているので、買い取り所の隣にある倉庫ではなく、他の場所で開けてみようと思います。買取所の倉庫内は撮影禁止だからね。 日本政府が強制的に買い取るような品が出たら、あとで買取所に持っていけばいいから』


『エスケープ』で地上に、『テレポーテーション』で空中都市フルヤの巨大格納庫へと移動し、そこで手に入れた大袋を開けていく。


『さあ、なにが出てくるかな? おっ! デカイな!』


 大袋の口を縛っていた紐を解いて封を開けた瞬間、目前に巨大な物体が出現したが、あまりに大きすぎて遠ざかって見ないとなんなのかわからないほどだ。


『船? 軍艦?』


『リョウジさん、どうやらこれは古い戦艦のようです。今の時代では時代遅れとされている兵器ですね』


 戦艦。

 それは、第二次世界大戦が始まる前までは最大級の抑止力を持つとされていた戦略級の兵器であったが、第二次世界対戦が終わった頃には、完全に時代遅れとされてしまった。

 戦艦よりも、空母と航空機の時代になってしまったからだ。

 スマホで調べてみたが、現在戦艦を運用している国は存在しなかった。

 アメリカ海軍でも、すでにすべての戦艦が除籍されている。


『それで、この戦艦は?』


『さあ? 俺にも、細かな戦艦の種類なんてわかんねえよ』


『ボクたちも、そこまで兵器に詳しくないからね。わからないなぁ』


『軍艦の写真が掲載されているサイトがあるので、これで確認してみましょう』


『アメリカの戦艦には見えないわね』


 みんなで戦艦と思われる軍艦の上を『飛行』しながら、昔の軍艦を紹介しているサイトの写真と見比べ始める。


『連装砲が四つで主砲が八門。長門か陸奥かな?』


『おっ、剛は詳しいな』


『太平洋戦争で沈まなかった長門は戦後、アメリカ軍が行ったビキニ環礁での原爆実験により沈没。陸奥は戦時中、謎の大爆発により沈没。可能性は高いな』


 この前、日本の戦前の軽巡洋艦川内がドロップアイテムとして出現して大騒ぎになっていた。

 その前にはアメリカで数隻の駆逐艦と、やはり戦前の航空母艦レキシントンがドロップアイテムとなって見つかり、国際的には大きなニュースになっている。

 日本だとまだ兵器というものにアレルギーを持つ人が多いので、それほど大きくは報道されていなかったようだけど。


『昔の軍艦かぁ……。スクラップにした方がお金になるかな?』


 今、鉄は高いからなぁ。

 数万トンの鉄なら、結構高く売れるかも。


『リョウジ、ダンジョンでドロップアイテム化した軍艦って、魔力で動くから便利なのよ。改良すれば、新しい軍艦を作るまでの繋ぎにはなると思う』


 不思議な話で、ドロップアイテム化した兵器は機関が魔力駆動に変化していて、魔石でも魔液でも動かせる。

 アイテム化したおかげか、エンジンや機関部の重要部品がミスリルコーティングされており、燃費もかなり良かった。

 前に、日本政府の依頼で軽巡洋艦川内を見た時、同行していたイワキ理事長が機関部の性能に感心していたほどだ。

 ただ、最新のレーダーや探知機、ミサイルやファランクスが搭載されていないので、現代の戦闘では役に立たないだろう。

 砲塔も復活していたし、弾薬も沈没時に残っていたとされる数を見つけることができたが、やはり火薬ではなく魔石で発射する仕組みとなっていた。

 ただ、火砲だった頃の威力とさほど変わらず、この軍艦が現時点で役に立つのかと言われると疑問だな。


『アメリカ軍なら喜んで購入してくれるかも。アメリカ軍の軍艦は、機関に弱点を抱えていいるから』


 原潜や原子力空母は、まず新規の核燃料が手に入らない。

 大量に所持している核兵器を転用できるのかどうか、技術的な問題は俺も知らないし、もしかしたら機関部の交換をしないと使えないかもしれない。

 他の軍艦や兵器も、ガソリン、ジェット燃料、軽油、重油。

 ダンジョンが出現してから三年ほどで、かなりの備蓄分を使い切ってしまったと、前に西条さんから聞いた。

 アメリカは世界中に軍隊を派遣し、基地を置いているから、燃料の確保に四苦八苦しているそうだ。


『確かに、軍艦の数が多いアメリカ軍は大変そうだな』


『機関部をミスリルコーティング機関に換装しながら、民間用の備蓄燃料を軍用に転用して、どうにかローテーションを維持してるわね。でも、イワキ工業の生産力を考えると、徐々に動かせない兵器が出てくるわね』


 リンダが、アメリカ軍の現状を教えてくれた。

 現在のアメリカ軍は、ダンジョンの影響でその活動が大きく停滞していた……なんてわけにはいかないので、どうにか化石燃料を手に入れて世界中の海を走り回っていた。

 世界中の国の軍隊も……とはいかない国もあり、備蓄燃料がなく、動かないまま港に係留されている軍艦もあるとか。

 原子力空母と原子力潜水艦はしばらくいいとして、石油から作るジェット燃料を使う航空機、軽油や重油などで動くディーゼルエンジンを搭載した戦車や戦闘車両、同じく軽油や重油で動くガスタービンを搭載した艦船などは、備蓄していた燃料がなくなればただのクズ鉄だ。

 魔液を使う手もあるが、機関部の重要部品をミスリルコーティングしていなければ、燃費が数十分の一にまで落ちてしまう。

 元々兵器は燃費が悪いのに、そのまま魔液を燃料として使っても、従来の活動量は維持できなかった。

 そんなに簡単に、世界中の国々が所有している兵器のエンジンや機関部を、重要部品をミスリルコーティングしたものと交換できるわけがない。

 現状では、イワキ工業か俺しかその技術を持っていないのだから。

 特に日本は、最近ようやく防衛予算の増額が認められたぐらいなので、これまでは民間の備蓄燃料まで流用して、どうにかしのいでいたくらいだ。

 まあ日本人は、安全は無料だし、平和憲法があれば絶対に戦争は起こらないと思っている人が一定数いるから、防衛費の増額なんてけしからんという人が結構おり、田中総理もかなり苦労しているらしい。

 ただ、その分民間では魔液の利用が進み、今では石油由来の燃料は研究用として一部が残るのみとなってしまった。

 日本の場合、世界で唯一ミスリルメッキの技術を持つイワキ工業があるので、燃費のいいエンジンと機関の普及率が高く、ダンジョン大国なので魔液が手に入りやすいというのもあったのだけど。

 この数年間で、世界中から石油由来の燃料はほぼなくなった。

 備蓄石炭を液化して凌ぐ国もあったが、それをすると他の産業に回す余裕がなくなり、さすがにもう限界だったのだ。


『しかしながら、この戦艦を見つけた富士の樹海ダンジョンは日本の国土なので、この船は日本政府に売るしかないな。戦艦くらいの大きさがあれば、 それなりに使えるように改良できるのかな?』


『ドロップアイテム化した軍艦の主砲や機銃も魔銃化しているけど、性能は火砲だった頃と大して変化はないみたい』


『それって、使えるのかな?』


 ミサイルとかで、すぐに沈められてしまいそうな気がする。


『そこは改良次第でしょうし、日本政府に売却するしかないので、あとは向こうにお任せするしかありません』


『それはそうだ。長門か陸奥がドロップアイテムとして出ました。明日、買取所に持って行きます』


 他にも沢山大袋があるので開けてみると、次々とビンテージものの軍艦が出てくる。

 戦没して海底に沈んでいたのに、ダンジョンに吸収されてドロップアイテムにされてしまう。

 せっかくの眠りを妨げられて可哀想だが、俺は冒険者なので宝箱が出たら本能で開けてしまうし、ドロップアイテムを元々沈んでいた海底に戻すほどセンチメンタルでもない。

 宝箱の中になにが入っているかなんて誰にもわからないから、悪いと思いようがないのだ。

 そして、手に入れたお宝は売ってお金にする。

 それが冒険者という生き物なのだから。


『これは空母? 『赤城』だと思います。まるで、連合艦隊シリーズの軍艦ガチャを開けているみたいです』


 大袋の中から、次々と昔の軍艦が出てきた。

 やはり富士の樹ダンジョンの七千階層ともなると、レアアイテムが手に入りやすいようだ。

 レアアイテムだからといって、必ずしも使い勝手がいいものが出るという保証はないのだけど。


『リョウジさん、これは重巡洋艦『 鈴谷』に似ていますわね』


『戦艦だ。さっきよりも小さいから、これは『金剛』かな? いや、『比叡』? 『霧島』? 同型艦はわかりにくいね』


 大袋を開けると、中から古い軍艦ばかり出てくる。

 俺たちからしたらもっと他のものが欲しいのだが、こればかりはどうしようもないか。

 スマホで軍艦の情報を調べてみるが、どうやらドロップアイテム化しているのは、海底に沈んでしまった軍艦ばかりのようだ。

 戦後解体された軍艦は、ドロップアイテム化していない。


『(財宝と同じ理屈みたいだな)加賀を手に入れた』


『リョウジ、こんなに沢山あったら、日本政府も持て余しそうね』


 機関部だけ流用して、あとはクズ鉄として再利用すればいいような気もするが、戦艦を見ているともったいないような気もする。

 だが現代において、戦艦の主砲がなんの役に立つのだという意見もあるわけで。

 空母も、航空機が搭載されていなければただの鉄の箱という話もある。

 とにかく、日本政府に押し付けてお金を貰った方がいいな。

 いや、面倒臭いから物納して、現金での納税額を少なくするかな。


 なお、この様子を動画であげたらかなりの視聴回数を稼げたので、もし軍艦が日本政府に没収されても我慢できる。

 古い軍艦なんて手に入れても持て余す……空中都市があるから維持はできるから、最悪どこかの港にでも展示して、お金でも稼ごうかな。

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