第128話 埋蔵金のロマンが消える
『みなさん、ついに我々は徳川家の埋蔵金を発見することに成功しました! この山の中腹に掘られた洞窟を掘り進めること半年! 超音波探知機で発券した山の地下にある広大な空間。そこに大量の大判、小判が眠っていることは確実なのです!』
「リョウジ君、埋蔵金だって! 凄いよね。ロマンがあるよね」
「うーーーん」
「ボクは、埋蔵金ってロマンがあっていいと思うけど、リョウジ君は違うの?」
「ホンファさん、私たち日本人は子供の頃から定期的に、徳川幕府が残した埋蔵金のニュースを聞いてきましたが、これまでそれが見つかったことは一度もないのです」
「そうなんだ。でも、でも海外では『パスクトクガワーナ』として評判の高い徳川幕府が残した財宝って言われると、なんかありそうな気がするじゃん」
「二百六十年以上も反政府勢力が出現することなく平和な時代を過ごせたということは、徳川幕府が過酷な搾取をしていなかった証拠ですし、実は徳川幕府って定期的に財政難に陥っていたので、埋葬する財宝なんてなかったという説も聞きます。第一そんな埋蔵金があったら、明治政府を開いた薩摩藩や長州藩ともう少し戦えていたのではないでしょうか?」
「綾乃は歴史に詳しいな。さすがは公家の出。俺もそんな気がするんだ。昔の日本のテレビでは、よく徳川家の埋蔵金の話をやっていたらしいけど一度も見つかったなんて話は聞かないし、最近はその手の番組をやることもなくなってしまった。実は財宝なんてないんじゃないの?」
「リョウジ、じゃあこの動画は?」
「インセンティブ目当て? でも、真面目に探してはいるのか……」
「財宝探しの動画配信者は、海外では割といますわよ。ただ……」
「イザベラ、ただなんなの?」
「最近、まったく振るわないそうですが」
「最近? あっ!」
今日はお休みなので、裏島にある屋敷で休みつつ、イザベラたちと他の動画を見て研究というか、ただ寛ろいでいるだけとも言う。
空中都市へ古谷企画の本社を移す計画だが、作業はプロト1と黒助がやってくれるというし、空中都市の機能に問題はないけど、そこで便利に生活するのに少し時間がかかるそうなので任せていた。
プロト1と黒助に任せておけば、ちゃんとやってくれるから、俺たちは待つだけだ。
なお、剛は婚約者とどこかに遊びに出かけている。
俺たちは裏島の屋敷で動画を見ながらお菓子をつまみ、ダラダラとした時間を過ごしているけど、最近日本では徳川家の埋蔵金を探している人たちの動画が大変人気だと聞いたので、参考になるかもと思って見ていた。
今見ているのが、ちょうど昨日更新された最新の動画で、ついに財宝のありかを見つけたと動画で報告している。
赤城山の近くにある小さな山の地下に謎の空間があるのを最新の超音波探知機で発見し、さらに山の中腹に謎の洞窟も見つけたと、興奮した表情を声で報告していた。
洞窟の奧から真下に掘り進めていくと、その巨大な地下空間に到達できる計算だそうで、動画配信者たちが懸命に掘り進めている様子も映し出される。
そしてついに昨日、その地下空間に到達する直前というところで動画が終わっていた。
いよいよ、待望の財宝が見つかるか?
その結果は明日!
テレビ番組でもよくある展開だけど、ギリギリまで視聴者を惹きつけて視聴回数を増やしたいんだろう。
「『お楽しみは明日の動画で!』と引っ張る典型的な視聴回数稼ぎって、今の時代に合わないんじゃないかしら?」
「そう言われると、俺もそんな気がしてきた」
俺もリンダの意見に賛同した。
今の人たちは、ドラマでもアニメでもバラエティ番組でも漫画でも、間延びした展開を嫌がる。
時間が勿体ないと感じるからだ。
だから短く編集された動画が人気で、俺のダンジョン攻略動画も、今は短時間バージョンをプロト1が編集して公開しているぐらいだからな。
攻略情報を得たい冒険者や、ファンになってくれた人は、これまでどおり長い動画を視聴してインセンティブに貢献してくれているのだけど、短時間で楽しみたい人はダイジェスト版の方がいいとプロト1が言うので、『切り抜き動画』のチャンネルも増やしていた。
チャンネルを増やしたのはプロト1だけど。
「謎の洞窟の奥に本当に財宝があるのか、わざわざその直前で動画を終わらせてるということは、実は財宝が見つからなかったのかもしれないわ」
「それはありそう」
そもそも、本当に徳川家の埋蔵金が見つかっていたら、今頃大々的なニュースになっているはずだ。
もし本当に山の地下に巨大な空間があったにしても、財宝なんてなかったんじゃないのかな。
「リョウジさん、さっき『あっ!』って、なにか思いついたように仰っていましたが……」
「ああ、世界中のトレジャーハンターの成果が振るわないって話。実は根拠があるんだ」
「根拠ですか?」
「ダンジョンが出現して、この世界から油田、炭田、ガス田、鉱山なんかが消えたでしょう?」
実は向こうの世界でも提唱されていた学説なのだが、大昔、向こうの世界にも油田、炭田、ガス田、鉱山が存在した跡を考古学者たちが発見しており、消滅したエネルギーや資源はダンジョンに移動しただけなのではないかと発表していたのを思い出した。
「エネルギーと資源の大半が、ダンジョンに移動ですか?」
「エネルギーは魔石に、資源は鉱石としてダンジョンでドロップするか、モンスターの素材になっているんじゃないかってね」
「向こうの世界で、その学説は立証されたのでしょうか?」
「その学説を唱えたのは若い学者たちで、そのころは魔王の脅威も深刻だったから、それどころではなくて正式には認められていなかった」
綾乃の問いに俺は答える。
世界は違えど、若い学者たちの学説が年老いた学者たちによって否定されるなんてよくある話だ。
「ですがその学説は、まったく矛盾していませんね」
「そうなんだよ。で、世界中に隠してあったり、沈没した船が搭載していて海底に沈んだ財宝が発見されなくなったということは……」
「資源と同じく、ダンジョンに吸収されてしまった可能性が高いのですね」
「多分そうなっていると思う」
「良二様、ではこの動画配信者たちは……」
「『地下の巨大な空間は見つかったけど、財宝はありませんでした』という結論に至ると思う」
「そうですか……」
綾乃が、動画に映る配信者たちに対し同情的な視線を向けた。
これまでの苦労が、すべて無駄になったかもしれないと思ったからだ。
そして翌日、徳川家の埋蔵金を探していた動画配信者たちの最新の動画が公開されたのだが……。
『ついに我々は、巨大な地下空間に到達することに成功しました! ここに徳川家の埋蔵金が……ないぃーーー!』
動画に映し出された巨大な空間には、俺の予想どおりなにもなかった。
ただっ広い空間が広がるのみで、彼らはそこに立ち尽くすのみだ。
そしてそんな様子もちゃんと撮影しているので、これは動画配信者あるあるかもしれない。
『なっ! なんで? ここに徳川家の埋蔵金があるはずなのにぃーーー!』
見つかると思っていた埋蔵金が見つからず、動画配信者たちはこれまでの苦労が全て水の泡になったからであろう。
気の毒なほど取り乱して絶叫していた。
「よく見ると、この巨大な地下空間は周りを岩やコンクリートで固めていない。だからダンジョンに持っていかれた可能性もあるな」
「持っていかれたですか?」
「そうだよ、綾乃。人工的な素材で覆った地下空間に仕舞っておけば、そこに入っていた物がダンジョンに盗られる心配はないはずだ」
「不思議な現象ですが、もしかしたら今後色々なことが判明して世界が混乱するかもしれませんね」
「かもなぁ……。なんも考えないで地面になにか埋めてしまった人は大変……いや、かえてっよかったなんて人もいるかも」
「埋めていたものがダンジョンに盗られちゃって、よかったなんて人がいるの?」
「リンダ、それがいるんだな」
ようやく徳川家の埋蔵金が隠してある可能性が高い地下の巨大空間に到達したのに、なにもなくて絶叫した動画配信者たちは、その後 その動画がバズって世界的に有名になり、テレビ番組などに出演して、これまでにかかった経費を回収できたようだが、残念ながら世界中で考古学者やトレジャーハンターという仕事が消滅する発端となった。
なぜなら……。
「……リョウジさん、これは……。このところ、あきらかにドロップアイテムが変化しましたよね?」
「リョウジ君、こ、これはなにかな?」
「ええと……マッサージをする機械でしょうか?」
「……剛、イザベラたちに教えてあげてよ」
「良二は俺を、セクハラ疑惑でこのパーティーから追放したいのか?」
「いやあ、そのぅ……」
「リョウジ、この、スイッチを入れると『ブーーーン』って言うのはなにかしら?」
「……マッサージの道具です」
徳川家の埋蔵金を見つけられなかった動画が公開されてから一週間後。
今日は週に一度、イザベラたちと富士の樹海ダンジョンで記録更新とレベリングを続けていたのだけど、ドロップアイテムに不思議なものが混じるようになった。
それはあきらかに大人の玩具で、魔力で動き、スイッチを入れると『ブーーーン』って言いながらウネウネと動くやつだ。
〇イブとも言う。
イザベラたちはこれがなんなのかわからず……わかってしまうのもどうかと思うので、それはいいんだけど……俺と剛は恥ずかしくて穴があったら入りたかった。
俺たちのものではないというのに……。
とにかくこれがなんなのか、イザベラたちに説明するのが嫌なのだ。
「うーーーんと。徳川家の埋蔵金と同じだな」
「ああ、直接地面に埋めた物がダンジョンに吸収されてしまうって話だな。この前、イザベラたちから聞いた」
あの日、剛は婚約者と遊びに出かけていていなかったからな。
イザベラたちが、俺が話した話を剛にも教えたのだろう。
「地面というか、土や砂、岩などの自然物を経由して、埋まっていたり、捨ててあったものがダンジョンにされ、それがこうしてドロップアイテムとして復活したんだと思う」
埋蔵品や、海底に沈んでいた沈没船のお宝などは当然として、埋まっていた大昔の埋蔵品がダンジョンによって修復され、ドロップアイテムとして出現するようになったという話を聞いた。
だが、考古学者が世紀の大発見だと喜ぶような埋蔵品は、特定の地域と地層で出土しなければ価値がない。
ましてやドロップアイテム化する際に、ダンジョンによって新品にされてしまう。
今後、地面を掘っても遺構くらいしか発掘できなくなった考古学者たちは涙目だろう。
縄文式土器の新品がドロップアイテムとして手に入ったとして、考古学的な価値はゼロに等しいからだ 。
もしドロップアイテムとして元発掘品を手に入れた人は、それに美術的な価値があることを祈るしかない。
実際、価値がなさそうなドロップアイテムに限って、低階層で手に入ると聞いていた。
ダンジョンに吸収されてからドロップアイテム化したアイテムの中で、以前よりも価値が高くなった品もあった。
たとえば、地面に埋まっていた粗大ゴミや産業廃棄物の類だ。
古い廃車やバイクが新品の状態になり、魔力で動くようになって見つかるなんてケースもあり、ガワはビンテージものの古い車なので、結構な値段で売れたというニュースで見た。
粗大ゴミとして埋められた、家電などもそうだ。
新品となり、魔力で動くようになったので、これもそこそこの値段で売れると聞いている。
ただ、古い家電は性能や機能が最新家電に比べると低いので、ビンテージ的な価値が認められないと、そこまで高く売れない。
低い階層で見つかるケースが多いかな。
ただ、ドロップアイテムには運の要素があるので、今回のようになぜか安物の〇イブが富士の樹海ダンジョンの深い階層で見つかるケースもあるのだ。
「これは、ある意味レアなのか?」
「そうなんだろうか……」
〇イブの正体を知る俺と剛は首を傾げる。
「肩に当てると、肩こりに効ぅーーー」
「ウー、 それを人前で使わない方がいいぞ」
「タケシ、どうして?」
「それはだな……」
剛の目が泳ぎ俺に向かうが、自分が言いだしっぺなんだから最後まで説明してあげればいいと思う。
俺は、彼から目を反らした。
「ねえ、どうして?」
「おっと、休んでいる暇はない! 探索を続けよう!」
「誤魔化された感があるなぁ……」
〇イブの正体を教えてもらえなかったホンファは不安そうだったが、今日は週に一回の俺とのレベリングの日だ。
時間が勿体ないのは確かなので、ホンファは魔力で動く〇イブを『アイテムボックス』に仕舞ってモンスターとの戦闘を再開した。
そして今日はこれでもう終わりにしようという時間、最後に倒したモンスターが宝箱を落とした。
「あっ、これは……」
「紫色の宝箱ですね」
「大きいものが入っているのか? 沢山入っているのか?」
モンスターを倒したりダンジョン内で見つかる宝箱は、主に木や金属でできたRPGなどでよく見かけるものとそっくりだ。
だが唯一例外があって、紫色の宝箱にはその大きさ以上のドロップアイテムが入っている。
ドロップアイテム化した車などは、当然普通の宝箱には入らない。
紫色の宝箱に入っているのだが……。
「リョウジ君、罠はないね」
『盗賊』のジョブはないが、高レベルになったホンファは罠の発見と解除が得意になっていた。
早速紫色の宝箱を調べ、今回は罠がないことを確認する。
「罠がないってことは、それほど重要なアイテムが入っていない可能性が高いわね」
「ドロップアイテムは運次第だから仕方がないわよ。ホンファ、開けるわよ。せーーーの」
リンダとホンファが宝箱を開けると、そこには古い木でできた箱が入っていた。
その作りは古く、しかもどこかで見たことがあるような……。
「リョウジ、これ千両箱じゃないかしら? 昨日見た時代劇に出ていたわよ」
アメリカ人だからか。
リンダは最近、日本の時代劇にハマっており、宝箱に入っている箱が千両箱であることに気がついた。
紫色の宝箱の中に、その千両箱がみっちりと入っている。
宝箱から取り出して中身を確認すると、そこには大きな小判……大判か……がビッチリと詰め込んであった。
「リョウジ、まさしくお宝だけど、どうして紫色の宝箱に入っているのかしら?」
「千両箱が沢山入っているのではないですか? 今見える部分を全部取り出してみればいいんです」
綾乃の意見に全員が納得し、紫色の宝箱に入っていた千両箱をすべて取り出す。
これで終わりかと思ったら、またすぐに紫色の宝箱の中が千両箱で埋め尽くされてしまった。
中身が大量の千両箱だから、紫色の宝箱だったのか。
「なるほど。ドロップアイテムは大量の大判が詰まった千両箱が沢山なんだ」
以後はみんなで、宝箱の中に入っている千両箱を取り出す作業をリレー形式で続けた。
何度宝箱の中の千両箱全部取り出しても、すぐに宝箱の中はすぐに千両箱で埋め尽くされてしまう。
しばらく宝箱から千両箱を取り出す作業を続け、ようやく宝箱の中が千両箱の中で埋め尽くされることがなくなった。
空になった宝箱は、その場から消え去ってしまう。
ダンジョンに設置されている宝箱ではなく、モンスターがドロップする宝箱は、中身を取り出すと消滅してしまうのだ。
「……リョウジ、まさに大判、小判がザクザクね」
時代劇が大好きなリンダは、初めて見る本物の大判に喜んでいた。
「良二、この大判は『慶長大判』だな。多分、この大量の千両箱に入っているのは全部そうなんじゃないのか?」
「へえ、詳しいんだな」
剛が、大判の種類に詳しいとは意外だった。
歴史好きなのだろうか?
「いや、最近婚約者と、徳川家の埋蔵金を探している動画配信者の動画を見ていてな。徳川家の埋蔵金の中に入っているのではないかと言われている大判小判を紹介していてな。別に俺はそこまで大判小判に詳しくないさ」
「ああ、あの動画ね……」
「なんだ。良二も見ていたのか」
真面目に探していたから俺たちも見ていたんだけど、まさかあんな結果になってしまうとは……。
「しかし、大量の慶長大判かぁ……」
「リョウジさん、もしかしたら……」
「あっ、ボクもイザベラと同じようなこと思った」
「私もです。それに、この大判の量です。これから正確に数を数えるとしても、これだけの数の大判が見つかるということは……」
「徳川幕府の埋蔵金が、 赤城山近くの山の地下からダンジョンに吸い上げられ、ドロップアイテムになって今出てきた可能性が高いわね」
「他にないだろうな」
「でも、他にも埋蔵金伝説は沢山あるんだ。それかもしれないじゃないか」
「いやあ、この量だとなぁ……。実際に数えてみればいいじゃないか」
「そうするか」
俺たちはダンジョンから裏島へと移動し、持ち帰った大量の千両箱を開け、中の大判を数え始めた。
「これは、 天正大判金だな。だが数がとても少ない。大半は慶長大判で、枚数は……」
ゴーレムたちにも手伝わせ、手に入れた大判の枚数を数えると、なんと四百二十五万三千五百六十七枚あった。
大半が慶長大判であり、となると四百二十五万三千五百六十七両ということかな?
現在の金額に換算するといくらになるのか想像もつかない。
「六等分すればいいか」
「リョウジさん、私たちはそれでいいかもしれませんが、あとで色々と問題になるような気がしますわ」
「でもさぁ、埋蔵金って国の土地や誰かの土地から見つかると権利関係が複雑で面倒くさいけど、これってダンジョンの中で見つかったものだから、手に入れた人たちがあとで税金を払えば済む問題だと思うよ」
「普通に考えればそうなんですけど、これからドロップアイテムで世界中で噂されていた埋蔵金が手に入った場合、世間で大騒動が起こるような気がします」
「見つけた者勝ちじゃないの?」
「土中や海底で財宝を探すのは難しいと思うが、ダンジョンだって同じだし、なにより命がけだからな。法的な取り扱いも全然違うぞ」
ダンジョンの所有者は入り口がある国だと、世界中で急ぎ法律が制定されている。
ただ、ダンジョンで成果を得るのは命がけなので、ダンジョンで手に入れた品の半分はダンジョンを所有している国に権利がある、ということは少なくとも先進国ではない。
その代わり冒険者は、ちゃんと税金を払わないといけないけど。
「ただ、文化財保護法の規定があるかなぁ……」
「あったな、そんな法律」
ダンジョンで手に入るものと、埋蔵金の扱いは似ていなくもない。
そこで俺も、空いている時間に法律を調べていたのだが、もし今日見つかった大量の大判が徳川家の埋蔵金だと認定され、文化的な価値があるものだと国から認定された場合、所有権を取得できないケースがあるらしい。
「この場合、5パーセントから20パーセント相当の謝礼が貰えるらしいけど……。でもなぁ、あの動画配信者たちが見つけた山の地下にある巨大空間で見つかれば、徳川家の埋蔵金だと認定されるかもしれないけど、これはあくまでもドロップアイテムだからなぁ……」
ダンジョンで見つかった大判が、徳川家の埋蔵金だという証拠がない。
慶長大判だからといって、必ずしも徳川家の埋蔵金だという保証がないからだ。
「とりあえず、西条さんと東条さんに相談してみよう」
「それがいいですわね」
「ボクも賛成!」
「まあ、最悪国に没収されてしまったとしても、私たちは特に困らないので」
「あっ、でも。慶長大判一枚くらいは欲しいかも。大判って、金貨と違ってロマンがあるから」
「俺も一枚欲しいな。額縁に入れて部屋に飾りたいんだよ。そのくらいは貰えるだろう」
見つかった大量の慶長大判が徳川家の埋蔵金かどうかわからないけど、俺は急ぎ東条さんと西条さんにこのことを報告した。
するとすぐに見たいというので、一部を持って自宅マンション兼古谷企画の本社へと向かった。
フルヤアドバイスからやってきた二人は、俺がアイテムボックスから取り出した千両箱と、その中に詰まった慶長大判を見て、なんとも言えないような表情を浮かべていた。
「これが徳川家の埋蔵金かどうか、確認することは事実上不可能ですね」
「では、これは純粋なドロップアイテムという扱いでよろしいのでしょうか?」
「それがイザベラさん。必ずしもそうなるという保証はないですね」
「えっ? どうして? ボクたちは富士の樹海ダンジョンでモンスターを倒して、そいつがドロップした宝箱に入っていたものなんだけど」
西条さんの言い分に、ホンファが反論をした。
「証拠はありますよ」
「ちゃんと動画も撮影しているからね」
最近、俺たち六人でダンジョンを攻略する様子を動画で撮影し、それをそれぞれの動画チャンネルで公開するようになっていた。
多数のドローン型ゴーレムを用い、俺の動画チャンネルなら俺視線の動画を、イザベラの動画チャンネルならイザベラ視点の動画を更新している。
一回の撮影で六つの動画が作れ、それぞれがインセンティブ収入を得ることができるので、とても効率よくお金を稼ぐことができた。
撮影用に稼働させているドローン型ゴーレムがたまにモンスターに壊されてしまうのが難点だが、俺なら簡単に作れるものだし、大した出費でもないので大儲けだった。
やはり、美少女たちがモンスターと勇ましく戦う光景というのは、多くのファンを魅きつけるらしい。
「法よりも、人間の情がこの問題をややこしくするんですよ。実際、徳川家の埋蔵金を探していた人たちからすれば、せっかく見つけた巨大空間に肝心のお宝がなかったのです。ダンジョンのせいだと言われても、古谷さんたちが横取りしたような印象を受けるはず。そして、古谷さんたちはすでにお金持ちです」
「最近、『格差を広げる冒険者』というフレーズで批判を繰り返している人たちが多いですから、彼らがマスコミなどを焚きつけた場合、問題が複雑化する可能性があります」
「というわけでして、私たちが密かに日本政府や関係各省庁に報告しておきますので、しばらくはこの件を公言しないでください」
「わかりました」
西条さんと東条さんは、俺たちに大量の慶長大判が見つかった件を公言するなと口 止めしてから、マンションを出て行った。
急ぎ官邸にでも行くのだろうか?
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