第126話 本社移転
「今から私は黒助です。では、これを」
ムー文明の遺産である空中都市を守っていた黒助との戦いに勝利した俺は、彼?から、首にかかっていたペンダントを渡される。
「首にかけてから、『出ろ!』と念じるだけです」
「意外と簡単なんだな……(出ろ!)」
空中都市が収納してあるペンダントを首にかけ、しばらくすると、突如空が暗くなった。
慌てて空を見上げると、ムーネリア島の上空には巨大な物体が浮かんでおり、あまりの大きさにその全容が把握できない。
空中都市なのだから、大きくて当たり前か。
「ムー王国の首都である空中都市です。ですがムーネリア島同様、マスターの所有物となったので、名称を変えることは可能です」
「じゃあ、島は『フルヤ島』で。このこの空中都市は……詳細を知ってから名前を決めよう」
「では、空中都市に入りましょう」
黒助がそう言った直後、俺たちは上空に浮かぶ巨大な空中都市から光を照射されたかと思ったら、そのまま空に浮かび上がり、ハッチが開いたわけでもないのに空中都市の内部に吸い込まれた。
「どこか入り口が開いたわけでもないのに、どうやって空中都市の内部に入り込めたんだろうね? 不思議だ」
「ホンファ様、すべてムー文明の超化学のおかげです。まずは、空中都市全体をコントロールしている司令室です」
魔法で『テレポート』している感覚だが、瞬時に空中都市の様々な場所に移動ができるのも、ムー文明の超科学のおかげってわけか。
多くのスクリーンとパネルが設置された司令室のような部屋へと案内されると、早速黒助がスクリーンの一つに空中都市の全体図を映し出した。
「円盤? 空中都市というよりは宇宙船なのか?」
「重力下での移動や、大気圏からの離脱。宇宙空間での航行や、恒星間移動も可能です」
「すげえな。まさにSFだぜ」
「剛様。ムー人ははるか宇宙の彼方にある滅んだ故郷の惑星から、地球へと移民してきた、いわゆる宇宙人の子孫だったのです」
だから、優れた科学技術を持っていたのか。
故郷であった惑星の滅びに巻き込まれることがなかったが、まさか異世界に飛ばされた影響で滅んでしまうとは皮肉な話だ。
「アトランティス人もそうなのか?」
「いえ。最初ムー人は、大陸の中で非常に原始的な生活を送っていた彼らに様々な化学技術を供与したのですが、次第に慢心し、自分たちが住む大陸の西側にある大陸を完全に征服しようと野心を露わにしました。ムー人は侵略をやめるようにと忠告したのですが、それに怒ってしまって一気に関係が悪くなったのです」
だからムー王国は、かなりの軍備を持っていたのか。
「ちなみに、アトランティス大陸はこの位置です」
黒助が地図で示した場所は、大西洋のど真ん中にあった。
確か、アトランティス大陸はムー大陸よりも信憑性があるという話を聞いたことがあるが、ムー人に提供された超科学を用いたものが出土したという話は聞いたことがない。
アトランティス大陸も、ムー王国と同じく別の世界に飛ばされてしまったのであろう。
「ムー王国が異世界に飛ばされた余波で、アトランティス大陸も別世界に飛ばされてしまったのかもしれません。仮想敵国ではありますが、悲しい話ですね」
共に、異世界に飛ばされたからという理由で滅んでしまった。
いくら優れた科学技術を持っていても、災害には無力ということもあるのか。
「この空中都市ですが、直径五十二キロ、全高二キロの円盤形をしており、国民たちが住む都市エリア、生活に必要な物資やエネルギーを生産する生産エリア、防衛基地や兵器の生産工場は置かれた軍事エリア、そして今私たちがいる中枢エリアと四つに分割されています。当然私がしっかりと管理していたので、異世界に飛ばされる前の完全な状態を維持しています」
黒助が、スクリーンで空中都市の各所の映像を見せてくれたが、人間がいないだけで完璧に稼働しているのか凄かった。
ただ、無人の都市というものは見ていて空しいものだな。
「優れた都市ですね。ムー人は人口はいかほどだったのでしょうか?」
「イザベラ様、およそ百万人です。元々ムー人は多産ではありませんから」
医療技術も発展していたから、昔みたいに子供を沢山産むことはなかったのか。
平均寿命も高そうだし、女性の社会進出も活発そうなので、子供を沢山産まなくても問題ないのだろう。
今の先進国のような状況だったのかも。
「一方 アトランティス人も、科学技術の発展により少子高齢化が進んでいましたが、それでも二億人ほどの人口がありました。ムー王国としてもこれに対抗するため、必要な軍備を整える必要があったのですが、軍は常に人手不足でした。そこで、ゴーレムたちを兵隊にする必要があったのです」
そのゴーレムや兵器類がモンスターとなって、俺たちと死闘を演じたわけか。
「今、保管されていた予備の資源やエネルギーを用いて、減ってしまったゴーレムと兵器を回復させています」
スクリーンの一つには、ゴーレムが作業する兵器工場の様子が映し出されていた。
ダンジョンでモンスターにしたので減ってしまった、空中都市の防衛戦力を回復させているのか。
「急いで回復させる必要ないんじゃない?」
「ですがリンダ様。すでにこの空中都市は、いくつかの他国が派遣した衛星、艦船、航空機。それも軍用と思われるものに監視されています」
スクリーンの中には、偵察機や軍艦の映像が映っていた。
大半がアメリカ軍で、一部自衛隊と、中国、ロシア、ヨーロッパ各国が飛ばしてきた偵察機だと思う。
「アメリカは……。これ、とても扱いが難しいわね。どうしようかしら」
「なるようにしかならないな」
剛がリンダに諦め口調で言う。
まさか、 大昔に滅んだ超科学文明の遺産である、巨大な円盤型宇宙船が管理していたゴーレムごと俺のものになるとは思わなかったからな。
これは、西条さんと東条さんが大変そうだ。
「リョウジさん、こうなったらここに引っ越して暮らせばいいのでは?」
「ああっ! その手があるな!」
百万人もの人たちが住んでいた都市があるのだから、そこに古谷企画の本社兼自宅を移せばいいのか。
管理は黒助がしてくれるだろうから、俺たちは資源だけ手に入れればいいはずだ。
「良二様、エネルギーは足りるでしょうか?」
「そこが一番問題かも」
なにしろ、直径五十キロを超えている宇宙船だ。
浮いてるだけでも膨大なエネルギーを使っているだろうから、空中都市を維持するのは大変かもしれない。
「エネルギーはさほどでも。この空中都市は、ブラックホール機関と水を用いた核融合炉でエネルギーが潤沢に供給されています。それに空中に浮かぶだけなら、反重力システムを使えば省エネも可能ですから」
「そうなんだ……」
空中都市は、黒助のペンダントの中に入っていた影響で魔力駆動に改良されていなかったのか。
俺たちがダンジョン内で倒して『アイテムボックス』に収納しているゴーレムや兵器の残骸は、ダンジョンの影響を受けて魔力で動くようになっていたけど。
「ええっ! ム―王国はアトランティス共和国とは違って、常に環境に配慮していますから」
「そうなんだ……(そこは強調するんだ)」
数万年前の超科学文明でも、環境問題がクローズアップされていたんだな。
でも人口百万人ほどで、化石燃料をまったく使わないムー文明ってエコだったんだと思う。
「空中都市は無事に稼働を再開したので、マスターはそこに住んでください。お願いします」
「しばらくは、フルヤ島のダンジョン攻略と動画撮影に全力を傾けるから全然問題ないけど、それが終わったら富士の樹海ダンジョンのアタックを再開するから通勤が大変そうだな」
俺には『テレポーテーション』があるからいいけど、イザベラたちの移動をどうしたものかな。
「それでしたら、この空中都市とマスターの部屋なりお屋敷との間に『ゲート』を置きましょう」
「ゲート?」
「ええ、ゲートとゲートの間を一瞬で移動できる交通システムです。この空中都市には多数設置されていますので、それほど珍しいものではありませんよ」
魔法じゃなくて、科学の力で物質を瞬間移動させることができるとは。
さすがは超科学だ。
「黒助、残念ながら今の科学技術では、ゲートを作ることができないんだ」
「それは知りませんでした。人類は科学の英知を衰退させてしまったのですね」
ムー人とアトランティス人がいた頃の世界って、かなり原始的だったと思うから、それなりに進歩はしていると思うんだよなぁ。
「あっ、でも。ゲートは誰でも自由に使うことができるから、今のところはちょっとセキュリティに問題があるかもしれないな」
突如太平洋のど真ん中の上空に直径五十キロを超える大型の円盤が出現し、それがムー文明の遺産である空中都市で、ダンジョンでボスモンスターになっていた管理人、黒助を倒したことで俺が手に入れたこと。
黒助の案内で空中都市の様子を撮影した動画が、編集が終わり次第順次俺のチャンネルで更新され続けているため、今頃世界中が大騒ぎになっているはずだ。
剛は、この空中都市を手に入れようと騒ぎ始める国、組織、企業、人間が、ゲートを通じて勝手に入り込むことを恐れているのだろう。
「剛様、ご心配なく。ゲート利用できる人間を登録することが可能なので、それ以外の人間がゲートに入っても、移動することはできませんから」
「はへぇ、便利なんだな」
「じゃあ、まずは俺のマンションの部屋と……裏島の屋敷にもゲートは設置できるのかな?」
「大丈夫です。科学的なアプローチではなく、マスターは、魔法的なアプローチで別空間に居住空間を作り出せるのですね。実に興味深い。今後研究したいので、是非魔導技術とやらのレクチャーをしてください」
「黒助は研究も可能なのか」
「はい。私はAIなので感情がありませんし、ゼロからなにか新しい発明をすることはできません。ですが、ムー文明の超科学とマスターが提供してくれる魔導技術を参考に、同じ系統の改良技術を開発することは可能です」
AIは人間のように、極一部の天才が思いつくような突拍子もない新技術をゼロから開発することは不可能だが、すでにある技術を改良、発展させていくことは可能なのか。
黒助とプロト1を協力させると、もっと面白いことになるかも。
「ゲートですが、こちらお持ちください」
黒助がそう言うのと同時に、突如なにもないところからドアくらいの大きさの枠が現れた。
「ゲートです」
セラミック系の素材でできたドア大の枠と、置いても倒れないように足がついているだけだ。
瞬間移動ができる装置なのに、機械のようなものが一切見当たらないのが不思議だった。
「ゲートもそうですが、ムー文明は資源を掘り起こして地球環境を悪化させることを嫌い、ケイ素と一部レアメタル、レアアース、宇宙で採取した地球にはない資源を組み合わせたセラミック材が多く用いられる文明ですから」
「この空中都市もそうなのか?」
「はい。ゴーレムや兵器類もそうです。機械は多くの金属資源を使うので、ナノコンピューターをセラミック材に組み込んで作られたものが多いですね」
まるでSFの世界だな。
イザベラたちも、まったく理解が及んでいないようだ。
「明日から追々やっていこうと思う。 黒助、下の島と空中都市を頼む」
「わかりました。随分とこの空中都市を探っている存在が多いようですが、姿を消した方がよろしいでしょうか?」
「いや、この大きさの物体が透明でいると、間違ってそこに衝突してしまう航空機が出てしまうかもしれない。俺が発見して所有したことを動画で宣言したから、手を出す国や組織はいないはずだ」
「まあ、どうせ空中都市の中には入れないので問題はないのですが。攻撃される可能性も考慮しましたが、探知した飛行機が搭載している武器では、この空中都市に傷一つ付けられないので問題ないと思います」
空中都市は円盤型でその表面がツルツルしており、すべての設備は内部にあって、黒助が許可を出した人しか入れないようになっている。
俺たちが留守中、勝手に入り込もうとしても徒労に終わるはずだ。
「念のため、もう一つ保険をかけておこうと思う。まさか世界中の人たちの目がある中で、勝手に入り込もうとする人はいないだろう」
「マスター?」
「なあに、とても簡単なことさ」
俺たちは、勝手に他の人が空中都市に入らないように対策を立ててから、自宅マンションへと戻った。
早速パソコンを開いて俺のチャンネルを開いてみると、そこには『24時間生中継! 空中都市『フルヤ』!』という動画がアップしてあった。
「さすがはプロト1。実に仕事が早い」
「視聴数も稼げていますからね。実にいい方法だと思います」
なんのことはない。
無人の空中都市に勝手に他人が入り込まないよう、空中都市の様子をずっと撮影して動画で流すだけだ。
もし勝手にどこかの国の軍隊や、よからぬことを企んでいる悪の組織が空中都市に侵入しようとしたら、それが全世界に向けて放送されてしまう。
これほど確実な警備方法はないというわけか
「あとは、社長がこの空中都市を手に入れるまでの動画を順次公開しています。社長が管理者であるAIを倒して新しい主と認められたのですから、他の人が手を出せる権利はないですからね」
「プロト1さん、世論はどうなっているのですか?」
「太平洋上で巨大な円盤型の浮遊物体が見つかったが、それは古に滅んだムー文明の遺産であり、ダンジョンのドロップアイテムになっていた。だが、うちの社長がダンジョンにいた管理者を倒して手に入れることに成功した。動画で映像と共にそう説明しています。黒助さんの発言などもすべて動画で流していますし、すでに西条さんと東条さんにも報告書はあげています。お二人は今頃、田中総理と日本政府に説明をしているものと思われますが」
俺がやらなくても、プロト1がすべてやってくれるのは楽でいい。
長年、プロト1を改良、運用し続けた甲斐があったというものだ。
「ムー文明のゴーレムというか、ロボットや兵器に使用されていた特殊なセラミック材が沢山あるから、プロト1のボディもそれに変えてあげるよ」
「新しいボディーはいいですね。とても頑丈そうですし、体の調子がよくなるんですよね」
「お前は本当に人間ぽいな」
頑丈どころか、兵器や宇宙船にも使われていた超科学的な新素材だ。
黒助とも知識を交換する予定なので、プロト1はもっと賢く有能になるはずだ。
「ところでだ。古谷企画の真の本社をあの空中都市に移したいんだよ。このマンションは、本当に登記上だけの本社になってしまうな」
「オラもそっちに移ります。裏島とこの部屋に自由に移動できるのなら、実質的な本社の移転には賛成です」
「それはよかった。じゃあ、これを置いてと……」
黒助から預かったゲートを『アイテムボックス』から取り出し、この部屋に設置した。
誰か侵入者にゲートを潜られる心配があったが、登録した人間しかゲートを発動できないから、俺たち以外からすればただのセラミック製のドア枠でしかなかった。
「どうせこの部屋のパソコンはネットだけ繋いでいて普段使っていませんから、このままで問題ないですね」
俺たちは『テレポーテーション』で、フルヤ島を経て空中都市の管理室へと移動し、中心部にある都市で一番高いビルの最上階へと『ゲート』で移動した。
「準備しておきましたよ、マスター。……あなたは、プロト1さんですね」
「プロト1です。古谷企画の副社長です」
「黒助です。この空中都市フルヤの管理人を務めています」
プロト1と黒助。
ムー文明のAIがモンスター化したらゴーレムに似ていたため、二人はまるで兄弟のような……。
あと黒助は、新しい本社である高層ビルをすぐに使えるようにしておいてくれた。
プロト1と共にとても優秀なので、俺は楽ができて万々歳だ。
「良二様が楽? 楽なのでしょうか?」
「基本的にやりたくないことはやってないから、精神的には楽だよ」
敵対したり、嫌がらせをしてくる人たちには必ず仕返しもしているし。
とにかく、古谷企画の実質的な本社を手に入れた空中都市に移転させることに成功した。
空中都市フルヤの詳細は追々調べていくとして、まずはフルヤ島のダンジョンをすべてクリアーして、動画をちゃんと投稿しなければな。
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