第124話 管理人
「戦車……にしては、キャタピラがないし空中に浮かんでいるな」
「良二、これはSF物でよく見かける、反重力を利用した戦車じゃないのか? 外見もほとんど流線型で構成されていて、上の階層にあった戦車とは別物だし、装甲もツルツルしていて金属っぽくないな。他の車両も、キャタピラやタイヤが付いてなくて、全部わずかに宙に浮かんでいる。ムー文明って、反重力技術が実用化されてたんだな」
「すげえ。倒して鹵獲して調べてみたい」
「こういう自家用車が欲しいかも」
二週間ほどで、三十階層まで到達した。
このダンジョンは、とにかく攻略に手間がかかる。
ゴーレム兵の歩兵師団のみならず、戦車師団、飛行師団とたった六人で戦っているので時間がかかって当然か。
だがおかげで、俺たちは大分レベルを上げることができた。
イザベラたちなんて、全員がレベル4000を超えたくらいだからな。
その様子を撮影した動画も大人気だ。
だが、そんな俺たちに続けと、自家用機で上空からパラシュートでムー島に降り立とうとして失敗し怪我をした者。
どうにかダンジョンに入れたが、歩兵ゴーレムたちに押し潰されて死亡した者たちなど。
早速犠牲者を出しているようだ。
レベル1000に届かない冒険者では、このダンジョンの一階層をクリアーするのも難しい。
俺が動画で語っていた忠告が、現実となった瞬間だ。
結局、中途半端な冒険者ではダンジョンに突入しても一階層で全滅するので、俺たちがダンジョンをクリアーするまで様子見となった。
おかげで余計な妨害は入らずにダンジョンを攻略できるが、徐々にモンスターというか、兵器が現在を飛び越えて未来的になってきた。
キャタピラがなく、宙に浮かびながら攻撃する戦車。
他の車両にもタイヤがなく、剛が言うには反重力を利用した推進システムではないかと。
反重力なんて空想上のシステムだと思っていたのに、それが大昔に実用されていたということは、やはりム―文明の遺産である可能性が高い。
「リョウジさん! あれ!」
「またもSFチックな……」
まるで円盤のような形状をした大小様々な飛行機。
そして、大型のウィングパックを背中に装着した、まるでロボット兵器のような全高十メートルほどのゴーレムの姿もあった。
「良二様、まるでロボットアニメですね」
「本当にな」
ロボット型のゴーレムをよく見ると、前部中心部にハッチが確認できた。
つまり大昔には、人間が操縦できるロボット型の機動兵器が実在した証拠だ。
「イザベラたちは、自分の身を守ることに専念してくれ」
やはり、下層に行けばいくほどモンスターが強くなるというか、ダンジョンが手に入れたムー文明の遺産をちゃんと弱い順に使っている証拠でもあった。
「いくぞ!」
だが俺は、魔王すら倒した元勇者だ。
近代兵器の類には負けない。
そのまま全速力で戦車隊へと突進を始める。
なんとこの戦車は、主砲でビームを放ってきたが、『バリアー』で防ぐことができた。
戦車主砲によるビーム攻撃をすべて防ぐと、そのまま一台の戦車の上に乗り、ハッチを強引にこじ開けてから、試作品の魔りゅう弾を車内に押し込む。
数秒後、籠った爆発のあとに戦車は活動を停止した。
基本的にはこの動作を繰り返し、近くにいる戦車や車両を次々と撃破していく。
「アニメじゃないっての!」
続けて、飛行しながらこちらを伺っているロボット型兵器へと『飛行』で飛びあがり、ゴッドスレイヤーで一刀両断にした。
真っ二つにされたロボット型兵器が、次々と地面に落下していく。
「ふう……」
「リョウジ君、よくアレを剣だけで倒せたね。ボクたち無理そう」
「すでに、ダンジョン攻略やモンスター退治とはかけ離れていますからね」
「まさかダンジョンで、ロボットアニメのストーリーを経験するとは思いませんでした」
「わお、ジャパニーズロボットアニメね」
「問題なのは、俺たちには搭乗するロボットがなくて、生身で戦っている点だけどな。専用機が欲しいぜ」
「イザベラたちは、自分の身を守ることに徹してくれ」
さすがに、近代兵器を元にしたモンスターではなく、超科学の産物を用いた超兵器を元にした反重力推進戦車、車両、飛行機、人型兵器の類が相手では、レベルが10000に届いていないイザベラたちでは分が悪かった。
ダンジョンが魔力をエネルギー源にするように改良してあるのに、なぜかビーム砲を放ってきたのだから。
これまでは攻撃に参加できたイザベラたちだが、さすがに相手が悪い。
『バリアー』を用いて、防御一辺倒の戦法になりつつあった。
五人で固まって『バリアー』を重ねがけし、レールガンと思われる砲撃や、ビーム砲、誘導式の超音速ミサイルによる攻撃を防いでいる。
モンスター……見た目は大昔のアニメに出てくる『未来の兵器』といった見た目だが、一応モンスターなんだよなぁ。
モンスターたちはイザベラたちが弱いと判断し、先に始末すべく攻撃を集中している。
おかげで俺はその隙を突き、ダンジョンのフロア内を縦横無尽に動き回り、飛び回り、次々と撃破、叩き落していった。
「ふう……終わったか……」
三十五階層をクリアーできたが、段々とダンジョンが広くなっていくのが確認できた。
それは、超音速で飛び回る超未来の戦闘機型モンスターが自由に行動できるダンジョンなのだ。
広くて当然であり、だがこのようなダンジョンは今までに見たことがない。
話にも聞いたことがなく、かなり特殊なダンジョンなのは事実であった。
「休憩と回復をしてから、次の階層に降りよう」
「そうですわね。私たちは自分の身を守るのに精一杯ですが、それだけでもレベルが大幅に上がりました」
イザベラの手の平を見ると、レベルが6000を超えていた。
下手なドラゴンよりも圧倒的に強い、超未来兵器型モンスターの経験値がそれだけ膨大な証拠だろう。
「リョウジ君、すまないね。ボクたちがいなくても、君一人でクリアーできそうな気がするのにレベリングしてくれて」
「いや、さすがにこのダンジョンで単独行動は危険だよ」
このダンジョンは、これまでとは大きく性格が異なる。
どの階層も、軍隊を相手にしなければいけないからだ。
「いくら俺が強くても、これから先一人だと詰む可能性がある。それでも無事に撤退できればいいが、 多数に包囲されて嬲り殺しにされる可能性が高い。イザベラたちを強化しつつ、パーティで攻略しなければ駄目なんだ」
実はもう一つパーティを組んだ理由があって、それは一人だと気が流行って無茶をする可能性があるからだ。
それに、RX-DDシリーズもそうだが、未知のモンスターに初見殺しをされるのが一番危険だ。
イザベラたちが駄目なら、すぐにその場から撤退する。
現実のダンジョン探索はRPGとは違ってコンティニューできないので、どれだけ慎重にやっても慎重すぎるということはなかった。
「イザベラたちのレベルが10000を超えたら、このロボット型モンスターと一対一で戦っても勝てるはずだ」
「私たち、ますます化け物じみてきましたわね」
「巻き込んで申し訳ないけど」
まさか生身の人間の身で、モンスター化した兵器と戦わされるとは、イザベラたちも思わなかっただろうからな。
「いえ、リョウジさんと一緒にいるととても楽しいですし、私たちは恋人同士ではありませんか。それにこういうものはゲームと同じで、極めればを極めるほど楽しいものです」
「ボクも同意見だね。どうも世間には、冒険者が嫌いな人が多いらしいから、そういう時に大人しくビクビクしているか、強くなって堂々としているか。ボクは後者のほうが精神衛生上いいと思うよ。それに、リョウジ君から戦力としてあてにされているというのが嬉しいじゃない。ボクもリョウジ君の可愛い彼女だから、愛するパートナーを支えちゃうよ」
「私も良二様のお傍にいられて嬉しいです。それに、すでに私たちは普通の人間ではなくなっています。ならば開き直って、冒険者として生きているしていくのも悪くないですから。愛する良二様と一緒から」
「そうよ、リョウジは考えすぎなのよ。日本人の悪い癖ね。ダンジョンに潜って稼いだお金で楽しく暮らす。それでいいじゃない。もし私が冒険者特性に目覚めなかったら、きっと飛び級で大学を卒業した現役大統領の孫娘だからマスコミに追いかけられて鬱陶しかったはず。それなら、大好きなリョウジとダンジョンに潜っていた方が楽しいし、置いてきぼりは嫌よ」
「そうか。なら、最後まで付き合ってくれ」
「喜んで」
「もっと高みに昇る。ワクワクするね」
「死す時まで、良二様のお傍を離れませんから」
「私はリョウジと一緒にいられればいいわ」
「仲良きことは美しきかな、だな。俺はダンジョンに潜ってから自宅に帰ると婚約者が待っていてくれる。それで十分」
「「「「「おおっ!」」」」」
剛がリア充すぎる。
さすがは、高校生の身で婚約者がいるだけのことはあるな。
「しかしまぁ、これからも敵の大軍団との戦いが続くんだろうな」
剛の予想は当たり、ダンジョンを下がれば下がるほど、超未来風兵器の数が増えていく。
ムー文明を担っていた国家が所持していた兵器類が、別世界に飛ばされた際にダンジョンに取り込まれ、数万年して地球に戻ってきた。
これは俺の推測だが、ほぼ間違っていないと思う。
「段々と、陸上兵器と空中兵器の区別がつかなくなってきたな」
「良二、昔見たアニメみたいな」
戦車と戦闘機の区別がつかなくなってきた。
表面がツルツルでUFOのような飛行体が、ビーム砲を放ってくる。
生身の人間とビーム砲。
普通の人間なら一瞬で蒸発させられてしまうが、さすがは推定レベル150000超え。
俺の『バリアー』はビーム砲を軽く防ぎ、俺の剣や魔法による一撃でUFOは次々と落とされていく。
「レベルが上がり続けています」
「ひゃぁーーー! レベル8000を超えた」
「少年漫画のパワーインフレの比ではありませんね」
「実はアヤノって、日本のサブカルに詳しいわね……。兵器型モンスターを倒すとえられる経験値がとてつもなく多いのね」
「レベルアップのおかげで、敵のビームが防げるようになったのは幸いだな」
人間が兵器と戦うRPGって、昔にあったような気がする。
まさか自分たちが経験するとは思わなかったけどな。
UFO型のモンスターが、地上スレスレからも、空からもビームやミサイルを放ってくる。
飛行体なのに、車両と同じような速度で走れたり、空中停止することも可能で、恐ろしい速度で次々と援軍も飛来してきた。
ここまで高性能で多目的な使い方ができると、戦車と戦闘機を分ける意味がないのだろう。
同じ兵器を使った方が、運用コストや稼働率も上がるからな。
そもそも性能は圧倒的なのだから。
「リョウジ! なんかデカイのが来たわよ」
「なんか嫌な予感がしますね」
綾乃の予感は当たり、大型のUFOは俺たちの真上に到達すると、大量の爆弾を投下し始めた。
『バリアー』で防ぐことができたが、周囲は爆発と爆音で埋め尽くされる。
もし『バリアー』の外にいたら、 あっという間に木っ端微塵にされていたであろう。
大型のUFOは搭載していた爆弾をすべて落とし終わると、今度は機体に内蔵しているビームを放ってきた。
「爆弾を落とし終えたのですから、早く撤退すればいいのに……」
「爆弾を搭載するために大型だが、重量物がなくなると軽くなって戦闘機並の性能を発揮できるんだろうな」
剛は男子だからか、兵器について少し知識があるようだ。
とにかく恐ろしい兵器だが、ムー文明って強力な敵でもいたのかな?
「アトランティスが敵国だったのかもね」
「アトランティスねぇ……」
「ムー文明が実在したんだから、アトランティス大陸かアトランティス文明が存在しても不思議ではないと思うよ」
「確かに……」
ホンファの言うとおりだ。
どうしてムー文明は、これだけの超化学兵器を持っていたのか。
同レベルの敵国か仮想敵国が存在していなければ、国家予算の無駄になるのであり得なかった。
「ちなみにアトランティス大陸は、大西洋側の海に沈んでいるという伝承がありますわね。事実かどうかはわかりませんけど……」
「こちらも、本当にあるのかどうか信憑性が疑われていたけど、もしかしたら実在しているのかもしれないわね。そしてなかなか見つからない原因は、ムー文明と同じく別の世界に飛ばされてしまったからかも」
別の世界に飛ばされたムー文明はこの世界に戻ってきたけど、まだ全容が明らかになっていない。
このダンジョンをクリアーしないとわからないのだろう。
アトランティス文明の方は、もしかしたらそのうち戻ってくるかもしれないな。
「人型兵器ですが、最初のものと少し大きさと形状が違いますね」
より高性能だと見ていいのか?
背中にある飛行パックにより、円盤ほどではないにしても高速で飛行できる人型兵器は、手に持ったビーム銃やマシンガン、足や肩に装着したミサイルパック、数体に一体装備しているバズーカ砲や大型のレールキャノン、背中に背負った大剣で回転攻撃してくるが、これも俺が次々と倒していく。
「しかし参ったなぁ。黄金のドラゴンよりも強いんだから」
「その分経験値が多いみたいで、ついにレベル10000を超えたぞ。俺たちはなにもしていないけどな」
「それはよかった」
レベリングが成功し、イザベラたちのレベルが10000を超えた。
さすがに、この階層の円盤や人型兵器は倒せないと思うが、上の階のゴーレム軍団なら楽勝だろう。
だが今は、敵の攻撃から『バリアー』で守り続けるしかない。
他の冒険者たちだと、自分も身も守れずに呆気なく死んでしまうはずなので、イザベラたちは大した実力の持ち主なのだ。
「三十九階層クリアーだ!」
「あと何階層あるのでしょうか?」
「こればっかりは皆目検討がつかないな。しかし疲れる」
急速にレベルが上がったおかげ……というか、このダンジョンには遮蔽物がないので、出現した兵器型モンスターたちが全滅するまで戦わないといけないので、とにかく疲れてしまう。
頻繁な回復と、久しぶりに階層と階層の間の階段で休憩を取りながら、連続して階層を突破していく。
最大数の人型兵器と円盤軍団を全滅させて四十階層に入ると、そこはこれまでの階層とまったく様子が違った。
広くもなく、天井が低い通常のダンジョンが広がるが、いくら進んでも一体のモンスターも出ない。
こんなことも初めてなので、俺たちは慎重に警戒しながら進んでいく。
「バックアタックはないようだ」
「この階層の天井の低さでは、大型化していた円盤や人型兵器だと引っかかってしまうでしょうから」
「急になにもで出なくなって不気味だね」
慎重に探索を進めた結果、四十一階層へと続く階段が見えてきた。
と同時に、その前に一体の黒いマネキン……いや、ゴーレムが立っているのが、そいつはこれまでのゴーレムとはまるで違った。
まるで、アナザーテラでアイスマンと戦った時のような……。
俺の勘が、『こいつは強い』と告げているのだ。
「ヨクゾココマデタドリツイタ。ワタシハ、ムーオウコクノイサンヲマモルモノ」
「ムー王国? どんぴしゃだな」
黒いマネキンゴーレムは、ムー文明の遺産を守っているのだという。
だが、なにかを手に持っている様子もないし、この階層も、四十一階層以降の様子もわからない。
ムー文明の全容とやらがとにかく気になって仕方がない。
「ムー王国の遺産ってなんだ?」
「ムーオウコクハ、チイサナシマデハッセイシ、スグレタカガクリョクニヨッテサカエタ。ダガアルヒ、トツゼンホロンダ」
「別の世界に飛ばされたから?」
「ソウダ。ベツノセカイヘノイテンハ、ドウイウワケカ、ニンゲンヤホカノセイブツニハタエラレナカッタ。カレラハイテンノエイキョウデショウメツシテシマイ、ノコサレタクウチュウトシノセツビヲ、ワレラカンリロボットガヨンマンネンイジョウモイジシテキタノダ」
「四万年!」
ムー文明って、そんな昔の文明だったのか。
「なあ、空中都市ってどこにあるんだ? そもそも、ダンジョンの中に空中都市があるというのも変な話だ」
「イテンノエイキョウデ、ドウジニワレワレハ、クウチュウトシトトモニダンジョンニトリコマレテシマッタ。クチュウトシハ、ココニアル」
黒いマネキンゴーレムは、自分の首にかかっている五芒星のペンダントを指さした。
「そのペンダントの中に、ムー王国の空中都市が収納されているということなのか?」
「ソウダ」
「『アイテムボックス』や『裏島』みたいなものなのですね」
「なあ、空中都市をそのペンダントに仕舞う技術は、科学由来のものなのか? それとも魔導技術由来のものなのか?」
「ダンジョンデツカワレテイルギジュツデハナイ。キミタチガ、カガクトヨンデイルギジュツヲモチイテイル」
ペンダントの中に、一国の住民の大半が住んでいた巨大な空中都市を収納するなんて、どんな仕組みなんだろう?
それよりも俺たちには一つ気になることがあった。
「お前は、俺たちとの戦いを望むのか?」
地下四十階層まで、俺たちはムー文明の兵器がモンスター化したものと死闘を繰り広げてきた。
モンスターたちを操っているのは、間違いなく目の前の黒いマネキンゴーレムだ。
ということは、四十一階層に下りるには俺たちの進路を塞いでいる黒いマネキンゴーレムを倒す必要があった。
「ワタシハ、ムーオウコクノクウチュウトシオヨビ、ソコニアルスベテノモノヲカンリスルソンザイ。ホシケレバ、ワタシヲタオスシカナイ。ガ……」
「ガ?」
「ワタシコジンハ、アナタガオモッテイルホドツヨクナイ。イッタイイチデノショウブヲノゾム。ワタシニショウリデキタモノガ、ムーオウコクノイサンヲウケツグケンリガアルカラダ。ダレガワタシトタタカウ?」
「ええと……」
俺が、イザベラたちに視線を送ると……。
「リョウジさん、私の実力では到底勝利は覚束ないでしょう」
「イザベラと同じく。リョウジ君しか勝てないと思うよ」
「複数で倒すと、ムー文明の遺産の所有者が分散するのでよくないと考えているのでしょうね。だから一対一でも勝負に拘っているのだと思います」
「リョウジに任せるわ」
「まず勝てないからな」
イザベラたちは強くなったおかげで、黒いマネキンゴーレムと戦っても勝てないことがわかってしまうのか。
「ソノトオリデス。ムーオウコクハ、イテンノエイキョウデスベテノニンゲンガキエテシマウマデハ、キョウケンヲモツオウガウマクトウチシテイマシタ。アトランティスキョウワコクガ、ドクサイセイジダトヒハンシマシタガ、シュウグセイジデスイタイヲムカエテイタアノクニヨリモ、ハルカニウマクイッテイタノデス」
ムー王国の過剰な軍備の原因は、仮想敵国であるアトランティスのせいだったのか。
それにしても、アトランティス共和国なんだ……。
「賢いゴーレムね。王政のメリットと民主主義のデメリットを正確に理解しているんだもの。古代ギリシャ時代やローマ時代にも民主主義はあったけど、大昔の古代文明にもあったのね」
「ムーオウコクハ、スグレタカガクギジュツヲモッテイマシタカラ」
「突然異世界に飛ばされたことによる滅亡は不幸だけど、もしムー王国が地球に残ったままでもいつかは滅んでいたんじゃないかしら? 確かに王様は素早く判断して政治を行うことができるけど、いつか無能な王様が出現して間違った判断を素早く実行した場合、それが滅びの原因になってしまうの。民主主義にも利点はあるから、どちらが優れているのかなんて、比べるものではないわね」
「……」
リンダは、こう見えて大学を飛び級で卒業しているのでとても頭がよかった。
黒いマネキンゴーレムが、王政国家であったムー王国を褒め、民主主義国家であったアトランティス共和国を批判したことに、ピシャリと反論してみせたのだから。
彼女はアメリカ人であり、大統領の孫娘でもある。
時に政治家や役人、政策を批判することはあるし、ランザニア王国にも理解はあったが、民主主義を批判されるのは嫌なようだ。
リンダの反論に、さすがの黒いマネキンゴーレムも黙り込んでしまった。
「とにかく俺たちじゃあ、その黒いマネキンゴーレムには勝てないよ。良二がやるしかない」
「結局そうなるか……」
俺がゴッドスレヤーを構えると、黒いマネキンゴーレムも臨戦態勢に入った。
腰に挿した漆黒の剣を抜いて構え、俺と対峙しながら一歩も動かなくなった。
俺も微動作だにせず、黒いマネキンゴーレムの隙を狙っている。
六人で戦えば勝利できることは確実だが、一対一だとほぼ互角に近いだろう。
おかげで俺も黒いマネキンゴーレムも、お互いに睨み合ったまままったく動けなくなってしまった。
双方が相手の強さを理解しているので、先に下手に動くと負けてしまうことを知っているからだ。
「……」
「……」
俺と黒いマネキンゴーレムは、微動だにせず対峙を続けた。
さて、この勝負の決着がつくのは数秒後か、数分後か、数時間後か、数日後か。
俺としては負けてやるわけにいかないので、いくらでも付き合ってやろうじゃないか。
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