第123話 プロト1副社長

『イザベラ! そっちに行ったぞ!』


『確認しましたわ! リョウジさん、ゴーレムの数が増えてきたので、『グランドクルス』を使って薙ぎ払います!』


『任せた』


『いきます! 『グランドクルス』!』


『イザベラさん、魔力を回復します!』


『ありがとうございます、アヤノさん』


『指揮官を見っけ! 倒してくるよ』


『新型の炸裂弾で、全部薙ぎ払ってやるわ!』


『良二、魔力を回復させるぞ!』


『すまん』


『おりゃぁーーー! 特性のバトルハンマーを食らいやがれ! というか、作って初めて実戦で使用したぜ!』


『私と同じ後衛の拳さんが自ら武器を振るう状況はよくないと思うのですが、どういうわけかとても嬉しそうですね』


『俺、本当は見た目通り前衛のファイタータイプだと思うんだよ! それなのに、アークビショップだなんて、ダンジョンの神様の判断がおかしいと思うんだよなぁ……。冒険者の神様はちゃんと仕事してるのかな?』


『ルナマリア様は、拳さんが神官職になってから冒険者の神様になったので、もうどうにもならないと思いますよ』


『だよなぁ……。たまに数体、良二たちが討ち漏らすゴーレムがいるが、それを駆除するのは俺の仕事だな。鷹司は無理するなよ』


「プロト1副社長、ムー文明が実在することを証明できるかもしれないダンジョンの探索ですが、とても人気がありますね」


「うちの社長とイザベラさんたちがパーティを組み、数千体のゴーレム軍団と死闘を繰り広げながら広大なダンジョンを攻略していますからね。戦争感があって娯楽として見どころがあるのでしょう」


「古谷さんたちは、しばらく『ムーダンジョン』攻略に全力を傾けるのですね」


「ダンジョンの場所が場所なので、社長を早く攻略したいのだと思います」




 最近、プロト1副社長と仕事の打ち合わせをすることに慣れてきた。

 彼……ゴーレムに性別はないと思うが、喋り方は完全に男性なので男性だと思うことしている……はゴーレムだが、とても優秀で仕事ができる。

 古谷さんがいなくても、彼がいれば仕事が進むので有り難い。

 最初、ゴーレムとホワイトカラー系のお仕事をすることに対して抵抗感がなかったと言えば嘘になるが、実際に接してみるとすぐに違和感はなくなった。

 確かに見た目はゴーレムだが、下手な人間よりも優秀なので仕事はサクサク進むし、ミスは滅多にしない。

 微妙な能力の人間と仕事をするとミスが増え、こちらの仕事が激増してしまうケースも多かったので、今となっては優秀なゴーレムと仕事をしている方が楽だと思うようになってしまった。

 実際、古谷さんと岩城理事長のおかげで世界一のゴーレム大国となった日本では、急速にゴーレムが普及しつつある。

 特に人手不足だった業界が競うようにゴーレムを導入した結果、 職場でゴーレムを見かけることも珍しくなくなった。


 今日の私も、古谷企画副社長の肩書きを持つプロト1と、業務上の打ち合わせをしており、もう珍しさも違和感も感じなくなった。

 現在古谷さんは、日本とハワイの中間地点に出現した小島にあるダンジョンの攻略をイザベラさんたちと続けている。

 古谷さんがそのダンジョンで回収したゴーレムを調べたところ、はるか大昔、高性能なロボットが量産され、使用されていた超科学文明が存在していた可能性が高いと報告を受けた。

 ムー文明とアトランティス文明。

 共に本当に存在したのか疑われているが、古谷さんとホンファさんが見つけた島があった海域には、ムー大陸が存在したという伝承が残っている。

 ただ、過去に何回かその海域の海底を各国が調査しているはずだが、大陸が存在した痕跡は見つけられなかった。

 だからムー大陸はおとぎ話ではないという意見が大半だが、ダンジョン絡みとなれば話は別だ。

 大陸ではなく、ムー文明という高度な超古代文明があって、その痕跡が小島とダンジョンとして出現したというのなら説明がつく。

 小島は、海底火山の噴火、地震、プレートの移動などの兆候もいっさいなく、突然出現した。

 なので世界中の偵察衛星も、小島の誕生に気がつかなかったほどだ。

 現代の偵察衛星の探査能力と画像解析レベルは大幅に上昇しているので、新しい島を見つけられないということはあり得ない。

 小島にはダンジョンがあるので、なにかしらの理由で科学的な探査機器を使っても見つけられなかつたのだろう。

 これはあきらかに不思議な現象で、さらにダンジョンにはロボットがゴーレム型のモンスターとなって大量に出現しているという。


「古谷さんがダンジョンをクリアーすれば、もっと色々と資料や証拠が出てくるはずだ。そこにかつて『ムー文明』が存在したことを証明できるかもしれない」


「人間はそこにロマンを感じるのでしょうね」


「そういう人間は多いでしょうね」


 小島の発見と同時に、古谷さんはイザベラさんたちを加えたパーティで小島のダンジョンを攻略することを決定し、その様子をドローン型ゴーレムや、人間型のゴーレムたちに撮影させ、それ編集して自分とイザベラさんたちの動画チャンネルで更新するようになった。

 『謎のムー文明の謎が隠されている可能性が高いダンジョンを攻略する!』という題材で、しかも今回の動画はゴーレム軍団とのパーティ戦闘なので非常に盛り上がっていた。

 視聴回数もさらに増え、莫大なインセンティブが古谷企画とイザベラさんたちの会社にもたらされた。


 同業者たちは羨ましがるか、中には嫉妬している人たちもいるが、あのダンジョンに生半可の冒険者が入ったところで死期を早めるだけだ。

 小島とダンジョンの場所が割れたので、自分たちもそこで撮影を行おうと考えた冒険者たちが多かったが、場所が場所なので事実上不可能だった。

 近年、冒険者には自家用ジェット機を持っている者も多いが、小島には飛行場が存在しないので着陸できないからだ。

 場所が太平洋上なのでアメリカが手を出すかと思ったら、古谷さんが一番に見つけて動画で報告してしまったため、小島は古谷さんの所有物とみなされたようだ。

 だからアメリカも手が出せないのだろう。

 その前にアメリカ政府が、飛行場も整備されていない太平洋の真ん中にある小島に冒険者を送り出す方法がなかったとも言えるが。

 そしてそれは、日本も同じだった。

 公海上にあった小島は第一発見者である古谷さんの所有となり、ダンジョンは冒険者は入れなくなるので所有権は設定されないことになっているが、小島は古谷さんの所有物なので、人の土地に勝手に入るわけにいかない。

 なによりこれまでのダンジョンとは違って、ゴーレム軍団と戦わなければならないのが非常に厄介だ。

 古谷さんが動画で説明していたが、『レベル2000以下の冒険者は、足手まといなのでいらない』 という難易度なので、余程の命知らずなければ文句は出ないはず……。

 と思ったら、ネット上では『自分なら余裕だ!』と宣言する冒険者が多かった。

 自分の実力がわかっていないというか、どうせダンジョンには潜れないのをいいことに、売名に利用している者も多いのだろう。

 『俺がそのダンジョン潜れば、すぐにクリアーできるのに……』と言いつつ、実際に潜るわけではない。

 そのくせ、古谷良二が『俺がすぐにそのダンジョンをクリアーするのを恐れているから、俺を絶対に入れないんだ。勝手に入ったら不法侵入罪になってしまうから仕方がない。了見の狭い奴』と、SNSで語って炎上している冒険者もボチボチいた。


 そんないつもの騒ぎを尻目に、古谷さんはイザベラさんたちとパーティを組んでダンジョン攻略を進める。

 五階層までは、剣、槍、弓矢、斧などを持ち、金属製の全身鎧を装備したゴーレム軍団との戦いだった。

 六階層からは、ゴーレムたちは魔銃を使うようになった。

 古谷さんは銃弾の雨あられの中で先陣を切り、次々とゴーレムたちを倒していく。

 最初は火縄銃的な銃……魔銃と思われる……からで、段々と、ライフル銃、散弾銃、狙撃銃、自動小銃、機関銃、そして……。


『十一階層のゴーレムたちは、銃撃の他に砲撃もしてきました。『バリアー』で防御しながら倒していきます』


『この敵こそ、ガンナーである私の真骨頂よ!』


 ブルーストーン大統領の孫娘であるリンダさんが、ゴーレムたちに対し機関銃型の魔銃を乱射して、古谷さんたちの突撃を援護していた。

 ゴーレムたちの濃密な弾幕は古谷さんが『バリアー』で防ぎ、その隙にイザベラさんたちが切り込んでゴーレムたちを倒していく。


『タケシ、バンバン撃っちゃって。しばらく回復の仕事がないから暇でしょう?』


『これは、迫撃砲か? よっしゃぁーーー! ゴーレムたちめ! 吹き飛ばしてやるぜ!』


 回復役である拳さんは、リンダさんから渡された魔銃型の迫撃砲でゴーレムたちに砲撃を続けていた。

 向こうもどんどん砲撃してくるが、こういう戦闘を想定していたからであろう。

 このダンジョンの天井はとても高かった。

 多分、軽く高さ数キロ以上はありそうで、このダンジョンの特殊性を証明するものであった。


『リョウジさん! あれは、装甲車と戦車では?』


『みたいだな。砲撃は俺が防ぐから、車両に取りついたらハッチを開けてこの『魔りゅう弾』を投げ込んでくれ』


『わかりましたわ』


『リョウジ君、これってダンジョン攻略じゃないよね? 間違いなく』


『こんなダンジョン。俺も初めてだけど、ゴーレムたちはモンスターという扱いだから、一応ダンジョン攻略なんじゃないかな?』


『1! 2! 3! えいっ!』


『よし! 戦車の砲塔が吹き飛んだな。試作品だが威力は十分だ』


『良二様、戦車にも装甲車にも、ゴーレムが搭乗していませんね。もしかしたらこの戦車も、富士の樹海ダンジョンにいるRX-DDシリーズみたいにモンスターなのでしょうか?』


『だと思う。どうやら、ダンジョンが取り込んでしまった超科学文明は、現代の社会とそれほど変わらないどころか、もっと優れた科学技術を持っていたようだ』


『タケシ、バンバンぶっ放すのよ!』


『これ、重たいな。対戦車ライフルか?』


『正解。ガンナーである私と体が大きいタケシしか取り扱えないから、頑張って撃ってね。いつも回復役以外の仕事をしたいと言っているんだから、嬉しいでしょう?』


『俺は前衛で、バトルハンマーを振るいんだが……』


『タケシ単独なら、ゴーレムたちに辿り着く前に蜂の巣だけど、本当にそれでいいの?』


『うう……対戦車ライフルを撃つ……』 


 下の階層ほど広くなり、ゴーレムばかりでなく、戦車、装甲車、バイクとゴーレムの混成部隊との戦闘になってきた。

 古谷さんが銃撃、砲撃を『バリアー』で防ぎつつ、イザベラさんたちは戦車や装甲車に取り付き、手榴弾に似た攻撃アイテムで次々と撃破していく。

 後方では、ついに拳さんもリンダさんの銃撃、砲撃の手伝いをさせられていた。

 世界トップレベルの冒険者でも大いに苦戦しており、これでは他の冒険者ならすぐに蜂の巣か、木っ端微塵にされてしまうはずだ。


『ヘリと航空機!』


『ならば、『タイフーン』で地面に叩きつけます!』


 二十階層まで下りると、ゴーレムや戦車の他にヘリコプターや戦闘機に似たゴーレムというか、あきらかに近代兵器に似たモンスター? ゴーレム?が出現した。

 古谷さんの言うムー文明は、思っていた以上に科学技術が進んでいたようだ。

 しかし、それだけの力があったのに滅んでしまうとは不思議な話だ。

 鷹司さんが強力な竜巻魔法に巻き込み次々と地面に叩きつけて倒していくが、 墜落しなかったヘリコプターと戦闘機が古谷さんたちに迫る。


『はぁーーー!』


『良二、マジかよ!』


 拳さんが驚くのも無理はない。

 古谷さんが、あきらかに誘導兵器と思われるミサイルや、機関砲を発射しながら迫るヘリコプターの攻撃を『バリアー』で防ぎつつ、 高高度まで飛び上がってから剣で斬り裂き、次々と地面に叩き落としていくのだから。

 しかし、このような多数の弾丸や砲弾、ミサイルらしきものまで飛び交う戦場の中、よくゴーレムたちは撮影できるものだ。

 古谷さんによると、やはり流れ弾が命中して破壊されるゴーレムが出るそうだが、予備は沢山あるし自分で直せるので特に問題はないみたいだ。

 多くのビデオカメラを持たせたゴーレムたちに撮影させ、その中で使える動画を編集して投稿する。

 この手法で、膨大な視聴数を稼いでいた。

 これが人間のカメラマンなら死亡すると大騒ぎになるが、ゴーレムなら壊れるだけなので特に問題はない。

 今後、世界の戦場でもゴーレムに撮影させる機会が増えるかもしれないな。


『はぁーーー!』


 古谷さんは、同じく迫り来る戦闘機が発射した機銃弾を『バリアー』で防ぎつつ、予備の剣を投擲して叩き落とした。

 モンスター化しているとはいえ、人間が戦闘機を叩き落とすシーンは圧巻だ。

 これはCGではなく現実であり、編集もプロト1副社長が上手くやっているので、まるで戦争映画を見ているかのような迫力だ。

 これが無料で見られるのだから、それは視聴回数が増えて当然であろう。


「プロト1副社長、古谷さんたちによるダンジョン攻略は順調に進んでいますが、最下層にはなにがあるのでしょうか?」


「あきらかにこのダンジョンは、別の世界から再びこの地球に戻ってきたムー文明の残された遺産を取り込んだもの、と社長は推察しています。ロボット兵、戦車、装甲車、自走砲、ヘリコプター、戦闘機などなど。近代的な兵器を多数所持しているのですから。もしかしたら、ダンジョンの最下層には、これら兵器類を保管していた基地のようなものがあるのかもしれません」


「基地、要塞の類ですか……」


「社長の推察ですけど」


 多分、古谷さんの推測は間違っていないはずだ。

 ムー文明は、なにかしらの理由で他の世界に飛ばされてしまったので、海底に一切の証拠が残っていなかった。

 そして再び地球に戻ってきた。

 多分、この世界に別世界からすべてのダンジョンが移転してきた余波だと思う。

 となると、ムー文明の遺産は古谷さんが魔王を倒したという世界に移転していたのか?

 古谷さんは見覚えのないダンジョンだと言っていたが、自分が絶対に別世界のすべてのダンジョンを知っている保証はないと言っていたから、その可能性はかなり高かった。


「もしかして、アトランティス大陸も別の世界に飛ばされてしまったのかもしれません」


「その可能性は高いですね。そしてもしかしたら、今後地球に戻ってくるかもしれません」


「となると、世界中の国で争奪戦が始まりますね」


「ムー文明の遺産とダンジョンは、それを発見し攻略した社長たちのものですけどね」


 小島のダンジョンは、世界中の誰もが自由に入ることができるという『ダンジョン条約』が存在し、ほぼ世界中の国が加盟しているが、現実はダンジョン周辺の土地の状況による。

 周辺の土地を持つ国なり人がダンジョンに入る許可を出さなければ、何人たりともそのダンジョンに入ることはできない。

 閉じられた独裁国家の領内にあるダンジョンに、誰もが自由に入れるとは思えない。

 それが現実だろう。


「小島は、古谷さんたちの所有地となりましたからね」


 太平洋のど真ん中、公海上に突如出現した小島なので、第一発見者である古谷さんの土地となった。

 それはつまり、日本の国土になったとも言えるので、普段は対応が遅い日本政府にしてはあっという間に『ムー島(むーとう)』の領有を宣言し、領海と経済的排他水域の設定も早かった。

 もっとも、ダンジョン移転のせいで海底資源、油田、ガス田、メタンハイドレートが消滅してしまったので、その価値は大幅に下落してしまったが。

 ただ今回の件で、海底ダンジョンの可能性というものも議論されるようになった。

 再び、 領海と経済的排他水域の価値が上がるかもしれない。


「とにかく、古谷さんたちにはムー島ダンジョンの攻略に全力を注いでもらいましょう。他のお仕事に関しては、私も東条もお手伝いさせていただきます」


「外部との折衝を依頼するかもしれません。オラが姿を見せると嫌がる人は一定数いるので」


 世間に爆発的にゴーレムが普及してきたとはいえ、会社の経営までしているゴーレムはプロト1だけだ。

 古谷さんから正式に副社長に任命されたプロト1は非常に優秀なので、優れた取引相手の大半は、彼と仕事をすることに違和感を覚えていなかった。

 ところが中には、 ロボットやゴーレムと仕事をすることに抵抗感を覚える人がいる。

 私から言わせると、無能な人間と仕事をするよりは、有能なゴーレムと仕事をした方が楽でいいと思うのだが、そうではない人も一定数いるということだ。


「ポテトサラダを手作りしないと怒る人がいるんですよ。人間は機械が作り出したものよりも、人間が作り出したものを尊重する傾向が強いです。さらに世の中には、会社の経営などという高度な仕事は、優れた人間にしかできないと思っている人が多いのですよ。元々ゴーレムは、設備、機械扱いです。人間である自分が大切な仕事の取引でやって来たのに、機械に対応されたら腹が立つ人がいてもおかしくはないでしょう」


「確かに、そういう人は多いでしょうね……」


 会社の経営と、少し前にネットで話題になったポテトサラダの手作りの話題を重ねるとは、プロト1社長はさすがだ。

 ようは、ロボットやゴーレムの効率を重視した機械的な経営に反発を覚える、人間による温かみのある経営の方が上だと思う、確かにルーチンワークはロボットやゴーレム,AIの方が優れているが、会社を上手く経営するのに必要なスキルは人間の方が上だと信じている人が多い。

 多分、未知のものを生み出す創造力と咄嗟の判断力……未経験の緊急事態に対応する能力は、人間の方が上だと思っているからであろう。

 確かに、優れた人間の経営者にはそういう能力が備わっているが、全員がそうというわけではなく、むしろそのような優秀な人は非常に数が少ない。

 実は、世の中の経営者の大半が無能なのだ。

 だから起業はなかなか成功しないし、会社を潰さないように無理をした結果、ブラック企業経営者として世間に悪評が流れる人だっているのだから。

 それなら、ルールに従って効率よく会社を経営できるゴーレムの方が、経営者として優れているとも言える。

 プロト1副社長は、現在急速に研究が進んでいるAIよりもはるかに優秀だ。

 古谷さんによると、プロト1には感情が存在しないそうだが、実際に話してみてこんなに人間臭いゴーレムは存在しないと思う。

 経営者としても非常に優秀で、彼なら世界中のどの大企業でも十分に通用すると思う。


「(もしかしたら、古谷さんの一番の資産ってプロト1かもしれないな)私が顔を出せば、それで満足する人は多いというわけですか。東条さんにもお願いします」


「助かります。お二人なら、文句を言う取引先の人間もいないでしょう」


「(プロト1副社長のお眼鏡に叶ったということは、私も会社の経営に向いているのかな?)いやあ、少しはガッカリするんじゃないんですか? 古谷さんと直接顔合わせしたい人は多いでしょう」


「社長が望んでいませんし、頼みを聞いて顔を合わせていたらキリがないじゃないですか」


「それはそうですね」


 古谷さんと顔を合わせることができる人は非常に少ない。

 彼と懇意になれば、大きな儲けが出る商売ができるかもしれないので、会いたいと願う人はとにかく多かった。

 暇さえあれば、テレビ局はテレビ番組に出ないかというし、新聞や雑誌もインタビューをしたくて堪らないみたいだからな。


「では、早速商談の席にご同行願います」


「よろしくお願いします。社長の動画ですが、こちらは順次撮影したデータを『魔力波』で送信したものを本社のパソコンで受信して、練習は他のゴーレムたちに任せているので大丈夫です」


 古谷企画は、社長でありオーナーである古谷さんが大まかな指示を出すと、あとはプロト1副社長が配下のゴーレムたちに適切に指示を出し、効率的に業務を行い、荒稼ぎできるような体制が出来上がっていた。

 その売り上げはとてつもなく、だが彼はほとんど節税をしない。

 他の冒険者たちもそうだが、売上に対する経費の割合が著しく低いので、日本政府の税収が大幅に増えていた。

 おかげで、これまで予算不足で予算を回せなかったところにお金を回せるようになったのはいいことだと思う。

 すでに日本政府への所属意識がゼロに近くなった私が日本のためにできることと言えば、古谷さんがやっていることを他人に邪魔させないぐらい。

 それが達成できていれば、日本には大きな利益がもたらされるのだから。

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