第122話 ムー大陸? 

「うーーーん」


「どうですか? リョウジさん」


「このゴーレム。元は電気で動いていたんだな。それがダンジョンに取り込まれ、魔力で動くようになった」


「つまり、元はロボットということ?」


「そうなる。ゴーレムたちの人工人格に使われている魔言語だが、これは随分と変わった法則で書かれているな。魔力駆動となる際に、 元々のプログラム言語が、魔言語プログラムに書き換えられたとみていいだろう」


「よく訓練された軍隊のように動けるロボットの群れが、ダンジョンに取り込まれた際にゴーレム化してしまったわけですね。でも、デザインや装備はゴーレム寄りですよね」


「鋼の全身鎧や武器は、ダンジョンが装備させたのだと思う。元は、なんの武器も持たない多目的に使用できるロボットだったはずだ」


「リョウジ、あんなに優れた動きができるロボットがダンジョンにあるって不思議じゃない? それも、太平洋のど真ん中に突如できた小さな島のダンジョンになんて」




 発見した小さな島にあるダンジョンから自宅マンションに戻った俺とホンファは裏島へと移動し、イザベラたちも加わって、手に入れた大量のゴーレムの残骸を分析していた。


「ゴーレムの素材はセラミックみたいだ」


 それも土器や陶器ではなく、特別な製法で作られたセラミック合金みたいだ。

 組成を魔導測定機で調べてみるが、魔導技術由来ではないので分析結果が出るまでに時間がかかりそうだな。

 ゴーレムに残りの作業の指示を出しつつ、元はセラミック合金でできたロボットだったゴーレムの由来について考える。


「海に沈んでいた島には、現在よりも優れていた高度な科学技術文明があったのかな?」


「ムー大陸ね。子供の頃に、本で読んだことがあるわ」


「リンダ、それっておとぎ話じゃないのか?」


「本当にあるかもしれないし、ないかもしれない。どっちなのかもよくわからないってことね」


 ムー大陸って確か、太平洋にあったけど沈んでしまった大陸……本当に存在するのかわからないけど。

 リンダの口ぶりからして、アメリカ人はムー大陸を信じているのかな?


「リョウジ君、あの島の場所は、ムー大陸があったとされる位置ではあるよ」


 ホンファが、スマホを操作してムー大陸の地図とされるものを見せてくれた。

 例の地図に描かれた島と比べると、確かによく似ている。


「ですが、ムー大陸は念入りに海底調査をした結果、空想上の大陸でしかないという結論が出たはずですが……」


「あっ、本当にそう書いてある」


 綾乃のいうことは正しく、ネット上ではムー大陸はあくまでも空想上の大陸でしかないと書かれていた。

 太平洋の海底調査をした結果、大陸があった痕跡が見つからなかったのだそうだ。


「ムー大陸じゃないのか。残念」


「いや、必ずしもそうとは言い切れないのでは?」


「どういうことだ? 良二」


「今、ムー大陸が存在しないと証明された理由について調べてみたんだが……」


 太平洋の海底に、大陸が存在した痕跡がなかった。

 ずっと昔から、海底は海に沈んだ状態だったと証明されたかららしい。


「もしムー大陸があったら、海底を調査すればなにかしらの痕跡が出て来るはずだ。それがないってことは、ムー大陸はなかったんだろう?」


「なにも大陸があった痕跡がなかったのは、ムー大陸は海底に沈んだのではなく、別の世界に飛ばされたからでは? ダンジョンと同じようなものだ」


 大昔、ムー大陸は別の世界に飛ばされて太平洋上から消えてしまった。

 だが、ダンジョンがこの世界に出現した影響で、ムー大陸もこの世界に戻ってきたのかもしれない。


「リョウジ君、あそこはムー大陸にしては小さな島だったよ」


「広大なムー大陸の一部だけ戻ってきたか、別の世界に飛ばされたムー大陸になにかしらの変化があったのか。もしくは、やはりムー大陸は存在しなかったのかもしれない」


「リョウジさん、今、ムー大陸は存在したと言ったではないですか」


「ムー大陸ではなくムー文明はあった、が正解なのかも」


 ムー文明は、軍事行動ができる多数のロボットを所有しているような超科学文明だと推察される。

 大陸などなくても、俺とホンファが見つけた小さな島や、人工的な海上フロートなどで生活を送っていたのかもしれない。


「とにかく、あのダンジョンを攻略すればわかることだ。ええと……なるほど。このゴーレムたちの人工人格にインプットしてあったプログラムを魔導言語化したものは、素晴らしい高性能だな」


 俺も魔道具やゴーレムを作るので、ダンジョンが改良したロボット・AI制御の魔導言語プログラムは素晴らしい出来なのはわかる。

 同時に、これをコンピューター言語に戻したものを再現してみるが、これもロボットやAIの研究に役立つかもしれない。


「俺にはよくわからんが、とにかく凄いんだな。ムー大陸に超科学文明があったなんて、創作物の話だけだと思っていたぜ」


「俺も剛と同じように思っていたさ。とにかく、急ぎあの小島のダンジョンをクリアーしよう。剛もイザベラたちも手伝ってくれないか?」


 今回は、俺一人でやるのは難しそうだ。

 なにしろ一階層だけでも、あれだけの数のゴーレムが出現したんだ。

 下の階層に進めば進むほど、ただ強いだけでなく、多数で連携して戦ってくるゴーレム軍団と戦わなければならない。


「いいぜ。良二が俺たちを頼りにしてくれたんだからな。ここは気合を入れないと」


「ええ、これまで頑張ってレベルを上げした甲斐がありましたわ」


「ボクとリョウジ君だけだと、一階層をクリアーするだけでも結構大変だったからね。明日からは、集中的にあの小島のダンジョンを攻略していこう」


「私も腕が鳴ります。私と拳さんがいれば、回復役が足りないということもないでしょうから」


「敵の数が多いってことは、私の魔銃たちが火を噴く大火力戦になるってことね。多くの魔銃を改良、製造して高火力になったら、こういう敵にはガンナーはうってつけよ」


 残骸を手に入れたゴーレムや素材の解析、修理と再起動は、俺のゴーレムたちに任せるとして、俺たちは初めて六人で一つのダンジョンをクリアーするまでパーティを組むことになった。

 あのダンジョンが何階層まであるのかわからないが、頑張って攻略していこうと思う。




「あれ? 昨日全滅させたのにぃーーー!」


「もうゴーレムが補充されたのか……」


 翌日、俺たちは太平洋の小島にあるダンジョンの一階層へと降り立った。

 すると、昨日俺とホンファで全滅させたはずの、一階層のゴーレム軍団が復活していたのだ。

 その驚異的な回復力というか補充力に、俺とホンファは絶句してしまう。


「リョウジ君、ゴーレムの元はムー文明のロボットたちなのに、モンスターだから倒すと回復してしまうってこと?」


「そうなんだろうな」


 ムー文明が所持していたロボットの数が、文明が滅んだあとに増えるわけがないので、それを元にダンジョンがモンスターとして量産しているのだろう。

 富士の樹海ダンジョンのRX-DDシリーズも、いくら倒しても翌日にはすべて回復しているので、それと同じ仕組みだ。

 ただ、それだけ回復が早いということは、大量の資源を使用していることになる。

 地球の資源はすべてダンジョンが抱え込んでるから、鉱山復活は絶望的だろうな。


「昨日は俺とホンファだけで一階層をクリアーしたから、イザベラたちに見せるためもう一度一階層からスタ-トするが、明日からはクリアーした階層をスキップした方がいいな」


 普通のダンジョンの攻略法と同じだ。

 ダンジョンコアを手に入れないと、好きな階層に自由に移動したり、その場から瞬時にダンジョンから帰還することはできないのだから。


「本腰入れてやれってことか。いいじゃねえか、やってやるぜ!」


「タケシは随分と気合が入っているようだけど、長期戦になるから後衛にいてよね。キミは回復役なんだから」


「鷹司だってそうだろう?」


「後衛なのは同じだね。アヤノは攻撃魔法も使えるから、そちらでも活躍してもらうけど」


「うう……」


 ホンファに諭され、剛は素直に後衛となった。

 それほど難易度が高くないダンジョンなら、今の剛のレベルなら前衛でも問題なくこなせるだろうから、前衛で戦いたかったら、他のダンジョンで試せばいいと思う。


「……。リョウジさん、まさに軍隊なのですね」


 整列、行進しながら俺たちに向かって歩いてくるゴーレムたちを見て、イザベラは俺やホンファと同じ感想を抱いた。


「どの階層も、戦争ができるように広く、高く、いっさいの区切りがない。果たして何階層まであるのでしょうか?」


「千階層まであるとかは勘弁してほしいよな」


「私もそう思います。一体一体の強さはともかく、とても数がとても多いので、回復しながら戦う持久戦になると思います。このダンジョンの階層が少ないことを祈りますが、このダンジョン自体がこれまでにない特殊な作りをしているので、低階層である可能性は高いですね」


 綾乃の言うとおりで、このダンジョンは一つの階層がこれまで潜った他のダンジョンの数十倍の広さはあり、ゴーレムが軍隊のように動ける環境が整えられている。

 だがその分、階層は少ない可能性があった。

 なぜなら、一階層ごとで使われている魔力と資源がとても多いからだ。

 この造りで五百階層や千階層あったら、ダンジョン側としても維持するのが大変だと思う。


「ただ、必ずしもそれが正しいとは言えず、実は千階層あるかもしれないけど」


「だとしても、クリアーするまで続けるしかありませんね」


「そういうことさ」


「リョウジさん、では参りましょうか?」


「死なない程度に頑張ってくれ」


「「「「「了解!」」」」」


 俺たち六名は、それぞれに武器を構えて迫り来るゴーレム軍団を迎え撃った。

 さて、このようなあと何回繰り返せばいいのか?

 突如出現した小島にある新ダンジョンをクリアーするため、いつ終わるともしれないゴーレム軍団との戦いが始まったのであった。

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