第121話 謎の島とダンジョン

「うーーーん……。どこかわからんな、剛は地理は得意だっけ?」


「得意ではないが、不得意ってわけでもないな」


「この地図の島、大陸? どこだと思う? 地球上にこんな形の場所あったかな?」


「いや、俺には皆目検討がつかないな」


「イザベラは? イギリスにこんな形の島とかないかな?」


「いいえ、ありませんわね」


「ホンファ、中国沿岸島や、東南アジアのどこかに、こんな形の島や大陸がなかったかな?」


「ないと思うよ」


「綾乃、日本に沢山ある無人島には?」


「ないですね。地底の形をスキャンして検索してみましたが、該当する島はないそうです」


「アメリカには?」


「アメリカにもないわ。リョウジ、その地図はどこで見つけてきた?」


「富士の樹海ダンジョン四千五百六十七階層にて」


「さすがはリョウジね。そんなに深い階層に一人で潜れるなんて」




 みんなそれぞれ夕方までダンジョンに潜ったあと、裏島の屋敷で夕食をとりながら、とある古い地図について考察していた。

 この地図に描かれた島、大陸は世界のどこにあるのかと。

 いまだ最下層が見えない富士の樹海ダンジョンの、四千五百六十七階層にて見つかったドロップアイテムだ。

 レアなんてものじゃないので、確実に意味があるアイテムのはずなんだが、この地図があるからどうなるんだということがよくわからない。

 まずは地図に描かれた場所の特定を始めたのだが、日本人、イギリス人、中国人、アメリカ人の誰もが見覚えがなかった。

 さらに市販の世界地図を広げ、地図に書かれた場所の特定を始めたが、結局あてはまる場所は一箇所もなかった。


「どこなんだろう? これ」


「良二、お前が行っていたという、別の世界の島か大陸なんじゃないのか?」


「いや、それがそちらにも当てはまらなくてな」


 そもそも、 富士の樹海ダンジョン四千五百六十七階層で、ハズレのアイテムが見つかるわけがない。

 確実にゼロとは言えないが、そんなものをドロップするなんて天文学的な確率なのだ。

 深い階層のアイテムほど希少で価値がある。

 そうでなければ、冒険者たちが命の危険を冒してまでダンジョンに潜るはずがない。

 ダンジョンもそれがわかっているからこそ、深い階層に希少な素材や高品質な魔石、貴重なアイテムが手に入るようにしているのだから。


「もしかしたら、これから出現する新しい島とかじゃないの? たまに火山で新しい島ができるよね」


 海底火山の噴火によって新しい島ができる。

 ニュースで見たことあるけど、新しい島はお宝なのかと言われると厳しい。

 溶岩が固まりきらない島では農業や畜産はおろか、一切経済的な活動ができないのだから。

 資源が出る可能性は……ダンジョン出現のせいでなくなった。


「もしこの地図に書かれた場所が、海底火山の噴火で出現する新しい島の地図だとして、利益があるとすれば、最初の発見者になって動画で撮影するぐらいかな?」


 それほどの利益にならないとは思うが、動画投稿サイトからインセンティブ収入をもらったり、テレビ局に動画を売ることはできるのだから。


「この地図は、近い将来に新しく出現する島の地図ってことかな? 世界中のどこにあるのかわからないけど」


「ははっ、『当たるも八卦当たらぬも八卦』。実はボクはレベルが上がって、『ダウジング』という新しいジョブを得たのでした。この島がどこに出現するのか調べてみよう」


 そう言うとホンファは、ミスリル製のチェーンと水晶で作られたペンダントを世界地図の上で停止させ、ダウンジングを始めた。


「ウー、ダウンジングとルーンナイトになんの関連性があるんだ?」


「あるようでないようで? 頑張ってレベルを上げたからサブジョブが手に入ったんだけどね」


 ホンファたちは頑張ってレベルを上げ続けているから、サブジョブを覚えても不思議ではないはず。

 俺の掌にはジョブが表示されないが、レベルが上がれば上がるほど、できることは増えていった。

 とにかくレベルが上がれば上がるほど、ダンジョンに潜る時のみならず、人生でも有利になるということだ。


「じゃあ、ダウジングを始めるね。ええと……」


 ホンファが、手に持ったペンダントで世界地図の上を順番になぞり始めると、とある場所でペンダントがグルグルと回り始めた。


「日本とハワイの中間地点の海上だね。ここに、海底火山の噴火でこの島が出現するのかな?」


「ちょっと様子を見に行ってみるよ」


 俺はメカドラゴンで現地へと飛んでいくが、ホンファもダウジング用のネックレスと世界地図を持って同行してくれた。

 細かなポイントを探り当てるためだ。


「到着!」


「メカドラゴンは早いね。戦闘機みたいだ。よし、詳細なポイントを探ろう」


 ホンファがペンダントをぶら下げると、つけてある水晶が北西の方角に引っ張られていく。

 つまり、その先に地図の島があるということか。


「ペンダントが引っ張られた方向に急ごう」


「リョウジ君、そのまま北西ね」


 メカドラゴンを飛ばして、目的のポイントまで飛んでいく。

 地図を見てもこの辺に島など一つもなく、そういえばこの辺で海底火山が噴火した記録はあったのだろうか?

 この辺に地図に記載された島があるとは思えないのだが、ホンファのダウジングに間違いはない。

 ジョブとは、確実にその才能があるという証明なのだから。


「リョウジ君、もう少し北西」


「オッケー」


「そのメカドラゴン、細々と改造を続けているけど、高性能で便利だね」


 元はアナザーテラを守っていたメカドラゴンだが、暇さえあれば俺が改良を繰り返していたので、 とても使い勝手がいい乗り物になっていた。

 オリハルコン、ミスリル他、貴重な金属と高度な魔導技術の結晶であるメカドラゴンは、最高速度マッハ4。

 最低速度はアリが歩く速度よりも遅くでき、ヘリコプターやハリアーのように空中停止すら可能だった。

 さらに搭乗者へのGや、周囲へのショックウェーブの影響がまったくない。

 なぜなら、メカドラゴンは科学技術ではなく魔導技術で製造されて動いているため、科学の世界の物理的な影響が作用しないように作れてしまうからだ。

 ホンファの指示でゆっくと北西に進みながら海面の様子を探っていると、なんと地図には記載されていない小さな島を発見した。


「でも、地図に書かれた島とは形が全然違うな。そして……」


「あっ! ダンジョンがある!」


 小さな島には、未発見のダンジョンの入り口があった。

 念のためにスマホで調べてみるが、やはりこのダンジョンは未発見のダンジョンだ。


「様子見で攻略してみるか」


「ボクもつき合うよ」


 俺とホンファはメカドラゴンから発見した島へと降り立ち、すぐにダンジョンの入り口を潜って探索を始めた。

 さて、早速この謎のダンジョンの探索と動画撮影を始めるとするか。

 未発見のダンジョンなら、撮影をして動画をあげれば視聴回数を稼げるはず。

 『新しいダンジョンを発見しました!』とかタイトルに入れておけば、多くの視聴者にアピールできるはずだ。


「えへへ、リョウジ君と二人きりでダンジョン探索だね」


「未知のダンジョンだからどんなモンスターが出るかわからない。すぐに撤退することもありえるからそれは理解してくれ」


「当たり前だね。ボクは早死にしたいわけじゃないから。リョウジ君の子供を生んでから死にたいね」


「まあ、それはおいおい」


 西洋ファンタジー風の世界だった向こうの世界とは違い、現代社会で複数の女性とおつき合いしたり、実質夫婦になるのは難しい。

 噂によると、世界のセレブには俺と同じような人が沢山いると聞いているのに、どういうわけか俺は激しく批判されてしまうんだよな。

 成り上り者の辛さか。


「考えてはくれているんだね。ボクたちはようやく成人してまだ人生は長いから、もう少しこのままでもいいけどね。妊娠したら、ダンジョンに潜るのは遠慮した方がいいから」


「さすがにそれは止めるよ。俺には、ホンファたちが産休に入っても大丈夫な資産と稼ぎがあるから」


「ボクたちも大丈夫だけど、できれば子供を産む前に『エンペラータイム』を習得したいよね」


 このところ、ホンファたちは富士の樹海ダンジョンで最下層へのアタックを続けているから、レベルがかなりの速度で上昇し続けていた。

 とはいえ、現状ではようやくレベル2500を超えたあたり。

 レベル10000ともなると、最低でも数年はかかりそうだし、その前に限界がきてしまうかもしれない。

 すでに『ハーネス』を飲んでいるので、もう一回飲んでも限界レベルは上がらないからだ。

 それでも、他の冒険者たちはようやくレベル1000を超える者たちが出たくらいだから、俺を除けば世界で一番の冒険者なんだけど。


「まずは、このダンジョンが富士の樹海ダンジョン並にレベルアップに使えるかどうかだね」


「一階層は、やっぱりスライムなのかな?」


 早速二人でダンジョンに入ると、そこには一切の壁や仕切りがなく、広大な空間が広がっていた。

 そして、まるで俺たちを待ち伏せしていたかのように、数千体のゴーレムたちがまるで軍隊のように整然と隊列、行進しながら俺たちに襲いかかってくるくる。

 ゴーレムたちは金属製の全身鎧を装着し、剣と盾、槍、大斧、弓矢などで武装しており、まるで軍隊のようだ。


「リョウジ君、どう思う?」


「さすがにスライムよりは強いみたいだ」


 だが、Reスライムよりは弱いだろう。

 その代わりなのか、数がとても多く、ゴーレムたちはよく訓練された軍隊のように連携してこちらに攻め寄せてくる。

 前進を続ける『ゴーレム兵』部隊の後ろに、馬型ゴーレムに乗った指揮官らしきゴーレムが複数見えた。


「ホンファ」


「了解!」


 すべてを言わなくても、ホンファは先頭の数体を倒してくれた。

 彼女が強いのもあるが、やはりゴーレムの一体一体はそれほど強くない。


「回収っと」


 富士の樹海ダンジョンに出現するRXシリーズと似たような存在なので、これが正確にモンスターなのかどうか怪しいところだ。

 残骸を回収して、あとで調べてみよう。


「ホンファ、 あまり無理をして突っ込むなよ」


「ちょっとゴーレムの数が多いからね。下手に前進しすぎてゴーレムたちに包囲されたらたまらないよ。元々そういう戦法を使うためなんだろうね」


「だろうな。どうせ相手はゴーレムだから、いくら倒されても新しいゴーレムを用意すれば……。あれ?」


 俺も戦いに参加して多くのゴーレムを倒したが、一つ疑問が浮かんできた。

 ここは本当にダンジョンなのか?


「ダンジョンじゃないの?」


「うーーーん。どう言えばいいのか……」


 俺とホンファは、次々とゴーレムたちを倒しながら話を続ける。


「ここがダンジョンであることは間違いないけど、世界中にある他のダンジョンに比べると、少し性格が違うような気がする」


 まず、ダンジョンの造りが独特だ。

 基本的にモンスターは冒険者と戦う際、一体か、多くて数体でしか戦わない。

 だが、ここのゴーレムたちは数千体で侵入者を排除しようとする。

 あきらかに、他のダンジョンのモンスターたちと行動原理が違うのだ。


「ダンジョンというか、広大な空間だ」


 遠くまで見渡しても壁が見えない。

 他のダンジョンに比べると一階層が広大で、これはあきらかにゴーレムたちを軍隊として運用するために広いのだと思う。


「軍隊かぁ。確かにそんな感じだね」


「ホンファ、指揮官を狙ってくれ。俺が兵隊のゴーレムたちを引き受ける。


「任せて」


 武闘家系のジョブを持つホンファは、多くのゴーレムたちを飛び台にして空中を移動し、後方の指揮官と思われる騎馬型ゴーレムを順番に倒していった。

 俺はゴッドスレイヤーの剣圧で、ゴーレム兵たちをなぎ倒していく。

 そして、ホンファが後方の騎馬型ゴーレムたちを全滅させた瞬間、これまで何体倒されても整然と行進しながら俺に迫っていたゴーレム兵たちの動きがバラバラになった。

 整然と行進しなくなり、一体一体がそれぞれに俺に襲いかかろうとするものだから、将棋倒しになったり衝突して、俺を攻撃するところではなくなってしまった。


「チャンス!」


 元々ゴーレム兵たちはさほど強くない。

 指揮をしていた騎馬型ゴーレムたちがいなくなると、ただの烏合の衆と化し、数分で全滅してしまった。


「ふう……」


 俺は『アイテムボックス』に、倒したゴーレム兵と騎馬型ゴーレムの残骸をすべて収容した。

 体内に魔石があるし、修理すれば安価にゴーレムが作れるかもしれないからだ。


「リョウジ君。これで一階層目は終わりかな?」


「いやあ、その考えは甘いんじゃないかな?」


 俺がそう言ったからではないが、すぐに数千体のゴーレム兵たちと騎馬型ゴーレムが姿を見せた。

 どうやら、一階層には複数の軍隊、部隊が配置されているようだ。


「そんなに強くないけど次々と出てくるね。どうする? リョウジ君」


「倒せるだけ倒したら撤退だ!」


「それがいいと思うな」


 その後、ゴーレム兵五百体、騎馬型ゴーレム二十体というユニットを十個全滅させたところで、ようやくなにも出現しなくなった。

 そして、一階層の奧へと歩くこと数十キロ。

 ようやく二階層への階段を見つけて二階層へと下りると、そこにはまたも数千体のゴーレム兵たちが待ち構えていた。


「これは……。一旦戻ってこのダンジョンの攻略方法を検討しないと駄目だな」


「ボクのリョウジ君の意見に賛成。撤退だぁ」


 俺とホンファは二階層の攻略を中止して地上へと戻り、メカドラゴンに乗って日本へと戻った。

 突如太平洋上に出現した謎の小島とダンジョンの正体は、いったいなんなのであろうか?

 回収したゴーレムの残骸に、そのヒントがあることを祈ろう。

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