第118話 ビルメスト王国復活(後編)
「黒幕はいなくなったので、あとはビルメスト王国を復活させるのみ。田中総理、早くビルメスト王国を正式に承認した方がいいですよ」
「アメリカなどもそうするだろうから、一刻も早く正式に承認するとしよう」
無事、太田親子に引導を渡すことに成功したので、俺たちは急ぎビルメスト共和国へと戻った。
すでに一番頼りにしていたビルメスト特別旅団は全滅し、ビルメスト共和国にはろくな戦力が残っていなかった。
ビルメスト王国軍で次々と村や八町山地を解放していくが、ほとんど戦闘もなく、無血開城された場所も多い。
そして、ついに首都にもビルメスト王国軍が到達した。
残ったビルメスト共和国軍との激しい戦闘が予想されていたが、最強と謳われていたビルメスト特別旅団が解けるように全滅してしまったため、ほとんど抵抗することもなく降伏、逃亡してしまった。
共和国政府はその前に崩壊し、大半がビルメスト国際空港へと急いだのだが……。
「亡命する! 急ぎ特別便を発進させるんだ!」
「俺と家族と、自宅から持ち出したお宝が最優先だ! お前たちはこれまで誰のおかげでいい思いをしたと思っているんだ! 特別便には乗せんぞ! 叛徒たちに捕まってその気を引き、俺に恩を返すのが筋だ!」
ビルメスト共和国政府の重鎮たちは、家族やこれまでに溜め込んだ財宝や資産を持ち、政府命令で特別便を出して海外に亡命しようとするが、そんな動きなど特にお見通しだ。
その前に、ビルメスト王国軍が首都に入ってから逃げ出そうとするとは、随分とノンビリとした連中だ。
「お前らは降りろ! さもないと撃ち殺すぞ!」
自分とその家族だけ逃げ出そうとした政府高官が護衛たちに、ついてきた部下たちの射殺を命じた瞬間、機内に白い煙が充満した。
「敵か? なっ、なんだ……。急に眠く……」
特別便の機内にいた人たちは、白い煙を嗅ぐとそのまま眠ってしまった。
「リョウジさん特性の『睡眠ガス』は、とてもよく効きますわね」
「そういう風に作っているからな。ただ、レベルが高い冒険者にはまったく効果ないけど」
「ボクたちは、防護マスクなしでも眠くないしね」
「良二様、いい絵が撮れましたね」
「共和国政府高官たちのイメージは、これで地に落ちるでしょう」
俺たちはビルメスト王国軍が首都に入る前に、特別便で海外に亡命しようとしたビルメスト共和国の政府高官たちを捕らえることに成功した。
「あんたが喋った発言だ。自分で責任を取ってもらおうじゃないか」
無責任にも職責を放棄し、家族と資産と共に海外へと逃げ出そうとしたビルメスト共和国政府高官の言動はほぼ押さえてある。
この様子を動画で配信すれば、これまでビルメスト共和国を支持していた国や政治家たちも、彼らを見放さざるを得ないだろう。
「言い方は悪いが、こういう時にはわかりやすい悪党がいた方がいい」
「その悪党を責められますからね」
「そういうこと」
俺たちの目標は、なるべく犠牲者を出さずにビルメスト共和国政府を打倒し、ビルメスト王国に政権移譲させることだ。
だからわざわざ、一部抵抗する敵兵士たちを魔法やアイテムで眠らせ、積極的に動画発信をしてビルメスト共和国の酷さと、ビルメスト王国の正しさを伝えてきた。
日本の太田親子のように、自分たちが利権や賄賂を得るために、悪政を働くビルメスト共和国を支援している奴もいるからだ。
だがこれからは、ビルメスト共和国を庇うと世論から猛反発を受けてしまう。
太田親子などはもうすぐ逮捕され、議員の職も失う予定だ。
「リョウジ、この人たちどうするの?」
「ケツの毛まで毟り取ってから、刑務所で過ごすことになる。贈収賄なんて大した罪じゃないけど、出所しても無一文で、これまでの悪政のせいで国民たちに恨まれて暮らすんだ。死刑よりも悲惨かもな」
「生きていれば、なんて気軽には言えないかもしれないわね」
「死刑にすると色々と批判する人たちも出てくるだろうから、ちゃんと人命には配慮するさ」
国外に逃げ出そうとしたビルメスト共和国の政府高官たちやその家族を捕らえ終わった頃には、ダーシャ女王とザーン首相を首班とする立憲君主国家ビルメスト王国の誕生が世界中に発表され、すぐに日本とアメリカ他主要先進国がこれを了承した。
元々ビルメスト共和国は政権の腐敗が酷くて嫌われており、利権を持っていたり商売をしている人たちしか支持していない。
日本もで、一番の障害であった太田親子が逮捕寸前なので大きな反対意見もなく、そもそも日本人の間では動画を配信しているダーシャ女王が大人気だったので、反対運動はまったく盛り上がらなかった。
それよりも日本は、現役の自衛官たちが任務を放棄して脱走し、さらに90式戦車を始めとする兵器を勝手に海外に持ち出していたことが大問題になり、さらにこの件でも太田親子が関わっていたことが発覚し、いつ太田親子が逮捕されるか大きな騒動になっていたからだ。
野党が、太田和美を外務副大臣に任命した田中総理の任命責任を追求する対策会議を立ち上げ……まあいつものことだ。
その騒動が収まった頃には、ビルメスト共和国のことなど大半の日本人たちが忘れてしまった。
そしてその頃には、動画のおかげで世界中で人気者となったダーシャ女王が世界中を外遊を始めており、 もう世界中の人たちはビルメスト王国が正式な国家だと思っているはずだ。
「旧ビルメスト共和国の政府高官たちがこれまでの罪をすべて認め、その資産を全額ビルメスト王国政府に返上したので、罪状は執行猶予付きの懲役刑のみとなった。実にめでたい」
「うさんくせえ話だな」
「公式にはそれでいいのさ」
実は、捕らえた政府高官たちを『催眠』で操って、これまでに不正蓄財した資産をすべて返納させただけだけど。
「逮捕されて大騒ぎになっている太田親子だが、随分と日本からビルメスト共和国への援助をポケットに入れていたようだな」
「そりゃあ、ビルメスト共和国の方を支持するに決まっているよな」
あの親子からすれば、不正をしないで援助を正しく用いる外国よりも、不正に使用しても、自分たちにキックバックをくれる外国なのだから。
日本からビルメスト共和国への援助を利用して、太田親子は莫大な隠し資産を築いていた。
だから太田寛一は、一度目の逮捕されるまでは、親ビルメスト共和国の政治家として有名で、ビルメスト人を私設私書に雇うほどだった。
だがその私設秘書は、腐敗していたビルメスト共和国が送り出したマフィアであり、過去に色々と太田寛一のため汚れ仕事に従事していた。
先日など。
追い詰められた太田寛一の命令で、田中首相を暗殺しようとしたほどなのだから。
そんな彼らと組んでいた日本企業や政治家も存在しており、それらの証拠もビルメスト共和国政府高官たちは持っていた。
「太田親子から貰った美術品ですね。奥さんには西陣織の着物かな? 他国の援助も随分と懐に入れていたようだな」
早速、これらの様子も動画で撮影していく。
すでにビルメスト王国軍により完全に制圧された首都にある旧政府高官の屋敷の中で、俺たちは日本や各国の政治家や企業から貰ったと思われる、美術品、貴金属、大量の現金、日本や外国の銀行に預けた預貯金や、株式債券などのデータも押収し、次々と撮影していった。
「これは、自分に賄賂をくれた各国の政治家や企業のリストみたいですね。日本は太田寛一と、彼と懇意にしている建設業者が多いかな」
実際、ビルメスト王国の首都にはいくつもの立派な高層ビルが建っていた。
その多くが日本の建設会社が、日本政府からの援助を使って建設しており、仕事を受注した日本の建設会社から、ビルメスト共和国の政府高官たちや太田寛一に多額の賄賂が渡っていた。
『首都にはこれだけ立派な高層ビルがあるのに、なぜかビルメスト共和国の国民たちは貧しいまま。不思議な話だと思いましたが、せっかくの援助をポケットに入れていたとは……』
『ビルメスト共和国の政府高官たちも問題ですが、ビルメスト共和国の発展に使われるべき援助で私腹を肥やしていた太田寛一と、娘の和美はとんでもない政治家ですわね』
『しかも、娘の方は現役の外務副大臣なんでしょう? どこの国でも汚職政治家というのは困ったものだね』
『ですが、もうこのような悲惨な状況は終わるでしょう。ビルメストは国の象徴たる王家が復活し、正当な民主主義国家として新たな道を歩んで行くのですから』
『悪い政治家たちが横領した賄賂はすべて没収です。新しい国造りに使われます』
ビルメスト共和国の首都陥落と、ビルメスト王国の復活。
ダーシャ女王の即位と、ザーン氏の暫定首相への就任。
比較的短期間で終了したとはいえ、色々なことが起こった内乱の様子は、俺たちのそれぞれの動画チャンネルで常に最新の情報が配信され、視聴回数の記録を大幅に更新することができた。
ダーシャ女王が立ち上げた動画チャンネルも大人気で、美しい彼女は世界中で大人気となり、特に初期の動画は日本に滞在している様子が配信されていたので、日本でも大人気となっていた。
そしてだからこそ、日本からビルメスト共和国への援助で私腹を肥やしていた太田親子への批判は強く、すぐに除名されることとなった。
国会議員が除名された例は現憲法下でたった二例のみだが、太田寛一の悪行は俺の動画で世界中に広がっており、下手に彼を庇って自分も巻き添えを食らうことを恐れた全国会議員たちが、二人の除名に賛成。
除名は全国会議員の三分の二の賛成があれば成立するので、太田親子は同時に国会議員を失職し、親子同時失職として歴史に名を残すことになる。
そしてさらに……。
「ワシの資産はどこに行ったんだ? ワシの蓄財した資産が……」
「政治資金団体に入れておいたお金も、パナマに作ったペーパーカンパニーのお金も、私の大切なブランド品も! どうして無一文なの?」
「それは、天罰が下ったんだろうな」
贈収賄や背任、田中首相への襲撃指示などで捕まったとしても、太田親子はどんなに長くても十年も刑務所に入れば、あとはこれまでに不正蓄財したお金で悠々自適の暮らしができるはず。
キックバックを受けた、ビルメスト共和国への援助は税金なので彼らへの批判は大きいが、日本の法律ではせいぜい法律で決められた罰金を取るぐらいしかできない。
民事訴訟で変換させようにも、太田親子は裁判を長引かせて誤魔化すはずだ。
そこで俺が、太田親子を『催眠』で操ってすべての資産を奪い取り、密かにビルメスト王国の国庫へと入れておいた。
太田親子の議員給料や、歳費、他の汚い方法で獲得したお金もあったが、ビルメスト王国の発展を邪魔した罰、利息ってわけだ。
無一文になった悲惨さを噛みしめながら、裁判で負けて刑務所に入るがいい。
金で集めた弁護団も、無一文になったら逃げられるので維持できないだろうしな。
「良二、えぐいな」
「知るか。自分でやったことは自分で責任を取れ。悪政を働いたビルメスト共和国とそのシンパたちは無一文になり、新しく誕生したビルメスト王国が発展していくそれでいいんじゃないか」
「それもそうだ」
「リョウジ、ビルメストを悪政から救ってくれてありがとう」
「おいおい、ダーシャ。女王様がいいのか?」
「ビルメスト王家は女王の私しかいないし、近衛騎士隊長のヘギドを始めとして、みんな冒険者特性を持つ精鋭ばかりだから、優れた冒険者であるリョウジ相手ならなにも言わないわ」
ほとんど犠牲者が出なかったので徐々に平穏に戻りつつあるビルメスト王国の首都を歩いて観光していたら、突然この国の女王であるダーシャに抱きつかれてしまった。
女王様なのに、町中で俺に抱き着いていいものなのか心配になってしまう。
「これがいい機会だから、新しいビルメスト王家は面倒くさい伝統などにあまり拘らないことにしたのよ。元の王宮も迎賓館になってしまったし、私一人に豪華な宮殿は必要ないわ。近衛騎士隊も、普段は大半がダンジョンに潜っているから」
ビルメスト王家の近衛騎士隊は、ビルメスト人の人格、能力共に優れた冒険者たちを任命し、交代でダーシャの護衛を担当する。
ダーシャ自身も優れた冒険者だし、せっかく俺がレベリングをして強くしたので、これからも積極的にダンジョンに潜ってお金を稼ぐそうだ。
「王家の資産は、私が稼げばいいのよ。近衛騎士隊の給料も安いから」
「まあ、名誉職的なものですからね」
近衛騎士の給料を聞いたら、確かに安かった。
隊長であるヘギドさんの給料もさほど高くはなく、これからの彼の主な収入源は、ダーシャのパーティメンバーになってダンジョンに潜ること。
レベルが高い近衛騎士たちなら、交代制の少人数でダーシャを警護すれば問題ないからだ。
ダーシャも公務の合間にダンジョンに潜り、動画を配信してお金を稼ぎ、政府からお金は一円も受け取らず、ちゃんと納税もするそうだ。
「ダーシャさんが自ら稼いで税金を支払っているのに、脱税なんてしたらビルメスト人として恥ずかしいでしょうからね」
「それをしそうな連中は、みんな無一文だしね」
元ビルメスト共和国の政府高官たちだが、俺が『催眠』を用いて、海外に隠していた資産まで全部没収し、ビルメスト王国の国庫に入れてやった。
私腹を肥やし、自分たちだけ贅沢に暮らしていた罪を財産の没収だけで許してやったのだから、これからは真面目に働いてくれという話だ。
「リョウジ、今度一緒にダンジョンに潜りましょう」
「いいよ」
「動画もコラボしましょう」
「そうだな」
ビルメスト王国のダンジョンをダーシャたちと攻略していく動画をあげれば、視聴回数を稼げるはずだ。
その際、平和になって復興中のビルメスト王国の様子を流すのもいいな。
「リョウジさん、私もおつき合いしますから」
「ボクも!」
「回復役は必要ですからね」
「動画のコラボなら、私たちも協力するわ。今回の件で、番組登録者数も視聴回数も爆発的に増えたもの」
かなり強引な方法で悪政を働いていたビルメスト共和国を倒し、無事にビルメスト王国の復活に成功した俺たちは、それ以後も定期的にダーシャたちと色々な動画を配信し、同時に国の発展や、チャリティーなどにも協力し、さらに視聴回数を稼ぐことに成功する。
冒険者動画配信者が、国を救う動画配信もおこなったと、世界中で評判になったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます