第117話 ビルメスト王国復活(前編)

「というわけでして、ビルメスト特別旅団には、アメリカ人五百六十七名がいました。今は捕虜として人道的な生活を送ってもらっていますが、いつまでもこのままだと組織が立ち上がったばかりのビルメスト王国軍の負担が大きい。出国させるにしても、その前にビルメスト特別旅団の存在と、そこに多くの民間警備会社の社員が参加していた事実を公にしなければいけません。まあ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア。そして、日本の自衛隊員と。まるで多国籍軍の様相を呈していましたが、これが現代の戦争なのかもしれませんね。ところで大統領閣下、いかがなさいますか?」



 ビルメスト特別旅団に参加していた大半の外国人傭兵が、眠っていた三日間トイレに行けなかったためウンコとションベン塗れになったが、そのあとはジュネーブ条約に則った捕虜の扱いをしている。

 だが、五千人もの捕虜たちを管理し続けるのは、誕生したばかりのビルメスト王国軍には大きな負担なので、俺は『テレポート』でアメリカへと飛び、リンダの祖父であるブルーストーン大統領との交渉を開始した。

 彼らは自らの意思で傭兵になっているが、アメリカ国民であるという事実に変わりはない。

 下手な扱いをすると国際問題になるので、水面下で交渉して返還することにしたのだ。

 ただし、無料というわけにはいかないが。

 なお、 この交渉にはリンダが同席していた。


「私の孫は随分と逞しくなって。彼らが所属している民間警備会社の中には、中東やアフリカでアメリカ軍の仕事を受けているところも多い。見捨てるわけにはいかないか。しかし、身代金かぁ……」


 ブルーストーン大統領は頭を抱えていた。

 下手に捕虜にされた傭兵……民間警備会社の社員ということになっているが、傭兵である事実に変わりはない……に身代金を払えば、彼らのような存在を嫌う国民たちから反対の声が上がるのは確実だからだ。


「それなら、とっととビルメスト王国を承認して、無償援助という形で渡せばいいじゃない」


「プレジデント、お孫さんのやり方が一番スマートでクレバーですよ」


「我がステイツは、ビルメスト共和国を承認していたのだが、いきなりビルメスト王国に切り替えるのかぁ……」


「王家はシンボルで、政治は国の状態が落ち着けば、ザーン首相が必ず選挙を行うそうです。アメリカ合衆国が正式に承認している王国は多いではないですか。特に問題があるとは思いませんが」


「リョウジの言うとおりだ。この件に関しては、余計な駆け引きはせずに、国民が捕虜になった各国にも伝えておく。傭兵の身代金なら払う国などないが、無償援助扱いなら大丈夫だろう。ビルメストの優秀な武器職人たちを使って優秀な武具を作らせ、冒険者用の装備を充実させるというのはいい手だな。最近ますますダンジョンに潜る人間が増え、優秀な装備が足りていないのでね。新しい国で新しい産業が生まれれば、再び国が荒れる可能性も減るだろう」


 共和国でも王国でも、そこに住んでいる人たちが普通に暮らせれば、そう簡単に反乱など起こらない……とは言いつつ、それが出来ない国が世界には沢山あるけど。


「それと非常に残念な話ですが、捕虜たちが装備していた武器、兵器の類はすべて没収です。ビルメスト王国軍の装備にします」


「それは仕方がないな。下手に武器を返すと、その場で騒ぎを起こしかねん。捕虜たちを運ぶ飛行機は手配しよう。他の国も出すだろうから、ビルメスト国際空港に着陸許可が出れば、すぐに飛行機を派遣する。それで、ビルメスト国際空港はあと何日で落ちるかな?」


「三日もあれば大丈夫です」


「ビルメスト共和国は駄目かな?」


「世界中から批判されていて人気がないですからね」


 現在、ビルメスト共和国政府は大混乱に陥っていた。

 頼りにしていたビルメスト特別旅団は消滅し、俺とダーシャ女王の動画は世界中で人気になっている。

 今は解放した村や町でビルメスト王国軍が炊き出しを行ったり、世界中から届いた支援物資を配っている様子が動画で配信されて世間からの支持を上げている。

 逆にビルメスト共和国は民主主義政権とは名ばかりで、政府のお偉いさんとその家族が外国からの援助まで横領しているという情報が世界中に流れていたからだ。

 町や村を守っていたビルメスト共和国軍は戦わずに次々と降伏し、下級役人たちもビルメスト王国に恭順の意を表した。

 そして、ビルメスト共和国政府に組し、悪政を働いていた高級軍人、役人、企業経営者たちが次々と逮捕され、その資産が没収されていく。

 村では医者にかかれず多くの子供が病死しているのに、政府に近い役人が豪邸に住み、高級車を持ち、家の中には美術品、貴金属、ブランド品などが溢れかえっている様子が動画で公開され、今やビルメスト共和国の悪行は世界中に広がっていた。

 すでに国内の支持率も地に落ちているビルメスト共和国の支配領域は恐ろしい勢いで減っていき、ザーン首相が懸命に国の統治機構を整備している状況であった。

 ブルーストーン大統領からすれば、今の世論ならビルメスト王国を正式に承認してもなんら問題はないと考えているはずだ。


「他の国もそれに続くだろう。現役の自衛官を数十名に脱走されたばかりか、戦車まで奪われ、それをいまだに隠している日本政府はどうするのか知らないが」


「それをこれから交渉しに行くのですが、基本鹵獲品なので返せませんね。返さないと、自衛隊で詰む人が出そうですけど」


「降格、左遷、減俸、不名誉除隊、追放のオンパレードだろうな。アメリカ軍でもそう簡単に死刑になることはないが、今回のケースは性質が悪すぎる。アメリカ軍なら確実に死刑だろう」


 自衛官たちが持ち込んだ戦車などは、鹵獲品なので返せない。

 90式なんて性能がいいから、ビルメスト王国軍はえらく欲しがっていたからな。

 問題は、どうやって維持、運用していくかなんだけど。

 実戦なんてしたことがない……ダンジョンに特殊部隊を派遣したのは別として……自衛隊が、いきなり十数両の90式と74式の戦車を紛失したので、今回の事件は不祥事なんてものではなかった。

 最悪、田中内閣が吹き飛ぶレベルのものだ。

 捕らえた武藤一佐たちには、どうやらこの事件を利用して日本の防衛事情を大きく変えようとしている節があったからだ。

 今は捕虜なので大人しくしているが、日本に戻すと大きな騒動を起こしそうな連中だな。


「捕虜は引き取るし、身代金代わりに、ビルメスト王国への無償支援を増やすということで決定だな」


「さすがは、アメリカ合衆国大統領。実に決断が早い」


「褒めてくれて嬉しいが、政治をしている者なら誰でも知っているぞ。アメリカ大統領は思ったほど権力がないし、日本の首相は日本人が考えているよりも大きな権限を持っている」


「それは知りませんでした。決断するというのが、日本人には合わないのかもしれませんね」


「リョウジ、もうそろそろタナカ総理との面談時間よ」


「そうだった。それでは、捕虜たちは適切に扱っておきますので」


「了解した。ところでリョウジ」


「はい?」


「リンダとのひ孫はいつ生まれるのかね?」


 思ってもいなかったブルーストーン大統領の質問に、俺は思わずずっこけてしまった。


「グランパ、まだ早いわよ。私とリョウジは、今は恋人同士でラブラブだから」


「そうか。私が引退したら、ひ孫と遊びたいのでね。まだ私の孫たちには一人も子供がいないから」


 ブルーストーン大統領は、ひ孫が欲しいのか。


「リョウジ、リンダ。ひ孫はなるべく早めに頼むよ」


「任せて、グランパ」


 俺はなんとも返事をしにくかったので、曖昧な笑顔を浮かべながら『テレポーテーション』で首相官邸へと飛んだ。

 そこで、田中総理と極秘会談となったわけだが、そこには意外な人たちがいた。


「貴様! 民主主義国家であるビルメスト共和国を潰し、専制国家であるビルメスト王国を誕生させるなど! お前は日本人として恥ずかしくないのか?」


「そうよ! パパの言うとおりよ!」


 そこには、今は野党『日本革新党』に所属する太田寛一と、その娘で与党所属の太田和美もいた。

 それにしても、田中総理は一体なにを考えているんだ?

 他にも、東条さんと西条さんがいるのは心強いな。


「田中総理、そのガラの悪い犯罪者親子はなんとかなりませんか?」


「小僧、貴様! このワシを誰だと思っているのだ? 日本とビルメスト共和国の架け橋にして日本政界の重鎮である太田寛一だぞ! ワシの娘も、将来初の女性総理大臣になる者なのだ! 相応の敬意を払え」


「そうよ! 外務副大臣であるこの私に、 ただの冒険者風情が生意気なのよ!」


 太田親子は、わかりやすい選民思想に染まったクズたちだった。

 こいつらの声を聞くのも苦痛なのに、田中総理はどうしてこの二人を連れてきたのやら。


「俺にプレッシャーを与え、駆け引きで優位に立つつもりですか?」


 俺は武藤一佐たちと、彼らが持ち出した自衛隊の兵器と装備を押さえている。

 その気になれば、いつでもこの事実を動画で伝えられる立場にあった。

 もしこの事実が公になれば、田中総理もノーダメージとはいかないだろう。

 この事件には太田親子も深く関わっており、すでに野党の政治家である父親はともかく、娘は現役の外務副大臣だ。

 たまにニュースでやっている、任命責任とやらを問われるはずだ。

 だから田中総理は、この親子を連れてきたのかもしれない。


「(嫌だねぇ……自己保身の塊ってのは……)」


 しかもそれが現役の総理大臣となれば、幻滅する以外の感想を抱けないんだから。


「古谷君。私は、明日にはこの件を正式に公表する。当然、武藤一佐たちの企みを成功させるために公安の捜査を中止させ、自衛官たちのビルメスト密航を助けた太田寛一、太田和美の罪状もな」


「田中! 貴様! この国士たるワシを逮捕させるのか?」


「当然です。娘ともども、前回の逮捕容疑と同じくビルメスト共和国への無償援助の中抜き、ビルメスト共和国内で日本の建設会社に仕事を与えた見返りに違法な賄賂を貰っていた件など。今度は刑務所暮らしが長くなりそうですね。父娘して」


「私は現役の閣僚なのよ! もし逮捕されたら、田中総理も総理大臣を辞めなければいけなくなるかもしれせんよ」


 太田和美は、もしこの件を公にして自分を閣僚から更迭して逮捕させるのなら、総理大臣も任命責任を問われて辞職することになるだろう。

 それが嫌なら、この不祥事を隠蔽するようにと圧力をかけてきた。


「盗人猛々しいとはこのことだな」


「古谷さん、その方は、父親の七光で政治家になっただけの無能ですから。運よく女性だったので、目指せ初の女性総理大臣みたいなことを言うと、あの汚職政治屋太田寛一の娘でも応援する人が結構多いんです」


「困ったものですね」


「ええ」


 西条さんもなかなか言うな。

 そして、太田親子にまったく配慮していないってことは、この二人を逮捕できる決定的な証拠があるようだ。


「本当にこのワシを逮捕するだと? 日本とビルメスト共和国との架け橋であるこのワシをか?」


「なにを勘違いしているのです? あなたは、両国の架け橋になんかなっていませんよ。ただ、日本政府からの援助から中抜きしただけです。あなたの言うビルメスト共和国とは、外国からの援助を横取りし、国民に重税を強いる駄目政治家たちだけでしょう? あなたたちが余計な口を出すと、かえってビルメストの状態が悪くなるだけなのです。いい加減邪魔なので、そろそろ親子して退場していただきましょうか」


「若造が生意気な口を!」


「元役人風情が、外務副大臣である私になんて口の利き方! 失礼にも程があるわ!」


 東条さんはこの二人に事実を指摘しただけなのだが、どうやら親子して気が短いようで激昂していた。

 父親は長年政治家をやっていたせいか傲慢で、さらに年を取って気が短くなっているようだ。

 娘の方は、物心つく頃から大物政治家の娘としてチヤホヤされていたから、いい年をして我儘な子供のままなのだろう。

 しかしまぁ、大物政治家の娘だからという理由で当選させてしまう選挙民ってなんなんだろうね?

 俺にはまだ選挙権がないから理解できないけど。


「自衛官たちの処罰はどうするのか知りませんけど、殺すわけにいかないので引き取ってください。彼らが持ち出した装備は……なんなら、お金で買い取りますか?」


 特に90式戦車は、今のビルメスト王国軍だと運用が難しいかもしれない。

 部品も整備マニュアルもないからな。

 それなら援助を増やしてもらって、ビルメスト王国軍でも運用できる兵器の購入資金にあてた方がいいだろう。


「装備も、武藤一佐たちも引き取る。その分、ODAを増額しよう」


「では、その条件で。で……」


 交渉は無事に終わったが、問題は太田親子をどうするかだな。


「古谷君、心配しなくていい。必ずこの親子は逮捕させるし、残念ながら有罪にできる証拠はとっくに揃っている。太田さん、二度目の刑務所ですか。まあ健康にはよろしいと聞きますからね。それと太田和美君、外務副大臣は辞職してもらうよ。もしこの件で私が総理大臣を辞職しなければいけないのであれば、それに粛々と従うのみだ。私が総理大臣の座に居座り続けるため、あなたたち親子を見逃すという選択肢はあり得ない。太田さん、現職の総理大臣と刺し違えることができるんだ。政治家としては本望でしょう?」


「「……」」


 田中総理に引導を渡され、太田親子はこれまでの態度とはうって変わって大人しくなってしまった。


「ガーリン! ゾムス!」


 と思ったら、執務室の外で複数の人たちがざわめく声が聞こえ、同時に扉が破られて、中に二人の大剣で武装した男性たちが乱入してきた。


「はははっ! 彼らは私の私設秘書のビルメスト人たちで、優れた冒険者でもあるのだ! 田中を殺してしまえ!」


「そうよ、これまでパパが面倒を見てきたのだから、その恩義に報いなさい!」


「オーケー、ボス」


「ゼンイン、コロシマスデス!」


 どうやら太田親子は、ビルメスト共和国との関係を利用し、自分を護衛したり汚れ仕事をするビルメスト人を雇い入れていたようだ。

 そういえば、ビルメスト共和国の経済状態がよくないため海外で働いているビルメスト人は多いと聞くが、中にはマフィア化している連中もいると聞いたな。

 ダーシャはどうにかまっとうな仕事に就くように彼らを説得してかなりの成果を出していたが、世の中にはそういう仕事にしか就けない連中もいる。

 その中には、太田親子に雇われている連中も多かった。

 彼らは日本で悪事を働いて荒稼ぎし、太田親子にそのアガリを上納している。

 その代わり、彼らが警察に捕まりそうになると太田親子が怒鳴り込むという寸法だ。

 『日本とビルメストとの友好を妨害するのか!』と。

 当然、田中総理はその証拠をバッチリを掴んでおり、ようやく引導を渡すのか。

 俺もその証拠は掴んでいるから、ちゃんと動画で世界中のみんなに太田親子の悪業を伝えてあげようじゃないか。


「ボーイ、 レベル124ノオレガコロシテヤルサ」


「ジャップハチビダナ」


 ビルメスト人は、日本人よりも平均身長が高くて体格がいいからな。

 俺なんて、子供に見えるんだろう。

 だが、レベル100を超えたくらいで俺に対しそこまで威張れるなんて、どうやらレベルアップで知力は上がらなかったようだ。


「もう一人もレベル123か。たまにいるんだよなぁ……」


 レベル100を超えたら、自分は世界でもトップレベルの冒険者だと勘違いしてしまう人が。

 ダンジョンがこの世界に出現して三年だ。

 イザベラたちはレベル2000を超え、他の世界ランカーたちだって、レベル500を超えた人も続々と出ているというのに……。

 井の中の蛙 ……いや、冒険者としての自分の強さを客観的に判断できないのだろう。

 つまりバカってことだ。


「(奪えるかな? いや、その前にレベル自慢のバカたちだ。新しく覚えた『レベルドレイン』を使ってみるか)『レベルドレイン』!」


 実はこれ、魔法ではない。

 モンスターが使うスキルなんだが、ジョブの中にはモンスターの特技、スキルを使えるようになるものもあった。

 これまでは使えなかったんだが、さすがにルナマリア様のおかげでレベル120000を超えたので、ようやく使えるようになったのだ。

 これで対象のレベルを奪い自分のものにするのだけど……。


「(あれ? 二人のレベルを奪っても、俺のレベルが全然上がらないじゃないか)」


 二人のレベルが低すぎたようだ。

 それでも、無事にレベル1になったのでよしとしよう。

 そしてさらに、俺は二人の冒険者特性を奪い取った。


「(悪党が冒険者特性を持ち、レベルを上げると厄介だからな)」


 一般人への被害が大きくなってしまうので、これからは悪党からレベルと冒険者特性を奪い取らないと。


「しかしなぁ……」


「ナンダ? ジャップ!」


「オビエテイルノカ?」


「その大剣、重くないか?」


「ハンッ! ナニヲイウカトオモエバ……アレ?」


「キュウニオモクナッタゾ!」


 それはそうだ。

 いくらこの二人の体が大きくて力があっても、冒険者でもないのに大剣を持てば重たいに決まっている。

 俺がレベルと冒険者特性を奪ったので、以前のように軽く振り回すことができなくなってしまったのだ。


「おいおい、大丈夫か?」


「クソッ!」


「シネ!」


 二人のビルメスト人たちは、大剣を捨てて俺に殴りかかってきた。

 余裕で回避できるが、あえてそうしない。

 俺は二人から思いっきりパンチを貰ったが、当然ダメージはゼロであった。

 ドラゴンでも破壊できない体。

 それが今の俺であり、そんな俺の顔を殴った二人がどうなるのか。

 子供にでも予想できることだった。


「ウッ、ウデガァーーー!」


「ユビノホネガァーーー!」


 二人のビルメスト人たちは、俺を殴った拳が砕けてしまい、激痛のあまり床でのたうちまわっていた。


「SP! なにをしているか!」


 ここで、警視庁のキャリアだった東条さんが大声で執務室の外にいるSPたちを呼び、慌てて入ってきたSPたちが二人のビルメスト人たちを取り押さえる。


「田中総理への襲撃未遂の主犯ですか。他の材料もあるから、娘の方はともかく、父親は生きて刑務所から出られるといいですね」


「このガキが! 議員生活五十七年! 総理大臣候補でもあったこの太田寛一をバカにしおって!」


 まだ太田寛一は空気も読まずに一人激高していたので、俺はわざと挑発するように言い返した。


「なにが、日本とビルメスト共和国との友好の懸け橋だよ。お前は、日本からの援助をどうやって自分の懐に入れるかしか考えていなかったくせに。それに、長年ビルメスト共和国を援助したのに、あの国はずっと貧しいままだ。お前、何十年も日本とビルメスト共和国の架け橋をやっていたくせに、恐ろしいほどの無能だな。こんな奴が半世紀以上も議員やってたなんて、日本の選挙民ってどうなんだろう? 老害ってこういう人を言うんだろうな」


「うぐぐ……」


「挙句の果てに、自分の利権を守るために自衛隊員たちの脱走と、兵器の窃盗にまで手を貸すし、今は悪事を追及されたらビルメスト人冒険者たちに俺と田中総理を殺させようなんて……。もうお前ら親子は終わりだな」


「「……」」


 さすがの傲慢な親子も、なにも言い返せなかったようだ。


「太田寛一、和美親子。今は国会中じゃないので、逮捕されることを覚悟しておくのですね。二人の身柄を確保するように」


 田中総理が、SPたちに太田親子の身柄を確保するように命じた。

 暗殺未遂の主導者だから、いくら議員でも逮捕されないわけがないか。

 きっと、これから日本のワイドショーが大騒ぎになるだろう。

 太田寛一という政治家は、以前から色々と問題のある議員で知名度があったからだ。

 娘も現役の外務副大臣なので、ビルメスト利権を食い物にしていた疑惑で、世間から批判されるようになるはず。

 ただ逮捕されても、議員辞職しなければこの親子は議員のままで、田中総理は娘の方を外務副大臣にした件で世間から任命責任を問われ批判されるかもしれないけど、今の日本経済は好調だから支持率がそこまで下がることはないと思う。

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