第116話 近代兵器VS古谷良二
「……『バリアー』を強化すれば、90式戦車の120mm砲でも防げるな。74式の105mmは言うまでもない。しかしまぁ、よく日本国内から持ち出せたものだな。自衛隊は、身内の盗難には弱いのかもね」
『バリアー』を張った俺に次々と戦車の砲弾が命中したが、俺に傷一つ合わせることはできなかった。
上位のドラゴンのブレスに比べれば、その威力は圧倒的に低かったからだ。
レベルアップもし続けているので、油断しなければ問題ないだろう。
次々と俺の『バリアー』に戦車の砲弾が命中するが、貫通できずにひしゃげて大爆発を起こし、周囲に砲弾の破片を撒き散らす。
同時に大量に巻き上がった土煙のせいで俺の視界が塞がれるが、向こうも俺を確認できなくなったはずだ。
「いや、赤外線探知もあるのか? まあ、それも魔法で隠蔽可能だけど。さて、反撃に出るとするか……」
とは言っても、冒険者特性も持たない普通の人間を全力で攻撃すると、あとで片付けるのが面倒になる。
敵軍の数が多いので、範囲を極限まで広げた『スリープ』で一気に眠らせることにする。
レベルが上がらない人間なら、いくら実戦経験があって鍛えられた軍人でも、二~三日は目を覚まさないはずだ。
土煙で俺が見えなくなったせいで着弾精度が落ちた砲弾が俺の周囲で炸裂する中、『広域スリープ』をかけると、すぐに攻撃が止まってしまった。
確認のために土煙を避けて前に出ると、前衛に出ていた戦車部隊も、その後方にいる自走砲部隊も、そして多国籍な兵士たちも全員が眠っていた。
「冒険者特性を持っている兵士もいるんだ。しかし、変わった人たちだな」
ダンジョンに潜って稼げば、わざわざ傭兵になって人殺しをすることもないのに。
もしかして、金よりも戦争や殺人が好きな人たちなのかな?
関わりたくない連中だ。
「戦闘ジャンキーってやつなのかね?」
「違うよ。俺はただ人間を殺すのが大好きなのさ」
「……お前だけは、レベルが高いみたいだな」
低レベルの冒険者特性持ちは俺の魔法をレジストできずに全員眠り込んでいたが、一人だけレジストに成功した兵士がいた。
迷彩軍服を着ており、どんなジョブなのかは知らないが、俺の魔法をレジストできたということは相当な高レベルだ。
ダンジョンに潜れば荒稼ぎできるのにわざわざ傭兵になり、人間を殺すのが大好きだと公言するやつだ。
かなり危ない奴だな。
「お前、強いんだろう? 有名だからな。だから、俺がお前を殺す!」
そう言った直後、突然目の前にナイフの先端が迫っていた。
恐ろしいスピードであり、戦車砲で傷一つつかなかった俺の『バリアー』を貫通させたので、暗殺者系のジョブ持ちだと推察される。
スカウターを装着する余裕がないので、新しく覚えることに成功した『人物鑑定』で探ると、やはりこの兵士のジョブは『暗殺者』であった。
イザベラたち以外で見た、久々の上級職持ちだ。
「(油断していると、思わぬ不覚を取りそうだ)」
お互いに目を合わせ、絶対に視線をそらさない。
ほんのわずかな隙が、相手の攻撃を生むとお互いに理解していたからだ。
「(とはいえ、ちょっと彼には悪いかも……)」
残念ながら、彼のレベルは507だ。
冒険者特性を奪うことはできず、彼の目つきや顔を見ているとわかる。
こいつは人を殺すのが大好きな殺人鬼、シリアルキラーだと。
冒険者としてやっていればいくらでも稼げるのに、だから傭兵として戦場に出て人を殺している。
同時に、効率よく一人でも多くの人間を殺せるように、暇さえあればダンジョンに潜ってレベルを上げていたようだ。
俺のレベルアップ講座を受けず、独自にレベル500を超えた彼は、間違いなくイザベラたちに匹敵する天才だ。
そして俺の勘が、必ず彼を殺せと言っている。
もし命彼のを取らなかった場合、こいつはその人生を賭けて俺を殺そうとするだろう。
もっとレベルを上げてから、俺を狙ってくるはずだ。
なぜならこいつは、自分が殺そうと思った獲物を殺し損ねることがなによりも不快なのだから。
「(こういう奴、向こうの世界にもいたなぁ……)」
「っ!」
睨らみ合いを続けていたが、どういう魂胆か向こうの方が先に動いた。
彼は猛毒が塗られているミスリルナイフで、真正面から俺の『バリアー』を一点突きで貫通させ、顔に傷をつけようとする。
ミスリルナイフに塗られた毒の正確な種類はわからないが、皮膚を掠っただけでも即死する強力なものだと思う。
『バリアー』を少し強化して俺の顔にナイフが当たらないようにすると、彼は一旦ミスリルナイフを引き抜いて後ろに下がる……と見せつつ、アクロバットな動きで俺の頭上に飛びあがり、そのまま落下速度を生かし、ミスリルナイフで『バリアー』貫通。
今度は、俺の頭頂部に傷をつけることに成功した。
「やったぞ!」
「(やはり猛毒か……)」
こいつは、正攻法で俺に勝てるとは思っていなかったのだろう。
さすがはレベル500超え。
実に現実的だ。
だが、 猛毒を持ったナイフで俺に傷をつけることは可能だと思ったようだ。
そして見事に成功している。
「いかにレベルが高くて強くても、猛毒は防げまい」
「考えたな」
「『解毒』は、どのような毒か詳細を理解してから使わないと効果がないからな」
解毒の魔法は、自分の体を犯している毒の種類を正確に見極めてから使わないと効果がない。
それは事実であった。
魔法薬の解毒剤も実はかなりの種類があるが、レベルの低い毒ならすべて治してしまう共通の解毒剤があり、これが開発されたおかげで大分扱いが楽にはなった。
だが特殊な毒には、それに対応する解毒剤を用いなければなならず、冒険者のレベルが高くなっても、毒には注意が必要だった。
麻痺、石化などの状態異常も同じで、だからソロで活動する俺は非常に珍しい存在だ。
一人だと、状態異常の攻撃を食らって回復できなかった場合、どんな優秀な冒険者でもあっけなく死んでしまうからだ。
「ふふふっ、あとはお前が猛毒で苦しみながら死ぬのを待つのみだ」
「それで、俺はどのくらいで死ぬんだ?」
「そうだな。あと十秒かな。カウントダウンをしてやろうか?」
「頼む」
「残り少ない自分の人生を惜しむだな。『解毒』も解毒剤も用意できまい。おっと、もう五秒だ。4、3、2、1、0! 死ね! あへ? うっ……」
カウントダウンが終了し、俺が猛毒で死ぬはずだったのに、なぜか暗殺者である兵士が喉を掻き毟りながら苦悶の表情を浮かべ始める。
そう、まるで猛毒を受けたかのように。
「な、なぜ俺が毒……ううっ……」
「気がつかないか? ああ、鍼灸のスキルを応用しているから、自分の体に針が刺さっていることに気がつかないのか」
「まさか、猛毒が塗ってある針で俺……ううっ……」
向こうが、どうにかミスリルナイフで俺に傷をつけることができるのであれば、その逆もまた事実ということだ。
俺は速やかに猛毒を塗った針を、暗殺者の肩に突き刺した。
針は痛覚がない部分に刺したので、彼は痛みを感じれず、その存在に気がつかなかったようだ。
俺の指摘で慌てて自分の体を探り、肩に刺さった針を抜くがもう手遅れだ。
微量でも体内に入れば、ドラゴンですら五分以内に死んでしまう猛毒なのだから。
「こんなに細い針だと?」
「極微量でも、象やクジラが即死するレベルの猛毒だ。お前さんはレベルが高いから、これでもなかなかに保っている方だろう 」
「全然気がつか……ううっ……たっ、助けて」
「それはできないな」
なぜなら彼は、戦場で人を殺せば罪に問われることはなく、大好きな人殺しが沢山できると思っていたのだから。
普通、好き好んで軍人や傭兵になるものではないと思う人が多いのだけど、彼は殺人鬼だ。
好きで傭兵や殺人をやっており、彼をここで助けたからといって、感謝して俺を狙うことをやめるなんてあり得ない。
彼は自分の快楽のために俺を殺そうと、必ずレベルを上げてリベンジしてくるはずなので、可哀想だが彼を殺す必要があった。
こんな危ない奴に一生一生狙われるなんて、堪ったものじゃないからないからだ。
「っ……うっ……くるし……たすけ……」
「来世は普通の人間に生まれ変わってくれ」
呼吸を困難にする猛毒なので、彼はそのまま苦しみながら死んでいった。
実は死んだフリをしていて、隙を見せると襲われるジョブなので念のために確認してみるが、俺が自作した猛毒は効果抜群だった。
彼が死んでいることを確認して、この戦いは終わりだ。
「ふう……皆殺しにしたように見えるけど、一人しか死んでなくて、みんな戦場でおやすみか。さて、後片付けもあるからヘギドさんたちを呼ぶか……」
五千人の敵兵士たちが死んでいる光景は凄い……じゃない!
魔法で寝ているだけだ。
装備していた兵器や火器の鹵獲もしないといけないので、俺はスマホでヘギドさんに戦場の片付けを依頼。
これにて、太田寛一、和美親子がその設立に大きく関与した『ビルメスト特別旅団』は、死者一名を除いて全員がビルメスト王国軍によって捕らえられた、と公式には発表された。
本当は俺が魔法で眠らせたのだけど、それを公表したところで大した利益があるわけがないどころか、かえって不利益となるだろう。
ならば、ビルメスト王国軍に手柄を譲った方がいい。
その代わり、戦場跡に到着したヘギドさんが指揮するビルメスト王国軍は五千人もの敵兵を捕縛し、兵器や装備品の回収作業もしなければならないので大変なのだから。
実際、丸一日かけてビルメスト特別旅団の後処理をようやく終えたのであった。
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