第112話 動画配信者的、情報工作

『ビルメスト王国の女王陛下であるダーシャさんは、無事反政府ゲリラから解放された地区に入りました。現在、ルハの町を臨時の行政府として、ビルメスト共和国からの反撃に備えています。陛下、ここは随分と随分と賑わっていますね』


『汚職役人や、不良軍人、犯罪者でしかなかったゲリラたちも消え、ビルメスト王国の統治は安定しています。ですがまだ五分の一くらいの領域しか確保できていません。他の地域の住民たちが、一日でも早くビルメスト共和国政府の悪政から解放されるよう私たちも頑張っていますが、それが早く実現するよう、海外の皆さんのご支援をお願いします』


『残念ながらビルメスト王国には先進国のような産業がありませんが、一つだけ有望なものがあります。武器や防具の製造です』



 俺たちはダーシャさんとコラボし、動画で解放したルハの町で撮影を行っていた。

 町では市が開かれており、多くの国民たちが買物に来ている様子も動画で伝え、 ビルメスト王国の支配領域が安定していることをアピールする。

 実際、ビルメスト共和国政府が無反応なので、反政府ゲリラを駆逐したビルメスト王国は安定を取り戻していた。


『ビルメスト王国は元々、優秀な武器や防具を製造していたのです。ですが、鎧、兜、盾、剣、槍などの武器は徐々に需要がなくなり、最近では工芸品やインテリアとして海外に輸出するのみでした。ですが、これからはその技術を生かし、ダンジョンに潜る冒険者たちに優れた武器や防具を提供していこうと思っています。職人の保護や、新しい職人の教育、これは国民の失業者対策も兼ねています。人間は食料がないと生きていけないので、農業機械を導入して生産力を増やしている最中ですし、新しい作物の栽培や、牧畜も始める予定です』


『なるほど……確かに、作りのいい剣ですね。俺は剣の方が使いやすいから』


『リョウジは日本人だから、刀を扱うものとばかり思っていました』


『いやあ、自分でもそう思ってそれなりに使えるんだけど、剣の方が得意なんですよ』


 悪政を働くビルメスト共和国を潰したあとも、人々は暮らしていかなければならない。

 貧しいままでは再び反政府ゲリラが誕生するかもしれないので、解放した地域にはダーシャの動画の収益や、俺のビルメスト関連の動画のインセンティブ、視聴者やこれまでに得たツテを用いて集めた多額の寄付金で必要なものを購入し、それを貸与して国民たちに仕事を与えた。

 幸い、ビルメストの国土は非常に豊かで、農業や畜産に適している。

 魔力で動く各種機械を導入し、失業者たちに仕事を割り振っていく。

 他にも、今年は税金を免除……どうせ、暫定で首相になったザーンさんが官僚機構を組織し終わるまでは税金が取れないので、どうせ徴税できないならと、人気取りに利用してしまった。

 なお、 役人や軍人たちにしっかりとした給料を出さないと汚職に走りやすいので、反政府ゲリラや、密貿易をして後ろ暗い反社会組織、多国籍企業から和解金名目で大金をぶん取っている。

 特に多国籍企業には、『和解に応じたら、逮捕した社員たちを釈放する』という条件で、ザーンさんたちに出す給料を確保することに成功した。

 反社会勢力も、俺が直接出向いて交渉に応じなかったところは、可哀想だがすべて潰した。

 向こうの世界でも、この手の連中との交渉経験がある。

 俺も昔はこの手の連中は容赦なく全滅させればいいと思っていたが、必ずしもそうではないことに気がついている。

 バランスや加減の問題になるので難しいのだが、素直に謝って和解金を支払ったところは今回は見逃し、そうでないところは完全に消滅した。

 俺と和解した連中は、容赦なく毟り取ったので大赤字になったが、潰れた組織の縄張りを手に入れて損失を抑えることに成功している。

 せっかく好景気なんだから、もうちょっとシノギの方法を考えろと言っておいたので、これからは少しは改まるはずだ。


『冒険者向けの武器と防具の製造を盛んにしたいけど、問題は材料だよなぁ……』


 特に、ダンジョンの下層で手に入るミスリルやオリハルコンがまったくなかった。

 税率95パーセントになんてするから、冒険者たちが積極的にレベルを上げたり、ダンジョンの攻略を進めなくて当然だろう。

 命がけで得た成果を税金名目でふんだくられるのだから、やる気が出なくて当然だろう。

 支配下に置いたダンジョンの管理も始め、税率を一割に落としたので、これから冒険者たちも頑張ってくれるはずだ。

 さらに、日本でダーシャが組織した在外ビルメスト人会の中から、高レベルの冒険者たちが故郷で冒険者業を始めてくれた。

 お金がある彼らは、地元で生活するのにお金を落としてくれる。

 彼ら目当ての新しい商売を始めるビルメスト人も増えており、おかげでビルメスト王国は久しぶりに経済成長を始めていた。

 これまでは汚職が酷く、いくら海外から援助を得てもビルメスト共和国の経済はほとんど成長していなかったので、この点もアピールすることを忘れない。


『ミスリルやオリハルコンを手に入れたいものです。私も冒険者ですから』


『では、俺がお教えしましょう』


 ダーシャさんは、君臨すれど統治せずだ。

 同時に、 任せている政治家たちが悪政を働いたらそれを排除する必要があった。

 ザーンさんがそんなことはしないと思うが、いざという時のために備えることは必要だろう。

 俺は、ダーシャとヘギドさん、他にも冒険者特性を持つ者で、若く優秀な若者たちを連れて、上野公園ダンジョンへと『テレポーテーション』で移動した。

 例の、五百階層のダークボールを用いたレベリングを実行するためだ。


『ダーシャ様は上級職の魔法剣士なので、レベルが上がればもっと強くなりますよ』


 俺も忙しいので、ずっとダーシャの護衛ができない。

 そこで、ヘギドさんや近衛騎士たちと共にレベルアップで強化し、自分で自分の身を守れるようにする予定だ。


『はぁーーー!』


『お見事!』


 美しいダーシャの動画は大人気で、インセンティブと寄付が大量に集まるようになっていた。

 それなのに彼女は贅沢をせずに庶民的な暮らしを続け、稼いだお金もビルメスト王国政府に寄付してしまう。

 さらに、彼女とヘギドさん、選ばれた近衛騎士たちは、国のシンボルとしての公務以外は、ダンジョンに潜って稼ぐ予定だと言っていた。

 ヘギドさんによると、彼が隊長となって復活させた近衛騎士隊だが、実は給料が出ないそうだ。

 ダーシャさんをリーダーとしたパーティでダンジョンに潜り、成果を平等に分け合う。

 俺がレベリングを施す予定なので、近衛騎士隊に任命されるだけでかなりの収入を得られる予定だ。

 その代わり、ヘギドさんが厳選した、人格能力ともに優れている若者しか近衛騎士隊には入隊できない決まりだそうだけど。

 ダーシャと一緒に冒険者として活動することで名誉と収入を保証し、裏切りや汚職を防ぐわけか。

 実際、その選考は恐ろしい競争率であったと聞いた。

 冒険者特性がない人でも優秀で人格が優れていたら採用されたのだが、それは俺が反政府ゲリラや共和国の不良役人や兵士たち、密輸をしていた反社会勢力の構成員たちなどから奪った冒険者特性を密かに合格者に与えていた。

 冒険者特性を与えられた近衛騎士たちに対しては、『貴様が冒険者特性を得られたのは、近衛騎士に合格できる能力と人格を兼ね備えているからだ。だがその資格をなくしてしまった場合は、せっかく得た冒険者特性をなくすだろう』と、ヘギドさんが合格者たちを脅していた。

 将来、堕落しないように注意したのであろう。


『ビルメスト王国において、冒険者特性を持つ者ばかりで構成された近衛騎士団は、ヘギド隊長と共にダンジョンを攻略し、国民たちに必要なものを手に入れることに専念する予定です。女王陛下の近近衛騎士団の士気はとても高いです』


 ダーシャは美少女で凛々しいので、今世界中で一番人気の王族だと思う。


『これからも、ビルメスト王国の様子を毎日伝えていこうと思います。一日も早く、ビルメスト王国が全国を解放することを願っています』


 俺の動画も、撮り溜めた階層が増えた上野公園ダンジョンの情報を更新しつつ、サブチャンネルはビルメスト王国の様子や、ダーシャさんとのコラボばかりしていた。

 イザベラたちも同様だが、おかげで毎日のように視聴回数の記録を更新し、俺たちの収入も増えている。

 大分寄付もしたが、ダーシャとヘギドさんが、俺たちが無報酬なのは悪いと常に口にしていたので、これでいいのだと思う。


「節税のために寄付を増やそうかな」


 ビルメスト王国が、一日でも解放されるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る