第111話 暴露系動画はバズりやすい

『みなさん、こんにちわ。今、ビルメスト王国のために戦っている俺の動画を見てくれているかな? これから、世界の闇をみなさんにお見せしたいと思います。そんな俺の同行者は……』


『イザベラです。ビルメスト王国で騒ぎを起こしていた反政府ゲリラ『マルスク真理党』ですが、実は社会主義革命を標榜しているのは見せかけで、。実は外国の反社会勢力や有名な多国籍企業が、ビルメスト王国の内乱を利用してダンジョンから産出する品を安く手に入れて荒稼ぎするため、犯罪者たちを反政府ゲリラに仕立て上げただけだったのです。その証拠を今夜、実際にお見せします』


『今夜、リョウジ君の番組なのにボクたちが司会をしているのは、リョウジ君とその友人のタケシが反政府ゲリラに変装して、外国の反社会勢力と多国籍企業とオトリ取引をするためです。見てください、リョウジ君たちはゲリラのような服装をしているでしょう? 取引をするフリをして、このままビルメスト王国の警察と共に一網打尽にする様子をお伝えするよ』


『お金を稼ぐことは悪いことではありませんが、外国に内乱を引き起こし、ビルメスト人に多くの犠牲者を出してまでやっていいことではありません。もしかしたら、日本の反社会勢力と企業が関わっているかもしれませんが、容赦なく捕縛したいと思います。そろそろ始まりますよ』




 動画撮影は順調なようだ。

 今は真夜中。

 ヘギドさんと、急遽編成されたビルメスト王国の警察官たちと、俺、剛は、大量の魔石、鉱石、素材、ドロップアイテムをいつも密貿易をしている場所に大量に持ち込んだ。

 当然これらの品を、外国の反社会勢力と多国籍企業に売却するつもりはない。

 なにより安く買い叩かれてしまうので、冒険者の観点から見ても、彼らと取引をするメリットなんて一つもなかった。

 密輸とその他色々な罪で、連中がノコノコ現れたところを全員逮捕する予定だ。


「しかし、良二。一度の取引で一網打尽にできるのか?」


「大体はな。こちらは無理に全員逮捕できなくてもいいのさ。どこの国の反社会勢力と多国籍企業が、反政府ゲリラと取引をしている証拠が掴めればいいんだから」


「まあ反社会勢力はともかく、グローバルに活動している多国籍企業が反政府ゲリラと繋がっていたので事実が世界に知れたら、大損失なんてものじゃないからな」


「当然、相応の罰を受けてもらうし、もし誤魔化そうとしても無駄だ。全部きっちりと取り立ててやるさ」


 特に反社会勢力の連中は。

 しっかりと浄財を取り上げて、ビルメスト王国復活の資金にあてさせてもらう。


「来たな」


 真夜中なので真っ暗闇の中、ギリギリビルメスト王国領内である取引場所に、次々と隣国から数十台の車両やトラックがやって来た。

 思っていたよりも大規模に密輸をしていたんだな。

 先頭のトラックから降りてきたのは、やはり現地の人間ではなく欧米人だった。

 ちょっとカタギには見えない奴だ。


「見ない顔だな」


「担当が変わったんだ。証拠の割符ならあるぜ」


「確認した。しかし、これまでに比べると圧倒的に量が多いな。これは、追加でトラックを持ってこないと駄目だな」


「冒険者たちを上手く使う方法を会得してね。量が多ければお互いに儲かるんだから嬉しいだろ?」


「違いない」


 反政府ゲリラと密貿易者たちは、本当に割符でお互いが本物かどうかを確認していたんだな。

 3 D プリンターもある現在、なかなかに原始的な方法じゃないか。

 おかげで助かっているが、割符自体は反政府ゲリラの指導者から取り上げたので、大した苦労もなく手に入ったけど。


「魔石の品質も随分と上がったようだ。ようやく深い階層に潜れるようになったのか?」


「ああ、冒険者たちをせっついてね」


「上手くいってなによりじゃないか。中間を挟まない直接の密貿易は儲かるからやめられない。次も沢山持ってきてくれよ」


「無理だな」


「無理? どうしてだ? 今、冒険者たちを上手く働かせる方法を会得したって……」


「実は、これらの魔石などは俺が集めたものでな。お前たちよりもはるかに高く売れる場所をいくらでも知っているし、俺はまっとうな冒険者なんだ。反社会勢力に売るわけないだろう。お前たちは俺たちに騙されて誘き寄せられたんだよ。なあ、眠くなってきただろう?」


「眠く? あれ……急に眠く……。それと、どうして俺以外のみんながすでに……」


 俺は、魔法で密貿易者たち全員を眠らせることに成功した。


「さてと」


 眠ったリーダーらしき人物からスマホを取り上げ、彼らの仲間へ電話する。

 その際に、声を魔法で真似るのを忘れない。

 話している言語は英語なので、俺でも簡単に真似することができた。


「奴ら、これまでの数十倍の品を持って来たんだよ。トラックや人員が足りないから、全員をここに集めてくれ」


『そんなに大量にあるのか? すげえ! 今回は大儲けじゃないか! 協定を結んでいる組織と会社に声をかけて可能な限り人員を出す』


「頼むよ」


『任せてくれ、今夜は大儲けだな』


 俺がオトリ用に用意した品を写真に撮ってチャットアプリで送ると、電話の相手は大喜びで応援を送ると返事をくれた。

 俺たちに捕まる悪党が増えるだけだが、連中は大儲けができると思って大喜びしている。

 今のうちに夢を見ておくがいいさ。

 いや、ここに来たら眠らされてまた夢を見るのか。

 そのあと目が覚めたら大変になっているから、せいぜいいい夢が見られるといいな。

 さて、先にこいつらを縛っておくか。





『ビルメスト王国で内乱を起していた反政府ゲリラですが、社会主義者を表明していたものも、実際には世界中の反社会勢力と有名なと国籍企業が手を組み、密貿易で荒稼ぎをしているだけでした。可能な限り犯人を捕らえたのですが、世界中の反社会勢力には驚きませんが、有名な多国籍企業の社員が多数混じっていたのが驚きです。社員たちをビルメスト王国政府が逮捕していますので、彼らの名前と所属企業を動画のリンクに貼っておきます。密輸の罪のみならず、反乱教唆、殺人ほう助などの重罪なので、彼らを雇っている企業はビルメスト王国政府までご連絡ください。彼らのせいで反政府ゲリラに多数の武器が渡り、これまでに老若男女数百名のビルメスト人が殺害され、略奪されたり、村を焼かれたり、女性がレイプされたりしています。うちの会社は関係ないとおっしゃるのは自由ですが、その時はそれ相応の覚悟をしておいてください』


 プロト1に編集させた、密貿易者たちを一網打尽にし、彼らの正体について伝えた動画はこれまでの視聴回数をあっという間に抜き去り、世界中で大きな話題になった。

 世界中の人たちに大きな衝撃を与えたのは、密貿易に関わっていたのが反社会勢力だけでなく、世界でも有名な企業の社員たちも混じっていた点だ。

 俺たちに捕縛された社員たちの社員証や、彼らが上司の命令で密輸に関わったと言う証言が動画で次々と更新されていき、社員が捕まった会社は大騒ぎになっていた。

 会社の経営陣もそれを知っていたのか、それとも手柄欲しさに社員たちが勝手にやったのか。

 どちらが真相だとしても、『社員が勝手にやったことです』などと言えば、世界中から批判されてしまうだろう。

 実際、そのように発言した会社の株価ストップ安で取引できない状態にまで陥っていた。

 その会社には、世界中から抗議の声が殺到しているという。


「しかしまぁ……。古谷さんは派手にやるね」


「西条、気がついているか?」


「ああ、ビルメスト『王国』だな。ビルメスト共和国じゃなくて」


「ならいい」


 古谷さんは、この騒ぎを利用して一つ嘘を仕込んでいる。

 現在のビルメストを統治しているのはビルメスト共和国なのに、彼らはずっと動画でビルメスト王国と言っていた。


「ビルメストが共和国か王国かなんて、世界中の大半の人が知らなかった。興味がないからだ」


「そんな状態で、古谷さんが動画でビルメスト王国と言い続ければ……」


 世界中の人たちは、ビルメスト王国こそが正当な政府だと思うようになる。

 ちょうど、女王陛下の人気がうなぎ上りになっているところだ。

 世界中の人たちは、ビルメスト王国が成立しても誰もおかしいと思わないだろう。


「高校生のやり口じゃないよなぁ……」


「東条さんなら、高校生の頃からそうだったかもしれない」


「そんなわけがない。古谷さんは特別なんだよ。しかしまぁ、こんな時でも日本の政治家は……」


「東条さんもか。私もだよ」


 ビルメストで反社会ゲリラと共に密貿易をしていたグループは、世界中の反社会勢力と多国籍企業の互助会のような組織であった。

 当然だが日本の反社会勢力と大企業も複数入っており、フルヤアドバイスでは大騒ぎになっていたのだ。


「政治家は、裏で反社会勢力を利用することが多いからな。古い政治家が多いが、連中に泣きつかれて圧力をかけてきやがった。報道するな、すぐに捕まった社員を釈放しろだとさ」


「呆れてものも言えないな。逮捕者たちが所属している企業から献金を貰ったお礼ってか? 広告費を貰っている大手マスコミからも、同じような陳情という圧力がきているけどな」


 しかしながら、実際に密輸をしようとした様子と、彼らの素顔が動画ですべて世界中に公開されてしまった。

 今さら誤魔化すのは難しいだろう。

 他の国だってそんなことはできやしないし、もしマスコミを押さえることができても、ネット経由の動画で流れてしまっているのだから。


「古谷さんが日本人だからなんとかしろと、上から目線の政治家や、企業経営者、マスコミ人は多い」


「彼らは他人の悪事はどんな些細なことでも許せないが、身内の悪事には随分と寛容なんだな」


「人間なんてみんなそんなものだろう。どのみち、彼らを拘束しているのはビルメスト王国政府なんだ。交渉はそちらとするしかないんじゃないか?」


「古谷さんは、利益になるとわかれば原理原則に拘らない。さすがにこの不祥事で潰れる会社はないと思うから、上手く示談すればいいんじゃないかな?」


「大量に搾り取られるけどな」


「会社が潰れないだけマシだろう。そのぐらい払えばいいさ。これまで阿漕なことをして稼いできたのだから」


 それから一ヵ月ほど。

 世界は、ビルメスト国内で反政府ゲリラを仕立て上げ、密貿易で荒稼ぎをしていた世界中のグローバル企業を盛大に批判していたが、人間というのはよくも悪くも熱しやすく冷めやすいらしい。

 多国籍企業の大半は、潰れはしないが立て直しに十年はかかりそうな額の和解金をビルメスト王国政府に支払って手打ちとなった。


「みんな、もう忘れているというか、気がついていないんだろうな」


「なにをだ? 西条さん」


「本当なら、多国籍企業は和解金をビルメスト共和国政府に支払うのがスジなんだ。それなのに、ビルメスト王国政府と和解交渉をしてお金を支払ってしまった。これでますます、世界中の人たちがビルメスト王国こそが正当な政府だと思うだろうなって」


「全部、古谷さんの計算だろうな」


 ただ強くて大金を稼ぐ冒険者ではなく、まさかここまで頭がキレれるとは。


「ところで東条さん、多国籍企業はともかく、反社会組織の方はどうなっているんだ?」


「間違いなく、企業なんて目じゃないほど酷い目に遭っているし、まったく報道されないが完全に潰されているところもあるだろうな」


「潰された? ああ……」


 反社会勢力……昔は暴力団といったが、抗争で人死にが出てもそれが表沙汰にならないケースが結構ある。

 密かに殺した敵組織の人間と、時には味方の死体を完全に処理してしまうからだ。

 密かに古谷さんと交渉して、詫びを入れてお金を払った反社会組織は残り、それが出来なかったところは……まあ容赦なく殲滅されるのだろう。

 アウトローな組織を全滅させずに残すという決断を嫌う清廉潔癖な人がいるが、世の中とは光があれば影もあるんだ。

 不思議なことに、弁えたところをある程度残した方が治安が良くなることもあるのだ。

 当然この考えは公的に認められないし、古谷さんもそれは重々承知なので密かに実行したのだろう。

 どうせ証拠は出てこないから、誰もそのことに気がつかないだろうけど。


「(しなしながら、これでかなりの資金がビルメスト王国に集まった。政権転覆はできそうだな)」


 なんと言われようと、この世の中で最強に近い力を持つのはお金だ。

 古谷さんたちとビルメスト王国がそれを手に入れた以上、あとは時間の問題でビルメスト共和国政府は崩壊すると思う。


「まずは、反政府ゲリラから解放した地域を安定化させ、共和国政府と決着をつけると思うので、私は田中総理に会ってこようかな」


「私も、各省庁や政治家のところを回ります。古谷企画の仕事もあるので、久しぶりに忙しくなりそうですね」


 本当は、動画配信やSNSを用いて国の政権転覆を目論むなど、決していいことではないが、このままビルメスト共和国が続いても、ビルメスト人は貧しいままだ。

 古谷さんのせいで犠牲者も出るだろうが、このような問題が話し合いで解決するわけがないし、そう言ってる奴は結局なにもしない。


 私と西条さんは、批判を恐れずに実行している古谷さんを助けて、自分たちの意思を示すとしよう。

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