第110話 反政府ゲリラ壊滅

「あれ? なんだ? 急に眠く……なって……」


「仲間と連絡が取れなくなったルハの町には一体なにが……意識を保てない……クソッ……」


「悪いが、二~三日は目が覚めない魔法で眠らせた。武器を没収して牢屋に閉じ込めておいてくれ」


「わかりました。しかし、ここまで犠牲者はゼロですか……」




 ビルメスト王国が唯一統治しているルハの町を出撃し、その周辺にある反政府ゲリラたちが支配する町や村を次々と解放していく。

 攻め落とすではなく開放だ。

 動画も撮影しているが、俺たち冒険者が派手に反政府ゲリラたちを傷つけたり倒すシーンを撮影してはいけない。

 無事に村や町が犠牲者ナシで開放され、彼らがビルメスト王国の統治を喜んで受け入れる。

 少なくとも、そのように見せるのが大切なのだから。

 ダーシャが集めた支援金で購入した日本の食料や生活用品を、解放した村と町の住民に配り、炊き出しをし、今年は無税だと告げる。

 あからさまな人気取りであり、動画の撮れ高しか考えていないが、その効果は絶大であった。

 解放された村や町の住民たちが続々とダーシャを支持し、戦闘も犠牲者もなく、ビルメスト王国の支配領域が広がっていく。

 内戦状態なのに犠牲者が出ないのは、俺が反政府ゲリラたちを魔法で眠らせて捕縛したからだ。

 犠牲者を出さずに勝利していく。

 文句も出にくく、動画を見ている人たちの支持を得やすい。

 犠牲者をゼロで解放する難易度がそう高くないというのもあった。

 ヘギドさんが住むルハの町の町長はなかなかの政治家で、彼は住民や捕虜から信用できる者たちで自警団を結成し、俺が眠らせた反政府ゲリラたちを捕縛していく。

 武器も回収して自警団に配り、共和国軍への備えも怠らない。

 自警団はビルメスト王国軍へと改名される予定で、彼らの訓練と活動の様子も動画であげており、これは反政府ゲリラ亡きあと、ビルメスト共和国軍がその支配領域を取り戻しに来るのに備えるためであった。


「各種火器のみならず、通信機、車両、戦車はないけど装甲車はある」


「反政府ゲリラたちは、支配領域のダンジョンで冒険者から税金と称して取り上げた魔石、鉱石、素材、ドロップアイテムを外国の企業に横流しして武器を手に入れていたようです」


「まさに外患だな。となると、これはいい動画が撮れそうだ」


「リョウジ君、悪いことを企んでるみたいだね」


「いやいや、これは正義の告発ですよ」


 ホンファも他のみんなもお金持ちのお嬢様たちなんだから、俺につき合って戦争に参加することなかったのに、なぜか嬉しそうに同行し、綾乃は魔法で政府ゲリラたちを眠らせるのを手伝ってくれた。


「どこの有名なグローバル企業が行っている悪事か知らないけど、動画で反政府ゲリラと密輸しているシーンを撮影し、捕まえて証拠を掴んだら、視聴回数が大幅に稼げるはずだ」


「確かに、その手の動画は人気があるよね。どこの会社なのか知らないけど、ビルメスト解放に参加しているボクたちと、ビルメスト王国の人気はウナギ登りだと思うよ」


「そういう動画を撮影できれば人気が出るのはわかっていますが、リョウジさんだからできることとも言えますね」


「そのためにも、まずは反政府ゲリラのトップを捕まえませんと。みんな、魔法で眠らせてしまいましょう」


「私も出番欲しいです!」


「じゃあ、これね」


 俺は、リンダに『睡眠弾』を渡した。

 これは魔銃で発射し、命中した標的を眠らせることができる特殊な弾丸だ。

 非常に作るのが難しいので、まだ俺しか作れないけど。


「すでに俺たちは戦車砲が打ち込まれても傷一つつかないんだから、いくらゲリラたち相手でも、無益な殺生はどうかと思う。リンダ、みんなに魔銃を貸してあげてくれ」


「オーケー、好きなものを選ぶといいわ」


 リンダは、武器庫の中から自作したり改良した様々な魔銃を取り出し、みんなに見せた。


「リンダさん、もの凄いコレクションですね」


「俺は銃を撃ったことがないんだが、大丈夫かな?」


「タケシのレベルなら、普通の銃弾で数十発も練習すれば、大体命中するようになるわよ」


「空いてる時間に訓練するよ」


 剛のみならず俺やヘギドさんも魔銃を受け取り、大量の睡眠弾も分け合って装填した。

 基本的には俺と綾乃の魔法でなんとかなるが、万が一に備えているというやつだ。


「ヘギドさん、反政府ゲリラって何人ぐらいいるんですかね?」


「およそ二千人くらいと推定され、ビルメスト共和国の五分の一ほどの領域を支配している。大半のゲリラたちは、この国の貧しさに絶望した若者たちだ。どうにか普通に生活できるようにしてやりたいので、この睡眠弾はありがたい。殺してしまうことがないからな」


「半分くらいは眠らせて捕らえたのかな? 」


「そんなところだと思う。ただ、この国の政治が良くないせいでゲリラは今も増え続けていると思う。やはり、指導者のチワワンを捕らえ、密貿易をしている外国企業や反社会勢力の連中も一網打尽にしないと」


 そこまでやって、 第一段階といったところだ。

 それが終わったら、動画投稿とSNSを用いた宣伝工作も忘れない。

 ダーシャを前面に押し出し、ビルメスト王国こそが正義で、ビルメスト人たちのためなのだとさり気なく宣伝していく。

 どうやら、ビルメスト共和国の連中はこの手の情報戦には疎いようだからな。

 戦力が少ないこちらとしては、一人でも犠牲を少なく勝利するためには、どんな卑怯な手でも使って行かなければならない。

 勿論、動画ではそれを隠すけど。


「解放した村や町、ダンジョンの管理は、ルハの町の町長であるザーン殿に任せる。彼は閣僚経験もある優秀な政治家だ」


「ですが彼でも、旧ビルメスト王国を変えることはできなかったのですね」


「ザーンさん一人が優秀なぐらいでは、国や大きな組織はそう簡単に改革できないものさ」


「フルヤさんの言うとおりです。そして、閣僚でも貴族でもなくなったザーン殿は、ビルメスト共和国では冷や飯食いでした」


 政府の閣僚から、小さな町の町長だからな。

 左遷なんてものじゃないだろう。


「他にも、優秀なのに冷飯食いの元貴族、役人、学者などがビルメスト共和国政府に嫌われ、左遷されているか、在野で貧しい生活を送っている。国外に逃げた人たちもいるから、彼らを再編成すれば暫定政府はできるはずだ」


「そちらは、ザーン殿に任せましょう」


 反政府ゲリラが支配する町や村を開放し続け、ついに隣国ワットル共和国との国境沿いにある大きな町の解放にも成功した。


「ぐぉーーー! すぴーーー!」


「誰一人レジストできないよなぁ、みんな。冒険者特性を持っていないからか? いや、こいつは持っているじゃないか。奪っておこう」


 ここには反政府ゲリラの指導者がいるという情報なので、一人も逃さないように捕らえた。

 もし逃げられてしまうと、追跡するのが面倒だからだ。

 逃すことはあり得ないが、忙しいので無駄な時間を使いたくない。

 ただ、誰一人俺の魔法をレジ ストできなかったので、アジトの中で重なるようにぐっすりと寝ていた。

 一人くらい、『俺に魔法は効かないぜ!』とか言って起きているゲリラがいてもいいと思うのだけど。


「冒険者特性を持っていても、レベルが低いので良二様の魔法をレジストできないと思います。圧倒的に実力差がありすぎて」


「そうよねぇ。さて、あとはこの反政府ゲリラの親玉を起こして、密貿易をしている連中について吐いてらいましょうか」


 起きているゲリラが一人もいないことを確認した綾乃とリンダが、俺に報告にやってきた。

 イザベラ、ホンファ、剛は武器の回収をしているはずだ。

 ここは反政府ゲリラの本部なので、他にも食料、現金、貴金属、 美術品などが置いてあると事前に情報を得ていた。

 これはありがたく頂戴して、新国家建設の役に立ってもらおうか。


「このモブゲリラの指導者は、『目覚め』で起こすか……」


 目覚めるのを待つと二~三日待たないといけないので、急ぎ『覚醒』の魔法で起こした。

 すぐに目を覚ましたゲリラの指導者だが、自分はどういう状況に置かれているかよく理解できていないようだ。

 周囲をきょろきょろ見渡していた。


「……はっ! ここは? なんだお前らは? この俺様が率いているマルクス真理党に入りたいのか?」


「全然」


 俺は基本一匹オオカミだし、おかしな組織には関わらないようにしているからだ。


「今時、マルクス真理党って……。ネーミングセンスの欠片もありませんわね」


 イザベラの言うとおりで、確かに今の時代にマルクスを全面に押し立てる反政府ゲリラってどうなのかと思う。

 時代遅れにもほどがあるからだ。

 ビルメスト人にしては背が低く、樽のように太っている中年男性は、反政府ゲリラの指導者としてはカリスマに欠けているというか、どうせ海外の反社会勢力とグローバル企業の手先だから、このぐらいの雑魚で十分なのであろう。

 変に能力があると、必要以上に頑張ってしまうからだ。


「自分の置かれた状況をよく理解した方がいいぞ」


「なっ! 急に眠くなったと思ったら、どうして俺様が縛られているんだ? おいっ! 俺様を縛っている縄を切らないと、手下たちにひどい目に合わせるぞ!」


「その手下なんだけど、もう全員捕縛されているかな。つまり、お前を助けにくる部下は一人もいないのさ。それで、お前に質問がある」


 俺は、極力抑えた殺気を反政府ゲリラの指導者に向けて放った。

 ギリギリまで手加減したのだが、こいつには刺激が強かったようだ。

 震えながら歯をガタガタと鳴らし、よく見ると股間の部分が濡れていた。


「この程度で漏らすなよ。ところで、お前たちと密貿易相手との次の取引はいつだ? どんな連中と取引をしているんだ?」


「誰が喋るか!」


 いい年をしてションベンを漏らしても、組織の資金源は絶対に話せないというわけか。


「別にお前が話さなくても、お前から情報を聞き出す方法なんていくらでもあるんだ。まずは、その副作用で廃人になってしまうやつからやってみるか?」


「ひぃーーーっ! そっ、それだけは勘弁してください!」


「じゃあ素直に話してもらおうか」


「はい……」


 反政府ゲリラマルクス真理党の指導者は、拷問をほのめかすと呆気なく密貿易相手を吐いた。

 拷問なんて野蛮なことをする意味がないし、他に吐かせる手段はいくらでもあるのだが、手間がかかるので勝手に喋ってくれてよかった。


「しかしまぁ……」


 世界のグローバル化が進んでいる証拠なのかもしれないが、世界各国の反社会組織と、有名な多国籍企業の名前が次々と出てきた。

 今の世界はダンジョンから産出する品が不足しているので、買収したビルメスト共和国の政府高官たちと、犯罪者から仕立て上げた反政府ゲリラから安く仕入れて荒稼ぎをしているようだ。

 普通安く買い叩こうとすると不満が出るものだが、ビルメスト共和国も反政府ゲリラも、冒険者から税と称してほぼすべての産出品を奪い取っている。

 安く売っても、彼らの利益は大きかったので文句は出ないのであろう。


「本当なら、稼いだ冒険者が税金を払ったり、国内で販売したダンジョンの産出品で産業や商売を興して経済をよくできるはずなんだけど……」


「ビルメスト共和国政府の連中は酷いな。自分たちだけがよければいのか」


「実際、ビルメスト共和国の貧富の差は激しい。政府高官とそれに連なる政商たちばかりが贅沢に暮らしているんだから。あいつらは許さない!」


「ですが、もし政権転覆に成功しても、彼らは国外に逃げ出すのがオチですわ。荒稼ぎした資産で、三代は贅沢に暮らせるはずです」


「いいや、悪いけど没収させてもらう。俺はテレビ番組の正義の味方じゃないから、やらかした奴にはどんな手段を用いても報いをくれてやることにしているのさ」


「誰にもわからないようにだよね?」


「そういうことさ。さて、反政府ゲリラの指導者を名乗っているが、どうせお前は性質の悪い犯罪者だろうな。違ってたら謝罪して更生の機会を与えてやるが、俺たちは急ぐんだ。クズは、裁判なしで『追放』だから覚悟しておいてれ」


「追放? 国外にか?」


「違うよ。お前たちはダンジョンから産出するものが大好きだろう? ルハの町の近くにあるダンジョンの二十階層に飛ばしてあげるから、頑張ってモンスターと戦って生き延びてくれ。もしそれができたら、冒険者として成功できるぞ」


「ええっーーー! 俺様は冒険者特性がないんだぞ! 死んでしまうじゃないか!」


「お前みたいな悪党、世間に解き放つ方が害悪だろう。残念だけど、この国には日本のように犯罪者の人権を擁護する人権派弁護士なんていないので、運が悪かったと思って諦めてくれ。『国ガチャ』に外れて不幸だな」


「やめてくれーーー! 命ばかりは命ばかりはお助けを!」


「それは絶対にできないな。普通に暮らしたらそんな目に遭うわけないんだから、自身の悪行の報いを受けるがいいさ」


 その後、残念ながらマルクス真理党の指導者やその幹部たちは、元犯罪者、それも殺人、暴行、強盗、放火、強姦など銃犯罪ばかり繰り返すクズばかりだったので、容赦なく『追放』でダンジョンに送り込んでおいた。

 当然冒険者特性がなく、武器もなく下着姿の彼らが二十層のモンスターに勝てるわけがなく、全員がモンスターに食べられて死んでしまったけど。


「勿論、こういう不都合なところは撮影もしません」


「徹底的にやりますね」


「今ある政権を転覆させるというのはそういうことだと俺は思う。綺麗事だけでは済まないのさ」


「……フルヤさんの言うとおりです。あなたが、私よりも年下だというのが驚きです」


 こういう時、頭が良くて理性的なやつは役に立たない。

 なぜなら、理性的だからたとえ悪党でも殺すことができないからだ。

 なまじ頭がいいので話し合いで解決しようと言うのだが、当然話し合いでビルメスト共和国の連中が自分たちの悪政を改めるわけがなかった。

 そもそも話し合いですべて解決できたら、この国で十年前にクーデターが発生しなかったし、反政府ゲリラが誕生することもなかったのだから。

 よくも悪くも今の状況を変えるには、批判されるのを覚悟して実際に行動しなければ駄目なのだ。


「捕らえた反政府ゲリラたちも、ザーンさんたちに調べてもらっています。 味方にすることで害がありそうな人物はすべて『移転』ですね」


「……そうだな。いくら生活が貧しいとはいえ、大半のまともな人間は田畑を耕したり、なにかしらの仕事をして食べているんだ。ゲリラに参加した時点で、捕まったら処刑されるのが普通なのだという現実を理解してほしい。残酷だが見せしめも必要だ」


 今回は、反政府ゲリラに参加しただけならビルメスト王国軍に組み込むか、釈放して普通の生活に戻ってもらう。

 だが、こういう組織には食い詰めた犯罪者が参加しているケースが多い。

 罪を犯しているのなら、それ相応の罰を受けてもらうだけだ。


「外国の反社会組織と、多国籍企業はどうするの?」


「俺たちは動画配信者なんだ。世界的に恥を晒してもらおう」


  反政府ゲリラの指導者によると、ちょうど今夜は取引の日だそうだ。

 俺たちはそこに待ち伏せして、彼らの悪行を暴いてやることにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る