第108話 やる時は即決
「なんだって! この町がゲリラたちから解放されたというのに、共和国政府の役人ども戻って来ないって?」
「はい。まだ周辺にはゲリラたちが支配してる町や村があって、危険だから戻りたくないそうです。あいつら、普段は威張り腐っているくせに……」
「そうだよな、税金を取る時だけニコニコしやがって」
「共和国政府もダメだし、反政府ゲリラなんて論外だ! なあヘギドさん、あんたがこの町やダンジョンの管理をしてくれないか?」
「いや、私は……」
思わぬ事態になってしまった。
俺がヘギドさんの家に銃撃してきたゲリラたちを倒したら、結果的にこの町を占領していたゲリラたちから開放した形になってしまったのだから。
まさか、全兵力でヘギドさんの家を襲撃するとは思わなかった。
反政府ゲリラとはいっても山賊みたいなものだし、指揮官があのブルドッグだからなぁ……。
まともな統治機構なんてなかっただろうし、それを上手く動かす能力もなんてあろうはずがない。
ブルドッグが倒されたら、俺が眠らせたり気絶させたゲリラたち以外は逃げ出してしまった?
「まさか、本当にゲリラ全員でヘギドさんを狙ったのか?」
「いや、正確にはダーシャ姫でしょうな」
シレっと答える初老の町長。
この町の住民たちは、ダーシャ姫の正体に気がついていたのか。
「しかしまぁ、よく十年も隠せたものだ」
「ビルメスト王家の悪政もどうかと思いますが、ダーシャ姫は子供でしたからな。大人は子供を守るものです。それに、実は私も傍流ながら元ビルメスト貴族だったので……。王国、共和国、左派ゲリラ。結局誰が治めてももこの国はよくならない。ならばどうして、ダーシャ姫を連中のイケニエにできようか。それに、この町を占領したゲリラの指揮官ブルードックを倒してくれたことに感謝しています。あなたに眠らされたゲリラたちの半分は、無理やり徴兵されたこの街の若者たちだったんです。殺さないでくれてありがとうございました」
「末端のゲリラなんて嫌々戦っているだけの奴が多いだろうから、殺すのはどうかと思ったんだ。それに、もしゲリラたちがクズ野郎だったとしても、始末はあとでいくらでもできるから。ところでもう半分はどうします?」
「彼らの大半も、近隣の町や村から無理やり徴兵された若者たちです。故郷の村や町がゲリラたちから開放されれば……」
「無理じゃないかな?」
「フルヤさんは、どうしてそう思うのですか?」
「彼らの中には、ビルメスト共和国政府の政治に絶望してゲリラに参加した者たちもいるはず。なによりゲリラたちを壊滅させなければ、再びこの町が報復でゲリラたちに占領されるかもしれず……。あれ?」
町長の質問に答えつつ、 もしかして俺はゲリラたちを倒さなかった方がよかったのか?
家の中を銃撃された時、『テレポーテーション』で逃げ出してしまえば……。
「どちらにしても、私の家の中がものけの空だったら、ゲリラたちは町の人たちが我々を匿ったのではないかと疑い、仕返しをされたかもしれない。このまま、私たちとダーシャ姫だけが逃げていいのだろうか?」
ヘギドさんは、もし自分たちだけが日本に逃げてしまうと、この町の人たちが大変なことになってしまうのではないかと心配していた。
この救助作戦自体は非常に簡単な仕事のはずだったのに、なかなか上手くいかないものだ。
「(こういう場合ってどうすればいいのかな?)」
強引にヘギドさんとダーシャ姫を日本に連れ帰り、 この町がどうなろうと気にしないという手もある。
この国の状態をよくするのは無理ゲーに近く、場当たり的に俺がこの町に手を貸したところで、時間が経てばもっと状況が悪くなってしまうかもしれないのだから。
いくら俺が個人で強くても、国を治めるには大して役に立たないのだから。
「そうですな。このビルメストをよくするには、場当たり的な行動だけでは無理でしょう。まずはヘギドとエルラーラ、ダーシャ姫には日本に行ってもらい、まずは海外で活動しているビルメスト人たちを取りまとめて、戦力を整えるぐらいのことはしなければ」
「町長、この町はどうなるんです? 俺はゲリラたちを倒し、捕らえてしまいました……」
「なんとかするしかないでしょう。腹を括るしかない。他の支配地域でも反政府ゲリラたちの本性などとうに割れております。 共和国政府の汚職役人たちと大差がないことに気がついている者たちは多いのです。どのみち、このままでは我らとゲリラたちは衝突する運命にあり、その際に共和国政府が助けてくれるとは思いません。彼らは、我々と反政府ゲリラたちが潰し合ってから、漁夫の利を狙おうとするでしょう。それでも、我らは故郷を守らなければいけないならないのです」
「…… 。このままだと勝ち目がないにしても?」
「難しい状況ですが、やるしかないのです。共和国政府も頼りにならないし、今さら反政府ゲリラたちに降伏することもできません」
この町が、共和国政府からも反政府ゲリラたちにも屈せず、第三勢力として生き残るのは非常に難しいと思う。
やはり、俺がゲリラたちを捕らえなければ……いや、彼らはダーシャ姫の存在に気がついていたらしく、だからヘギドさんと共に始末しようとしていた。
どのみち、ダーシャ姫を匿っていたこの町の将来は明るいはずがない。
「(とはいえ、これからどうすれば……)」
この町の住民すべてを国外に避難させるか?
いや、冒険者特性がない外国人が日本に滞在するのは難しい。
なにより、町長も含めてそれを嫌がる人は多いだろう。
「(みんな、これからどうしたらいいのか悩んでいるな)」
ヘギドさんも、エルラーラさんも、ダーシャ姫もそうか……。
ならばこういう時に事態を解決する手段は一つしかない。
「よし! 決めたぞ! 失敗するかもしれないが、このまま座視して状況が悪くなるのを待つよりは。先に動いてビルメスト共和国の政権を転覆させてやる! まずは、反政府ゲリラたちを殲滅させるぞ!」
向こうの世界でも、下手に悩んでなにもしないよりは、多少無茶でも先に動いた方がいい結果をもたらすことが多かった。
それに倣うとしよう。
幸いと言っていいのかわからないけど、共和国政府は軍事力を行使した反政府ゲリラたちに対し及び腰だ。
この国で一番階層が深いダンジョンを占領されても、それを取り戻そうとしないのだから。
ダンジョンからの利益は得るが、危険を承知で守るのは嫌ってわけか。
まさかここまで腐っているとは……。
「ならば、新ビルメスト王国がこの国を統治すればいいんだ。まずは、反政府ゲリラたちを滅ぼして独自の支配領域を得よう」
反政府ゲリラたちにビビって討伐軍すら送らない共和国政府だ。
俺たちが反政府ゲリラを討伐してしまえば、少なくともしばらくは様子を見るはず。
その間に、新しい政府を作れば……。
「フルヤさんは、そういうのに慣れているのか?」
「うーーーん、慣れているというか……」
向こうの世界で、たまたま魔王に滅ぼされた王国の王女と出会って、国の再建に協力しただけだ。
そうしないと、魔王退治に悪影響があったからだ。
なお、そのお姫様とのロマンスは……なかったですねぇ……。
「やると決めたからにはやるし、それには新しい手法を用いなければならない。腐敗した共和国政府を倒すまで、俺のやり方に従ってもらう」
「わかりました、リョウジ様」
「リョウジ殿と、リョウジ殿をこの国に送ってくれたシンヤに感謝する」
ヘギドさんは、俺だけでなく、今はこの場にいない東条さんにも感謝していた。
「ヘギドの友達って、凄い人と懇意にしているのね」
「こうなったら、もうやるしかありませんな」
ヘギドさんたちの日本移住は中止となったが、これからは日本とビルメストを往復してもらう予定だ。
いくら腐敗していても、ビルメスト共和国政府も、反政府ゲリラたちも数が多い。
少数の第三極が対抗するには、これまでにない方法を用いなければならない。
「あっ、報酬は動画配信とダンジョンで稼ぐので、ご心配なく」
俺の冒険者としての強さだけでなく、動画配信者としての知名度を活かした新しい戦い方を見せてやろう。
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