第107話 わかりやすい悪党たちを倒してみる
「……」
「おい! 早く今日のアガリを納めろよな!」
「誤魔化しやがったら、ハチの巣にするぞ!」
「冒険者なら、悪辣なる共和国打倒を目指す我ら革命軍戦士たちに支援をして当然だろう。お前らは、頑張ってダンジョンでエネルギーや資源を手に入れるんだ」
「しかし、我が国の冒険者たちは本当にレベルが低いよな。他の国の冒険者みたいにもっと深い階層に潜って色々と手に入れてこいよ。なかなかレベルが上がらないし、無能は殺すぞ!」
「こうなったら、住民たちを集団でダンジョンに入れてスライム狩りをさせるか? 海外だと、冒険者特性がなくてもそういう方法で稼いでいる連中がいるそうだ」
「それはいいな。俺たちの分け前が増える……いや、腐敗した共和国政府を打倒する資金が手に入り、真に平等な社会主義国家が生まれるのだ」
「「「「「……」」」」」
『テレポーテーション』で、ヘギドさんが逃げ込んだというビルメスト共和国で一番階層が深いダンジョンの近くに飛んできた。
すぐに姿を隠してダンジョンの入り口まで向かうと、反政府ゲリラたちが冒険者たちから魔石や鉱石、素材を取り上げていた。
社会主義国家の建設を標榜しているゲリラたちだが、現実は山賊と大差がなかった。
先日の後藤と種類は違うが、クズさでは互角だろう。
共和国政府の連中もクズで、命がけでダンジョンに潜った冒険者たちから収奪を繰り返していたが、反政府ゲリラたちも同じことをしている。
この国は、 王家の頃から為政者が悪政を働き、トップとその取り巻きたちが贅沢をするという構図がまったく変わっていないのだ。
「(この反政府ゲリラたちを見ていると、日本の政治家なんてまだマシな部類なんだな)」
俺の仕事は山賊のようなゲリラたちを退治することでなく、東条さんの依頼でヘギドさんを救出し、日本に連れてくることだ。
東条さんによると、ヘギドさんには冒険者特性があるそうなので、冒険者特区で稼いで暮らせばいい。
当たり前だが、俺にこの国の政治を正す意思など微塵もない。
そういうことは、もっと真面目な奴がやるものだ。
なにより、ビルメスト共和国の政治はビルメスト人が正すしかないのだから。
ここで外国人が頑張ったところで、ビルメスト人たちが正した国を維持できなければ結局同じことだからな。
「(この国の冒険者たちには、気力というものが感じられないな)」
それがあるビルメスト人の冒険者たちは、とっくに国外で冒険者として活躍している。
ここに残った冒険者たちは、お上の言いなりになって稼ぎの大半を差し出し、それに逆らおうともしない人だけ。
そんな腑抜けた冒険者たちばかりなので、なかなかレベルは上がらない。
なにより、命がけで強いモンスターを倒して多くの稼ぎを得たとしても、どうせ大半を持っていかれてしまう。
それなら簡単に倒せるモンスターだけを倒せばいいと考え、結果としてビルメストア共和国のダンジョン攻略率は世界でもビリに近かった。
俺がダンジョンの情報を動画で公開しているのに、それを活用せず低階層でウロウロしているだけなのだ。
「(悪いが俺は、こういう連中をあまり可哀想とは思わないし、手など貸そうとも思わない)」
なぜなら、冒険者はレベルを上げれば銃どころか、戦車にだって勝てるようになるからだ。
無理にこの国で暮らさなくても、海外の冒険者特区に行けばすぐに生活を良くできる。
それを決断できない時点で、彼らは駄目なんだと俺は思ってしまうのだ。
これ以上彼らが虐げられる様子を見ていても意味はないので、そっとダンジョンに入った。
時刻はすでに夕方だからか、三階層に下りたらもう他に冒険者は一人もいなかった。
「ビルメスト共和国の冒険者たちのやる気のなさは、ある意味感心するレベルだな」
自分たちが贅沢をするために発破をかけるビルメスト共和国政府の連中だが、残念ながらまったく効果がないようだ。
冒険者たちのやる気を出すために、税率95パーセントなんてふざけた税率をやめればいいのだが、ビルメスト共和国政府の連中は、私利私欲の権化であり、同時にとても頭が悪かった。
だから税率95パーセントでも、俺からすれば笑ってしまうような収入しかないのだから。
彼らを見ていると、貧困に喘ぐ発展途上国がなかなかその状態から脱することができない理由がよくわかる。
たとえ外国から援助を得たとしても、それを上手く生かすのはその国の人間たちでなければならない。
だがそれができないので、いつまでも国は貧しいままなのだ。
これを解決する手段は……教育?
結局そこに行き着くんだろう。
「(しかも、このままだとビルメスト共和国のダンジョンは消えてなくなるな)」
確か、ビルメスト共和国のダンジョンで一番攻略されているところで二十一階層だったか?
しかも大半が、間違いなく五階層に辿り着いた冒険者はいないはずだ。
なかなか攻略が進まないダンジョンは、下手をすると一~二年で消えてしまう。
実際に、俺が攻略して動画を公開したのに、そのあと誰も入らなかったらダンジョンがすでに消滅し、他のダンジョンに統合したり、ダンジョン攻略が盛んな国……主に日本に移転してしまったりしているのだから。
実はビルメスト共和国のみならず、ダンジョン消滅の危機にある発展途上国は多かった。
大半の原因が、その国の為政者や、ダンジョンを占拠している反政府組織、ゲリラ、犯罪組織、反社会勢力が過剰な搾取をするのが原因だ。
優秀な冒険者ほど世界中の冒険者特区で自由に活動できるので、あとに残るのは優秀じゃなかったり、やる気がない、彼らに逆らう勇気がない気の抜けた冒険者ばかりになってしまう。
彼らは低階層のみで活動してお茶を濁すから、刺激が足りなくなったダンジョンはそこから移動してしまうのだ。
ダンジョンが出現してエネルギーと資源の分布が以前よりも均等になり、これで世界の国々の経済格差が縮むと考えた経済学者は多かった。
だが同時に、かえって先進国はより豊かに、貧しい国はより貧しくなるのではないかと予想した経済学者も多く、残念ながら正解は後者の方であった。
「(俺は正義の味方じゃないからな、ヘギドさんを回収して日本に帰ろう)」
低階層に時間をかけても仕方がないので、どんどん下の階層に下りていくと、二十三階層でようやく人の気配を感じた。
だが、少しおかしな点がある。
「あれ? 人の反応が二つある。ヘギドさんだけじゃないのか?」
急ぎ彼との合流を目指すが、向こうも俺に気がついたようだ。
警戒感を露わにするが、俺はここに来る前に覚えたビルメスト語で話しかけると、岩の陰から男性が出てきた。
年齢は三十代半ばといったところで、東条さんと年齢が近いように見える。
身長が百九十センチを超える偉丈夫で、細身ながらも体はよく鍛えられているようだ。
いわゆる細マッチョで、その隙のない佇まいからして元近衛騎士団長というのも納得できる。
ビルメスト人らしい褐色の肌と短く刈った髪型がよく似合っていた。
「……驚いた。動画で見たリョウジ・フルヤだ」
「ヘギドさんですね? 東条さんの依頼で、あなたを国外に連れ出しに来ました」
「シンヤ……十年前に一年だけ一緒だった私に……友とはありがたいものだ。二人に心からの感謝を」
さすがは東条さんが救出を依頼するだけのことはある。
ヘギドさんは能力が優れているだけでなく、人格者でもあった。
若造である俺に頭を下げながら感謝の言葉を述べられるのだから。
「リョウジ・フルヤ。私を国外に連れ出すというのか?」
「ええ。このままだとビルメスト共和国からダンジョンは消え去ってしまいますからね。冒険者は国外で稼がないといけません」
俺は、ビルメスト共和国のダンジョン攻略状態では、すぐにこの国からダンジョンが消え去ってしまう理由を説明した。
「確かに、命がけでダンジョンで稼いでもほぼすべての成果を奪われてしまうだけだからな。それが許せない優秀な者たちは国を出て、今ダンジョンで活動している冒険者は、そんな彼らに逆らえない気力のない者たちばかりだ。彼らのような性格では、冒険者として成功するのも難しいか……」
「ええ、酷い飼い主に従い続ける犬は、冒険者として不向きです」
たとえば、搾取され続けても命がけでレベルを上げ続け、共和国政府の腐敗した連中や、政府ゲリラたちに立ち向かえればまだ……。
いや、それでは人殺しになってしまうから、やはり優秀な人ほど国外に出てしまうのか。
俺は向こうの世界の経験から、必要とあらば人殺しも躊躇しない。
だけど、ビルメスト共和国の腐った連中をどうにかしようとは思わない。
俺は日本人なので、もし日本で俺に害を成そうとする者たちが現れたら、可哀想だが躊躇なく処分させてもらうけど。
「そして、この国に残った冒険者たちでは、この国のダンジョン消滅を防げないでしょう。ならば、今のうちに国の外に出るべきです。ヘギドさんは、ビルメスト共和国政府の革命で元近衛騎士隊長の職を失ったのでしょう? それでもこの国に未練がありますか?」
「……私はこの国で生まれ育った者だ。この国に未練がないとは言わないが、このままではどうしようもないことも理解している。国外に出ることには賛成だが、あなたに一つお願いしたいことがある。もう二人の同行者を認めていただきたいのだ」
「二人ですか?」
「一人は私の婚約者だ。このダンジョンの近くにある町に住んでいる。もう一人は……」
「そこの岩に隠れている人ですか?」
「やはりわかるか」
ヘギドさんに促されるように、岩の陰からもう一人の冒険者が姿を見せた。
やはりランザニア人特有の褐色の肌に、ウェーブのかかったブラウンの髪。
ヘギドさんの同行者は女性で、多分俺とほとんど年は違わないはずだ。
イザベラたちに負けない美少女だが、一つだけ気になることがあった。
向こうの世界で多くの王侯貴族と接してきたせいであろうか。
俺には、彼女がイザベラや綾乃と同じく、高貴な家柄の出であるように感じるのだ。
「娘さん? いや、妹さん?」
こういう途上国だと、年齢差のある兄妹は珍しくないのかな。
「ちょっと訳ありで、私の養女にしているのだ。ソニアという」
「ソニアさんですか。古谷良二です。もう一人や二人ならそれほど問題なく国外に脱出できると思います。問題は本人の意思ですが……」
「フルヤさん、私になにか気になることでも?」
「いえね。あなたは、かなり高貴な家の人のような……」
「私は、このダンジョンの近くの村で生まれ育った庶民ですよ」
「そうですか……。俺がそうじゃないかなと勝手に思っただけなので、気にしないでください」
「ビルメスト語がお上手ですね」
「ええ、これもレベルアップの影響ですね」
レベルアップの影響で知力が大幅に上がるため、今では一日もあれば初めての外国語でも実用レベルまで使いこなせるようになっている。
世間では、冒険者は暴力ばかりの脳筋だとみなす風潮があるが、実はこのところ、世界中にある一流大学に合格し、学業と冒険者業を兼業する冒険者が増えていた。
悲しいかな。
レベルアップによりどんどん能力を増していく冒険者が、文武両道を地でいくようになってたのだ。
これに対し、格差が広がるとして批判をする人たちは多いけど、大学の試験は平等に門戸が開かれている。
合格できないのは学力が足りないからだろうと、そういう意見に反論する人も多かった。
だが普通の受験生と冒険者特性を持つ受験生との間に軋轢が発生しつつあるのも事実で、それを解決するため、噂では冒険者特性を持っている人が通う専門の大学を作るという噂というか、すでに岩城理事長は動いていると聞いたけど。
珍しく文部科学省が、素早く必要な手続きを進めているそうだ。
ゴーレム、魔導技術、錬金術、魔法。
これからこの世界を支えるであろう知識や技術を持つ、サブスキル保持者が冒険者大学で最先端の研究を行う予定であり、実は俺やイザベラたちもすでに進学することが決まっていた。
俺は大学なんて行かなくてもいいと思っていたのだけど、岩城理事長に席を置いてくれと頼まれたのだ。
「日本を始めとする先進国は、どんどんダンジョンを利用して発展していく一方、ビルメスト共和国は冒険者のやる気を奪ってダンジョンすら失おうとしている。悲しいことです」
「……この国のお姫様だったから、祖国がなかなか発展しないことが悲しいのですか?」
「わかりますか? やはり」
「イザベラや綾乃もなかなかの大貴族なんだけど、ソニアさんはそれを上回るオーラがあるというか……」
勘みたいなものだけど、俺は向こうの世界でも、そのお姫様がどのレベルの実家の出なのかを大体当てることができた。
「見ただけでわかるとは……。ですが……」
「確か公式には、ビルメスト王家の人たちは全員亡くなってしまったことになっているんですよね」
悪政を働く王家を打倒し、民主主義政権を打ち立てる。
そういう名目でクーデターを起こした共和国政府の人たちは、残酷にも王家の人間を皆殺しにし、その資産を奪った。
ところがその資産を国の発展に使わずに贅沢三昧し、彼らも腐敗して悪政を働き、今度は社会主義革命を標榜する反政府ゲリラに攻撃を受けている。
ダンジョンとその周辺地域の奪い合いをしているわけだ。
だが、その反政府ゲリラも外国の反社会勢力や、悪徳企業と手を組んでおり、もし政権交代が成されたとしても、ビルメスト人たちの生活はよくならないと思う。
「フルヤさん、危険を顧みずにヘギドを助けに来てくれたあなたに偽名は名乗れません。私の中は、ダーシャ・フェル・ビルメスト。この国の王女でしたが、今は一人の冒険者です」
家族が共和国政府の連中に皆殺しにされ、自分だけがその身分を隠しながら生きている。
軽々しく可哀想と言うのもどうかと思うし、俺はなんとも言えない気分になってしまった。
「家族を亡くしたのは悲しいですし、共和国政府の首脳部に恨みを感じているのは事実です。それ以上に、せめて私の駄目だった家族とは違ってちゃんとこの国を治めていればまだ許せたのですが……」
「これでは、なんのために多くの血を流してまで政権交代をしたのか、ですか?」
「ええ……」
そしてまた、同じ穴のムジナである反政府ゲリラたちが共和国政府と激しい戦闘を繰り返している。
ダーシャ姫はこの国の将来が心配で堪らないが、自分ではどうにもならないと思っているのであろう。
「とにかく、まずはここから脱出しましょう。ヘギドさんの婚約者も迎えに行かなければ。今は三人で生活を立て直す方が最優先でしょう。日本の上野ダンジョン特区なら、確かかなりの数のビルメスト人冒険者もいたはずです」
アガリの95パーセントを税として取り上げる共和国政府に嫌気が差し、日本で活動しているビルメスト人冒険者は多いと聞いた。
これも、岩城理事長が教えてくれたのだけど。
「ですが、このダンジョンの入り口は反政府ゲリラたちが厳重に警戒しているはずです。大丈夫ですか?」
「ええ、魔法で姿を消せば問題ないですし、こう言うと失礼ですが、ビルメスト人冒険者で、俺の『姿消し』を見破れる者はいないでしょう。ましてや、ビルメスト共和国やゲリラごときが見破るなんて不可能です」
「わかりました。シンヤの好意を無にするつもりはありませんし、このままこのダンジョンに籠っていてもいいことはないでしょう。リョウジ・フルヤ。急ぎダンジョンを出て日本に向かいましょう」
ヘギドさんもダーシャ姫も素直に国外脱出に賛同してくれたので、俺は二人を連れてダンジョンを出た。
「あれ? なにか通ったか?」
「アホ、なにもないじゃないか。ダンジョンの中から風でも吹いたんだろう」
やはり、ダンジョンの入り口を見張っていた反政府ゲリラたちは、魔法で姿を消した俺たちに気がつかなかった。
そのままヘギドさんの婚約者が住む町へと向かう。
町外れにあるヘギドさんの家に向かうと、ドアの前に銃を構えた反政府ゲリラたちが数名押しかけ、家の住民と思われる女性と押し問答を繰り広げていた。
「元近衛隊長のヘギドはどこだ?」
「ダンジョン探索に出かけてもまだ帰ってこないわよ!」
「本当か? 隠しているのではないか?」
「ヘギドは、この世界の格差を生み出す王族に尻尾を振っていた犬だ! 我ら真の社会主義革命を目指す『マルクス真理党』 に参加すればこれまでの罪を帳消しにしてやる! だから隠し立てしないで早く出せ!」
「いないわよ。なんなら、家の中を探してみればいいわ」
「そうさせてもらうぞ」
ゲリラたちは家の中を数分捜索していたが、当然俺たちと行動を共にしているヘギドさんが見つかるわけがないので、すぐに家を出てきた。
「クソッ! 本当にいないじゃないか」
「そういえば、あいつには義理の娘がいてそいつも冒険者だったな」
「まだダンジョンから出てこないのか?」
「わからないが……。いいか、ヘギドの奴に伝えておけ! この国から逃げ出そうなどと思わず、すぐに出頭してマルクス真理党に参加するのだとな」
反政府ゲリラたちは、そう言い残すとその家をあとにした。
「ヘギドさん、人気があるじゃないか」
「共和国政府にも誘われていたわよ。ヘギドは文武両道のエリートだもの。 もしヘギドがこの国を治めてくれるのなら、もしかしたら上手くいくかもしれない」
「ダーシャ姫、国を治めるということは一人の人間の能力でどうにかなる問題ではありません。真にこの国を憂い、能力があり、古い因習に捕らわれない若者たちが自主的に集まらなければ」
「そうね……」
「ヘギド、ダーシャ姫。突然姿を現したから驚いたじゃない。そして、その隣にいる人は……もしかして、リョウジ・フルヤさん?」
反政府ゲリラたちを追い払った若い女性。
彼女がヘギドさんの婚約者であるエルラーラさんのようだ。
ビルメスト人特有の褐色の肌と、輝く金色の髪、抜群のスタイルが特徴の二十代半ばほどの美女だが、かなり気が強そうな女性に見える。
ヘギドさんほど優秀な人だと、お似合いなのかもしれない。
「しかし、俺も有名になったものだな」
「世界で、あなたを知らない人は少ないと思うけど……」
それだけ、動画配信者の知名度が上がった証拠なのかもしれない。
俺の動画が世界中で見られている証拠だろう。
「誰か他の人間に見つかると面倒だ。フルヤさん、ボロイ家ですがとりあえず中にどうぞ。すぐにこの国を出ることになると思いますが……」
「ヘギド、もしかしてこの国を出るの?」
「さすがに限界だろう。しかし、悪政を働いて私腹を肥やすしか能がない連中が、どうして俺にこだわるのかね?」
「ヘギドが優秀だから、面倒なことを任せれば楽ができると思っているんでしょう。ついに搾取することすら面倒になって、あなたに押し付けたいんじゃない?」
エルラーラさんの回答はなかなかに辛辣だった。
もしかしたら、自分たちが国民から恨まれていることを自覚しており、それを他人に押し付けたいのかもしれない。
それなら悪政をやめればいいと思うのだが、腐敗しきった彼らにそれを言っても無駄だろう。
「世の末な話ですね」
「こんなんだから、ビルメスト人は世界中から怠け者で無気力だなんて言われてしまうのよ。優秀な冒険者はほとんど国外に出てしまったし、ダーシャ姫の存在を隠すのが難しくなってきたのも事実。やはり国を出ないと駄目ね……。すぐに支度を……」
エルラーラさんが国外脱出を了承した瞬間、家の中が激しく銃撃された。
俺は慌てることなく『バリアー』でみんなを守り、銃弾を弾いていく。
レベルが100を超えれば、銃撃で殺される方が間抜けだというのが冒険者という存在なのだ。
こんな銃撃で傷一つ負うはずがない。
「反政府ゲリラたちを舐めていたかもしれない。この家は密かに見張られていたんだろうな」
家探しをした数名のゲリラたちが立ち去って俺たちを油断させ、実は密かに見張りがいたのかもしれない。
俺が探知できなかったということは、かなり遠くから見張っていたようだ。
そして俺、ヘギドさん、ダーシャ姫が姿を見せてこの家に入ったので、蜂の巣にしようと銃撃を……。
「実は、反政府ゲリラたちはダーシャ姫の存在に気がついているのかも」
「フルヤさんの推察どおりでしょうね。私への勧誘すらカモフラージュだったのか……」
「しかしまぁ、ダーシャ姫になんの罪があるって言うのか……」
「王家は国民を虐げてきた憎い存在。生き残りがいたら必ず殺す。共和国政府も反政府ゲリラたちも、国民たちが不満を反らす道具ぐらいにしか思っていないのよ。本当に腹が立つ!」
クーデターの時は子供だったので、王家の人たちのように悪政を働いたわけではない。
それなのに、自分たちの人気取りのためにダーシャ姫を殺そうと言うのか。
「嫌な連中だな。あの……絶対にそこから動かないでくださいね」
俺はダーシャ姫、ヘギドさん、エルラーラさんを『バリアー』で包むと、前に使っていたミスリル製のフルフェイスヘルメットを被り、銃弾が飛び交う家を出て、銃撃をしている反政府ゲリラたち数十名の姿を確認した。
「ビルメスト人には、いきなり人の家に銃弾を撃ち込む文化があるのか?」
「なんだ? お前は?」
「どうしてあれだけ銃弾を申し込んだのに、一発も当たっていないんだ?」
「それは、俺が強いからだな」
俺はその場で眠りの魔法をかけ、ゲリラたちを一瞬で眠らせてしまった。
さらに探知を続け、この家を狙っているゲリラたちに目にも留まらぬ速さで接近し、軽く頭をでデコピンしたり小突いていく。
それだけで、彼らは気絶してしまった。
「しかし一般人は脆い。本気でやると、割れた水風船みたいになっちゃうからな。それに……」
一部の指揮官たちは違うが、反政府ゲリラたちの大半はただの一般市民の若者である。
この国が貧しいから、社会主義革命を称える彼らに賛同し、反政府ゲリラに参加してしまった。
殺すのは簡単だが、この国の将来のことを考えるとそれはどうかと思うのだ。
「よくもワシの兵たちを! 聞け! このワシは、なんと冒険者特性があるのだ!」
ヘギドさんの家を銃撃し、包囲していた百名近くのゲリラたちの意識を刈り取ると、続けてブルドッグのような顔をしてブクブクと太った中年男性が姿を見せた。
どうやら彼は、ヘギドさんの家を銃撃したゲリラたちの指揮官のようだ。
しかも、冒険者特性持ちか……。
「(でも、低レベルっぽいな。盗んじゃおう)」
「ワシの部下にも、優れた冒険者は多数おるぞ。このワシに勝てると思うなよ。惨たらしく殺してくれる」
「なんか、やられ役っぽいセリフだな」
「多勢に無勢とはこういうことを言うのだ! 我らマルクス真理党には冒険者も参加しているからな。共和国政府軍の腑抜けなどに負けぬわ!」
俺は、数名の冒険者適性があるゲリラたちに囲まれてしまった。
確かに彼らは冒険者特性を持つが、俺から言わせれば冒険者としては全然大したことがない。
大したことがないからダンジョンに潜らず、反政府ゲリラに参加して、同じ冒険者から搾取するようなクズになったのだから。
「(スカウターを参考に、新作創作魔法『サーチ』の開発に成功してよかった……。戦士レベル2、戦士レベル3、盗賊レベル2、盗賊レベル3。ブルドッグが一番レベルが高くて武闘家レベル5。雑魚でクズだな)」
ダンジョンで強いモンスターと向き合わず、反政府ゲリラの力を使って、一般の人たちやダンジョンに潜っている冒険者から搾取する。
こんな連中の冒険者特性を奪っても、罪悪感の欠片もないので好都合だった。
「随分と静かじゃないか。どうかしたか?」
「もしかして、俺たちにビビってるの?」
「お前は俺たちを怒らせちゃったからな。もう謝ったって許してやらねえよ」
「ここで死ねや!」
「安心したよ」
「どういうことだ?」
俺の発言に反応して、ブルドッグが問い質してきた。
「お前たちに少しでも善意があったら罪悪感も湧くってものだが、ここまでクズだとな。しかし、お前たちは本当に冒険者特性を持ってるのか?」
「はあ? お前はなにを言っているんだ?」
「死の恐怖で頭がおかしくなったか?」
「いや、俺も冒険者だから同業者ならわかるはずなんだが……(もう奪ってしまったからな)お前たちは本当に冒険者か?」
「俺たちを動揺させようとしてもそうはいかない……なっ!」
「急にどうした?」
「レベルとジョブの表示が……」
「消えた……」
俺の発言で心配になったゲリラたちが手の平確認すると、すでにレベルとジョブの表示がなくなっていた。
俺が奪ったのだから当然だけど。
「どうしてレベルとジョブの表示が?」
「一体どうなっているんだ?」
レベルとジョブの表示が消えたゲリラたちが大騒ぎしているが、いくら騒いだところで冒険者特性が消えた事実がなくなるわけではない。
「慌てるな! お前がなにかしたんだな?」
「濡れ衣もいいところだな。元から冒険者特性がないのに、お前たちが嘘をついたんだろう。場末のゲリラが使いそうな手段だ」
「ぬぬぬっ……バカにしおって! こいつをハチの巣にしてやれ!」
激高したブルドッグが、ゲリラたちに対し俺を射殺するよう命じた。
ところが、一向に銃撃音が聞こえてこない。
どうしてかとえば、俺がもう眠らせていたからだ。
「なんで寝ているんだ? コラッ! すぐに起きて銃撃をするんだ! こいつをハチの巣に……」
「それは無理だな。悪党とはいえ、俺が直接手を下すのも嫌だから、ダンジョンでモンスターの餌になるがいいさ。『追放』!」
『追放』とは、対象者を事前に設定したダンジョンに飛ばす魔法だ。
よほどレベルが低くないと成功しないが、こいつらは低レベルだったので好都合だった。
さらに先に眠らせたゲリラたちとは違い、こいつらは人間のクズで、残念ながら更生するような人間じゃない。
ならば、先ほどヘギドさんを救出する際、設定しておいたダンジョンの二十三階層に飛ばしてしまうに限る。
「えっ? ワシはどこに追放?」
「お前たちは優れた冒険者なんだろう? ならダンジョンの二十三階層くらい余裕でクリアーできるはずだ。頑張って脱出してくれよ」
「えっ? 待って! それだけはやめて! ワシはもう二度とお前を狙わないから!」
「ああ、そんなの関係ないから。お前が俺を狙ったところで殺せるわけがないから、それに関しては無罪、ノーカウントなんだよ」
「じゃあ、どうして?」
「お前がいると、この国の人たちが迷惑するからだ。じゃあな」
「待って! まっ……てぇーーー!」
俺の『追放』でブルドックは姿を消した。
もしあいつが本当に優れた冒険者だったら、ダンジョンの二十三階層くらい余裕でクリアーでき、地上に戻ってこれるはず。
だが現実には冒険者特性を奪われ、元々低レベルなので、もし冒険者特性を奪われなくても生き残ることはできないはずだ。
「悪党はモンスターの血肉になれ」
えっ?
人殺しはしないんじゃないかって?
俺は直接手を下していないぞ。
それに、冒険者がモンスターに殺されるなんてよくあることだ。
こうして俺は、俺たちを銃撃してきた反政府ゲリラたちを一網打尽にしたのだが、ちょっとやり過ぎだったかもしれない。
「フルヤさん、この町を占領していたゲリラたちを一網打尽にしてくれたのはよかったのですが、それが他のゲリラたちに知られたら報復してくるかもしれません。その時にもしその犯人がいなかったら、この町の人たちは……」
「やり過ぎてしまったかな」
酷い目に遭うかもしれないのか。
ならば、反政府ゲリラたちを一網打尽に……数が多いので面倒だから、共和国統治下の町として安定するまでは俺たちがなんとかするしかないのか……。
この先、どうしようかな?
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