第104話 金相場
「なあ、プロト1」
「社長、オラに質問ですか?」
「金の相場がもの凄く高騰しているけど、どうしてこんなことになっているんだ? 金はダンジョンで手に入るじゃないか」
「ダンジョンが出現する前の世界では、金は一年に3000トンほど産出されていました。ですが今は、その百分の一といったところです。地球に埋蔵されている金をダンジョンから手に入れなければならない以上、長い目で見たら、採掘技術が原因で手が出なかった場所の金も入るようになったわけなので、金の産出量は増えていくと思いますが……」
「そうなるには、優れた冒険者が沢山必要というわけか」
「かなりの時間がかかるでしょうし、ダンジョン出現の余波で世界中が混乱していますからね。南ローデシアと北ローデシアの内乱再開。タンブルク王国による、ブリトー共和国への侵攻。他にも世界のあちこちで、国境紛争やら、クーデターによる政権転覆やら。おかげで安全資産とされる金の相場が大幅に上がっています」
「金は安全資産なのか……」
「現物があるというのが強みですね」
そう言われてみると確かに、向こうの世界の通貨も、金貨、銀貨、銅貨だったからな。
これまで金の相場に興味がなかったので調べてみると、一グラム一万八千円だった。
「以前はいくらくらいだったんだ?」
「五千円前後でしたが、鉱山で金の採掘できなくなってから、ずっと相場は上がり続けています」
「そうだったんだ」
「世界中の金鉱山が枯れ果て、このところ金の相場が上がったので砂金集めを試みるも、どうやら自然界にある金の大半が消えてしまったそうです」
以前よく金が採れた場所で、個人が砂金採掘をする。
この方法で海外では生活している人がいたそうだが、ダンジョンの出現の影響でほぼ砂金がなくなり、海水から金を採取する研究も進んでいたが、以前よりも海水中の金の含有量が大幅に下がってしまったらしい。
そのため今の相場でも採算が取れないので、試験的にしか運用されていないと、プロト1が教えてくれた。
「昔、海に沈んだ船に積まれていた金、銀などの鉱物や宝石類も消滅しているのではないかという噂があります。沈没船からお宝を引き上げるトレジャーハンターチームが解散したそうです。船を見つけてもお宝がなにも見つからないとか」
海底に沈んでいる時点で、土中の鉱物扱いになってダンジョンに吸収されてしまったかもしれないな。
そういえば向こうの世界でも、鉱山なんてまったくなかったのを思い出した。
「そんな事情で、都市鉱山経由でリサイクルするか、新規の金はダンジョンから手に入れるしかありません」
しかしながら、ドロップアイテムで金貨、銀貨、銅貨、プラチナ貨、金属製品を手に入れるには、ダンジョンの下層に向かう必要があった。
その階層を攻略できる冒険者からしたら、 その手の換金アイテムは割に合わないが、手に入れなければ社会が維持できなくなってしまう。
そんな中途半端なものが、貴金属だったりする。
「社長は、随分と金を持っていますよね」
「それなりの量は市場に放出しているが、以前から持っていたり、大量に放出すぎてあてにされると困るから、かなり死蔵しているけどな」
向こうの世界で十年もダンジョンに潜っていたし、魔王に滅ぼされた国々から回収したり、魔王を倒した褒美で貰ったり。
向こうの世界の金貨、銀貨、銅貨、プラチナ貨なので、面倒臭いからまったく換金していないけど。
「だから、世界中の国々が金の備蓄量を増やしているのか……」
ネットで情報を探ってみると、確かに世界中の国で金の備蓄を増やしているというニュースがあった。
国の貨幣の価値を安定化させるため……でも、今の世界で金本位制の国なんてないと思うのだけど……。
「ぶっちゃけ、一部の国を除くと世界中で通貨安が発生していますから。特に、資源大国ほど悲惨なことになってますね」
これまで資源を輸出することで富を得ていた国々だが、それがすべてなくなってしまったのだから。
いや、ダンジョンに潜ればいいのだが、国によってはダンジョンの数が少なかったり、階層が浅くて質のいい魔石、鉱石、モンスターの素材、ドロップアイテムが手に入らなくなってしまった国もあった。
そのせいで内乱やクーデターが発生したり、隣の国のダンジョンを奪おうと侵略戦争を始めた国まで出ている。
毎日ニュースでやっているが、残念ながらそう簡単に問題は解決しないだろう。
「日本には世界で一番多くのダンジョンがありますし、階層が深いものも多いです。 たまにですが、新しいダンジョンが発生することもあります」
「それは、発生というよりも移転だけどな」
ダンジョンを奪い合って戦争している国もあれば、自国にあるダンジョンに冒険者を送ることを怠った結果、ダンジョンが消えてしまう例もあった。
消えたダンジョンは、よく冒険者が潜るダンジョンの階層を増やす材料になったり、ダンジョンが多い国に移転している。
世界には色々な国があって、ダンジョンに手を出すと天罰が下ると予言者が言ったとか、そんな理由でダンジョンに潜ることが禁止されている国もあったのだ。
もしくは、エネルギーがないのなら原始的な生活に戻ろう。
みたいな独裁者がいる国もあるそうで……。
ダンジョンの申し子である俺としては、そういう人たちは相手にしたくない。
だって、『現実見えてますか?』ってつい聞きたくなってしまうから。
「金ねぇ。ダンジョン探索チャンネルで、比較的手に入りやすいダンジョンと階層を紹介する動画を再編集してくれ」
「わかりました。すぐに以前の動画の中から再編集して更新しておきます」
「頼むよ」
プロト1と話を終えた俺は、裏島の屋敷へと移動する。
そして、屋敷の地下に作った魔導倉庫を開けて中に入った。
するとそこには、大量の金、銀、銅、プラチナ、の延べ棒が堆く積まれていた。
実は、向こうの世界やダンジョンで手に入れた膨大な量の貴金属をここに保管していたのだ。
あまりに量が多いので地球には置けず、別次元の、しかも『アイテムボックス』の原理を利用した倉庫に死蔵していた。
貨幣だったものが大半だったが、他の金属が混じっていたりして正確な重量が測れなかったので、ちゃんと純金属の延べ棒に作り直して保管している。
「確か、アメリカが8133トン、中国が1948トン、日本は845トンだったかな。金の保有量は。他の金属はよく知らないけど」
さっき、スマホで調べたから間違っていないと思う。
「……金148975トンは多いな。プラチナは24567トンで、この世界のプラチナ採掘量が5000トンかぁ……」
貨幣が金貨、銀貨、銅貨で、金属がないと貨幣が作れないから各国や貴族、金持ちは金を溜め込むことが多かった。
ファンタジー世界では、お札の流通なんて不可能だからだ。
魔王やその配下たちによって滅ぼされ、そのまま廃墟に放置されていたものを俺が回収しており、向こうの世界では所有者及び所有国がいなくなったお宝の権利は、次にそれを手に入れた者になる。
ダンジョンでも手に入れており、俺が大量の貴金属を持っている理由でもあった。
「もしお金がなくなっても、これを少しずつ換金すれば余裕で生きていけるから問題ないな」
ただ、お上に知られると色々と問題があるので死蔵するしかない。
下手に市場に出すと、金やプラチナの価格が暴落しそうだ。
もしそうなったら、経済への影響は大きいだろう。
「だから仕方がないんだよ」
決して、また叩かれて炎上すると面倒だからと思っているからじゃない。
それに、金、銀、銅、プラチナ他、様々な貴金属は魔法道具の製造にもよく使うから、在庫を持っている必要があった……まあ、こんなに沢山はいらないけどね。
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