第103話 インフルエンサーは、化粧品の販売に手を出す

「辺り一面、見渡す限りの広大な田んぼですわね」


「ここには人間なんて一人もいないから、ゴーレムたちに開墾や農作物の栽培をやらせているのさ」


「リョウジ、北米は?」


「小麦、トウモロコシを主にって感じだな。他の土地も、土質や気候に合わせた作物を栽培し始めている。でも、本格的な収穫は来年以降かな」


「無人の中国大陸というのも乙なものだね」


「無人の日本列島というのも自然豊かで、見ているととても楽しいです」




 手に入れたアナザーテラの各所で、大規模な農業を始めた。

 数年後、俺の『予言』が外れていればいいのだが、これまで一度も外れたことがないので、事前に大量の食料を反地球で生産しておくためだ。

 人型のみならず、実は富士の樹海ダンジョンに出現する四足歩行で人型ゴーレムの上半身が乗っているRX-DD4。

 昆虫型で足が六本あるが、手先は器用で人間と同じように使えるRX-DD6。

 クモ型で足が八本あり、やはり人間と同じように手先が器用に使えるRX-DD8

 他。

 RX-DD12~36などの多足歩行型ゴーレムの構造を解析し、これを巨大化させて重機や大小の農業機械に改良、ゴーレムと同じ人工人格を搭載したら、恐ろしい勢いで半地球にある土地を農地に変え、ありとあらゆる農作物の栽培を始めてくれた。

 ダンジョンで手に入る『黄金の種、苗シリーズ』の栽培や、各種魔法薬の材料になる薬草などの栽培も進めている。

 ゴーレムたちは、壊れていなければ魔力さえあればずっと動く。

 念のため、世界各所にゴーレム専用のメンテナンス施設も建設し、整備用のゴーレムも配置したので、なにか特別なトラブルがなければずっと動き続けるはずだ。

 収穫した農作物は、日本列島に建設した『アイテムボックス』の機能を持った倉庫群に保管される。

 ここにいれておけば時間が経過しないので、農作物が悪くならないからだ。

 そして一緒に、世界中からまだ食べられるのに捨てられる予定だった食品を購入、貰ってきて 収納し続けていた。

 これも、数年後に起こるであろう大凶作対策だ。

 メカドラゴンにイザベラたちを乗せながら、アナザーテラの各地を回る。

 ドライブデートのようなものであり、まったく環境汚染されていない地球の自然を見ることができるので、とても好評だった。


「富士の樹海ダンジョンの二千階層クリアーを頑張りませんと」


「そうだよね。このあと、ツヨシと待ち合わせてアタック開始さ」


「レベル10000以上で発動するとされる『エンペラータイム』があれば、もっと効率よくダンジョン攻略ができるのですが……」


「目標が高いのはいいことよ。ねえ、リョウジ」


「四人とも、無理をしないようにな」


 間違いなく、イザベラたちには才能がある。

 だから、無理をして死んでしまうのは惜しかった。

 なにより、俺の愛する恋人たちだからな。

 世間から叩かれた時も、四人は気にもせず俺の傍にいて自粛にもつき合ってくれた。

 絶世の美少女たちからそこまで愛されたら、それは情も湧くってものだ。

 今では、もう数年したら子供が欲しいなどとベッドで話したりしている。

 さすがに今は、魔法薬を使って避妊しているけど。

 向こうの世界では、優れた冒険者が出産をコントロールするため、優れた避妊薬が存在した。

 しかも魔法薬だからというわけではないが、この避妊薬にはこれといった副作用がないので、非常に高価にも関わらず、女性冒険者の間のみならず、世界中のセレブにも売れている。

 ただ、作れるのが俺を除くと世界でようやく活動を開始した『魔法薬師』十名ほどしかおらず、 さらにその材料となると、今のところ俺とイザベラたちしか手に入れらない。

 なお、その中に剛も入っている。

 彼は高レベルの魔法薬師なので、特に品質の高い避妊薬を多く作ることができ、そのせいで今では避妊薬ばかり作っているそうだ。

 ダンジョン探索の合間に、避妊薬を作り続ける大男……。

 想像するとちょっと笑えてしまう。

 ダンジョン、冒険者由来の魔導技術を用いて製造された高級品は、その性能の良さと希少性も相まって、世界中のセレブに人気であった。

 そして、それに必要な技術、材料をほぼ独占している俺、というかフルヤ企画の売り上げと資産は膨らみ続けていた。


「リョウジ君、今夜は動画の撮影だね」


「みんな、協力してくれてありがとう」


「私たちも美容液や基礎化粧品にはお金をかけていますし、他の女性冒険者たちも同様に美容には大いに悩んでいるとか。リョウジさんがイワキ工業が量産して発売する美容魔法薬。効果のほどが楽しみです」


「私たち女性冒険者は、毎日ダンジョンでハードワークだから、お肌の状態が気になるのよ。私たちはリョウジがいて助かっているもの」


「冒険者は負傷しても治癒魔法で完治しますが、元からある傷や、お肌の乾燥、傷み、シミ、シワなどの対策で治癒魔法を使っても効果がありませんから。私も、知り合いの女性冒険者たちによく相談されていますよ。どうして私たちの髪や肌は綺麗なままなのかと」


「それは知らなかった」


「冒険者は稼げますが、過酷なお仕事です。髪や肌の痛みに悩んでいる女性冒険者は多いです」


 綾乃の言うとおりで、治癒魔法は傷や怪我にしか対応できない。

 ダンジョンは階層によっては、暑かったり、寒かったり、ジメジメしたり、乾燥したりと、決してお肌の美容にいい環境とは言えない。

 ドラゴンの火炎を避けて無傷だと思ったら、肌が乾燥して痛んでしまったなんてこともあり、女性冒険者たちにとってお肌のケアは大きな悩みとなっていた。

 髪の毛も同じで、みんな高価な化粧品や美容液などで懸命に肌を手入れしているわけだ。


「イザベラたち、美容魔法薬の効果を試したいからっていう理由で、わざと髪の毛や肌を傷めないようにしてくれよ」


 そしてその日の夜。

 一応インフルエンザである俺は、サブ動画の撮影を始めた。

 今日はイザベラたちともコラボしており、その理由は……。


『古谷良二、美容液売ります!』


 俺は魔法薬も作れるので、向こうの世界で貴族や金持ちの女性が大金を出して購入していた美容液、化粧品などを販売することにした。

 さすがに全部自分で作ると時間がないので、製造レシピをイワキ工業に売ってインセンティブを貰う仕組みになっている。

 同時に、俺でないと手に入りにくい材料もあるので、それをイワキ工業に卸すことで利益を得る仕組みだ。


『効果は抜群だと思うので、実際にイザベラ、ホンファ、綾乃、リンダに使用してもらってその感想を聞こうかなって。どんな感じ?』


『私は乾燥肌に悩んでいたのですが、見てください。こうやって美容液を塗ると……』


 イザベラが美容液を塗ると、少しカサカサでシワができていたイザベラの肌が、潤いとツヤのあるものへと変化した。


『素晴らしい効果がありますね。これがあればダンジョン探索でお肌を痛めても安心です』


『ボク、子供の頃に火傷をして少し跡が残っているんだけど、この美容液を使ったら消えてなくなったよ』


 ホンファの左手には小さな火傷の跡があったが、俺が作った美容液を塗り込んでいくと消えてなくなってしまった。

 このくらいの火傷跡なら、高品質な魔法薬を使えばすぐに消えてしまう。

 だから、向こうの世界のセレブな女性はお肌が綺麗な人が多かった。

 ただ魔法薬は非常に高価なので、平民の女性はそうでもなかったな。


『リョウジ君、素晴らしい美容液だけど、どうしてこんなに効果があるの?』


『それは、ポーションを作る材料になる薬草と薬草コケの搾りカスや、他にもワイバーンの肝、ヨルムンガルドの骨髄、ハーントの花びら等々。ダンジョンにいる様々なモンスターの希少な材料を使っているからさ』


『それだけ希少な素材を使っていれば、効果が高くて当然ですね。私はこのところ枝毛に悩まされていたのですが、この美容液を塗ったらすぐになくなりました。この美容液さえあれば、お肌と髪の手入れはこれ一種類で済むんですね』


『面倒がなくていいよね。これがあれば、あなたのお肌と髪はいつも綺麗さを保てますよ』


『私、魔銃を撃つと顔と手が軽い火傷を負ってヒリヒリすることがあるから、この美容液はいいわね』


 美少女四人が実際に美容液を使い、肌や髪の状態が改善する映像をスローモーションで映していく。

 魔法薬由来の美容液なのでその効果は本物であり、イザベラたちは自分の肌や髪が綺麗になって喜んでいた。


『他にはなにもいらない! この美容液さえあれば! 購入はイワキ工業の通販サイトからのみとなります。数量限定なので、お早めにお買い求めください。100mlで税抜き百万円ですよ』


 高いと思われるかもしれないが、これでも製造コストを極力抑えて安くするのに苦労したのだ。

 イワキ工業にはポーション、解毒剤、魔力回復ポーションの無人製造工場があり、そこで量産したからこそこの値段になったと思っている。

 もし俺とゴーレムたちだけで作っていたら、この倍は支払ってもらわないと。

 ちなみに現時点では、俺とイワキ工業以外に作れる者はいなかった。

 既存の化粧品メーカーを敵に回さないかという話になるが、魔導技術由来の超高級品しか販売しないし、実はイワキ工業が日本中の化粧品メーカーにゴーレムを貸与しており、美容液や化粧品の製造コストを落として利益率を増やすことに貢献している。

 今のところは住み分けができているので、向こうが内心ではどう思っているのか知らないが、少なくとも表面上は敵対しておらず、大切な取引相手という関係だ。

 広告もネット頼りなので、テレビで盛んに宣伝している化粧品メーカーを敵に回すことがないと思う。

 第一、この美容液は肌や髪を傷めやすい女性冒険者向け……最近は男性も美容に気を使う人が増えているので、そちらにも売れるかもしれないけど。


『明日の午前0時から、イワキ工業の通販サイトより販売開始です。買ってね』


 なかなかにベタな宣伝動画は完成したが、ようは美容液を売るためのものなので、そこは構わないだろう。

 視聴者サービスでイザベラたちには水着姿で出演してもらう……なんてのは嫌だからな。


「撮影ご苦労様でした」


 プロト1が撮影の終了を宣言した。

 あとは、プロト1が動画を編集してからサブチャンネルに投稿するはずだ。


「リョウジさん、この動画でしか宣伝しないと聞きましたが、それで売れるものなのでしょうか?」


「大丈夫だと思う」


「ボクもそう思うな。真面目に活動している冒険者なら、リョウジ君のチャンネルはちゃんと見てるはずだもん。ダンジョンに潜る前に、自分が潜るダンジョンの動画を探して見るからね。そしてそれが終わったら、自然とサブチャンネルを見てしまうのが人情ってものだね」


「良二様のチャンネル登録数を考えたら、普通の人たちも動画を見るので、高いお金を払ってテレビで宣伝する意味はないと思います」


「購買層が違うから意味ないわよ。ステイツだと、その辺はかなりシビアだったりするわよ」


「香港も同じような感じかな」


 百万円の美容液を購入できるテレビ視聴者……少ないだろうな。

 彼らは生産性の向上で少し安くなった従来の化粧品を購入し、稼げる冒険者は魔法薬由来の美容液を購入するというわけだ。


「とか言っていたら全然売れなくて値下げする可能性もあるし、まずは様子見だね」


 そして翌日となり、俺がレシピを考案した美容液が発売されたのだが……。


「販売開始一分で、ソールドアウトかぁ……。すげえな」


 女性冒険者たちがこぞって購入してくれたのかな?


「それもあると思いますが、よくない傾向もありますね」


 そう言いながらイザベラが、フリマアプリのページを見せてくれた。

 そこには、今日発売されたばかりの美容液がもう出品されていた。


「百五十万円、二百万円! ボリすぎだろう! 転売ヤーめ!」


 残念なことに、最近単価が高くて利ザヤが多いダンジョン由来の品を転売する転売ヤーが、爆発的に増大していた。

 初期費用はかかるが売れると稼げるので、借金をしてでも転売を始める人がいると、前にニュースでやっていたのを思い出す。


「こういうのって、なかなかなくならないよね」


「良二様、対策はお立てにならないのですか?」


「でもこういう問題って、完全に解決するのは難しいわよね。どこの国にでもいるから」


「そうなんだけど、実は美容液に関しては岩城理事長と事前に対策を協議していてね。ほら、イワキ工業の通販サイトを見てみな」


「もう売り切れでは? あっ!」


「イザベラ、どうかしたの? えっ?」


「売り切れだったのに、もう復活してますね」


「なるほどね。大量生産して欲しい人みんなに売ってしまえばいいのね」


 最近、ダンジョン関連の品物の転売が酷く、その対策を日本政府から西条さん経由で頼まれていたこともあり、それに手を打ったというわけだ。

 数量限定に見せかけて、実は生産量には大分余裕があり、一度即座に売り切れたと見せかけ、すぐに追加生産品ができたといって『売り切れ』の表示を取り消した。


「今頃、美容液を買い占めた転売ヤーたちは困っているだろうな」


 正式な販売先で定価で売っているものを、わざわざ怪しげな転売ヤーから高額で買う人間などいないからだ。


「でもリョウジ、本当に生産には問題ないの?」


「ないよ」


「ですが、あの美容液には消費期限が設定されているではないですか。一度に沢山作って、あとで消費期限が切れた在庫を処分すると損失が出るのでは?」


「そのための『アイテムボックス』さ」


 なるべく一度に大量に作った方がコストが安くなるので、沢山製造してから『アイテムボックス』と同じ役割をする倉庫に仕舞っておけば、いつまでも製造したての鮮度を保てる。

 他のポーションや魔力回復剤も同じようにローテーションで一度に大量に製造して、工場の稼働率を上げてコストを下げているのさ。


「なるほどね。それならコストを下げつつ在庫を確保することができるわね。ステイツの企業経営者たちが、イワキ工業と取引しようとしている理由はよくわかったわ」


 今や日本の多くの企業が、イワキ工業からゴーレムを借りて生産性の向上に努めている。

 そのおかげで、今の日本はダンジョンのおかげで円高になりつつあったが、製造業の競争力を上げることができたので、利益を出しながら輸出をすることが可能になった。

 その代わり失業率が若干高くなったようだが、人手不足の業界に吸収されたり、新しい仕事を作り出そうとする試みもなされており、好景気なのもあって、今のところはそれほど問題になっていない。


「ああ、でも。結局美容液だけじゃくて、他にも色々と作ることにしたみたい。レシピは俺が開発していたものだし、イワキ工業は薬草と薬草コケの搾りカスの活用方法を探していたから。前は肥料にしていたようだけど、まだ薬効成分が残っているからもったいないって。SDGsだっけ?」


 俺はイザベラたちに、多くの試供品をプレゼントした。


「普段から使うとさらにお肌が綺麗になるよ。シャンプー、 コンディショナー、石鹸、香水、化粧品、日用品、生理用品。全部モンスターの素材や、ダンジョン由来の素材を使っていて、全部高いけど」


 一本二十万円のシャンプーって……。

 俺は自作できるから毎日普通に使っているけど、以前に俺だったら絶対に買わないよな。

 でも、一本百万円の美容液が飛ぶように売れているかなぁ。

 岩城理事長は、冒険者だけでなく、むしろ全世界にいる富裕層に売れるだろうと予想していたが、実際にそうなったようだ。


「世界を市場にすると、お金持ちって沢山いるんだね」


「ボクたちの一族は世界中で活動しているから、昔からそういう人たちが一定数いることは知っているよ」


「なるほどなぁ」


 その後、美容液のみならず、新製品も合わせて新しいブランドが立ち上げられた。

 非常に高額だが、既存の製品よりも圧倒的に高品質で効果があるので、作っても作っても売れるのは凄いと思う。

 少し前まで、シャンプーなんてドラッグストアのセール品でいいと思っていた俺のような人間からすると特にそう思う。

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