第102話 とある冒険者のトラブル
「……もう朝か……。家を出る準備をしないとな」
僕は冒険者をしている。
幸い冒険者特性はあるが、ジョブは一番人数が多い戦士で、レベルもまだ78と低い。
でもまだ冒険者になって日が浅いし、幸いパーティメンバーには恵まれたので、冒険者歴の割には深い階層に潜って、去年の年収は五千万円だった。
あの古谷良二からしたら小銭のような金額だけど、中学や高校の同級生たちに比べたら圧倒的に稼げている。
新卒で入った大手企業を退職して冒険者になると決め、ダンジョンに潜り始めた直後には不安も大きかったけど、今では冒険者になることを決めてよかったと思っている。
「まだ時間はあるけど、自炊は面倒だからなぁ」
朝食は外で済ませることが多いので、まずは身支度をしてから装備品を入れている魔法の袋を持って家を出る。
いくら冒険者でも、鎧、兜、ブーツをつけ、帯剣して街中を歩くわけにいかない。
最近、イワキ工業が小屋一つ分くらいの荷物を収納できる魔法の袋を販売するようになったので、これを購入して利用している。
確か、古谷良二が量産に協力していて、以前に比べると大分価格が落ちたのだとか。
デサインも、魔法の袋というよりはバッグのようになっており、普段使いもできるのでとても便利な品だった。
最初、大量生産できるものではなかったので、冒険者に優先して販売されていたのだけど、すぐに転売する人が現れて問題になった。
魔法の袋を必要とする冒険者に行き渡らないので問題になっのだ。
『いくら高額で販売しても、欲しい人が沢山いるんだから問題ない! これも商売だからな。違法行為ではないし、捕まえられるものなら捕まえてみやがれ!』と転売者たちは開き直る始末。
世間でも彼らを擁護する声が意外と多かったのは、転売者たちがダンジョン出現以降の急速な社会の変化により失業した人たちが多かったからだろう。
もっともそれは彼らの自称で、本当にそうなのかは誰もわからないけど。
そんななか、古谷良二とイワキ工業が組んで、大量生産され価格も下がった魔法の袋が大量に市場に流れ込んだ。
それでも一つ数百万円はするのだけど、以前の数千万円よりは圧倒的に安い。
欲しい人には簡単に手に入るようになり、高額な魔法の袋の在庫を抱えていた転売ヤーたちは大きな損失を出すことになった。
彼らはネット上で古谷良二を叩いていたが、ただの負け惜しみだと思う。
「コンビニでなにか買っていくかな?」
僕は、冒険者特区の近くにあるマンションを借りて住んでいる。
家賃は月三十万円ほど。
最近、冒険者特区に近い土地や不動産の値上がりがもの凄い。
人気があって奪い合いになっているので仕方がないが、冒険者特区内で同じ間取りだと軽く家賃が百万円を超えるので、実は大分お得なマンションだった。
まあ、次の更新では確実に家賃が上がると言われているけど。
僕も冒険者なので、古谷良二のように上野公園ダンジョン特区内にある高級マンションを購入したいけど、空いている物件は少ないし、まだ完成していない建設途中のビルやマンションもすでに完売しているという異常な状態になっていた。
上野公園ダンジョン特区は狭いし、世界で一番多くの冒険者たちが活動し、生活する土地だ。
今では、世界一不動産価格が高い場所と言われているほどなのだから。
古谷良二みたいに、世界中の冒険者特区内にビルやマンションを持ち、莫大な副収入を得たいものだ。
そのためには、もっと本業で稼ぐ必要があるけど。
「サラダも食べないと駄目だよなぁ。昼食も買って行くか……」
上野公園ダンジョン特区内のコンビニに入ると、同業者たちが買い物をしていた。
店内では、二体のゴーレムが品出しや掃除をしている。
人間の従業員は一人もいないが、この上野公園ダンジョン特区内の店舗ではそう珍しいことではない。
むしろ、全国にも無人コンビニは普及しつつあった。
購入した品を袋に入れ、店を出る。
会計はしなくても、客がいくら分の商品を購入したのか自動で計算し、あとで口座から代金を引き下ろしてくれる。
会計で時間を取られないので、ダンジョンに向かう冒険者たちは非常に重宝していた。
まれに会計を間違えることがあるけど、以前に比べたら圧倒的に少なくなったし、いえばすぐに修正してくれるから特に問題はない。
「よう、雄介。正雄と秀樹はまたぎりぎりかな?」
「おはよう。だろうね、あの二人は」
上野公園ダンジョンの前で、パーティメンバーと合流する。
僕たちは四人パーティでまだ二人到着していないけど、彼らはいつもギリギリなのでいつものことだと思い、特に気にならなかった。
遅刻をしたことは一度もないからだ。
「お待たせ」
「今日もセーフだ。早く着替えるか」
冒険者は、ダンジョンの入り口近くにある買取所に隣接した脱衣所で着替えるか、男性でTシャツの上に装備をつける冒険者は、面倒なのでその場で着替えていた。
女性は、ほぼ全員が脱衣所で着替えるけど。
「今日も気を抜かず、頑張って稼ごうぜ」
「「「おおっ!」」」
準備が終わったら、四人でダンジョンに入っていく。
自分たちの実力を考慮し、買取所では相場が上がっている鉱石やモンスターの素材の情報が貼られている。
総合的に判断して、なるべく安全で稼げる階層、モンスターを狙う。
計算を間違って命を落とす冒険者も定期的に出るが、そこは本当に自己責任だ。
僕たちも、それには毎日気をつけるようにしている。
「ふう……終わったぁ。夕食はどうする?」
「どこかで食べて帰るか」
「それがいいな」
「なににしようかな?」
冒険者は、昼食は事前に購入したものをダンジョン内で済ませることが多い。
古谷良二の情報によると、時間によってダンジョン内に出現するモンスターの種類が変わったり、レアアイテムがドロップする確率や種類が変わることはないそうなので、昼夜逆転してダンジョンに潜る冒険者は非常に少ない。
遅くなっても夜にはダンジョンから出てきて、夕食は外食を取る人が圧倒的に多かった。
たまに自炊する人もいるらしいけど、僕には無理なのでパーティメンバーで今日は焼き肉屋に行くことにした。
古谷良二がオーナーのお店で、事前に予約しておいたのだ。
少し高いけど、たまには贅沢をしても構わないだろう。
「今日は稼いだな、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ビールで祝杯をあげ、ドラゴンの肉を炭火で焼いて食べる。
まだ僕たちには倒せないけど、これが実に美味しいのだ。
「古谷良二はこの一店舗だけお店を経営して、全国の焼き肉店にお肉や加工品を卸しているんだっけ?」
「すげえ儲かっているらしいけど」
今、全世界でモンスター肉の料理がブームになっている。
日本でも、ドラゴンは無理でも、他のモンスターのお肉を外食で食べに行く人がとても増えていた。
そこで古谷良二は、このお店以外にはゴーレムに作業させたお肉と加工品を卸して荒稼ぎをしているそうだ。
ゴーレムかぁ……。
ジョブが戦士の僕には作れないよなぁ。
「雄介、そういえばお前って、冒険者になった直後に彼女と別れたって言っていたよな?」
「そうだけど、それが?」
「今度、婚活パーティに行かないか? 冒険者限定のやつ」
婚活かぁ……。
冒険者は稼ぐから、冒険者目当ての婚活パーティーが増えたような……。
「僕はまだいいよ」
「そんなに彼女に振られたのがショックなのか?」
「ショックと言うか、若干女性不信?」
冒険者特性が出たので、 僕は安定した大企業勤めから、冒険者へと転職した。
もう少し若ければ冒険者高校に行けたのだろうけど、社会人になってから冒険者に転職する時、本当に悩んだものだ。
その迷いをようやく振り切り、当時付き合っていた彼女に冒険者になることを伝えた時。
彼女はこう言った。
『えーーーっ、せっかくいい会社に勤めてるのに、野蛮な冒険者になっちゃうの。私は嫌よ、雄介、私たち別れましょう』
と彼女から言われ、僕はあっけなくフラれてしまった。
今でこそ徐々に冒険者の社会的地位が認められつつあるが、いまだにリスキーで、仕事内容が内容なので野蛮な人が多いと、冒険者を嫌う人もかなり多かった。
彼女もそういう人種で、さらに彼女は大企業に勤めていた僕が好きだったようだ。
冒険者になるなら別れると言われ、僕もそれを受け入れざるを得なかった。
そのあとに今の仲間たちと知り合い、努力して収入が安定し始めた頃。
僕を振った彼女から突然連絡が来た。
何事かと思って待ち合わせ場所に行くと……。
『雄介、結婚式はいつにする?』
『はあ?』
僕は最初、彼女がなにを言いたいのか理解できなかった。
だって、僕と彼女はもう別れてしまったのだから、結婚なんてできるわけがない。
『君は、冒険者になる僕が嫌だと言って振ったじゃないか。結婚なんてするわけがない』
『振るのは取り消しね。なんかテレビで見たんだけど、冒険者ってとっても稼ぐみたいじゃない。それなら私も、雄介と結婚してあげてもいいかなって。私、専業主婦になるのが夢だったし、子供もベビーシッターを雇って任せられるんでしょう? 楽でいいわね。あっ、新居は上野公園ダンジョン特区内の高級タワーマンションがいいわ。車も外車が欲しいしわ。』
『はあ? 君はなにを言っているんだ?』
『今、雄介は一人だって聞いたわよ。だから、私が結婚してあげる』
『ふざけるな!』
僕は、安定した大企業勤めから冒険者になる時、本当に真剣に悩んで悩んで悩み抜いて決めたんだ。
冒険者になってからも、最初は慣れないダンジョンと、モンスターとの戦闘で苦労し、何度も危険な目に遭った。
そんな苦労を続けてようやく収入が安定し始めた途端、それを見計らったかのように、僕を振った元彼女が『ヨリを戻してあげる』などと上から目線で言ってきたのだ。
腹が立つばかりだし、そんな彼女にいい印象など持てるわけがない。
『君は、僕が冒険者になると言ったら、安定した大企業勤めじゃないから嫌だと言って別れたじゃないか。今さらよりを戻そうと言われても手遅れだ』
『ごめんね。代わりに結婚してあげるから』
『そんな言い方があるか! ふざけるのも大概にしてくれ!』
元彼女の言動に呆れた僕は急ぎその場から離れたのだけど、それからも彼女はしつこく僕に迫ってきた。
ダンジョンから戻ると、毎日のように自宅前で待ち構えているのだ。
「いい加減、しつこいぞ! 警察を呼ぶからな!」
頭にきたので、その日は怒鳴って彼女を追い出した。
これで二度と自宅前での待ち伏せはないと思っていたのに、翌日、さらに酷い状況になった。
彼女が家族を連れてきたのだ。
「まあまあ雄介君。君は男性じゃないか。可愛い婚約者のちょっとした間違いくらい水に流して結婚するくらいの気概を見せないと」
「そうよ。それに、あなたが私の娘と付き合っていたのは事実なのだから、ここは責任を取らなきゃ。新居は高級タワーマンションを購入するんでしょう? いいわね、私たちも一緒に住む予定だから」
「理沙、よくやったわ。私、専業主婦だったんだけど離婚しちゃって、子供が三人もいるから実家のマンションだと狭いのよ。助かったわ」
「はあ?」
どうして僕が、すでに別れた彼女と結婚して、その家族まで養わなければいけないんだ。
夜に自宅マンション前で待ち伏せ、それが当たり前だと言い放つ彼女たちの精神構造に、僕はダンジョンで危機に陥った時とは違う不気味さを感じた。
「とにかく、僕は理沙とは別れたんです!」
僕は彼女たちの隙を突き、自宅マンションに滑り込んで鍵をかけた。
「雄介、開けてよ! 急いで結婚式の打ち合わせをしないと!」
「雄介君! 君も男なら、潔く責任を取りたまえ!」
「冒険者特区内って、いいお店が沢山あるんでしょう? モンスターの皮で作ったブランドバッグが欲しいわ。私、もうすぐ誕生日なのよ。雄介さん、義母さんに誕生日プレゼントぐらいしなさいよ」
「子供たちはベビーシッターに任せて、私も遊びたわ。ねえ、開けてよ!」
僕の部屋の前で、ドアを叩きながら騒ぐ彼女とその家族。
あまりにうるさいので、すぐに隣の住民に警察を呼ばれてしまい、僕は駆けつけた警察官に事情を説明することになった。
「……。ああ、最近多いんですよね。上野公園ダンジョン特区の周辺だと。まあ、冒険者の方々は稼ぎますから。似たような案件で、私も数回駆けつけたことがありますから……」
僕から事情を聞いているお巡りさんによると、冒険者になった元恋人、配偶者とヨリを戻そうと押しかける男女のみならず、僕の元彼女のように家族まで押しかけるケースが多いそうだ。
稼ぐ冒険者に家族ごとぶら下がり、楽に暮らそうと考える人たちが一定数出るのは、 これはもう人間の業かもしれない。
「そういえば、元彼女さんは働いているんですよね?」
「ええ……」
派遣だけど、結構有名な会社に事務職で行っていたはずだ。
「ご両親は?」
「確か、父親は有名な大企業に勤めていたはずです」
だから彼女は、僕が冒険者になるのは反対したのだから。
僕が、父親と同じく安定した大企業勤めでなくなるのが嫌だったから、僕たちは別れる羽目になった。
今は未練の欠片もないけど、ようは僕はフラれたわけで、しばらくは落ち込んだものだ。
ショックだからこそ、僕が冒険者として稼げるようになってから、何食わぬ顔でヨリよりを戻そうとする彼女をすでに嫌うようになっていた。
しかも、家族で押しかけてくるなんて!
僕の生活を邪魔するな!
「我々警察が調べるわけにはいきませんが、元彼女さんとそのご家族、今大変なんじゃないですか? だからあなたに縋ろうとした。注意したら今日は引きましたが、私の経験によると絶対に諦めないタイプの人たちです。お仕事に影響が出るとお考えなら、引っ越されることをお勧めします」
「そうなりますよね……」
「警察としても、彼女たちに注意はできるのですが、なにか明確な犯罪を犯したわけではないので、逮捕するわけにいかないのですよ」
まったく非がない僕が損をするので頭にくるが、このままこのマンションに住み続けてもろくなことがないことは明白だ。
僕は翌日からホテル暮らしとなり、急ぎ上野公園ダンジョン特区内の物件を探した。
幸い、今の時点では少し冒険しているなという高級マンションの購入できたけど、これから長いローン返済が始まる。
ただ、最近は冒険者でもローンを組めるようになったのは素晴らしいことだ。
昔の冒険者はローンが組めず、あの古谷良二ですら自宅マンションは即金で購入したと、動画で語っていたほどなのだから。
そういえば、少し前に彼がクレジットカードを作ったら、クレジット枠が十万円しかなかったという話は、サブチャンネルでバズっていたのを思い出した。
今の冒険者は簡単にクレジットカードを作れるようになったから、逆にカードの使いすぎで破産する人たちが問題になり始めているけど、それはどの職業も同じだろう。
「 おかしな理由でマンションを購入してしまったが、頑張ればローンを返済できるはずだ。彼女のことは忘れて頑張ろう!」
こうして僕は、このところ冒険者たちの憧れの的である、上野公園ダンジョン特区内に住居を構えることに成功したのであった。
「しかし、このところ上野公園ダンジョン特区は不思議というか、おかしなことが多いような……」
「雄介、どうかしたか?」
「おかげさまでマンションは無事に購入できたんだけど、確かにこのマンションは不思議だよな」
「ああ、なんか上野公園ダンジョンみならず、世界中の冒険者特区はこんなものらしい。とても狭い特区内に次々と新しいビルが建つし、その完成時期もとても速いってんだろう?」
「ゴーレムを建設工事で用いてるだけでは説明できないよな」
「古谷良二が説明していた『エンペラータイム』と、冒険者特区の土地のかなりの部分に新しい土地が継ぎ足されているからさ」
「土地を継ぎ足す?」
「別次元の土地と、従来の土地を繋ぎ合わせているんだと。そのおかげで、今の上野公園ダンジョン特区は、上野公園とその周辺の土地で4平方キロメートル程度しかないのに、なぜか特区内に入ると、このところ広く感じるようになった気がしないか?」
「そう言われてみると……」
日本や世界の他の冒険者特区にも多いが、とりあえずダンジョンを囲っただけなのでとても狭いなんてことが普通にあった。
おかげで地価が異常なまでに高騰し、中古の1LDKのマンションの価格が百億円超えたとニュースになったことも。
店舗やオフィスの家賃も異常なまでに高騰し、それが特区内の物価の急上昇にも繋がっていく。
おかげで多くの冒険者が冒険者特区内に住めず、周辺から通勤する羽目になっていた。
冒険者特区内に土地を持っていた地主たちは、 高額で土地を貸したり売却して次々と成金が生まれたって話は有名だ。
「上野公園ダンジョン特区の広さは、外から見たらまったく変わっていないのに、特区の中に入るとえらく広くなったような気がしないか? 新しい地区では続々とビルやマンションが建っているが、その土地はどこから現れたんだ?」
「確かに、外から見た上野公園ダンジョン特区の広さとは全然違うな。しかも、僕たちは特区の土地が広がった事実を認識しにくい。不思議だ」
「古谷良二が、土地を増やしたんだよ。ただ 別の次元に土地が広がっているから、外側から見たら土地が広がっようには見えない。なにより、急に上野公園ダンジョン特区が外に広がったら、周辺の土地が大変なことになってしまうからな」
「別に次元にねぇ……」
これまで科学全盛だった世界にダンジョンが出現したんだ。
科学では再現できない新しい発明がなされても不思議ではないか。
「おかげで地下も下がり、俺たちも二十年ローンながら新築マンションを購入できるようになった。飲食店やオフィスの家賃も下がって万々歳だ。そして新しいビルは、数少ない人間と多くのゴーレムたちが恐ろしい速度で建設している」
「エンペラータイムか……」
前に、古谷良二の本当のレベルは60000を超えていて、我々の六十分の一の時間でダンジョン探索ができると聞いた。
さらに、ダンジョンの神様のご加護でレベルが倍になって、百二十倍の速度でダンジョン探索ができるようになったとも。
そしてこの能力を付与することができるそうで、建設中のビル群はこれまでの百二十分の一の時間で完成する。
「恐ろしい話だな……」
「世界中の冒険者特区から引き合いがきているらしい。基本的に冒険者特区は土地が足りないからな」
「あまりに実力が違いすぎて、対抗心すら湧いてこない」
「本当だぜ。さあて、俺もお前も高い買い物してしまったからな。焦って死なない程度に頑張ろうぜ」
「そうだな」
元彼女とその家族に 押しかけられて大変だったけど、上野公園ダンジョン内にマンションを購入する切っ掛けになったし、元彼女とその家族は特区内には入れないのでもう安心だ。
「雄介、そこで婚活だよ」
「……参加してみようかな」
その後、元彼女と共通の知人から話を聞いたのだけど、やはり元彼女の家族は経済的に困窮しているらしい。
元彼女自身は、派遣先の大企業がゴーレムを導入したため派遣切りに遭い、父親も勤めていた大企業から肩を叩かれて早期退職をする羽目に。
母親はずっと専業主婦だったのに、家のローンを返すためにパートを始めたがすぐに音を上げ、元彼女の姉は不倫、托卵をして夫から離婚され、多額の慰謝料を支払わなければならず借金を抱えてしまった。
『結局ローンが支払えなくて家を手放す羽目になり、古いボロボロのマンションに引っ越したそうだ。いまだに全員無職だし、雄介とヨリを戻せればすべてが解決すると思ったんじゃないの? 俺たちは、諦めて身の丈にあった生活をするしかないとアドバイスしたんだけどね。聞く耳持たないんだよ』
「……教えてくれてありがとう」
僕は、知人にお礼を述べてから電話を切った。
そういえば、僕と同じような境遇で冒険者となった家族、元配偶者、元恋人に縋ろうと、特区入り口ゲートで『中に入れろ!』と大騒ぎをする人たちが増えたそうで、警察OBとゴーレムが配置されるようになったとか。
なんとも言いようがない話だけど、 いつまでもそんなことを気にしても仕方がないので、強も元気にダンジョンに潜るとしよう。
あとは婚活パーティーか。
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