第101話 インフルエンサーは宝石販売に手を出す

『安く! 早く! 安全に! 宅配便は全国一律で、同じ料金! 確実に翌日に配送します! 宅配便なら、白豚マークが目印です!』


「すげえな、これで利益出るのか?」


「それが出るんだな」


「あっ……良二の発明品か……」




 実は魔導筒とは、そこまで難易度の高い魔法道具ではない。

 材料はちょっと特殊で、月のダンジョンにいる『ルナプラント』という、樹木のモンスターから獲れる木材などを使わないといけないけど。

 さすがに、メカドラゴンクラスの物体を収納できる魔導筒は俺しか作れないが、コンテナ一つ分くらいの収納量なら、材料と今のところ俺だけが作れる部品さえ用意しておけば、プロト1が用意してくれたゴーレムたちが量産してくれるようになった。

 そして魔導筒だが、思ったよりも早く認可が下った。

 日本のお役人も、たまには手続きを早く済ませてくれるようだ。

 日本の大半の運送会社は、イワキ工業経由で魔導筒を手に入れ、それを使って宅配の効率と速度を劇的に高めた。

 新規就業者が増えたわけでもないのに、徐々に配送トラックと運転手不足がの数が解消され、ロジスティックセンターも大半が仕分け用のゴーレム、ロボットに置き換わる。

 魔導筒で運べば、ワゴン車や、なんなら普通の乗用車、バイク、自転車でも十分に用事が足りたからだ。

 法人向けの重量物でも魔導筒一つで運べるので、運賃も大幅に下がった。

 ゴーレムを用いた顧客への配送はまだ実験段階のため、多くの運送会社の社員が自動車、バイク、自転車を用いての配送作業従事者に転換され、宅配便が早く届くようになった。

 メカドラゴンが使えれば、遠方からの荷物を配送センターの建物の上空から受け渡しができるのだが、やはり市街地を飛ぶものなので、なかなか認可が下りないそうだ。

 これは待つしかないな。

 その代わり、俺が試作品と設計図を提供したメカドラゴンは日本政府といくつかの大企業が高額で買い取った。

 液体燃料と酸化剤を用いるロケットが材料不足で厳しいため、魔石のみで大気圏を突破できるメカドラゴンに大変興味を持ったようだ。

 従来のジェット燃料から、魔液で動くようになった民間の旅客機だが、燃費やコストを考えるとメカドラゴンの方が将来性があるそうで、急ぎ各種航空機、ヘリコプター、宇宙用ロケット、軍事兵器に転用するための研究と試作が始まっている。

 同時に、ダンジョンがなくなった時に備えて、従来の科学技術を用いた様々なものの研究も進めているとニュースでやっていた。

 このところ税収が爆発的に増えたため、研究予算が大幅増額になって多くの研究者たちが集められたため、これまでよりも早く成果が出ているそうだ。


「公共予算も大幅増額かぁ」


「ゴーレム、ロボット、AI、魔導筒の普及が進むと、人間の従業員はどうしても減ってしまいますからね。このところの予算不足で、東京ですらインフラがボロボロなのです。ゴーレムもそうそうすべての人や企業に行き渡らないでしょうから、失業対策も兼ねているということですよ」


 西条さんが世の中の話を教えてくれたが、俺は魔導筒の製造に使う素材の確保と、部品の製造に忙しかった。

 早く多くの冒険者が、月のダンジョンで活動できるようになればいいのだけど。

 月のコアを使わせてもいいのだけど、今のレベルだとイザベラたちでも生き残るのが難しいので、早くレベルを上げてもらうしかないな。


「社長、古谷企画の事業はすべて黒字で好調です」


「知ってる」


 俺の資産……もう、数字なのでどうでもいいような気がしてきた。

 もしゼロになっても、別に生活に困ることもないから。





「うわぁ……。これ、すべて宝石ですか?」


「真珠、サンゴ、中国では人気の玉もあるね」


「良二様、この虹色の宝石は、魔物の素材ですか?」


「『バリアント』という、富士の樹海ダンジョン二千五百六十七階層か、向こうの世界だと稀に出現した軟体生物型のモンスターなんだけど、倒してお腹の中を探ると、虹色の宝石というか、体液が凝固したものだけど、とても綺麗で希少だから高額で取引されていたんだ」


「綺麗ですね」


「欲しい? 沢山あるからあげるけど、なにかアクセサリーに加工した方がいいな。今度時間があったら作ってあげるよ」


「リョウジ、私も欲しい!」


「リョウジさん、私も!」


「ボクも!」


「いいよ。若くて綺麗な女性は着飾った方がいいからね」



 宝石というものに対し、みなさんはどのようなイメージを抱くだろうか。

 とても希少で、高価で、女性が大好きで、お金持ちが資産形成に利用している。

 そんな感じだと思う。

 実際、向こうの世界でも王族や貴族、金持ちたちが沢山の宝石を持っていた。

 魔王とモンスターたちの襲来で多くの人たちがその日食べる食事にすら困っているのに、貴族の奥様やご令嬢が、持っている宝石の自慢をパーティーでしていたのを、苦い表情で見ていた記憶がある。

 だからではないが、俺は宝石にほとんど興味がなかった。

 でも、ダンジョンに潜っていれば、特に深い階層で宝石をドロップすることはとても多い。

 向こうの世界で手に入れた分も合わせて、俺は様々な種類の宝石を大量に持っていた。

 向こうの世界で手に入れた特殊な宝石、モンスターの素材で宝石扱いされるもの。

裏島の屋敷の地下に作った巨大な金庫の中に大量に入っている。

 他にも、銅貨、金貨、銀貨、白金貨などなど。

 少し売れば一生遊んで暮らせる量があるので、古谷企画や俺の個人資産の額がいくらだろうと、あまり気にならなかったのだ。

 一応会社なので減らさないでねと、プロト1に言ったら、彼はとても優秀なので資産は増える一方だ。

 現金のみならず、株、仮想通貨、国債、各種債権、不動産などなど。

 FXもしているので、世界各国の通貨も少し持っているかな。

 この地下金庫の貴金属と宝石類に関しては、イザベラ以外には内緒……ただ、冒険者で『アイテムボックス』持ちの中には、資産を隠している人が多いのは公然の秘密だった。

 さすがの税務署も『アイテムボックス』の中までは調べられないので、今はグレーゾーン扱いかな。


「リョウジ君、宝石や貴金属は武器や魔法道具の材料になるんじゃないの?」


「なるけど、貴金属や宝石は大量に使わないから、こんなに集まってしまうんだよ」


「リョウジ君だから、いっぱい集められると思うけどね」


「そこは否定しないけど、一定以上の実力がある冒険者にとって、貴金属と宝石はただの換金アイテム扱いだよ」


「まあ、そうなるよね。あっ、でも。今、世界中で鑑定書つきのダンジョン産宝石が人気なんだよ」


「ダンジョン産なのがいいのか」


「レアアイテムとしてドロップする宝石は、品質も高いし大きいから。この前、150カラットのダイヤモンドが三十億円で売れたそうだよ」


「高いなぁ」


「でも、リョウジ君が持っている特殊な宝石や魔物の素材の方が、もっと高く売れるんじゃないかな?」


「宝石なんて、なかなかドロップしないもの。リョウジは特別なのよ」


「まあ、レベルが上がれば自然とね」


 ダンジョンの下層に行けば行くほど、 レベルが上がって運が上がれば上がるほど、レアアイテムをドロップするようになり、そうなると宝石は出やすくなる。

 さらに、素材が宝石扱いになるようなモンスターは大半が強いので、強い冒険者ほど稼げるという法則は不変のものであった。

 ここに文句をつけられても、どうにもならないのだ。


「実は、一つ困ったことがあって」


「困ったことですか?」


「実は、月のダンジョンで活動するようになったら、大量に宝石や貴金属を手に入れてしまって。『アイテムボックス』からこの地下金庫に移したら、もう地下金庫はいっぱいだな。次からどうしようか?」


「……販売するしかありませんね」


「やはりそうなるよね。じゃあ、天城さんに相談してみようかな」


 というわけで俺は、一緒にいくつかの商売をしている天城さんに宝石のお店を開きたいと相談をした。


「芸能人がさぁ、お金持ちのオバサン相手に宝石を売るなんて商売をしているけど、それと明確に区別した方がいいよね。安い商品を販売しても意味がないから、広瀬君がカットした高品質な宝石と、それを使ったアクセサリー類を置けばいいでしょう。確か作れたよね?」


「大丈夫ですよ」


 特殊効果がつかないアクセサリーなら、それほど手間もかけずに作れる。

 宝石のカットだって、大半の職人に負けるつもりはなかった。

 勇者は万能職なのだから。


「絵画は自信ないって言っておいて、宝石のカットとアクセサリー作りは自信があるんだ」


「武器、防具、特殊効果のあるアクセサリー作りに通じているので、普通のアクセサリーならそこまで苦戦しませんよ。デザインもできます」


「じゃあ、『古谷良二オリジナルジュエリーブランド』を立ち上げればいいさ。インフルエンサーは、知名度を使ってファッションブランドやアクセサリーのブランドを立ち上げるものだからね」


「よく聞きますよね。失敗している人も多いですけど」


「広瀬君は失敗する方が難しいんじゃないの? お店の場所、探しておくよ」


「ありがとうございます」


 天城さんにはお店の場所を探してもらうことにして、それまでに売り物にする宝石と、それを用いたアクセサリーを作っておこうかな。




『俺、古谷良二は、宝石店を始めることにしました』


 数週間後。

 『ダンジョン探索後チャンネル』において、宝石店の経営を始めることを視聴者たちに伝えた。

 お店の場所は、天城さんが見つけた上野公園ダンジョン特区内にあるビルの一室だ。


『私のお店ですが、販売しているものの値段が値段なので、まず事前に来店予約が必要です』


 お店には看板もなく、お店に入るには予約が必要だった。

 お店とはいえマンションの一室なので、インターホンを鳴らすと、ドアの鍵がガチャリと開いた。

 店の中には、上品ながらも隙のない外国人の中年男性がいる。

 他にも、三体のゴーレムたちが埃一つないように掃除を続けていた。

 内装は非常に豪華で、俺たちが入ると豪華な応接セットがある特別室に案内され、すぐにお茶と高価なお菓子が出てきた。


『店主のルアンと申します。 オーナー、本日はようこそお越しいただきました』


『彼は海外の有名な宝石店で、凄腕の店主として有名な人物でした』


 是非欲しい人材だったので、好待遇で引き抜いた。

 宝石に詳しいばかりでなく、俺のお店の高額な宝石を買ってくれそうなセレブたちにも顔が広い人物だからだ。

 正社員待遇ではないが、売上金額に応じて歩合も出す予定なので、彼は喜んでその条件を吞んでいる。


『このお店では、俺がダンジョンで見つけたり、モンスターから採取した宝石や、それを使ったアクセサリーを発売しています。高いですが、それに見合う品質となっています』


『まずは、宝石の定番ダイヤモンドをどうぞ』


 俺が採取、カッティングした高品質のダイヤモンドが次々と紹介されていくが、その価格は最低でも一個数百万円。

 億を超える品も多数あった。


『ダンジョンで獲得した高価な宝石類をお手頃価格で販売しています。これは、最高品質のピンクダイヤモンドですよ。1000カラットを超えているので、 一個百八十億円です』


 テーブルの上に置かれたダイヤモンドは、とても美しく輝いていた。

 確か、ダンジョンの下層で宝箱に入っていたものだったような……。

 同じものが沢山あるから、よく思い出せないけど。


『さすがにこれは高くて購入できないという人向けに、サイズが小さめのダイヤモンドもお手頃な価格で販売しています。1カラット八百万円からです』


 予約入店で、価格が安い宝石は売らないので、百万以下の品はなかった。


『他にも、バリアント、サンドロック、ウォルフィアの体内にある特殊な宝石なども多数販売しておりますので、ご希望の方は予約をしてからご来店ください』


 宝石店紹介の動画はイザベラたちとコラボしており、彼女たちは俺がプレゼントした手作りの指輪、ネックレス、ティアラ、ブレスレット、アンクレット、ペンダントを着けていた。

 すべて俺の手作りで、まあ婚約指輪みたいなものである。

 俺は結婚しないけど、四人は俺の妻みたいなものというわけだ。


『宝石はともかく、 アクセサリー類は作れる数に限りがあるので、売り切れていることもありますのであしからず』


 こうして俺がオーナーを勤める宝石店の動画撮影が修了し、編集された動画が動画が公開されると、世界中の金持ちたちと、投資家たちがお店に殺到した。

 他にも驚いたのが、世界中の宝石を販売している企業や店舗のオーナーたちが宝石の買い付けに来たことだ。


「ルアン店長、確か〇ビアスって、ルアン店長が働いていたこともある有名な企業だよね? 宝石の」


「ええ、 ダンジョンが出現して以降、世界中のダイヤモンド鉱山が死滅しましたからね。手に入るのは、以前に誰かが手に入れていたものを買い取るか、ダンジョンからのドロップ品を買い取るしかありません」


「モンスターの素材は?」


「オーナー以外で手に入れられる人が非常に少ないです。新しい宝石ということでとても人気があるのですが、本当に品がないので、最低でも数億円は出さないと手に入らないでしょう。事実、その値段で出してもオーナーが金庫に入れてくれた在庫がもうなくなりました」


「そうなんだ。まあ補充しておくよ」


「オーナ―経由で物があるという理由で、宝石の相場が急騰しております。店長の権限で値上げをしましたが、それでも飛ぶように売れていきます」


「それはよかった」


 ぶっちゃけ、ダンジョンで手に入れたものだからコストはゼロに近いし、ルアンオーナーへの報酬と、お店の家賃とその他諸経費くらいしかかからず、あとは全部利益だったりする。

 特に、魔法薬と、魔法道具の製造に使わない宝石類は死蔵していたし、在庫はまだ山ほど残っている。

 これからも次から次へと手に入るし、世の中の役に立つのなら、これでいいのではないだろうか。


「美術品、宝石の類の相場は、俺にはよくわからないよ」


「ダンジョン景気のおかげで、宝石や美術品で資産形成をする富裕層が増えましたからね。相場はまだ上がるでしょう」


「すげえな」


「オーナー、 いくらでも売れますので、宝石の納品をよろしくお願いします」


 宝石が売れれば売れるほどルアン店長の報酬が増えるので、彼は楽しそうに働いていた。

 それと、彼の勧めで宝石の買取も始めている。

 その対象は、基本的に資産にはならないとされている1カラット以下だったり、品質が低いダイヤモンドやその他宝石で、現在小さな宝石でも相場が上がっているからか、大量に持ち込まれていた。

 そしてこれを、どうするのかと言えば……。


「小さな宝石、品質の低い宝石を分解、不純物の除去、再結合して大きな宝石に再加工する。へへっ、俺の技術ならまったく天然ダイヤモンドと同じものが作れるからな」


 俺が再加工した宝石はお店に戻され、やはりとても高額で売れた。

 どう調べても天然の宝石にしか見えないし、海外で鑑定されても天然の宝石だという結果が出ている。


「宝石は儲かるな」


 在庫処分と、宝石の加工技術を鈍らせないために始めた宝石店だが、最初の一ヵ月で売り上げが数千億円を超えた。

 宝石は人工的に製造するか、ダンジョンから手に入れるしかなく、徐々に世界中のダンジョン特区内に宝石の取引所が作られるようになったが、世界一の取引額を誇るのは、俺が作った宝石店であった。

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