第100話 ルナドラゴンと魔導筒
『おっしゃぁーーー! 月にあるダンジョンをすべてクリアして、ダンジョンコアを手に入れました! 見てください、とても綺麗ですね……地球のダンジョンコアとの違いはないですけど……』
月で動画の撮影をしていた。
見つけたダンジョンをすべてクリアーし、合間に地球の衛星軌道上にあるデブリを多数掃除した動画も大人気で、各国から故障して衛星軌道上を漂っている人工衛星の回収も依頼されたので、それでもかなり稼ぐことができた。
宇宙服を着ずに冒険者の装備のみだが、有害な宇宙線は『バリアー』で防げるので問題ない。
酸素も、自作した専用の魔法道具がある。
ダンジョンの特殊階層には水中エリアもあり、それがないと攻略が難しいので作っておいたものを流用した。
なにより、ダンジョンの中には空気があるのだ。
ただ、重力は月と同じく地球上の六分の一なので、低重力下の戦闘に慣れないと思わぬ不覚を取る可能性が高い。
俺はもう慣れたけど。
手に入れたすべてのダンジョンコアを月の地面に並べて動画の撮影をしていると、突然すべてのダンジョンコアが一斉に光り輝いた。
何事かと思っていたら、突如頭上から恐ろしいまでの殺気を感じた。
見上げてみると、上空に銀色に輝く巨大なドラゴンが遊弋しながら俺に殺意を向けている。
『月のボスなのかな? みなさん、俺が無事に勝利できることをお祈りください』
月のすべてのダンジョンをクリアーしたのが、出現のトリガーだったのかもしれない。
富士の樹海で倒した金色のドラゴンなど比べ物にならない威圧感を持つ銀色のドラゴンと、俺は命を賭けて戦うことになった。
とりあえずこいつは、『ルナドラゴン』とでも命名しておこうか。
「……あまり時間をかけない方がいいかもしれないな」
月の空で『飛行』しながらルナドラゴンと対峙する俺であったが、宇宙線を防ぐ『バリアー』を展開しながら、口に咥えた呼吸用の魔法道具の酸素が尽きていないか気を使いながら戦っているので、地球上で戦うよりも疲労度が溜まるのが早い。
重力が六分の一で身が軽いとはいえ、あまり後先考えずに全力で戦うと、俺の方が先に力尽きてしまう可能性があった。
ダンジョンの中もそうだが、月の低重力は、長年地球で暮らしてきた人間には大きなハンデでしかない。
生まれつき月で生活していたら、そうは感じなかったんだろうけど。
「はぁーーー!」
ゴッドスレイヤーを構え、そのままルナドラゴンの懐に入り込んでお腹の部分に一撃を入れた。
ところが思った以上にルナドラゴンは硬くて、ほとんどダメージを受けていないようだ。
「ならば、弱点を探す!」
首、頭、心臓近くなど。
素早さは俺の方が高かったので次々に攻撃できるが、ルナドラゴンのあまりに硬さに、俺は困惑するのみであった。
いくらドラゴンでも、俺が持つ魔王殺しの大剣と、さらにレベルが上がって強くなった俺から攻撃を受け、ほとんど無傷というのはおかしい。
「どういうことだ? とてつもなく防御力が高いのか? いや、銀色のドラゴンのウロコや皮が、なにやら硬い金属でできているんだ!」
ウロコや皮が金属なのに、銀色のドラゴンはゴーレムではなかった。
地球上ではありえないモンスターだが、ダンジョンではなく月の軌道上で生活しているということは、常に宇宙線を浴びているはず。
普通の生物では生きていることができないので、ウロコと皮は生物として独自に進化を遂げたということかな。
それに、月のダンジョンには無機物の生物が存在する。
金属の表皮とウロコに覆われたドラゴンがいても、おかしくはないのか。
「非常に興味深いが……『インフェルノ』!」
トップクラスの火魔法を使ってみるが、ルナドラゴンはまったくダメージを受けなかった。
強固なウロコと皮が、火を弾いてしまうのだ。
「ゴッドスレイヤーでも表皮に傷がつかないとは……」
銀色のドラゴンの表皮とウロコは、やはり俺も知らない未知の金属のようだ。
倒して回収、分析して、なにに使えるか調べてみることにしよう。
「……鳴かないな……」
銀色のドラゴンは鳴かず、ブレスを吐かない。
その太い尻尾を振り回し、巨体を生かした体当たりで俺を粉砕しようとする。
鳴いていないように聞こえるのは、月には空気がないから聞こえないだけかと思ったら、まったく口を開かないので、元々鳴かないドラゴンなのだと思う。
「くっ!」
銀色のドラゴンが尻尾を振り回すスピードが上がった結果、上手く回避できないので、空中で停止しながら両腕とゴッドスレイヤーで受け止める。
とてつもない力が全身にかかり、体が軋むように痛むが、どうにか受け止めることに成功した。
急いで傷みが残る体に治癒魔法をかけつつ、さらに口に咥えている酸素吸入用の魔法道具に入れている魔法薬が尽きた。
この魔法薬がないと酸素を供給できないので、急ぎ新しいカートリッジに交換する。
このカートリッジは俺が開発したもので、呼吸用の魔法道具に簡単に脱着できた。
魔法薬がなくなった空のカートリッジを取り外し、『アイテムボックス』から取り出した予備のカートリッジを『カチッ』と装着する。
これと『バリアー』のおかげで、俺は宇宙服なしに月面や宇宙空間で活動できた。
我ながら化け物じみているし、動画でその様子を更新したらえらく驚かれたが、レベルが上がって『バリアー』を習得し、呼吸用の魔法道具が作れれば、誰にでもできることだ。
ただ、最低でもレベル10000を超えないと、長時間宇宙線を防げず、宇宙空間の過酷な環境にも耐えられなくなるはず。
もし魔力が尽きて『バリアー』を展開できなくなった瞬間、いくら強い冒険者でもあっという間に死んでしまう。
それが宇宙空間というものなのだから。
「(さて、こいつをどうやって倒すかだか……)」
魔法は効果がなさそうなので、ただひたすらゴッドスレイヤーで銀色のドラゴンを攻撃していく。
斬るというよりも、叩く感じの攻撃だな。
切り傷を与えられないので、力いっぱい殴りつけて、体内にダメージを蓄積させていく戦法だ。
これが駄目なら、また別の方法を考えることにしよう。
「頭か? 首か? 内蔵か?」
銀色のドラゴンの体のあちこちにゴッドスレイヤーを叩きつけ、体内にダメージが浸透するように攻撃を加えていく。
当然反撃はあるが、もう速度を上げた銀色のドラゴンに対処できるようになったので、次々と攻撃をかわしていった。
「おっと!」
姑息にも、後ろから尻尾による攻撃を加えてきたが、即座に振り返って今度は尻尾を掴んだ。
そして、そのまま背負い投げの要領で銀色のドラゴンを、月の地面に叩きつける。
月の地面にのめり込んだ銀色のドラゴンは、苦悶の表情を浮かべた。
「やはり、表皮にはほとんどダメージを負わなくても、体の中はそうでもなかったようだな」
銀色のドラゴンの内蔵は、他のドラゴンとそう違わないようだ。
月のダンジョンで見つけた岩のモンスターのように、内臓も岩ということはなかった。
ゴッドスレイヤーで叩いて内部にダメージを浸透させる戦法により、銀色のドラゴンの口の端から黒い液体が流れてきた。
どうやら内蔵へのダメージで出血したようだ。
「うりゃぁーーー!」
銀色のドラゴンとの戦闘の様子は、ドローン型ゴーレムが撮影を続けているが、 これはいい絵が撮れそうだ……などと考えてしまうのは職業病かもしれない。
「さて、あとどれぐらいで死ぬ?」
当然ながら、銀色のドラゴンは教えてくれなかった。
ならば、奴が倒れるまで攻撃し続けるしかない。
それから一時間ほど、俺は銀色のドラゴンに攻撃し続けた。
ゴッドスレイヤーで、次々と銀色のドラゴンを叩き続ける。
もう一度、呼吸用の魔法道具のカートリッジを交換した直後、ついに銀色のドラゴンがふらつき、そのまま月へと落下していく。
「内臓がズタズタになったのか?」
月の地面に落下するのと同時に盛大に砂埃が舞い、銀色のドラゴンの姿が見えなくなった瞬間、嫌な予感を感じた。
半ば本能で防御態勢に入った途端、 銀色のドラゴンを包んでいた砂埃が銀色の光の奔流によって吹き飛ばされ、それが俺へと向かってくる。
どうやら、銀色のドラゴンはブレスを吐けたようだ。
「隠し技かよ。ぐおぉーーー!」
俺は全力で『バリアー』を張り、銀色のドラゴンが吐いた光の奔流を全力で防ぐ。
すさまじい威力であり、もし防ぎきれなかったら俺は瞬時に消滅してしまうだろう。
「くっ……」
ブレスと『バリアー』が摩擦熱により高温を発したので、体が熱い。
体の一部が火傷したので、急ぎ治癒魔法をかける。
極寒の宇宙と、俺の『バリアー』があって、まだこれほどの高温を感じさせるとは。
もしそのままブレスを食らっていたら、俺はすぐに燃え尽きてしまっただろう。
「魔力が……」
何度か魔力回復剤を用いながら、どうにか銀色のドラゴンによるブレスに耐えていたら、突然攻撃が止まった。
と同時に、銀色のドラゴンは月の地面に倒れ伏し、そのまま動かなくなってしまった。
「命が尽きる前の、最後の一撃だということかな?」
本当に銀色のドラゴンが死んだのか自信がなかったので、しばらく上空で様子を伺っていたがピクリとも動かない。
念のためゴッドスレイヤーで体を突いてみるが、やはり死んでいるようだ。
「ふう……。あっ、ドローン型ゴーレム!」
周囲に展開していた撮影用のドローン型ゴーレムの数を確認したら、二基減っていた。
銀色のドラゴンのブレス攻撃で消滅してしまったようだ。
「まあいいか」
プロト1に任せれば、すぐに作ってくれるからな。
このぐらいの損失は、必要経費だと思うことにしよう。
ビデオカメラも中古品を改良したものだから、入ってくる収入に比べれば大した損失ではない。
「あれは?」
銀色のドラゴンの死体の傍に、虹色に輝くサッカーボール大の珠が落ちていた。
拾って『鑑定』してみると、『月のコア』と表示されている。
「月の各ダンジョンのダンジョンコアはあるから、なにに使うのかがよくわからないけど……。そういうことか!」
さらに『鑑定』を続けると、月のコアの使い方が判明した。
「どこからでも、ダンジョンコアを持つ月のダンジョンの入り口に『テレポーテーション』できるのか。逆に、月から地球の指定したポイントに戻ることも可能……自宅に戻れるのかな?」
そう独り言を呟いた瞬間、 視界が一瞬暗転したと思ったら、俺は自宅のリビングに立っていた。
「あら? リョウジさん、いつの間に戻られたのですか?」
「今、月から戻ってきた」
「またなにかいいアイテンでも見つけたの?」
「それは食事の時に説明するよ」
「良二様、今、 腕によりをかけて作っていますから」
「私もアヤノに習って、色々と料理が作れるようになったわ。動画で更新しているんだけど、どういうわけか視聴回数は多いのよね。『アメリカ人が、こんなに料理が上手だなんて……』というコメントが腹立つけど」
今夜は五人で夕食を取る予定であり、さらに今日は女性陣が覚えた手料理を披露してくれる予定だった。
どうやら、先に俺の自宅マンションで料理をしているところに遭遇してしまったようだ。
「月のダンジョンをすべてクリアーしたら、月のボスが出てきたので倒した。月のコアを用いれば、地球と月のダンジョンとの間を自由に移動できるみたい」
「コストがかからずに月に移動できるのは便利ですね」
「だが、最低でもレベル10000を超え、『バリアー』と呼吸用の魔法道具が必要だ。そうでなければ、宇宙服を用意しなければ月面を移動できないからな。ダンジョンの中には空気があるけど」
夕食の時間となったが、イザベラの料理の腕前は短い間に上がっていた。
彼女が手作りしたスコッチエッグとアイリッシュシチューはとても美味しく、レストランで出しても十分に通用するはずだ。
冒険者特性を持つ者は、レベルが上がるとステータスが上がるので、なにを習ってもすぐに上達する。
もし冒険者特性を持つ人がダンジョンに潜ることをやめても、その高いステータスにより、どんな仕事でも簡単に覚えてしまう。
余計に格差が広がるという現実もあった。
当然個人差はあるが、レベル2になっただけで、普通の人よりも圧倒的に知力や身体能力、運までもがかかってしまうのだから。
冒険者こそが格差を広げる元凶だと、俺たちを目の敵にする人たちの気持ちもわからないではないのだ。
「月のダンジョンね。もっとレベルを上げて入ってみたいよ」
「宇宙服を新調して、ダンジョンに潜らなくても、月面の散歩というのも楽しそうですね」
ホンファの中華料理も、綾乃の和食も美味しい。
「まあ、一~二時間なら、俺の『バリアー』でフォローできるから、夕食後に散歩で行ってみようか?」
「月面の散歩、楽しみですわ」
「写真や映像でしか見たことがないからね。ボクも楽しみ」
「良二様、ありがとうございます」
「リョウジ、最高」
夕食後、俺たちは月のコアを用いて月へと『テレポーテーション』した。
装備品には防御補正があるのでそれを着け、さらに俺の『バリアー』と、俺が提供した呼吸用の魔道具を用い、五人で月面に立った。
すると、先ほどは銀色のドラゴンとの戦いに夢中でよく見ていなかった、青い地球を一望することができた。
「綺麗ですね」
「リョウジ君、素晴らしいところに連れてきてくれてありがとう」
「地球って、こんなに青いんですね」
「最高のデートよ」
一時間ほど月面での散歩を楽しんだあと、みんなでみんなで動画の撮影をしてから、自宅へと戻った。
月のダンジョンの攻略情報と、銀色のドラゴンとの死闘と合わせ、これらの動画は順次プロト1によって編集され、動画投稿サイトに更新されると、またも大きな反響を呼んだ。
『すげぇ! 古谷良二は、宇宙服も着ないで月面を歩いてるぞ』
『月も地球と同じく、魔石や資源をダンジョンから手に入れないといけないのか……』
『古谷良二以外で、月のダンジョンを攻略できる人はしばらくいないだろうな』
『その前に、どうやって月に辿り着くんだ? 月の資源もダンジョンから手に入れないといけなくなった以上、コストの問題で月面探索を取り止める国も出てきたというのに……』
『古谷良二は月のコアを持っているから、自由に移動できるのか。また突き抜けた感じがするな』
『ああ。でも、月のダンジョンに住むモンスターの素材や、月ではこれまで地球のダンジョンからは出なかった金属もあると聞く。サンプルを古谷良二が持ち帰っているはずだから、また各国の企業が取り合うんだろうな』
『特に、銀色のドラゴンの表皮とウロコを構成している金属か……』
『もしかしたら宇宙開発が進むかもしれないから、早く結果が出るといいな』
『そうだな』
またも俺の動画がこれまでの視聴回数を更新し、さらに銀色のドラゴンの表皮とウロコを構成している銀色の金属だが、色々と分析してみた結果、向こうの世界でも見たことがない金属だった。
「『ルナメタル』とでも名づけるか。ゴッドスレイヤーの改良に使えそう」
この金属を分析してみると、オリハルコンや、その上位にある数種類の『カラーメタル』よりも硬く、武器や装備品に用いればさらに性能が上がるはずだ。
何度か試作を繰り返したのち、ゴッドスレイヤーの刀身をルナメタル製にし、 装備していた防具にも同じ改良を施したところ、これまで以上の性能を得ることができた。
「ルナメタル、いいなぁ」
他にも、月へも行ける竜騎士の素材をルナメタルに変更したり。
これで、さらに月へと移動しやすくなるはずだ。
月へは月のコアで『 テレポーテーション』できるから、それほど必要がなくなってしまったのか。
そういえば、メカドラゴンを売ってくれという国や企業が多いから、時間が空いたらモンキーバージョンを何体か作っておこうかな。
さすがに、俺が富士の樹海ダンジョンで倒したメカドラゴンを改良した第一号は売れないので、RX-DD2などの金属製ゴーレム型モンスターの素材を利用し、ゴーレムたちを作業させて試作する。
完成品は試験飛行させ、難なく地球と月を往復することに成功したが、その性能はメカドラゴンを元にしたオリジナルと比べると、およそ三十パーセントマイナスといったところか。
量産性を向上させ、特殊な素材の節約のために全長を小さくしたんだが、どういうわけかオリジナルに速度などの性能が及ばないのだ。
ただ基本的な作りは同じなので、これを参考に技術開発することは十分に可能なはず。
「ただ、これは飛行機や宇宙船の類だから、販売しようにも政府日本政府から許可が下りないとな」
俺が自作したものを、俺が好きに乗ってどういう結果になってもそれは俺の自己責任だけど、他者に売った結果事故が起こったら、俺の責任になってしまう。
作ってはみたけど……。
「みんな、量産機だけどメカドラゴンいる?」
「私、欲しいです」
「ボクも! 空を飛んでみたかったんだ」
「竜の形をした飛行機ってワクワクします」
「リョウジ、大好き。みんなで空を飛びましょうよ」
ゴーレムたちが頑張ったおかげで、全長十五メートルほどの小さなメカドラゴンが完成したので、俺はイザベラたちにプレゼントした。
燃料は、自分の魔力か魔石だ。
魔液は、俺にはエンジンを作る技術がないので使えない。
だがどうせ、実力がある冒険者は簡単に魔石を手に入れられるので、むしろそちらの方が便利だろう。
俺も大きなオリジナルではなく、予備機にした量産機に乗って世界中をメカドラゴンで移動しながら動画を撮影した。
『エベレストの上空に到着しました。綺麗ですね』
五機のメカドラゴンで飛行デートを楽しみつつ、動画を撮影する。
大気圏を突破して月に行くことができるメカドラゴンの操縦席はしっかりとガードされているので、エベレストのはるか上空を無装備で飛行することができた。
色々と改良したのでGもほぼ緩和されるし、飛行中もスピードの緩急をつけやすく、ヘリコプターや垂直上昇機のようにホバリングも可能なので、世界中の綺麗な景色を上空から見て回る。
「インドネシアにあるクリムトゥ山の三色の火口湖、ベトナムにあるサパ・ムーカンチャイの美しい棚田、アメリカアリゾナ州にある馬蹄に似た渓谷ホース・シューベント、アメリカコロラド州にあるマルーン湖とマルーンベルズの山、ワイオミング州にあるイエローストーン国立公園、 カナダにあるカナディアンロッキー山脈自然公園、ナイアガラの滝、 ボリビアのウユニ塩湖、ベネズエラのロライマ山、イタリアにあるランペドゥーザ島、 天空の町町チヴィタ・ディ・バニョレージ町、スイスにあるリッフェル湖、アイスランドにあるヴァトナヨークトル氷河、アイルランドにあるモハーの断崖、クロアチアのプリトヴィツェ湖群国立公園、ギリシャにあるザキントス島、トルコにある石灰棚パムッカレ、オーストラリアにあるホワイトヘブンビーチとテカボ湖、ポリネシアにあるボラボラ島。一日で回るとは思わなかった」
「残念ながら上空から眺めるだけでしたが、とても綺麗で楽しかったですね。次はゆっくりと旅行したいものです」
「旅行、いいね。リョウジ君、今度は予定を組んでじっくりと旅行に行こうよ。ハネムーンだね」
「国内でも海外でも、良二様とならどこでも楽しそうですから」
「旅行いいわね。どこがいいかしら?」
モンキーモデルでもメカドラゴンの性能は素晴らしく、一日で世界中にある多くの観光名所を上空から楽しむことができた。
夕方、マンションの屋上にメカドラゴンを下ろして首の付け根にあるボタンを押すと、巨大なメカドラゴンは忽然と消え去り、筒のようなものだけが残される。
「リョウジさん、これは?」
「メカドラゴンは場所を食うし、みんなが高収納の『アイテムボックス』を使えるわけじゃないから、『魔導筒』を試作したのさ」
魔導筒は、魔法の袋や『アイテムボックス』と違って一つの物しか入れられないが、誰にでも簡単に使えるのが利点だ。
メカドラゴンを収納できるようにしておけば、大きなメカドラゴンの収納場所に苦労することはなくなる。
駐車場代がかからないってわけだ。
「メカドラゴンを簡単に収納できる筒で、誰にでも使えるのですか?」
「この魔導筒についているボタンを押して、広い場所に投げれば大丈夫。安全装置というか、魔導筒から出たメカドラゴンがぶつかりそうな障害物があった場合、ボタンを押しても発動しないから、比較的安全に使える。おつちょこちょいな人が、ズボンのポケットやカバンの中で魔導筒のボタンを押しても、メカドラゴンは飛び出さない仕組みだ」
「便利すぎるよ! というか、もしかしたら魔導筒って、メカドラゴンよりも凄い発明ような気がするな」
「そうかな?」
ホンファも大げさだな。
「もし量産できたら、世界に大革命を起こすと思いますが……」
「駐車場がなくても車を持てるとか、そのくらいじゃないかな?」
「極論すると、これで荷物を運べばいいので、将来トラックが不要になるかもしれません。魔導筒とコンテナを連動させ、コンテナの中に荷物を入れればいいのですから」
「確かにそうだ!」
そう言われると確かに……綾乃は頭がいいな。
「アメリカのように国土が広い国では、とても役立つ発明よ。流通に革命を起こすのではないかしら。物資の輸送コストも大幅に下がるわよ。リョウジは本当に規格外れよね。さすがは私のダーリン」
「ダーリンっすか……」
もし魔導筒やメカドラゴンが世界中に普及した結果、送料や運賃が下がれば多くの人たちの幸せになるのかな。
ただ、 未知の技術に抵抗感が強い人は多い。
メカドラゴンもだけど、西条さんと東条さんに任せればいいと思う。
ぬか喜びしても、規制のせいで俺たちが個人的に使用する以外使えないかもしれないのだから。
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