第98話 インフルエンサーは焼き肉店をやりたがる?
「もし古谷良二の言ってることが事実なら、彼は地球型惑星を一個所有していることになる。どうにか取り上げられないかな? これがあれば、日本の千二百兆円を超える借金を返済でき、財政の破綻を防ぐことができる」
「無理だな。色々とハードルが高すぎて、日本政府は古谷良二の『アナザーテラ』の所有どころか、実際に存在することすら認めていない。彼があげた収益には多額の税金がかかるし、彼は節税などほとんどしていないからな。税収も上がったのだから、今はそのままにしておくしかない」
「クソッ! どうにかならないものか?」
「ならないな。もし今の日本が、太陽の向こう側にあるというもう一つの地球を正式に領有したとしよう。当然防衛する必要があるわけだが、そんな人員も予算もないぞ。もし、他国から領土を寄越せと言われたらどうする? 世界中の国々が組んで、『アナザーテラの自国領に相当する土地は自分たちのものだ!』と言い出し、日本がそれを断った結果、世界の敵となって国連軍の派遣されたらどうする? 自衛隊だけで世界中を敵に回すんだ。到底守り切れないさ。第一、日本はいまだ大して防衛費を増やしていないのに。富を生み出すダンジョンを守る気概があるのかね? 本当に」
「日本の財政は破綻寸前なんだ! そんな予算はない!」
「俺は、財政破綻論者と、リフレ派、 MMT派の永遠に終わらない言い争いなどに興味はないけどね。古谷良二から税金を取ることで、反地球の利益を日本政府は得られるんだ。今のところはそれで十分じゃないかな? それよりも、その裏地球とやらを捜索する人工衛星なり、有人宇宙探索ロケットを作らないと駄目なのでは? 計算してみたらかなりの予算がかかるぞ」
「今の日本にそんな予算はない!」
「古谷良二が月のダンジョンから得たものの件でも、日本政府は各国への対応で忙しいんだ。余計な仕事を増やさないでくれ」
まったく……。
これだから財務省のエリートどもは。
どうせ彼らの本音はわかっている。
このところ景気が良くなってきたから、増税して自分たちの天下り先を増やしたいんだろう。
やりたければ好きにやればいいさ。
当然経済成長に水を差すような行為になるから、田中総理が必死で止めるだろうけどな。
しかしまぁ。
地球一個を持つ男か。
彼の人生の目的がなんなのかよくわからないけど、こちらとしては今のままでいてほしいものだ。
日本にもバカが多いのでこれからどうなるかわからないが、田中総理は議員歴が長く、予算を地方に配分することが上手で党の重役に登りつめた大岩を処分することができた。
あいつの古臭い考え方や、ろくでもない娘は政権にとってリスクでしかなかったから、案外長期政権に移行するかもしれないな。
田中総理なら、ベストとは言えないがベターではある。
隙あらば増税しようとすることしか能がない財務省のバカどもはあてにならないから、経済産業省としては、しっかりと影ながらフォローしていかなければ。
「古谷君は、飲食店をやるといいよ」
「飲食店ですか? でも、芸能人やインフルエンサーが片手間に飲食店をやると、高確率で失敗するんじゃないんですか?」
「君なら大丈夫だよ」
「天城さんは言い切るんですね」
「僕が勧めるのは、ただの飲食店じゃないから。一緒に組まない?」
「どうしようかな?」
「君のプロト1だっけか? ゴーレム君に聞いてみるといいよ。きっとオーケーって言うから」
ふとしたことが切っ掛けで、とあるインフルエンサー兼動画配信者と知り合った。
彼の名は、天城信也(あまぎ しんや)。
彼はいくつかの会社と飲食店も経営しており、 人間の従業員を増やすのではなく、イワキ工業からゴーレムを大量にレンタルし、それを用いて順調に商売を大きくしている。
なんと、まだ現役の大学生で若く……俺はまだ高校生だけど……日本の古い会社や経営者が、ゴーレムの積極的な運用に及び腰なのに対し、積極的にゴーレムを用いて様々な業界に参入。
順調に売上を伸ばしていた。
実は日本の場合、ゴーレムを用いて会社なり商売をする場合、老舗の方が不利という事情があった。
なぜなら、日本ではそう簡単に従業員を切ることができないからだ。
海外のようにいきなり会社からクビと言われないのはいいかもしれないが、そのせいで新しい会社なり、商売を立ち上げた人の方が有利になるという皮肉も発生している。
ゴーレムを積極的に、効率的に用いて稼ぐ新しい会社なり飲食店が増え、正社員のクビを切れなかった会社が振るわなくなる。
それを批判する人たちもいるけど、残念ながら、技術的失業を一介の冒険者が止めることができなかった。
天城さんは動画配信者としても有名で、岩城理事長の紹介でコラボしたことがきっかけで仲良くなったのだ。
他の動画配信者たちは、俺とコラボしようとしてガッついていたり、コラボを断ると脅迫まがいの誹謗中傷してくる人が多かったのであまり関わりたくなかったのだけど、さすがは岩城理事長の紹介だ。
レベルが上がった影響で、ある程度人物鑑定ができる俺から見ても、悪い人には見えなかった。
とても優しい切れ者といった感じだ。
勿論ただ優しいだけでは会社を経営できないと思うが、俺は彼に好印象を持つようになった。
そんな彼と、自宅マンションで宅配を呼び、ダンジョン産の食材で作られた豪華な食事や、高級スイーツを食べていると、そんな提案をしてきたのだ。
なお、どうしてお酒を飲まないのかと言うと、天城さんは下戸だからであった。
俺はまだ未成年なので、自分がお酒を飲めるかどうかまだわからない。
「古谷君は、上野公園ダンジョン特区の近くに一店舗サテライト店を出せばいい。業種は、焼き肉屋だ」
「えっ? 焼き肉屋ですか? 大丈夫かな……」
焼き肉屋って、芸能人がよくオープンさせる印象があるんだが、上手くいっている人はとても少ないような気がする。
「今も、とある動画配信者が都内に焼き肉屋オープンさせようとして、無謀だって話題になってるじゃないですか」
「ああ……。あれはねぇ……。僕だったら、ああいうやり方はしないけどね。それで、僕が提案する商売のやり方なんだけど……」
その後、プロト1に聞いたら大丈夫だというし、担当するゴーレムを出すというので、俺は焼き肉屋をやることになった。
「焼き肉『リョウジ』ねぇ……。こう言ってはなんだけど、とってもベタな店名だよね」
「ホンファさん、 ぶっちゃけ店名なんてなんでもいいんだど、古谷良二が焼き肉屋をやることが、世間の人にわかった方がいいからさ」
「それなら、焼き肉『古谷良二』でもよろしいのでは?」
「綾乃さん、そこまで露骨だとそれはどうかと思うし、古谷君も恥ずかしいでしょう」
「まあ、フルネームは嫌ですね」
「飲食店をオープンさせるのはいいとして、ビル一棟丸々ですか。大丈夫ですか?」
「ダンジョン不況の際に、ついに資金がショートしちゃったビルオーナーから安く購入することができたんだ。五階建てのビルだけど、全部焼き肉店に改装するよ。ここは上野にあるビルだから、お店が広すぎるかなと思ったら、他の飲食店に貸すこともできる。購入した古谷君に損はさせないよ」
「損はさせないと言って、本当に損をさせない人は曲者ですわ」
「はははっ、イザベラさんがこの世の真実を突いてきて怖いなぁ。当然僕だって儲けるよ。お互いに儲かっていないと、WINWINの関係が続かないじゃないか。せっかく古谷君の友達になれたんだから、損をさせるようなことはしないよ」
上野ダンジョン公園特区のすぐ傍にある五階建てのビルを購入し、今はすべての階層を焼き肉屋にするために工事が進んでいた。
最近、建設現場工事現場でゴーレムをよく見かけるようになった。
元々人手不足の建設業界で、このところの好景気もあって賃金が大分上がったにもかかわらず人手不足が続いていたので、ついに建設会社もゴーレムを大量にレンタルするようになったのだ。
そのおかげで以前よりも工期が早まり、 建設会社の利益率も上がり、人手不足が大分緩和したと聞く。
ただ、どうしても熟練した職人が入らないと駄目な部分もあるので、そういう人たちの賃金はやはり急上昇中らしいけど。
「五階だけど、お店は分けるのね」
「秋葉原に焼き肉屋のビルがあるじゃない。それと同じことだよ」
「アキバの焼き肉屋! 私たち、リョウジに連れて行ってもらったことあるわ。最上階のお店に」
「リンダさんは、アメリカ大統領の孫娘だからね。それは最上階でしょう」
このビルも、一階と二階はモンスターのお肉でも比較的安いモンスターの肉や内臓、それを用いたサイドメニューやデザートを出す。
三階からはさらに客単価が上がり、五階になると客単価が軽く百万円を超えた。
なぜなら、いまだ倒せる人が少ない大型ドラゴンの肉や、美味で希少なモンスターのお肉、ダンジョン産食材を用いたサイドメニュー、デザートを出すからだ。
「一階と二階は平均客単価五万円ほど。一万円ぐらいのランチもやる予定だよ。ここなら、ちょっと奮発すれば普通の人でも入れるはず。三階は平均客単価が十~三十万ってところかな。四階は五十万円くらい。五階は、完全に富裕層向けだね。勿論、ゴーレムでお店を回す予定だよ」
古谷企画の子会社を作り、そこに数名の社員を雇う。
残りは、アルバイトかゴーレムで店を回すわけだ。
「お肉や他の材料は、すべてリョウジさんがダンジョンから手に入れたものなので利益率は高いはずです。失敗する可能性はほぼないと思いますが、アマギさんに利益はあるのですか?」
「当然あるよ。この焼き肉屋をフランチャイズ展開するんだ。いや、一応フランチャイズの形態は取るけど、ようはこのビル店舗を経営する古谷企画の子会社『古谷食品』から、フランチャイズ店舗にモンスターのお肉やダンジョン由来の材料を卸すのさ。僕は全国でこの焼き肉屋さんをフランチャイズ展開するんで、優先的に卸してもらえれば」
「リョウジさんはこのサテライト店舗だけ経営して、あとはフランチャイズ店にお肉を卸すだけですか」
俺が経営するとは言っているが、実際にはプロト1の下にいる高性能ゴーレムに任せてしまう。
裏庭に、お店で使うお肉や素材の加工工場を作り、必要な量をサテライト店舗とフランチャイズ店に卸す。
輸送は、イワキ工業の子会社が経営している運送会社に任せればいいから問題ない。
この会社では現在、ゴーレムにトラックを運転させる実験をしていた。
同時に、運転手の補助をさせて労働負担を減らす実験もしており、待遇もよかったので、他の会社よりは人手不足がマシな部類らしい。
「実は経営手法は、〇メダコーヒー店の究極形態ですね。〇メダは直営店が少なく、主な収入源はフランチャイズ店にコーヒーやお店で使うものを卸すのがメインなんだよ。モンスターのお肉で焼き肉屋さんをやりたい人は、まずは平均客単価を決め、それに見合ったお肉や材料を古谷食品から仕入れる。私がコンサルティングしたお礼は、私が展開するフランチャイズ店に優先的にお肉を卸してもらうだけ」
「なるほど。モンスターのお肉の出すお店は徐々に増えつつありますけど、過度期ということでかなり暴利を貪っていると聞きます。ある程度利益率を上げることは必要ですが、やりすぎはよくないですわね」
「イザベラさんは商売に詳しいんだね。日本で焼き肉店をやらない?」
「私たちは大丈夫ですわ」
こうして、モンスター肉専門の焼き肉店『リョウジ』がオープンし、サテライト店は初日から大繁盛した。
半年先まで予約が取れないほどの人気となり、続けて日本全国にフランチャイズ店が展開されることが発表される。
すでにモンスター肉を出す飲食店は存在したが、俺のお店に品揃えも、価格も、利益率も叶うわけがなく、天城さんが次々とオープンさせた焼き肉店も大繁盛した。
飲食店をオープンさせる際にネックとなる人材であるが、ゴーレムが多くの業務を担当してくれるし、店長やエリア長ができる優秀な人は高待遇で募集をかけたらすぐに経験者が集まった。
お休みもきちんと取れ、焼き肉リョウジはホワイトな職場として有名になっていく。
ただし、天城さんは甘くないので優秀な人しか採用してもらえないけど。
新卒でも、優秀ならいきなり年収一千万円超えからスタートなので、人手不足になる心配はないらしい。
「古谷さん、他にもモンスターのお肉や、ダンジョンから産出した食材を使った飲食店のフランチャイズ経営を始めようと思うんだ。古谷君はゴーレムたちに加工させた食材を卸せばいいから」
「プロト1がいいって言うのなら」
「赤字にはならないから、いいって言うと思うよ」
こうして、日本におけるダンジョン産食品を使った飲食店は、俺が経営する古谷食品と、天城さんが経営するフランチャイズ店舗を纏める会社がかなりの割合を占め、さらなる収益を古谷企画にもたらすことになった。
あまり使い道はないので、世界中の冒険者特区の建設債を大量購入するぐらいしかしていないけど。
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