第92話 月のダンジョン
「はあ? ダンジョンが消滅しただと?」
「はい。階層が低く、入る冒険者が少ないダンジョンばかりですが。世界各国で十七箇所のダンジョンが消滅しました。跡地には穴もなく、元々そこにはなにもなかったかのようだそうで……」
「少数とはいえ、冒険者が潜っていたはずだが……」
「それが、気がついたらダンジョンの外に出されていたそうです。不思議な現象ですね」
「そうだな。ダンジョンが減った国は辛いな」
「そこまでの影響はないかと。スワク共和国、ボンヌ人民共和国、ボータランドのダンジョンが含まれていますから」
「ああ、その三ヵ国な。確かに影響はないか」
突然、世界中にあるいくつかのダンジョンが消滅して大騒ぎになったが、すべて場所が悪くて階層も少なく、冒険者の利用が少ないダンジョンばかりであった。
さらに、世界には自国民がダンジョンへに潜るのを禁止している国もあった。
冒険者特性がある人がダンジョンで強くなり、自分の政権が脅かされると思った独裁者の国や、ダンジョンから産出されるものを利用するのは地球環境によくない。
すべて禁止とする、などというとんでもない国もあって、ダンジョンが消えた影響はそんなに大きくないと思う。
もともと貧しい国が多いというのも理由の一つだ。
「つまり、ダンジョンというのは、ある程度頻繁に、それなりの数の人間が入らないと消滅してしまうのか……」
「みたいです。自国のダンジョンが消えては堪らないと、各国では調査を始めたようですね。どの程度の間隔と人数で冒険者が入っていればダンジョンが消えないのかと」
「不思議な話だが、謎なのは消えたダンジョンがどこに行ったのかだ。どう思うかね?」
「私にもわかりません。ですが、その解答に一番近い人なら知っていますよ」
「一番近い……ああ、彼か」
「はい」
私の部屋にあるパソコンのディスプレイには、世界的な動画配信サイトの動画が流れていた。
そして、その動画の配信者であるが……。
『これまで三百階層しかなかった千葉県の八千代ダンジョンですが、階層が五百階層まで増えたようです。残念ですが、これまでにこのダンジョンのダンジョンコアを得た人たちは無効になっているはずです。そして、八千代ダンジョンの五百階層までの攻略映像ですが、これから毎日更新していきますので、ダンジョン探索チャンネルをよろしくね』
「リョウジ・フルヤ……。彼からしたら、ダンジョンの誕生、消滅、変更はすべて金を生み出すわけですね」
「そういうことになるかな」
ダンジョンがこの世界の人間たちの生活を支える限り、最強の冒険者である古谷良二は稼ぎ続ける。
そしてそんな彼を、新しいインフルエンサーとして支持する人たちと、格差の元凶として憎む人たちが二分する。
「(こうも見事に、人々が古谷良二に関する評価を二分させる。つまりそれは、彼が世界でもトップクラスの重要人物になったという証拠だな)」
「大変です!」
秘書とダンジョン消滅について話をしていると、そこに別の職員が私の執務室に飛び込んできた。
「どうかしたのか?」
「それが……。月に数ヵ所、ダンジョンの発生を確認しました!」
「月にダンジョンだと? 入るまでが一苦労だな」
どうやって月にあるダンジョンに入るのかに関してだが、世界中の国々がしばらく手を出せないだろうな。
なにしろ、技術的な制約が大きすぎる。
そこは仕方がないにしても、現在月は世界中の国々が領有権を主張したり、資源調査を開始したりと、色々と騒がしい場所だ。
各国が将来に備え、色々と発言だけして終わりかな。
月面探査程度なら可能だが、ダンジョン内に苦労して無人探査機を入れても、すぐにモンスターに破壊されてしまうのだから。
「月のダンジョンか……。内部に酸素がなく、宇宙服で潜るとなると条件が悪いな」
「ええ、地球上のダンジョンと同じようなものしか出ないのであれば、わざわざ月のダンジョンに潜る冒険者はいませんからね」
わざわざ月のダンジョンまで宇宙船で向かい、空気がなく、重力が地球の六分の一しかないダンジョンで命を賭ける。
そんな冒険者は、まず存在しないか。
「まず、どうやって月にできたダンジョンを探るかという問題からだろうしな」
「ええ……。それと、もう一つ問題があります。月面にダンジョンができたということは、月の資源もなくなってしまったのでは?」
「その可能性は高いな!」
地球にダンジョンが発生したら資源がなくなってしまったのだから、月にダンジョンが発生したら同じことが起こっても不思議ではない。
「これまで、色々な国が大金をかけて行っていた月の資源探索はすべておじゃんか……」
「そうなります」
今頃、世界各国のお偉いさんたちは、頭を抱えているだろうな。
そして、もう一つ問題がある。
月の領有権に関してだ。
「現在、世界の色々な国が月の領有権を主張している。だが、それも月面で資源が採れればの話だ」
もし月にあるダンジョンに潜ってモンスターを倒し、宝箱を開けなければ魔石、資源、アイテムが手に入らないのであれば、領有権など主張しても意味がない。
まさしく絵に描いた餅になってしまう。
いや、ダンジョンも含めた月の領有権を主張するのか?
「ですが、月の領有権があれば、冒険者がダンジョンで得た利益に課税できるのでは?」
「いや、無理だろう。なにしろ、月の領有権問題は解決していないのだから」
もしどこかの国が勝手に、月のダンジョンに潜って利益を得た冒険者から税金を取ろうとしたら、大騒動が発生するだろう。
下手をしたら戦争になりかねない。
「戦争ですか? 大げさじゃないですかね?」
「いや、日本人の悪い癖だが、こういう問題に鈍感すぎる」
「そうかなぁ」
これでも私の公設秘書だというから困ってしまう。
やはり総理大臣を目指すのであれば、こいつはクビにするしかないな。
「もし月のダンジョンで利益を得た冒険者が、月の領有権を主張した国に税金を支払ってしまったらどうなると思う?」
「その国は税収が増えてラッキーですね」
「お前はのん気でいいな。その国が月の領有権を持つという主張が認められる、大きな証拠になってしまうんだぞ。実際に税金を徴収できたのだから」
「悪いことじゃないと思いますけどね」
「他の月の領有権を主張する国々を大いに刺激する。その徴税は無効だと言い張るだろうし、下手に押し通せば外交問題から戦争という可能性も否定できないな」
なにしろ、地球上のダンジョン配置はまったく平等ではないのだから。
「さらに、ダンジョンに冒険者を潜らせることに手を抜いた国は、国内のダンジョンを失ってしまった。世界中から資源とエネルギーが消え、ダンジョンが発生した理由を神の天罰だと言い、自然エネルギーに全振りした国々は、今頃大いに後悔してるだろうな。さらにまさか、その代わりにダンジョン探索が活発な国のダンジョンの階層が増えてしまうとはな……」
冒険者たちにやる気がない国のダンジョンが消滅し、よく冒険者が潜っている国のダンジョンの階層が増えてしまう。
まるで、ダンジョンを管理している神は成果制度を導入しているかのようだな。
今、古谷良二が階層が増えたダンジョンのマップと攻略情報の動画更新を続けているが、本当に不思議なことがあったものだ。
「今回の件で、世界各国の上層部は理解したはずだ。冒険者が潜らなくなったダンジョンはなくなると。そしてダンジョンの不均衡は、そのまま各国の国力差へと繋がっていく」
中国、アメリカ、ブラジル、インド、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、そして日本。
特に日本にはダンジョンが多く、今回の件でさらにダンジョン大国の地位を確立した。
おかげで、すぐにダンジョン不況を脱して経済成長路線に乗せることに成功している。
エネルギーと資源の完全自給も達成し、それどころか世界中に輸出するまでになっていた。
「どうやら、地球でこれ以上新しいダンジョンは発生しないようだ……いや、それはわからないか……。一つわかっているのは、月のダンジョンの領有権争いが発生するかもしれことだが……」
「どうやって月まで冒険者を送り出すかで、詰まると思いますよ」
「だが、未来はわからない」
遠い未来。
もし地球のダンジョンから魔石、資源、素材、アイテムが出なくなったら、月のダンジョンを制している国が有利になるのだから。
もし月のダンジョンからエネルギーや資源を得るしかなければ、各国も必死になるはずだ。
「だからこそ、今どこかの国が月の領有権を主張したら、他の国を刺激するに決まっている。それにもし……」
「もしなんですか?」
「彼なら、なんとかしてしまうかもしれないぞ」
「彼?」
「古谷良二だよ。彼なら、すぐ月のダンジョンに辿り着いてしまうかもしれない」
「ああ、彼ですか。でも、『アナザーテラ』の件も含めて胡散臭いですよ。確かに優れた冒険者なのは認めますけどね」
「アナザーテラの件はなぁ……」
一人の冒険者が、太陽を挟んだ向こう側にあるもう一つの地球に辿り着き、その地図をすべて作成してしまった。
もっと大騒ぎになってもいいような気がするのだが、実際にはそうでもなかった。
あまりに話が大きすぎ、実は信じている人が少なかったのだ。
彼が動画配信者であるため、作り話だと疑っている人は多かった。
「彼はバカ正直にアナザーテラの発見と、その様子をすべて動画にして更新している。だが、日本政府と国税庁はなかったことにしている」
「珍しいですね。地球一個分なら、多額の固定資産税を取れるじゃないですか」
「普通に考えればそうなるが、現実はそう甘くないよ」
アナザーテラは古谷良二が発見したので、彼の所有となる。
日本政府は彼から多額の固定資産税を取れるはずだが、絶対にそれをしなかった。
「もしアナザーテラの存在を認めてしまうと、世界中から日本政府に要求がくるだろうな。アナザーテラの自国に相当する領地や領海は我が国のものだと。下手に拒絶したら、日本が世界中からフルボッコだぞ。国連軍が、今の日本政府を悪だと断定して攻め込んでくるかもしれない」
「えっ? 国連軍?」
「それだけの価値があるのだから当然だ。それを得るために世界中の国々が、日本一国を悪役にするくらいしてもおかしくない。その後の日本は分割統治でもされるかもしれないが、日本一国が不幸になっても、他すべての国が儲かるのなら、大義名分なんていくらでもでっちあげるさ」
だから日本政府は、アナザーテラを正式に認めていない。
幸い、アナザーテラはどれだけ優秀な天体望遠鏡や衛星で探っても、見つからなかったそうだ。
現地に偵察衛星や宇宙船を送り込むのにも時間がかかる。
すでに準備をしている国は複数あるがね。
「そこで、田中総理と財務省、国税庁が裏で相談して、アナザーテラの存在を認めないことにした」
「へえ、あの財務省と国税がですか。珍しいですね」
「悲しいことに、今の日本の防衛力はお寒い限りだ。アメリカに防衛を肩代わりしてもらっている今、他国に対し強気な対応はできないさ。ようは、アナザーテラなんてお荷物なんだよ。どうせ、アナザーテラを利用して稼いだお金は古谷企画に入るんだ。彼はほとんど節税をせず、寄付も言われるがまましているし、税金も素直に支払っている。下手に苛めた結果、他国に逃げられても困るからな。なにより……」
「なにより、なんですか?」
「どうやって国税の連中が、アナザーテラとやらに査察に入るんだよ。宇宙船でも建造するのか? 古谷良二の動画を見たか? 富士の樹海ダンジョンの二千階に、アナザーテラの富士の樹海ダンジョンの二千階と繋がる入り口があるんだ。彼の案内があっても、査察に行く連中は命がけだろうな。他国の圧力もあるから、このままアナザーテラの所有権は曖昧であり続けるだろうな」
「そのうち、日本も軍事力を増してアナザーテラの正式な領有を主張できるようになりますかね?」
「さあな、それは有権者に聞いてくれ」
「なんとも歯がゆいお話ですね……ええっ!」
「どうかしたのか?」
スマホを見ていた部下が、当然驚き混じりの大声をあげた。
何事だ?
「あの……。古谷良二が生配信をしていますよ」
「生配信って、ダンジョンに潜っているところだろう?」
彼は、たまに自分がダンジョンに潜る様子を生配信して、投げ銭を荒稼ぎしていた。
どういう機材を持っているのか、他の動画配信者はようやく高額な撮影機材を用いてダンジョン内の撮影ができるようになったばかり。
チャットの声を拾って、それに答えながら普通の冒険者では倒せないモンスターを倒すばかりでなく、高額の投げ銭をした人のリクエストどおりの方法でモンスターを倒したりもするので、大人気となっていた。
世界でも有名なセレブたちが高額の投げ銭をし、古谷良二がそのリクエストに応じてくれるのだ。
人気が出ないわけがないか。
「今、彼は月面にいますよ。それも、冒険者の装備のままで」
「いくらなんでも、それはあり得ないだろう」
いくら強い冒険者でも、宇宙服も着ないで宇宙空間の環境に耐えられるわけがない。
なにより、呼吸はどうするのだ。
「魔法でなんとかなるそうです。実際に月面から生中継しているので、もの凄い勢いで視聴回数が跳ね上がっていますよ。これから、月のダンジョンに挑むそうで」
「ははは……もう、笑うしかないな」
日本では出る杭は打たれると言うが、古谷良二だけは例外なんだろう。
もし彼が月にあるすべてのダンジョンを攻略した時、日本や世界はどう反応するのか。
大いに興味があるし、それをワクワクしながら見ている私は相当に意地が悪いのかも。
田中総理の次の総理大臣の座……。
彼を上手く引き込めばいけるかもしれないな。
その前にこの能天気な公設秘書をクビにして、 もっと現実主義の公設秘書に変えるべきだろうけど。
「月のダンジョンですが、空気は存在します。魔法で体を宇宙線から守り、酸素を作り出して呼吸する必要はありません。ですが……」
月のダンジョンの一階層に入ってみたが、そこには様々な色のスライムたちがいた。
早速戦ってみるが、重力が月面と同じなことを利用し、さらに三次元での戦いを挑んでくる。
慣れるまで俺でも戸惑ってしまった。
戦闘力で言うと、富士の樹海ダンジョンのReスライムくらいかな。
「低重力下での戦いに慣れる必要がありますね」
重力が六分の一なので、スライムたちはよく飛び跳ねてきて、空中戦にも慣れている。
低重力状態に慣れていない冒険者だと、思わぬ不覚を取る可能性が高い。
さらに、赤いスライムは火炎を、青いスライムは水流を、白いスライムは氷弾を、緑色のスライムは岩礫を、黄色いスライムは雷撃を放ってきた。
地球のモンスターに比べると、複数で戦うことにも慣れている。
これは、イザベラたちでも厳しいだろうな。
「ふう……。これは厳しいですね。かなりレベルを上げて挑まないと、簡単に死んでしまうでしょう」
スライムを倒すと、高品質の魔石、鉱石、そして『系統の元』が手に入った。
「『系統の元』は、魔法が使えない冒険者には朗報ですね。これで、魔法と同じ効果のあるアイテムが作れますから」
RPGで言うと、使うと魔法と同じ効果があるアイテムの材料になる。
これがあれば、魔法が使えない人でも魔法を使うことができるのだ。
魔石と系統の元から、火、水、土、風、雷など。
基本的には、この世にあるすべての魔法が発動するアイテムを作れるが、その質は製造者の魔法スキルと、魔道道具製作者の技術力に比例するのは言うまでもない。
「しばらく、この月のダンジョンの攻略と撮影に集中したいと思います」
その日は十階層まで攻略してから、竜騎兵で地球へと戻った。
大気圏突入で燃え尽きないか心配だったが、さすがは竜騎兵と『マジックバリアー』。
特に問題もなく自宅に戻ることができた。
「社長、おかえりなさい」
「プロト1、月のダンジョンで撮影した動画の編集を頼む」
「わかりました」
「さてと、また動画を撮るかな」
俺は、自宅マンションの一室でデジタルビデオカメラのスイッチを入れた。
『今日は軽く、月のダンジョン探索で十階層まで攻略しました。あっそうだ! 俺の動画をご覧のみなさん。月の石を持ち帰ったので、これを十名の方にプレゼントしたいと思います! 欲しい方は、今日の生配信のコメント欄に応募してください』
月の石を拾ってきたが、月にダンジョンができたせいで月から資源を採掘できなくなってしまったので、こうなるとただの記念品でしかない。
それでも、欲しい人はいると思うんだ。
抽選と発送は、プロト1に任せるとしよう。
続けて、裏島の屋敷に隣接する作業場に移動する。
そこでは多くのゴーレムたちが、アイテムや魔法道具の製造を二十四時間体制で行っていた。
特に傷を治す治療薬、毒、麻痺などを解除する状態異常回復薬、魔力回復薬の需要は増加する一方で、イワキ工業から依頼を受けて製造していた。
イワキ工業も大規模な製造工場を稼働させているが、全然需要を満たせないらしい。
今日本全国に、極力人を使わずにゴーレムたちだけで様々なものを製造する工場が建設されており、世界中の冒険者にダンジョンに潜るためのアイテムを供給する予定であった。
勿論他国にも魔法道具、魔法薬、アイテムを作れる冒険者は存在するが、高性能ゴーレムを用いて工場を動かしているのは、岩城理事長くらいだ。
俺は工房レベルがせいぜいというか、他の仕事もあるので、このくらいの規模が限界かな。
「月のスライムから手に入れた系統の元は、このままだと純度が低くて使えないので純度を高める必要があります。もう一つの材料である魔石ですが、品質と量をしっかりと見極めてから混ぜる量を決めないと、威力不足、逆に威力過多で自分がダメージを受けてしまうことも。『火炎弾』を作りました。威力を試してみましょう」
装備をつけてから『テレポート』で上野公園ダンジョンへと移動し、第十七階層にて、『ダンジョンコオロギ』に向け火炎弾をぶつけた。
ドッヂボール大の火炎弾がダンジョンコウロギに命中し、黒焦げになって絶命する。
「うーーーん、火炎弾は素材の歩留まりが悪いですね。次は『風刃』を試しましょう」
ダンジョンコウロギに『風刃』を使うと、真っ二つになって死んでしまった。
「素材になる、羽と後ろ足はほぼ無事ですね。と言った感じで、系統の元を使った『魔法の元シリーズ』を使えば、魔法が使えなくても格上のモンスターを倒せますよ。ただ、魔法の元シリーズは安くないので、これをモンスター討伐に使う場合、コスト計算をちゃんとやらないと黒字になりませんが」
サブチャンネルで、すべての系統魔法に対応した魔法の元シリーズを作成し、実際にモンスターに使った動画のおかげで、問い合わせが殺到した。
冒険者で魔法を使える人は少なく、魔法使い系のジョブを持つ人は奪い合いになるほどだ。
もし魔法使いがいなくても魔法が使えるアイテムがあれば、今よりも難易度の高いモンスター、つまり稼げるモンスターに挑めるようになる。
魔法の元シリーズのコストをちゃんと計算できる冒険者なら、今よりも稼げるようになるはず。
強いモンスターに挑めるので、レベルが上がりやすくなるという利点もあった。
「すげえ、買取所は大忙しだな」
「一回のみの使い捨てでも、魔法が使えるアイテムだからね。うちが取り扱えずに残念だけど、物が物だから仕方がないね」
魔法の元シリーズは、国が絡んでいる買取所でしか販売できないことになった。
なぜなら、こんなものをダンジョン以外の場所で使おうものなら、簡単にテロ事件を起こせるからだ。
購入は買取所のみで、身分証が必須。
ダンジョンに潜ったことがある人しか購入できなかった。
それでも、俺と、俺から系統の元を仕入れたイワキ工業しか作っていない魔法の元を求めて買取所の前に冒険者が列を成していた。
「しかし古谷君は、なんでも作れるんだね」
「まあ一通りは」
品質や量産性能では、岩城理事長の足元にも及ばないけど。
なぜなら俺の本業は勇者で、生産職ではないからだ。
「系統の元だけど、地球上のダンジョンでは手に入らないのかな?」
「難しいでしょうね」
魔法の元の材料で使い勝手がいいためか、レアドロップアイテム扱いで希に宝箱に入っているだけだったからだ。
「月のダンジョンの『属性スライム』の粘液。これも欲しいね。Reスライムの粘液よりも品質がいいから、高品質な魔法薬の添加物や、新型半導体の材料としても有望みたいだよ。今、うちと取引している企業が試作しているところだ」
「スライムの粘液が、半導体の材料ですか……」
「普通のスライムと富士の樹海ダンジョンのスライムの粘液では作れないみたいだけど。でも、他の素材としても有望なんだよ」
スライムの粘液が、絶縁体や様々な工業製品の素材にもなるらしい。
低級が普通のスライム、中級品がReスライムで、高級品が月のダンジョンの属性スライムの粘液か。
他にも、モンスターの素材が様々な工業製品の素材原料になるそうで、余計にその需要は増していると、岩城理事長が説明してくれた。
「人類はますますダンジョンに依存するようになるけど、人間は利便性を求める生き物だから仕方がないよね。このところ、ゴーレムの普及が進んでサービス業、製造業、事務職に従事している人たちの異業種転換が進んでいるけど、魔法の元を用いてモンスターを倒す冒険者パーティの一員って選択肢もあるみたいだね」
『冒険者が、俺たちの職を奪った!』と騒ぐ人たちは多いけど、世界の流れを見ていると、どのみちAIとロボットに職を奪われていたと思われ。
しかも世界中の国々は、もしダンジョンがなくなった時に備えてAIとロボットの研究を進めている。
どのみち技術的失業は避けられないので、日本はゴーレム導入で上がった利益から得た税金で、ロボットとAIの研究を国の機関で進め、企業に減税する制度で対応した。
他にも、他業種への職業訓練の促進と、失業手当の拡充。
介護や育児関連の業種に従事する人たちの賃金を上げ、そちらに労働者を誘導しようとしているようだ。
「世界は大きく変わりつつあるよ。これは、明治維新にも匹敵する変化かもね」
「みたいですね」
まあ、俺は自分のやりたいようにやるだけだ。
買取所の様子を見たので、今日も月のダンジョンに向かうとしよう。
他に行ける冒険者がいないってのは問題だけど、それはじきに解決……するのかな?
それよりも、今は月のダンジョン攻略と撮影、属性スライムの体液と系統の元だな。
「社長、竜騎兵で飛んでいる時もちゃんと撮影してくださいね。これも動画として更新すると視聴回数が稼げるので」
「お前……優秀だよな」
「度々バージョンアップしているので」
だがプロト1。
お前は古谷企画をどこに導くつもりなんだ?
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