第81話 とある冒険者の思い

「この調子で頑張れば、在学中に富士の樹海ダンジョンに挑めそうだな」


「そうね、油断は禁物だけど」


「さすがに、さすが古谷良二や、 イザベラさんたちみたいな世界トップ冒険者たちには敵わないけどな」


「あまり上を見すぎてもなぁ。それに俺たちも全員Aクラスじゃないか」




 僕の名前は、石井邦宏。

 冒険者高校の新二年生だ。

 冒険者高校に入学して入学してから一年間。

 僕はAクラスとなり、クラスメイトたちとパーティを組んで順調に強くなっていき、稼げるようになったので会社も設立した。

 現在の冒険者は、節税のために会社を作ることが多かった。

 近年、AIの普及で稼げなくなる人が出てくると言われている税理士たちも顧客確保に必死であり、全国のダンジョン特区周辺に事務所を移す税理士たちが増えているとニュースで見たな。

 僕も、上野公園ダンジョン近くに事務所がある税理士さんに仕事を頼んでいる。

 冒険者は稼げるので、彼らのお金目当ての銀行、証券会社なども、冒険者特区内に支店を次々とオープンさせていた。

 その造りは、冒険者特区の狭さもあって世間一般の人たちが考えるような、窓口のある銀行ではない。

 海外ではメジャーだという富裕層向けの銀行で、一日にお客さんが数名しか来店しないなんて珍しくもないそうだ。

 お客さんと一対一で面会して、資産をどう運用していくかを決めたりするから、ある一定以上の資産がないと口座が作れないと聞いた。

 僕たちは、特に問題もなく口座を持てたけど。

 冒険者特区が事実上の金融特区となっており、これを作った田中首相が『格差拡大の戦犯』だと、新聞やネットで批判されることも多い。

 僕にはそれが正しいのかどうかわからないけど、今の世の中が実際にこうなってしまっている以上、仕方がないと思うのだ。

 それに、確かに冒険者は稼げるけど、常に死と隣り合わせでもある。

 すでに冒険者高校の同級生で、亡くなってしまった人たちも出ているのだから。

 危険だけどお金になるが、体が資本なのでいつまでもできるわけではない。

 だからこその、資産運用とも言えるのだ。

 僕はそういうのが苦手なので、今は定期預金だけにしているけど。


「しかしかしまぁ、古谷良二ってのは凄いよな」


「ああ、世界一、宇宙一って感じだな」


 彼は、雲の上の人だ。

 冒険者にして、動画配信者にして、投資家でもある。

 他にも、最近世界中で普及しつつあるゴーレムたちを多数駆使して、様々な商売をしていしているのだから。

 しかも、彼が設立した合同会社古谷企画は、現在世界一資産を持つ会社となっていた。

 さらに先月。

 世界中が、あっと驚く動画を配信した。

 富士の樹海ダンジョンの二千階層と二千一階層を繋ぐ階段の間に、もう一つの地球『反地球』に繋がる双子ダンジョンへの入口を発見したのだ。

 そして彼は、双子ダンジョンの二千階層も突破して、ついに反地球へと到着した。

 すると、反地球にも鉱山や油田が存在せず、地球と同じ場所にダンジョンが存在したのだ。

 全部、彼が撮影した動画からのみの情報だけど。

 世界中の人たちがこの動画に驚き、早速多くの国が『日本が、反地球を独占する懸念』を表明したけど、 残念ながら現時点で反地球に辿り着けた人は古谷良二さんだけだ。

 世界中には、反地球をフェイクだと言う人たちも多い。

 彼は、次々と反地球の動画を撮影して動画投稿サイトに投稿して視聴数とインセンティブを荒稼ぎしているから、それ目当ての作り物だと思われたのだと思う。

 でも、彼がそんな嘘をつく意味がないような……。

 僕も、彼と同じ冒険者だからそう思うのかもしれないけど。

 ただ現時点で、日本政府ですら実際に確認していないものの所有権を、どうこう議論しても仕方がなかった。

 最近日本政府は、富士の樹海ダンジョンを世界中の冒険者たちに開放するようになった。

 世界中の国々は軍隊でダンジョン攻略ができない以上、反地球の実在証明を自国の冒険者たちに頼るしかない。

 だがさすがに、富士の樹海ダンジョンの二千階層を攻略できる冒険者は、最低でも十年は現れないと言われていた。

 その間にも彼は、反地球の各地を守る強大なモンスターを倒して『エリアコア』を手に入れる動画、反地球の詳細な様子を撮影した動画。

 そして、ついに反地球を守っていたすべてのエリアモンスターを討伐し、『テラコア』を手に入れた様子が公開された。

 そこで古谷良二さんは、『反地球はダンジョンのようなもので、すべてのエリアモンスターを倒し、このテラコアを手に入れた者が自由に差配できるようになる。テラコアの持ち主は、気に入らない人間や、生物、物を反地球から追い出すことができるようだ』という事実を世界中に公表した。

 これにより、ますます他国は反地球に手が出しにくくなってしまった。

 国連の所有に……などという意見も出たが、行けもしない場所を所有したところで利益を生み出すこともできず、世間には『反地球』なんてものは空想の産物で、『古谷良二が、動画の配信数を稼ぐために嘘をついたのだ!』という意見を信じる人たちも多くて、反地球をどうするかはまだ決まっていない。

 ちょうどその頃、警視庁のキャリア官僚が古谷良二さんの親戚と手を組んで、彼を爆殺しようとした事件が表ざたとなった。

 その前には、御堂とかいう大物政治家が変死したり、先日の事件にその大物政治家の息子も参加していたりと。

 マスコミなどで、『日本政府は古谷良二の抹殺を企んでいる。狙いは彼の資産だ!』なんて報道も出始めており、世界各国が古谷良二さんに自分たちの国への移住を勧めたりと。

 でも肝心の古谷さんは動じることなく、普段どおりの生活を送っていた。

 相手が大物政治家でも、国家でも。

 臆することなく、マイペースに活動できるのは凄いと思う。

 多くの人たちが、古谷さんから利益を得ようと接近を試みているけど、彼はほとんど決まった人としか会わない。

 僕も、この一年で何度か校内で見かけただけだからなぁ。

 冒険者高校って、ペーパー試験の成績がよければ登校義務すら撤廃されてしまったので、なかなか同級生に会えないのだ。


「いつか、富士の樹海ダンジョンの二千階層に到達したいものだ」


「そうだな。しかも、二千一階層以下の攻略だって残っているんだから」


「富士の樹海ダンジョンって、何階層まであるんだろうな?」


「そのうち、古谷良二が解明しそう」


「確かにそんな気がするな。じゃあ俺たちは、上野公園ダンジョンのクリアーを目指すかな」


「まずはそこからだよな」


 古谷さんは、富士の樹海ダンジョン、反地球にある双子ダンジョンの二千一階層以下と、反地球にあるダンジョンの攻略に集中すると動画で言っていた。

 何年かかるかわからないけど、僕たちのパーティも、いつか反地球には到達してみたいものだ。


「頑張ろうぜ」


「「「おうっ!」」」


 僕たちのパーティだって、古谷さんほどではないけど順調に強くなっている。

 焦らずに頑張って行こうと思う。

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