第80話 爆殺犯たち 

「ひゃひゃひゃ! 良二ざまあ!」


「惑星一個と、一生かかっても使い切れない莫大な資産! 俺たちは人生の勝ち組だぜ!」


「爆弾でバラバラか。下賤な成り上り者の末路にしては笑えるじゃないか 歴史ある五摂家、鷹司家の当主をバカにした罰だ! 地獄に落ちるがいい!」


「綾乃タン、僕が君をお嫁さんにしてあげるからねぇ。待っててねぇ」


「親父の跡を継いで政治家になり、親父がなれなかった総理大臣になってやるぜ。で、田中のような凡庸な男でも総理大臣が務まるんだ。俺が総理大臣になったら、日本は世界一の強国になるだろう。しかしまぁ、生意気な古谷良二のガキは木っ端微塵か。ざまあないぜ」


「……」



 まだ刑務所に入っていない、古谷良二のクズみたいな親戚たち。

 実家の借金を返済するため、鷹司綾乃と結婚しようとして失敗した二条実麻呂(にじょう さねまろ)。

 同じく、五摂家の筆頭となるという時代錯誤な目標のため、投資で作った借金を鷹司綾乃に補填させようとしたり、彼女に二条実麻呂に嫁ぐよう、上から目線で命令して拒否された鷹司文彦。

 そして、反社会勢力を総動員して古谷良二の暗殺を目論んだ大物政治家御堂のバカ息子。

 彼らを見ていると、日本の将来が心配になってくるほどだ。

 古谷良二の親戚たちはともかく、元華族と、大物政治家の跡取り息子がこのざまではな。

 日本人はここまで劣化したのかと。

 だが、バカの方が利用しやすいのも確かだ。


「(ふふっ、西条め。たまたま古谷良二と関われたくらいでいい気になりやがって! その美味しいポジションは俺のものだ)」


 俺が警視庁に入った時、西条よりも成績がよかったんだ。

 それが古谷良二のせいで……。

 警視庁の連中も、西条ばかり評価しやがって!

 ならば、西条の評価を形作っている古谷良二を殺してやろうと考え、無事に成功した。

 銃は高レベルの冒険者には効かないので、爆弾を用意した。

 過激派や爆弾マニア、武闘派暴力団から警視庁が押収したものを上手く手に入れられたし、俺ぐらいの天才になればトラップを作るのも簡単だった。


「誰がなにを言おうと、古谷良二の血縁者である俺たちが、古谷企画を牛耳るのが正しいんだよ」


「あいつの遺産っていくらかな? 楽しみだぜ」


「いくら冒険者として金を稼ぎ、社会で評価されているからいって、年上である俺たちに対する態度ってものがあるだろうに。札束くらい包んで、俺たちに挨拶するのが常識なんだ」


「そうだよな、俺たちは良二の親戚なんだから。俺たちを古谷企画の役員にして、年収百億円ぐらいで雇えっての」


「良二は間違っていかたら、俺たちが爆弾で木っ端微塵にしてやったんだ。これは社会正義なんだ!」


「鷹司家は、これで復活できるぞ!」


 それにしても、どいつもこいつも大バカばかりだな。

 古谷良二が、親戚づきあいをしないわけだ。

 俺でもしないだろうな。

 大体、年上を無条件で尊敬しなければいけないのであれば、まずはお前らが古木を尊敬してみろってんだ。


「古谷企画の資産があれば、鷹司家が五摂家筆頭になる日も近い」


「綾乃タぁーーーン! 結婚式はどこであげようかな?」


 こんな連中が、日本の旧華族なのか……。

 それは太平洋戦争で、日本はアメリカにボロ負けするよな。


「次の総理大臣は俺だな」


 そして、大物政治家の息子に生まれただけの無能。

 こんな連中でも、俺が成り上がるために必要な大切な駒だ。

 上手く利用していかなければ。


「刑務所にいる親戚たちにも権利がありますので、そこをどう無力化するかですよ」


「殺せばいいじゃないか。どうせ社会のクズなんだから」


「刑務官を買収して毒殺しようぜ」


「さすがに毒殺がバレるだろう。囚人に報酬を出して、事故に見せかけて殺せないかな?」


「あいつらがいると、分け前が減るからな」


「一秒でも早く始末したいな。法務大臣でも買収するか?」


「さすがにそれは……」


 クズは、自分がどれだけクズな発言をしているのか気がつかないから怖い。

 さすがの俺でも、刑務所に入っている囚人は手を出せないから、今は放置するしかない。


「鷹司家のツテで、いい弁護士を紹介しよう。古谷良二の遺書があったことにすればいいんだ。遺書も奴の筆跡で捏造すればいい。どうせ刑務所の中にいる連中はなにもできまい。それにいざとなれば、出所後に始末すればいいのだから」


「邪魔者は抹殺! 綾乃タンとの新婚旅行はどこに行こうかな?」


「親父と知り合いの反社連中がまだいるから、いざとなればそいつらに消させればいいさ」


 こいつらは簡単に言ってくれるな。

 だが、最後の手段としてその策を用いなければならないこともあるか。

 当然私が自ら手を汚すことはなく、こいつらにやらせればいい。

 そして私は、古谷企画の資産を利用して、この日本のすべてを支配するのだ。

 ざまあみろ!

 西条!


「俺たちの成功に乾杯!」


「乾杯! 年収百億円。いや、一千億円だ!」


「鷹司家の栄光のために!」


「綾乃タンとの新居は、高級タワーマンション……いや、豪邸がいいな。綾乃タン、僕が愛してあげるからね」


「総理大臣への第一歩だ!」


 基本的に能天気だからか、 全員あとがないくせに乾杯なんてしていやがる。

 どこまでも能天気な連中だが、このぐらいは付き合ってやるとするか……。


「明日から、古谷企画掌握のため……」


「警察だ! 全員を爆弾の所持と使用、古谷良二さんへの殺人未遂の罪で逮捕する!」


「「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」」」


 どうして我々のアジトがバレたのだ?

 ここは、私が念入りに探した秘密の物件なのに……。

 突然部屋に乱入してきた警察官たちによって、俺たちは拘束されてしまった。


「不当逮捕だぞ! それに俺は警察の人間だ! いきなり逮捕するなどおかしい!」


「……警察の人間? だからなんだ? バカな戯言を……。お前たちは、世界中に自らの罪を暴露したくせに」


「それはどういう?」


「見てみろ」


 警察官が、スマホである動画を見せてくれた。

 それは、古谷良二の動画サイトであり、なんと最新の動画に今の俺たちの密談の様子がすべて公開されていたのだ。


「爆発的に視聴回数が上がっているな。さて、これでもシラを切るのかな?」


「くっ……一体、いつの間に……」


 誰が盗撮なんて……。

 全然気がつかなかった。

 まさか、古谷良二が?


「しかしまぁ、キャリアのエリートさんがねぇ……無駄な抵抗はせず、大人しく捕まるんだな」


「(ノンキャリのくせに生意気な!)」


 その後、アジトから予備の高性能爆弾と高性能火薬、爆弾の部品なども押収され、俺たちは逮捕されてしまった。

 末端の警察官のくせに、エリートである俺をバカにしやがって!

 今回は大人しく捕まってやるが、出所したら必ず西条と古谷良二に仕返ししてやる。




『というわけでして、自宅兼本社のあるマンションが、現役キャリア警察官と親戚たち、そして旧華族の方々によって爆破されて大変でした。しかしまぁ、バカってのは斜め上の行動をするから凄いよね。そんな夢みたいな未来、本当に実現すると思っていたのかな? さてと、今日は取り調べされる人が多そうだからってわけじゃないけど、ポイズンボアの肉で『カツ丼』を作ります。今日のゲストは……』


『カツドン、作り方を習いたいです』


『美味しいよね、日本のカツドン。ボクもちょくちょく食べるよ』


『冒険者になってから、カロリーを気にせず食べられるようになったのはいいことだと思います』


『ジャパニーズ、カツドン。早く食べたいです』


 爆破事件のあと、俺は犯人たちの正体とそのアジトを『予言』で突き止め、彼らの密談を盗撮して、それを動画チャンネルに投降した。

 まさか主犯が、西条さんと同期の警察キャリアだったとは驚きだったが、他にも新しい親戚たちと、綾乃から金を取ろうとしたりストーカーをしていた旧華族たち……俺を刺した二条がどうして娑婆にいるのかが不思議だったが、そこは腐っても上級国民なのか……そして先日仕返しした御堂の息子までいたとは驚きだったけど、今は世間は大騒ぎだ。

 明日以降は、ワイドショーで大騒ぎになるかも。

 西条さんによると、盗撮した動画の使用許可がテレビ局から来ているそうだけど、今回に限っては無料で使用許可を出してあげた。

 各テレビ局はきっと大喜びで、テロに走った現職キャリア警察官の犯罪を報じるだろう。

 俺は古谷企画のHPで、顧問弁護士である佐藤先生と相談して当たり障りのない、かつ犯人たちを強く批判する文章をあげ、今はサブチャンネルの撮影をしていた。


 コラボ企画で、イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダと一緒にポイズンボアのカツ丼を作る。

 取り調べといえばカツ丼で、犯人たちに差し入れができるわけではないが、軽い皮肉を込めた動画というわけだ。


『リョウジ君、カツが分厚いけど、火はちゃんと通るのかい?』


『心配ない。分厚いトンカツを揚げる時には、低温で揚げ始めるのがコツなのさ』


 ホンファの疑問に答える俺だが、すべて事前の打ち合わせ通りである。


『油の温度を計りましょう。鍋にタップリの油を……これは、黄金米の糠を絞った米油を用いています。通販で購入できますよ。100度を超えたらパン粉をつけたカツを入れ、そのまま140度前後で油から出る泡が小さくなるまで三~四分揚げます。そのあとひっくり返して二分ほど。残り一分半で油の温度を160度まで上げて仕上げです』


 俺の説明を受けたイザベラがカツを揚げ始めるが、その腕前は手慣れたものだった。

 彼女も典型的なイギリス人なので料理はさほど得意ではなかったが、レベルアップで器用さが上がっており、さらに俺に手料理を作るようになったので料理の腕前が上達していた。


『揚げ終えて油を切ったカツをカットして、今日はカツ丼用の鍋がないのでフライパンで仕上げるわよ』


 続けて、リンダが揚がったカツをカットし、フライパンでタマネギ、割り下と共に煮てカツ丼を作り始めた。

 リンダも料理は全然だったが、今ではかなり上達している。


『カツに使う卵は、今日はデスチキンの卵だよ。ダンジョンでリョウジ君が手に入れました』


 ホンファも器用に大きなモンスターの卵を割り、かき混ぜてから煮込んだカツに投入していく。

 デスチキンは、上野公園ダンジョン二百四十六階層に生息するモンスターで、肉と卵がとても美味しい。


『リョウジさん、卵は半熟ですか? それとも、完全に固めてしまいますか?』


『半熟で』


『そういえば、ダンジョンで手に入れた卵を生で食べるとお腹を壊さないのでしょうか?』


『俺は、一度もお腹を壊したことないな。レベルアップの影響で病気にもなりにくいから絶対に大丈夫とは言えないけど、入手してすぐに食べればまずお腹は壊さないと思う』


 とはいえ絶対ではないので、ここで『安全に十分に配慮していますが、ダンジョンで入手した卵の生食は危険なのでやめてください』というテロップを入れるのを忘れなかった。

 あとでクレームが入ると面倒だからだ。

 ただ、卵を持つモンスターの卵はドロップ品扱いなので、どれも新鮮な状態で手に入る。

 ちゃんと保存してあれば、入手後一週間くらいは生食をしても安全であった。


『カツが煮えたね。これを丼によそったご飯の上にのせ、最後にミツバを散らして完成です』


『良二様、お味噌汁を作りましたよ』


 カツ丼につける味噌汁は、綾乃が作ってくれた。

 彼女の作る味噌汁は、これまた絶妙な味加減で美味しいのだ。

 正直なところ、亡くなった母よりも美味しいと思う。

 そして和食を作る綾乃はとても人気で、彼女は動画でもダンジョンの食材を用いて和食を作ることが多かった。


『……良二様、カツ丼の蓋が閉まりませんね』


『これはボリューミーで美味しそうだ』


 カツが分厚いカツ丼は蓋が閉まらないが、それが逆に映えるというものだ。


『じゃあ、みんなでいただきますか。そういえば、俺を爆殺しようとした犯人たちにカツ丼を差し入れしよとしたら、警察に断れてしまいました』


 などと皮肉を挟みつつ、五人で『ポイズンボアの分厚いカツ丼』を試食し始める。


『カツが分厚いのに、お肉が柔らかくてジューシーで美味しいですね』


『デスチキンの卵が半熟でトロトロなのもいいね。今度、ボクの番組で酢豚を作ろうかな? オツマミ用の燻製チャーシューって手もあるね』


『角煮とか、同じカツ丼でも、デミグラスカツ丼とか、新潟のタレカツ丼、名古屋の味噌カツ丼も作ってみたいです』


『今度、スペアリブをバーベキューで焼いて食べましょうよ。特性のタレは私が作るから』


 自分を爆殺しようとした犯人たちを盗撮した様子を動画で更新しておきながら、次の動画ではイザベラたちとコラボした動画を撮影する。

 我ながら意地が悪いと思うが、犯人たちに文句を言っても、彼らは資産がないので賠償請求もできない。

 それならダンジョンに潜るか、動画でも撮影していた方がマシってものだ。

 とはいえ、奴らは俺のマンションのドアを爆弾で吹き飛ばした。

 全額回収できなくても、破産するまで追い込んでやる。

 ああ、そうだ。

 西条さんの同期以外は、全員すでに破産していたんだった。


 しかしまぁ、なにも失う物がない『無敵の人』には困ったものだ。

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