第78話 アイスマンと反地球の所有者

「リョウジさん! 戦ってる姿が全然見えませんね……」


「ボクも駄目だ! なんて素早さなんだ! 大幅にレベルが上がったのに、リョウジ君に追いついた気がしないよ」


「私たち、頑張って反地球に到達したんですけどね……」


「リョウジが戦っているのは、 南極のエリアボス『アイスマン』だったわよね? こいつを倒せば、反地球の所有権は……」


「頑張って反地球に到達してみれば、すでに良二がすべての支配権を手に入れていたわけか」




 私たちは苦労に苦労を重ね、ようやく富士の樹海ダンジョンの二千階層に到達し、そこから双子ダンジョンを経て、反地球へと到達することができました。

 他の冒険者たちは、富士の樹海ダンジョンの百階層にも到達していないので、私たちはリョジさんを除けば、冒険者の世界トップランカーというわけです。

 ですが、そんな私たちをも圧倒する強さを誇るリョウジさんが、反地球を支配していた最後のエリアボスと戦っていました。


 氷の人型ゴーレム『アイスマン』はそれほど強そうに見えませんが、リョウジさんと激しい戦いを繰り広げています。

 あまりに両者の戦闘スピードが速すぎて、その様子が確認できないのには大きなショックを感じていました。


 私たちもかなり強くなったのですが……。


「まだまだですわね」


「それは事実だけど、俺たちって良二に追いつくことあるのかね?」


 剛さんの疑問はもっともですが、私たちはリョウジさんに置いていかれたくありませんから、出来る限りの努力を重ねるつもりです。

 反地球のダンジョンに住むモンスターたちはとても強いそうなので、さらにレベルを上げていくことにしましょう。


「リョウジ、大丈夫かな?」


「私は心配していませんよ」


「アヤノ、私もよ。リョウジは強いから」


 確かに戦っているところは見えませんけど、きっとリョウジさんが勝利するはずです。

 だって、彼が私たちおいて死ぬことなんてあり得ないのですから。


「今夜は勝利のお祝いですね」


「いいね。どこのお店にしようか? リョウジ君の好きな高級中華でいいかな」 


「プレゼントを用意しましょう」


「いいわね、それ」


「俺も参加するぜ」


 今は静かに、リョウジさんの勝利を待つことにしましょう。





「……ここじゃないのか……」


「……」


「ゴーレムは喋らないからなぁ。しかも全部氷でできているように見えるから、人工人格の位置がわからない」



 反地球で最後にエリアボスが残った南極において、俺は氷の人型ゴーレム『アイスマン』と死闘を繰り広げていた。

 こいつはただの氷人形なのだけど、とにかく強い。

 一撃食らうと、グレートドラゴンの比でないダメージを受けてしまうのだ。

必ず骨折したり、さっきは腕が千切れかけた。

 すぐに治癒魔法で治療しつつ、こちらもアイスマンに一撃入れるのだけど、残念ながら氷でできているのですぐに回復してしまう。

 こいつは、氷にカモフラージュしている人工人格を潰さないと駄目みたいだ。

 こちらは何度も負傷しながら、腕、脚、頭などに一撃入れていくが、残念なからその位置には人工人格がなかった。


「胴体か?」


 しかも、アイスマンは氷でできているくせに、なぜかとても防御力が高かった。

 高速で移動しながらの一撃だと、胴体の表面にヒビを入れることしかできないのだ。


「まったく……『終末の業火』!」


 一番威力の高い火魔法でアイスマンを包み込むが、完全には溶けない。

 なにやら、氷に秘密があるようだ。


「こうなれば!」


 このまま戦っていてもキリがないと感じた俺は、そのままアイスマンに掴みかかった。

 黒刀は使わず、拳でアイスマンのボディーを砕いていく。

 拳の皮膚が破れ、肉や骨まで露出して血が大量に吹き出るが、俺はそのままアイスマンの胴体を殴り続けた。

両手が痛くて仕方がないが、ここは我慢するしかない。

 ゲームのボス戦のような華麗な戦闘ではなく、 一秒でも早く敵の弱点を破壊する野蛮な殴り合いになってしまったが、ようは勝てばいいのだ。


「クソッ! このっ!」


「……」


 当然アイスマンからも殴られ、 顔は腫れ、血まみれになっていく。

 だが俺は、アイスマンの胴体を砕く作業をやめなかった。

 そしてついに、アイスマンの体を構成している氷が、ダイヤモンドダストのように砕け散ってしまった。

 どうやら、胴体内の人工人格の破壊に成功したようだ。


「やった……」


 アイスマンを倒すことに成功した俺は、そのまま疲労から南極の氷原の上に倒れ込んでしまった。

 だがその直後、イザベラと綾乃が治癒魔法をかけてくれたのですぐに完全回復した。


「顔が血まみれだったので心配しました」


「私もです」


「イザベラ、綾乃。心配かけてすまなかった。治癒魔法のおかげでちゃんと治ったから。それよりも……」


 体が粉々に砕け散ったアイスマンが倒れていた場所を探すと、そこには最後のエリアコアが残されていた。


「これで、反地球のすべてのエリアを解放したぞ」


 惑星一個の支配権?

 いや、ダンジョンコアと同じく、エリアコアを持つと反地球のどこにでも一瞬で移動できるようなるだけのはず。

 反地球のあちこちにあるダンジョンは、やはり最下層までクリアーすればダンジョンコアを入手でき、ダンジョン内を自由に移動できるになる。

 エリアコアは先着一名だったが、ダンジョンコアはボスが復活するので何人でも手に入れられるはずだ。

 反地球のダンジョンはまだ俺しかクリアーしていないから、その情報は確実ではないけれど。


「これで、エリアコアがすべて揃ったはず……。揃ったな」


 これまでに獲得したエリアコアをすべて取り出すと、突然合体し一個のオーブになってしまった。

 『鑑定』すると、『アースコア』と出ている。


「この反地球の支配者である証拠。アースコアを持つ者が、反地球においてはなによりも優先される」


 具体的には、アースコアの持ち主が不利益だと判断した人間、生物、物質のすべてを排除できるみたいだ。


「惑星一個の権利ですか。知られると色々と面倒かもしれません」


「なんだけど、残念ながら……」


「リョウジさん、どうかなさいましたか?」


「いつまでも隠しきれるものではないから、どのタイミングで公表すればいいのか。そこを考えないとな」


「タイミングですか」


「それを考えるのはまだ先の話だ。疲れたから、地球の自宅に戻るとしよう」


「そうですね。今日はお祝いをしますから」


「リョウジ君が行きたがっていた高級中華のお店、予約が取れたから」


「私たちが奢りますね」


「私たちも、反地球に辿り着けたお祝いよ」


「明日から反地球のダンジョンに潜るから、今夜は沢山食べておくか」


 無事、反地球の各地を占拠していたエリアボスの撃破に成功し、俺は反地球の所有者となった。

 惑星一個貰っても、今のところは使い道はないけど。

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