第73話 もう一つの地球

「……地形は日本列島そのものだが、完全に無人みたいだ。そして、ダンジョンの位置も同じ。双子ダンジョンは、この世界の富士の樹海ダンジョンというわけか……」





 メカドラゴンに乗ってアナザーテラの探索を開始したが、ここは人間が住んでいない地球そのものだった。

 異世界なのか、それとも……。


「『現在地位』……上野にある古谷企画の本社マンションと、およそ三億キロも離れているのか! つまりここは、別の惑星ということか?」


 俺は、向こうの世界で地図を作るスキルを覚えた。

 なぜなら、向こうの世界でそう簡単に地図など売っていなかったからだ。

 地図は軍事機密なので当然と言われればそれまでだが、実は俺を召喚した王国に地図を作る余裕がなかったという理由も存在した。

 しかも、向こうの世界の地図はあまり正確ではない。

 俺は異世界の勇者として地図を作るスキルを覚え、向こうの世界とダンジョンの地図を作ったのだ。

 その過程で俺は、一度でも行ったことがある場所と今立っている場所との距離を計れた。

 しかし三億キロとは……。

 あきらかに地球と違う惑星というわけだ。

 もし、裏島のような別次元の世界だったら、『現在位置』を使っても結果が出ない。

 ここは、他の惑星なのだ。


「とはいえ、数十、数百光年先の未知の惑星って訳でもない」


 三億キロはとてつもなく遠いけど、宇宙空間の広さに比べれば全然大したことないからだ。


「確か、地球と太陽の間が、およそ一億五千万キロだから、その倍だと……」


 アナザーテラは、太陽を挟んで地球と反対側にある……。


「反地球かぁ」


 前に、〇ラえもんで見た。

 SF物では定番の、もう一つの地球というわけか。

 本当にあった……いや、さすがに世界各国がこれまで反地球の存在に気がつかないわけがない。

 この世界にダンジョンが出現したのと同時に、どこか別の次元から飛ばされてきたのかも。

 いや、太陽を挟んで地球の反対側にあればわからないか。


「どちらにしても、探索を始めなければ……っ!」


 突然、ものすごい殺気を感じた。

 俺は慌てて、メカドラゴンを殺気を感じたポイントへと飛行させる。

 すると、琵琶湖の水辺に漆黒の鎧兜に身を包んだ武者が立っていた。


「……メカドラゴンよりも強い……」


 一瞬でそれがわかってしまうほど、まるで戦国武将のような鎧武者は強いのがわかった。

 顔はまったく見えずに真っ黒で、目の部分だけが赤く光っている。


「メカドラゴンみたいなものか……」


 この鎧武者は、メカドラゴンと同じく正確にはモンスターではない。

 生物ではなく、ゴーレムのように魔力で動く守護者というわけだ。


「なにを守っているのか……。どちらにしても、こいつは倒さないと駄目なようだな」


 俺は剣を構え、漆黒の刀を構える鎧武者と睨み合いになった。


「(駄目だ……。迂闊に攻撃を仕掛けたらやられる……)」


 別の世界で魔王を倒し、この世界に戻ってきたら最強になった気分でいたが、まだこんなに強い敵がいたとは……。

 残念ながら、現時点では俺と鎧武者の実力はほぼ拮抗している。

 だからこそ俺も鎧武者も、先に攻撃を仕掛けられなかった。

 先制攻撃が思わぬ隙となり、それが原因で負けてしまう可能性を考慮すると、俺も迂闊に攻撃するわけにはいかなかったのだ。

 俺も鎧武者も微動だにせず、お互いに見つめ合う。

 お互いの隙につけ入れるように。


「……」


 どれくらい両者で睨み合っただろうか?

 一時間ほど?

 俺はここで、大きなミスをしたことに気がついた。


「(早くケリをつけないと、俺が先に体力不足で負けるじゃないか」


 鎧武者は、魔力さえあれば疲労することなくずっと稼動することができる。

 一方の俺は、二~三日の徹夜くらいなら大丈夫だけど、それ以上勝負が長引けば負けてしまうだろう。


「(ならば、ここは覚悟を決めて先制攻撃を……いや、それこそが向こうの思う壺かもしれない」


 しばらく悩んでいると、あるアイデア思いついた。

 これはかなり危険を要する戦法だが、このままではいわゆる千日手のような状態となり、最終的には俺が負けてしまうかもしれない。


「(死ななければ勝ちだ……そして、向こうの攻撃方法を突きに誘導する必要がある)」


 向こうに刀で斬られてしまうと、こちらがダメージを受ける一方だからな。

 必ず、俺の体にその刀を突き刺してもらわなければ。

 俺は、鎧武者が刀を俺の体に突き入れるよう、わざと隙を見せた。


「(気がつかれるか? ゴーレムだから大丈夫だと思うが……)」


 人間の達人なら、俺の意図を読んでしまうかもしれない。

 だが相手は、あきらかに生気を感じないゴーレムであった。

 人間の機微までは読めないと判断し、賭けに出たけのだけど。


「……っ!」


 まずは、俺の計算どおりだ。

 鎧武者は、わざと隙を見せた俺の腹部に刀を突き入れた。

 微調整しながら距離を取り、袈裟斬りでは届かないが、刀を突き入れれば届くようにした甲斐があった。


「ぐふっ!」


 当然、急所である心臓や太い血管がある部分は避けたが、一部内臓にかなりのダメージがきた。

 治癒魔法で直せるので問題ない。

 それに……。


「抜けないだろう?」


「……」


 鎧武者は、俺の腹部に突き刺した刀が抜けなくなり、表情もないのに焦っているように見えた。

 俺がわざと先に攻撃を受けたのは、鎧武者の武器である刀を封じるためだったのだ。


「あばよ」


 やはり鎧武者は、魔力で動く高性能自立型ゴーレムによく似たモンスターであった。

 強くはあるが、唯一の武器である刀を手放す行動はできないようだ。

 業物で攻撃力のある武器を失うと、自分が不利になると判断する人工人格が装備されているのかもしれない。

 だが、その隙が命取りである。

 俺は、鎧武者の首を一撃で刎ね飛ばした。


「やったな。おっと、その前に……」


 自分の腹に刺さった漆黒の刀を引き抜いてから、急ぎ治癒魔法をかける。

 向こうの世界で大ダメージには慣れていたけど、やはり腹に刀が刺さると痛いものだ。

 体が完全に治癒してから、倒した鎧武者の死体というか残骸を確認する。

 兜を胴体と斬り離された鎧武者は、漆黒の鎧兜と刀。

 これは詳しく調べてみたが、これまで俺が装備していた魔王と倒した際の武器と防具よりも高性能であった。

 黒いので呪われている可能性を考えたが、それは大丈夫なようだ。

 鎧武者は、高性能なゴーレムに、これまた高性能な武器と防具を装備させたものだと判明する。

 胴体内に、これまで見たことがないほどの魔力量を秘めた魔石もある。

 そして頭部を見ると、ダンジョンコアに似た魔力の流れを感じる虹色に光る玉が入っていた。


「ダンジョンコアよりも、強い力を感じる。 これがこの鎧武者の人工人格を兼ねていたのか。『鑑定』してみよう」


 手に入れた虹色の玉を『鑑定』してみると、頭にこんな単語が思い浮かんできた。


「『反地球の孤状列島を支配、管理できるコア』、『エリアコア』か」


 孤状列島って、確かアリューシャン列島、千島列島、日本列島、琉球列島などを差していたはずだ。


「やはりここは反地球で、俺は日本を管理していたボスを倒したということになるのかな? もう少しよく調べてから確定しよう」


 なかなかに、楽しいことになってきたな。

 倒した鎧武者の残骸をすべて回収した俺は、再びメカドラゴンでの探索を再開した。


「やはり、無人だな」


 鎧武者が守っているエリアは、無人で未開拓の日本列島そのものであった。

 アリューシャン列島、千島列島、日本列島、琉球列島と、樺太に該当する地域も、鎧武者の担当エリアのようだ。


「要するに、もうひとつの地球の日本とその周辺の島を解放したという扱いかな?」


 試しに中国大陸に接近してみたところ、突然鎧武者などとは比べ物にならないほどの威圧感を感じた。

 『遠目』で内陸部を確認すると、とてつもなく巨大なドラゴンが俺の侵入に気がついたようだ。

 全長が一キロを超えていそうなドラゴンが、中国大陸のボスだと思われる。


「さすがは、大陸を守備するボスだな」


 鎧武者を倒した直後、俺は数えきれないほど体が軽くなる感覚に襲われた。

 魔王を超える強者を倒したので、俺のレベルが一斉に上がったのであろう。

 鎧武者に勝利して圧倒的に強くなったはずだが、それでもまだ巨大なドラゴンを相手にするのは早いと思わせてしまうほど、奴の威圧感は凄まじかった。


「中国大陸以外のボスと戦って、もっと強くなろう」


 その前に、この反地球の日本列島には、地球の日本列島と同じ位置にダンジョンが存在した。

 ここの探索も必要だが、どう考えてもこちらのダンジョンの方が攻略は難しいと思われる。


「自粛期間があるからいいか!」


 俺はもう一生働かなくても余裕で暮らせるからな。

 それよりも、反地球のすべてのエリアを支配するボスを倒してみよう。

  なんか楽しそうだしな。


「反地球のダンジョン探索と、余裕があったら動画の撮影もできるようにしよう」


 まずは、反地球の拠点となる日本列島の完全掌握を目指す。

 俺はたまに地球に戻って、古谷企画に関する雑務や岩城工業に頼まれたものを納品する業務をしながら、かなりの期間を反地球探索、攻略に費やすのであった。





「日本列島、ハワイ、台湾、南太平洋の島々、フィリピン、オーストラリアなどによく似たエリアの解放に成功し、そこにあったダンジョンの探索と、ダンジョンコアの入手。動画の撮影が終了したところで戻って来た。反省はしていない」


「別に反省しなくていいよ思うよ。それにしても、富士の樹海ダンジョンの二千階層と二千一階層の間の階段に、反地球へと繋がる扉があったなんてね。SFじゃないか」


「岩城理事長、反地球のダンジョンはいいですよ。霊石が手に入るダンジョンも複数ありますから」


「それは凄いね! 霊石は高性能ゴーレムを作る時に絶対必要だからね。不足してるなんてもんじゃないんだよ。本当、日本のマスコミってバカだよね。しょうもない理由で、君を自粛させちゃってさ」


「そういえば俺ってどうなるんですか? もう冒険者は引退してもいいですけど」


「それは勘弁だよ! 結局、君に対する批判は半年で完全消滅してしまってね。まあ海外からの批判が大きかったから」


「そうなんですか」




 自粛期間の半年。

 久々に、異世界の勇者に戻ったような気分で楽しかった。

 すでに一生かかっても使いきれない金を稼いだ俺は、反地球の完全掌握をゲームのように楽しんでいたからだ。

 俺に、壮大で立派な人生の目的なんてない。

 もう仕事をしなくても生きていけるのなら、あとは自分の好き勝手にやるだけだ。


「結局、彼らはなにをしたかったのでしょうか?」


「ボクは、実は日本人って社会主義が大好きなのかもって思っているんだ」


「日本には、『出る杭は打たれる』ということわざがありますから」


「リョウジに頼れなかったこの半年で、多くの冒険者たちがレベルを上げ、 各種ダンジョンから産出する産品の不足は少しマシなったけど、まだまだ事態は深刻なのよ。お祖父様が、田中総理に本気で怒ってたわよ」


「どうしようもない理由で良二を自粛させた結果、世界中から抗議が殺到したらしいからな。しかも、マスコミで良二の批判が出ると、結構な人たちがそれを支持したんだ。日本で貧富の差が進んでいるのは、冒険者、それも良二が荒稼ぎをしているからだって。で、他の冒険者たちで仲良く平等にとはいかなくてな。多くの一般人がマスコミに釣られて、ダンジョンの一階層でスライム狩りを始めたが、無茶をしてかなりの犠牲者が出たんだ」


「リョウジさんが自粛を始めた直後から、『冒険者特性がなくても、正しい方法でやればスライムを沢山狩れて、年収一千万なんて簡単に達成できる』と言い出す冒険者崩れが、次々と冒険者スクールや、オンラインサロンを始めまして……」


「ああ、なんとなくわかった」


 半年ぶりにみんなから今の日本の状況を聞くと、すでに俺の批判は完全になくなっているそうだ。

 『人の噂も七十五日』とは、よく言ったものだ。

 俺が冒険者活動を自粛したため、ダンジョンから得られる様々な品が高騰した。

 すると、冒険者特性を持っているが、あまり成果を出せていない人。

 冒険者特性はないが、一階層でスライムを狩った経験がある人。

 まったくの詐欺師たちが、冒険者の育成を始めたそうだ。

 しかも、かなりの受講料を取って。

 俺が冒険者活動自粛しているせいで、魔石の価格が大きく値上がりし、電気料金も大分上がってしまった。

 他の資源やモンスターの素材、ドロップアイテムなども同じだ。

 そのせいで、冒険者特性を持たず、集団でスライム狩りをしている人たちに特需が発生し、彼らの羽振りのよさが連日報道され、それとほぼ同時に、スライムの狩り方を教える人たちちが現れた。

 自分の実績と収入を前面に押し出し、『君たちでもできる! その方法を〇〇万円で教えます!』と、まるで情報商材屋の如く会員を集めたわけだ。

 その結果どうなったのかといえば、今、やはり作業用ゴーレムの普及で職を失った人たちに向けたプログラミングスクールに参加し始めた方々と同じような結果になった。

 成功する人も出たが、ダンジョンでの死亡事故が多発してしまったのだ。

 中にはダンジョンに潜ったことがないのに、スライムの狩り方をオンラインだけで教えて代金を支払わせるような詐欺師モドキも、多数出没したそうだ。


「こういうのって、投資講座と同じだよね、イザベラ」


「ええ、そんなに儲かるなら自分だけでやりますからね」


「だよねぇ。本当の投資って、金持ちが長期的にやるものだから」


「大金をかけて長期的に続ければ、まずマイナスになることはありませんからね」


 さすがは、イギリス貴族と大物華僑の娘。

 馬鹿正直に正論を言ってしまう。

 それを言われたら、証券会社は商売あがったりだからな。


「良二様は、どういうわけか、短期的な株の売買や、FX、仮想通貨取引、 先物などでも荒稼ぎしていますけど」


「ああ、それはプロト1に予算を提示して、少しでもマイナスになったら終了って言っただけだから」


 株の自動売買のようなものだと思う。

 プロト1の相場を見る目がどうして優れているのか?

 それは俺にもわからなかった。


「で、半年ではリョウジ君の穴を埋められなかったわけね。岩城工業は、ふんだんに在庫を抱えていたから大儲けしているけど、経営状態が一気に悪化してしまった企業もある。リョウジ君が自粛して、誰も得しなかった……スライムの狩り方講座を主催した人は大儲けでしょうけど。中には、訴えられている人もいるみたい」


「人間の業ですな」


「そうよねぇ」


 実際のところ、自粛したフリをしているだけで、実は魔石も資源も、モンスターの素材も、ドロップアイテムも。

 すべて大量に集めてあった。

 反地球で解放したエリアのダンジョンが、地球のダンジョンに比べると、レベル上げにも、魔石、資源、モンスター素材、ドロップアイテムにも最適だったのだ。

 その代わり、モンスターは富士の樹海ダンジョンにいるモンスターよりも圧倒的に強かったけど。

 俺でもレベル上げができたぐらいだからな。


「それもあって、リョウジの批判をどこのマスコミもやめてしまったのよね」


 なんとも締まらない結末である。

 平等のために俺の冒険者活動を自粛させたら、かえって世の中が混乱してしまったなんて……。


「というわけで、古谷君が復帰しても誰もなにも言わないんじゃないかな?」


「そうなんですか?」


 テレビのワイドショーや新聞、雑誌、ネットでまで、俺は格差の元凶として散々叩かれていたはずなんだけど……。


「格差以前に、このままだと日本が世界中から袋叩きにされるとこだったからね。マスコミは、もうなにも言わないよ。古谷君を熱心に批判していた連中は、みんなクビになったり冷や飯食いになったから」


「そうなんですか」


「フルヤアドバイスに席を置くマスコミOBたちが、ほとんど契約解除になっちゃったんだ。まあ当然だよね」


 フルヤアドバイスは、マスコミ工作のために元大手マスコミに勤めていただけの老人たちを高給で雇っているのだから。

 今回の騒動で、古巣の暴走を止められなかったところは全員交代。

 酷いところはOBの受け入れ停止。

 さすがに批判の根拠がないだろうと、俺を叩かなかった会社からのOB受け入れ開始や、受け入れ人員の増員など。

 東条さんが、正しく動いてくれたようだ。


「マスコミは謝罪するのでしょうか?」


「ないない。そのままなにもなかったことにするんだけど、そんなの彼らの常套手段だからね」


「日本のマスコミって、レベルが低いですわね」


「世界の報道自由度ランキング六十六位だから。先進国の中では圧倒的に駄目なんじゃないかな? しかも、それを報道しない自由を駆使してるぐらいだから。岩城工業が安くない広告費を支払ってるのは、足を引っ張られないためなんだよねぇ」


 イザベラが、煽るだけ煽って責任を取らない日本のマスコミに呆れていた。

 酷い話だが、これで通常通りというわけだ。


「もっとも、うちは全然困ってないけどね」


 注文されたものどころか、数年分ぐらいの在庫を岩城工業の在庫に放り込んでおいたからだ。

 代金は後払いだけど、岩城工業が支払わないわけがない。

 なにしろ、今世界でも三本の指に入るほどの大企業グループなのだから。


「あっ、でも。実は在庫が三ヵ月分くらいしかない素材があるから、少しピンチかも」


「そんなに、なにに使ったんですか?」


「他の企業から、どうしても売って欲しいって頼まれてねぇ。転売みたいな真似をしたくないんだけど……」


「こちらとしては仕入れ代金を最支払ってもらえば、別にどう使おうと勝手ですけどね」


「そんなわけで、目端の利く企業ほどしっかりと在庫を確保していたという話さ。海外の企業にも結構販売したからね」


 俺が自粛すると宣言した直後は大満足していたマスコミ連中だが、残念ながら裏から魔石、資源、モンスターの素材、食材などを、岩城工業経由で世界中の企業に売却していたという事実を掴めなかったのか。


「マスコミなのに、取材能力が微妙なんだなぁ」


「だから、世界の報道自由度ランキングが六十六位なんだよ」


「じゃあ、通常業務に戻りまぁーーーす」


 というわけで、俺はすべての業務を再開した。

 富士の樹海ダンジョン、双子ダンジョン、反地球のダンジョンで手に入れたものを岩城工業他、世界中の企業に卸す。

 すでに、冒険者協会の買取所は一切利用しなくなっていた。

 今回の件で、買取所の職員たちが所属している労働組合が俺を批判する方に回ったので、これからは一切ダンジョンで得た品を持ち込まないことにしたのだだ。

 とはいえ、岩城工業がダンジョンで出た魔石、鉱石、素材、アイテムの買取と、取引先への配送を請け負う新会社を設立しており、さらにこちらに頼んだ方が冒険者も実入りが多かったので、冒険者で買取所を利用している人は減りつつあった。

 ネットでは、『ダンジョンで得たものを買取所で売る? 情弱乙!』、などとバカにされるようになっていたのだ。

 そんなわけで一気に大赤字に転落した買取所は、国会において民営化が議論されるようになっていた。


 そして、自粛中は更新を停止していた冒険者関連の動画を再開した。

 撮影と編集は普通にしていたので、あとは更新するだけだったけど。

 新しく、富士の樹海ダンジョンを攻略している映像や、ダンジョンの詳細な紹介などが世界中に公開され、再び荒稼ぎするようになった。


「最近は、楽なものだな」


 撮影は、ドローン型ゴーレムが。

 動画の編集と動画サイトへと投稿は、プロト1たちがやってくれるからだ。


「反地球の探索もしつつ、効率よく色々な仕事をこなしていこう」


 このところ、裏島での農業、畜産、養殖、魔法薬の製造など。

 大量のゴーレムたちを用いて行い、これを岩城工業に卸す事業も急拡大していた。

 結局のところ、俺が強いモンスターを倒してレベルを上げれば上げるほど、裏島は広がり、製造、維持できるゴーレムの数が増えていく。

 だから俺は、反地球で強い敵を求めているのかもしれない。


「反地球……行ってみたいですわね」


「二千階層……頑張らないとなぁ」


「そうですね。頑張りませんと」


「反地球……今のところリョウジしか行けないのでは、お祖父様に話しても意味ないでしょうね。それは置いといて。新天地、アメリカ人の血が騒ぐわ」


「当面も目標は、富士の樹海ダンジョン百階層突破である俺たちだから、時間がかかりそうだな。だが、必ず辿り着けるはずだ!」


 イザベラたちも、さらにやる気になったようだ。


「私は、イワキ工業をさらに成長させるのが目標さ」


「その先になにがあるのですか?」


「さあね? 私が死んだあと、子供や孫が潰してしまうかもしれないしね。でも人間ってそんなものじゃないかな? 古谷君だって、反地球でさらにとんでもない強さのモンスターたちと戦ったんでしょう? 今の君の資産額なら、命をかけてそんなモンスターと戦わなくても遊んで暮らせるじゃない。人間は、一円にもならないネットゲームのランキングで一位を取るために努力を重ねたりする。それと同じことだと思うよ」


「納得のいく説明だ。さすがは、岩城理事長」


「今、なるべく従業員を増やさないで次々と新しい業種に参入しているからね」


 まあぶっちゃけ、ゴーレムに任せれば問題ない仕事が多いからな。

 俺の古谷企画なんて、いまだに社員は俺一人なんだから。


「この世界にダンジョンが出現してから、世界は大きく変わりつつある。残念ながらそれを止めることは誰にもできないのさ」


 もうなるようにしかならないのであれば、思わぬアクデントで異世界の勇者をやらされた俺が、その力を用いて好き勝手やってみればいいというわけか。


「それもそうだ。反地球に行こうっと」


「好きだね、古谷君も」


 まだ倒していないエリアボスに、ダンジョンも沢山ある。

 一日でも早く、反地球の掌握を進めようではないか。

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