第70話 ゲームとリアル

「それはちょっと、性質が悪いかもしれませんね」


「そうかな?」


「ええ、彼らは確信犯でやっていますから」



 裏島にある自宅で夕食を終えたあと、イザベラたちに今日の出来事を相談すると、彼女たちは住谷たちがかなり悪質な確信犯であると断定した。


「そうだね。ゲームと現実のダンジョンがまるで違うなんてことは、子供にでもわかる話だからね。 それでも無理を押し通そうとしているってことは、彼らがよからぬことを企んでいるという証拠さ。注意した方がいいよ」


 ホンファも住谷たちの悪質さに注意するよう、俺に警告した。


「不平等だとか、レベルが低い冒険者にチャンスをという時点で怪しいです。実力があってまともの冒険者なら、絶対にそんなことは言いませんから」


「良二、そういうのをなんていうか知っているか? 寄生プレイって言うんだよ」


「アメリカにも、そういうおかしな物言いをする人がいるわね。大抵が、自分が利益を得ようと思って言うんだけど」


 ホンファ、綾乃、剛、リンダも、住谷と彼にくっついている自称マスコミ人たちに呆れていた。


「彼らはなにがしたいのでしょうか?」


「さあな? あの手の輩の相手をまともにしたら時間の無駄だ。それよりも、富士の樹海ダンジョンの二千階を目指したいなぁ」


「二千階って……すげえ話だな。そういえば良二は、動画配信で新しい試みをするんだろう?」


「ああ、適当なダンジョンの深い階層に潜ってライブ中継だ」


 このところ、岩谷工業製の魔力で動くビデオカメラを購入して、ダンジョン攻略の様子をライブ配信する冒険者が出始めていた。

 スライムを倒したり、宝箱を開けるくらいなのだが、投げ銭がよく集まるのだそうだ。

 まだそれほどレベルが高くない冒険者や、冒険者特性がなくてスライム狩りをしている人たちが、収入の足しにしていると聞いた。

 中には、 動画配信のインセンティブと、投げ銭が主な収入源になってしまった配信者も出てきたようだけど。


「俺たちもドローン型ゴーレムに動画撮影をさせ、編集させて投稿しているけど、結構危ないんだよな、あれ」


「そうだな」


 ドローン型ゴーレムを狙うモンスターもかなり多いわけで、それを守りながら戦うのは相当な力量が要求された。

 なので、常に最深部を探索し続けているなんか冒険者パーティで動画撮影をしているところは意外と少なかった。

 本業の方が儲かるからというのもあるし、 ダンジョン探索に集中できないという理由もあったからだ。

 動画撮影中に亡くなる冒険者もチラホラと出ており、俺だって自分なりに注意しながらやっているのだから。


「明日はパーティーで潜って、明後日は一人で富士の樹海ダンジョンのトライアルをしようかな」


 夕食が終わり、剛は婚約者の元に戻った。

 俺はリンダと熱い夜を過ごし、そして翌日、翌々日と、富士の樹海ダンジョンの攻略を予定どおり始めた。


「今日は、思ったよりも記録を更新できてよかったです」


「イザベラたちは、今では世界トップクラスの冒険者だからな」


 彼女たちは才能があるし、必要な努力を怠らない。

 俺の教えの価値を正確に判断し、教えを請うのに報酬を惜しまない。

 これが一流の冒険者なのだ。

 住谷と奴にくっついていたマスコミゴロたちのような、『不平等だ!』とか、『才能はあるけどレベルが低い冒険者たちにチャンスを!』なんてほざいている時点で大分ズレているのだ。

 本当に才能はある奴は、定期的にダンジョンに潜ってレベルを上げ、安全にダンジョンを踏破できるようにちゃんと情報を集める。

 安易なレベリングなんて決して求めないし、下手にそんなことしたら簡単に死んでしまうことを理解しているからだ。


「良二様、例の住谷さんたちの件ですが……」


「綾乃が知っているとは驚きだ」


「鷹司家は腐っても元公家なので、それなりの情報もがあるのです。彼らは、セコイ仲介業で稼ぐつもりみたいですね」


 マスコミゴロたちは、自分たちの言うこと聞かなかったら俺の悪行を雑誌に書くぞと脅し、住谷とのレベリングを実現する。

 一度成功してしまえば、あとは彼らが紹介する冒険者たちともレベリングさせられる計画だそうだ。


「彼らは一応大手新聞社の所属ですか、廃刊寸前の雑誌編集部にいて、さらにこのところ新聞は売れませんからね。リストラ候補だそうです」


「なるほど」


 肩書きを利用できる大手新聞社の正社員職をクビになる前に、俺とのレベリングを仲介できる状態にしたいわけか。


「俺とレベリングできるけど、住谷以外の冒険者たちからは高い金を取るんだろうな」


「ええ、彼らは素行が悪くて有名だそうですから」


「よくクビににならないな」


「父親が、スポンサー企業の創業者や社長、会長なのです」


「ふうん。父親の会社に入らずに、新聞社に入ったのか」


「自分の会社に入れたら確実にやらかすと思われているからこそ、広告費を出している大手新聞社に入社させたようです。もっともその大手新聞社の方でも、使えないから持て余している状態のようですが……ああ、それと」


「それと?」


「彼らの父親の会社。すべて、岩谷工業との取引がなければ倒産待ったなしです」


「理事長に伝えておくか」


「それで十分でしょう」


 そして翌日も、俺は富士の樹海ダンジョンのレコードを記録することに成功した。

 できる限り動画撮影もしたけど、こちらはそんなに無理をしなくてもいいかな。

 いまだ、富士の樹海ダンジョンの内部を撮影した動画を配信しているのは、世界で俺ただ一人だからだ。


「さあて、古谷良二です。今日は、上野公園ダンジョンの三百七十五階層から生中継を行います! よろしければ、俺の食事、ジュース代をよろしく」


 さて、どのくらい投げ銭が集まるものなのか。

 俺は装備で身を固め、上野公園ダンジョンの三百七十五階層から攻略を開始した。

 俺の上空には、三台のドローン型ゴーレムに搭載した魔力ビデオカメラが撮影を開始しており、これをモンスターたちから守りつつ、ダンジョン攻略の様子を生配信するのだ。


「おっと! モンスターの出現だ!」


 俺は、三百七十五階層に出現するモンスター『マジックホース』の攻撃を回避し、ミスリルソードによる一撃で切り捨てた。


「倒したモンスターは『収納』しておきます」


 ライブ配信の様子は確認できないので、モンスターを倒した直後にどれだけ投げ銭が入ったのか気になるが、それはあとのお楽しみだ。


「ここにある宝箱ですが、このように罠が仕掛けてあります」


 ダンジョン内で見つけた宝箱に仕掛けてある罠は、鍵穴付近に手を差し出すと、毒針が飛び出してくるタイプのものであった。

 わざと毒針を受け、手に刺さった様子をカメラに撮影させる。


「普通の冒険者なら猛毒に侵されますが、俺の場合、『毒消し』の魔法ですぐに解毒するので問題ないです。言うまでもないですが、真似はしないでください。罠の解除方法は次の宝箱で解説します。この宝箱には、鋼の剣が入っていました。残念ですがハズレですね」


 ダンジョン内を探索しながらライブ配信は続く。

 モンスターを倒し、宝箱を見つけ、罠を解除し、三百七十五階層をクリアーして、三百七十六階層へと降りていく。

 今回は、二時間ほどのライブ配信となった。

 急ぎ自宅兼事務所であるマンションの一室に戻ると、プロト1が黙々と仕事をしていた。


「プロト1、ライブ配信はどうだった?」


「大好評です。投げ銭も沢山集まりましたよ」


「それはよかった」


 今さらお金を稼いでもという意見もあるだろうが、楽しくてつい色々とやってしまうのだ。


「社長、これからも週に一回ぐらいはやりましょう。ライブ配信」


「まあいいけど。そのうち、低階層でも富士の樹海ダンジョンでライブ配信ができたらいいな」


「それは人気が出そうですね」


「ところで、ななにをしているんだ?」


「色々と動画配信チャンネルを作って、様々な動画配信サイトに投稿しています」


 プロト1は、裏島の屋敷内でも多数作業しているゴーレムたちをコントロールし、動画の撮影、編集、投稿、インセンティブ収入の管理、著作権違反者への対応など。

俺がなにも言わなくても、様々な動画を投稿して荒稼ぎしていた。

 俺が提供した動画や素材のみならず、CGやアニメを制作したり、台詞やナレーションの声を人工合成して入れたりと。

 もはや俺の冒険者稼業となんら関係のない動画をゴーレムたちに多数制作させており、古谷企画の持つ動画チャンネルは莫大なものとなっていた。

 人気があって真似できそうな動画はすぐに作って配信してしまうので、古谷企画だけ、AIやロボット時代の先取りというやつだな。


「損失が出なければいいけど」


 動画制作と投稿のコストが、 プロト1以下のゴーレムたちの維持、修理費用のみで、今では電気代も自家発電しており、実はパソコン代と通信費ぐらいなので、損失が出るなどあり得ないのだけど。


「お任せください。社長」


「任せる」


 他にも、株とか FX とかやっているみたいだけど、損失は出ていないから問題ないのか。

 俺はそんなことをする暇があったら、ダンジョンに潜るからな。

 大雑把に会社の数字は見るけど、ダンジョンに潜る以外はすべてプロト1にお任せだ。


「明日はお休みか」


 このところ、二日ダンジョンに潜って一日休みを繰り返している。

 冒険者高校は筆記試験で赤点さえ取らなければ合格であり、このところ月に一二~三回しか行っていない。

 結局、週に一度の登校義務は稼ぐ冒険者の足を引っ張りかねないと、完全に廃止になってしまったのだ。

 そもそもレベルが上がる冒険者は、レベルに応じて知力も上がるから、毎日学校で授業を受ける必要がないという。

 日本政府も、冒険者高校の生徒たちが真面目に高校の授業を受けた結果、ダンジョンからの成果が減ると問題なので黙認していた。




「映画……、なにを見ようかな?」


「恋愛物一択ですわ!」


「アクション物にしようよ」


「ここは、話題のアニメを」


「今、サメパニック映画の最新作が上映されているのよ!」


 この日はイザベラたちもお休みだったので一緒に映画を見に来たのだが、こうも好みが分かれているとは……。

 イザベラは恋愛物。

 ホンファはアクション物。

 綾乃は、話題のアニメ作品を。

 そしてリンダは……サメかぁ……。

 なお、剛は婚約者とデートだそうなので誘わなかった。

 サメの映画は見ていないと思う。


「ジャンケンで決める?」


「それでいいですわ。恋愛物!」


「アクション!」


「この作品はいいアニメです!」


「サメよ! サメ映画は最高に面白いのよ!」


 四人でジャンケンをした結果、みんなで見ることになった映画は……。




「いちゃつくカップルは、必ずサメに食べられますわね」


「サメについて説明する博士とかも、よく食べられるよね」


「主人公は長時間泳いでも、サメに食べられないのは決まりみたいなものですね」


「みんな、意外とサメ映画見てるの?」


 ジャンケンにはリンダが勝ち、みんなでサメ映画を見たけど、なんだかんだ言いながらも結構楽しみながら見ていた。

 サメかぁ……。

 ダンジョンには海の階層があるものもあり、本当にこの映画のように食べられてしまうんだよなぁ。

 フカヒレが採れるのはいいけど。


「楽しかった。お昼はなにを食べようか?」


映画が終わって、みんなで映画館を出たところで、思わぬ人物に話しかけられてしまった。


「古谷ぁーーー!」


「住谷さん、ちっす」


 そこには。俺がレベリングを断った元ナンバーワンプロゲームプレイヤーである住谷が、目を血走らせながら俺たちに声をかけてきたのだ。


「貴様! 卑怯な手を!」


「卑怯? あれ? お取り巻きの自称マスコミ関係者の方々は?」


「ふざけるな! お前が手を回して、新聞社から追い出したんじゃないか!」


「やっぱりクビになったのか。だろうな」


 あのプライドだけは異常に高そうな、いわゆる意識高い系のマスコミゴロたちは、スポンサー企業のコネで大手新聞社に就職していた。

 当然仕事ができるわけがなく、それならサボリーマン生活を楽しんでいればいいのに、プロゲームプレイヤーの住谷を利用して俺から利益を引っ張り出そうとするから。

 なにが不平等だ。

 あの手の手合いが、よく口にするセリフだ。

 そして、自分たちの要求を飲まないと報道すると言って脅してくる。

 現在、あいつらの父親の会社は、岩城工業がなければ苦しい商売をしなければいけなくなる。

 俺が岩城理事長に連中のことを囁けば、すぐに対応して当然だろう。


「あいつら! 自分の父親の会社に逃げやがって!」


 どうせどこに就職しても、役に立たないところが害悪なんだ。

 自分の父親の会社で、穀潰しでもしていた方がマシだな。

 そしてこの住谷は、見事階段を外されてしまったわけだ。


「ゲームの世界に戻ったら?」


 レベル12でダンジョンから逃げ出した住谷が、一流の冒険者になるのは難しい。

 だが、ゲームの世界なら普通のサラリーマンよりよほど稼げるではないか。


「ゲームの世界なら世界一なんだろう? そこで活躍すればいいだけの話だ」


「そうですわね。現実のダンジョンとゲームではまるで違うのですから。リョウジさんとレベリングをしたところでどうにかなるお話でお話ではありません」


「リョウジ君が世界中の冒険者を相手にレベリングをしていることは周知の事実だけど、その報酬は非常に高額だよ。でも、依頼者が納得して払っている。ボクたちだってそうだ。 そして大半の冒険者たちは、支払った金額以上の成果を出している」


「そんな良二様に、無料でレベリングをしてもらえるわけがないではないですか」


「そんな甘い考えじゃ、生き残れないわよ」


 イザベラたちからも、散々その見込みの甘さを指摘され、住谷はがっくりと項垂れてしまった。


「もうゲームの世界では、一番になれないんだ……」


「どうして?」


「レベル20で魔法使いの外崎が……」


「ああっ!」


 住谷がゲームで世界一となったあと、マスコミゴロたちと組んでしょうもないことを企んでいる間に、冒険者稼業から足を洗って逆にゲームの世界に参入した人が出たのか。


「こういうのって、すぐ真似されるようなぁ」


 レベル20では、冒険者としては全然大したことがない。

 だが、その能力は普通の人よりも遥かに上だ。

 特に動体視力とか、操作スピードなどは冒険者特性を持たない一般人では歯が立たないだろう。


「良二様、これは多分」


「だろうなぁ」


「なんだ? 古谷?」


 なにが古谷だ。

 上から目線で人を呼び捨てにしやがって。

 まあいい。

 お前に残酷な真実を教えてやる。


「冒険者特性を持つ人が、Eスポーツや、普通のスポーツに参入したら、とんでもない不平等が発生してしまう。だから……」


 間違いなく近いうちに、冒険者特性を持つ者たちと、持たない者たちとの間で、ありとあらゆるすスポーツや競技の分離が行われるだろう。

 そうしないと、色々と不平等が発生してしまうからだ。


「で、レベル12の住谷さんでは、新しいルールでトップを狙うのが難しくなるのですよ」


 多分、冒険者と兼業なんてEスポーツプレイヤーやスポーツ選手が次々と出てくるだろう。

 そうなれば、レベル12ではなぁ……。


「どっちにしても、ダンジョンでレベルを上げないと将来が難しくなりますねぇ」


「だから僕とレベリングを!」


「今、レベリング込みのコーチング料は、一日十億円ですよ」


「なっ! 十億円! いくらなんでも高すぎるだろ!」


 これでも、完全なボランティアなんだけどなぁ。

 俺が丸一日ダンジョンに潜ったらいくら稼げるか。

 それを知らないから、十億円が高いなんて言うのだ。


「十億円でも依頼が殺到していて、今半年待ちなんですけど」


「香港や中国本土には、十倍出すから優先してほしいって言っている人も沢山いるよ」


「良二様がレベリング業もしているのは、一日でも早く世界中の冒険者たちのレベルを底上げして、自分の負担を少しでも減らすためなのですから」


「そもそも、レベル12がレベリングして欲しいだなんて。リョウジのレベリングの予約待ちをしている冒険者たちが聞いたら怒るわよ。みんな、レベル200とか300の人が自分で稼いだお金で頼んでいるのだから」


「金! 金! 金! お前たちは世界の格差を広げる害虫どもだ!」


 出たなぁ。

 このセリフ。

 きっと、あのマスコミゴロたちの受け売りなんだろうなぁ。

 彼ら自身が大手新聞社に親のコネで入社した矛盾に満ちた存在なんだけど、そこにツッコミを入れる人は少ない。


「俺たちを批判する人かよく言うセリフで、もう秋田県」


「リョウジ君、そのダジャレ。日本人にしか通用しないよ」


「そうか」


 でも、ホンファは理解しているじゃないか。

 俺が高額で、世界中の優れた冒険者たちからレベリングの依頼を受けていることを批判するマスコミは多かった。

 『日本人を優先しろ! お前は売国奴だ!』という勢力と、『すでに稼いでいる優れた冒険者たちばかりとレベリングをせず、前途あるレベルが低い冒険者たちに手を差し伸べなない古谷良二は、資本家の犬だ!』という勢力が、左右から俺を挟み潰そうとするのだ。

 もっと酷いのは、冒険者特性がない経済的に困窮している人たちを連れてダンジョンに潜れと言う人たちだろう。

 冒険者特性がない人たちとレベリングをしても意味がないどころか、俺が彼らを守りながら闘わなければならないなんて、どう考えても非効率なのに、彼らはそれが正義で正しいと言うのだ。


「ある一定のライン以上まで強くなった冒険者は、もっと成果を出せるようになる。だからだ」


 化石燃料やウランが枯渇し、魔石か自然再生エネルギーしかエネルギー源がなくなってしまった以上、今は多くの成果を出せる冒険者たちを優先する。

 世界的にそんな流れなんだが、奇妙な平等論を押し付けてきて、それが正義だと譲らない人たちがいるので困ってしまう。


「今、あなたをレベリングしたところで、 獲得できる魔石のエネルギー量がそれほど増えるわけではないですからね」


 ここで重要なのは、魔石の量ではなく、エネルギー量なのだ。

 スライム一億匹分の魔石よりも、深い階層に住むドラゴンの魔石の方がエネルギー量が多い。

 だから俺は、すでに自分の努力で一流の域に達した冒険者のみをレベリングしている。

 彼らが見事壁を突破してくれれば、世界中のエネルギー状況がよくなるのだから。


「そういうことです。なにか反論は?」


「僕は才能があるんだ! 確かに一度ゲームの世界に逃げたけど、冒険者に戻れば……」


「それなら、今すぐにでもレベルを上げて、お金を貯めるべきではないですか? レベル200を超えたら、十億円くらい余裕で出せますよ」


 出せるからこそ、最近世界中で冒険者が格差の原因だと批判される原因にもなっているのだけど。


「もういいですか? 昼飯どうしようかな?」


「中華料理にしようよ」


「いいね、ホンファのお勧めのお店に案内してよ」


「いいよ」


「……僕は、天才なんだ……」


 本当に天才なら、ゲームの世界に逃げないと思うんだよなぁ。

 俺たちは五人で、高級中華料理の昼食を堪能した。

 そして夕方になるまでには、住谷のことなど完全に忘れてしまったのだけど……。




「はははっ、今に見ていろ! 僕が本気を出せば……」


 古谷良二の奴。

 天才であるこの僕を見下しやがって!

 あの時にレベリングをしなかったことを、必ず後悔させてやる。

 レベル200くらい、簡単に到達してみせるさ。

 一階層のスライムなんて、冒険者特性を持たないクズたちでも倒せるモンスターなのでパスだ。

 二階層のゴブリンも、最近動画で古谷良二が冒険者特性がなくても倒せる装備、方法を説明していたから、冒険者特性を持たないクズの集団が増えたな。

 こんなクズたちと僕とは、基本的に人間のレベルが違うのだ。

 こんな場所では戦えない。


「久しぶりダンジョンだけど、僕はレベル12だからな。五階層くらい余裕だろう」


 僕は希望を胸に、三階層まで降りて行こうとした。

 ところが、急に足に痛みを感じてその場に倒れ込んでしまった。


「急になんだ? ゴブリンか!」


 なんと、ゴブリンの奴が後ろから僕の足のアキレス腱を攻撃してきたのだ。

 錆びたナイフでアキレス腱を切り裂かれてしまった僕は、その場に倒れて伏してしまった。


「ひいっ! このっ! このっ! 段々と集まってきた!」


 ゴブリンは一体一体は弱いが、非常に狡猾で、すぐに仲間を呼び寄せる。

 古谷良二の動画でも、特に冒険者特性を持たない人はパーティで討伐することを推奨していた。

 僕は天才だし、前にパーティを組んでいた連中は、天才である僕の足を引っ張ろうとしたバカどもだ。

 組んだところで足を引っ張るだけだし、ゴブリンなんて天才である僕にかかれば一人で……と思ったのだけど……。


「僕は天才なんだ! ゴブリンなんかに!」


 たとえアキレス腱を斬られて立ち上がれなくても、ゴブリンなんて簡単に剣で斬り捨てられる……。


「駄目だ! 次々とゴブリンが!」


 最初は僕に攻撃しようとするゴブリンすべてに対応できていたけど、徐々に体のあちこちを錆びたナイフや剣で斬られていき、次第に増えていく斬り傷からの出血のせいで、 段々と意識が……。


「僕は、古谷良二よりも天才なんだ……」


 こんなところで、ゴブリン如きに殺されていいわけがない…… 。

 必ずや、古谷良二を超える冒険者に……い、意識がもう保てなくなって……。

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