第59話 よくある新入生の話

「ここが『上野公園ダンジョン冒険者特区』かぁ……」


 僕の名前は、石井邦宏(いしい くにひろ)十五歳。

 今日から高校に入学する新一年生だけど、僕は普通の高校ではなく、冒険者高校に入学することになった。

 なぜなら中学校で受けた『冒険者特性』検査で、僕に冒険者特性があることが判明したからだ。

 特に将来の夢なんてなかった僕だけど、せっかく希少な冒険者特性を得られたので、稼げる冒険者を目指すことにしたのだ。

 冒険者は稼げるから、本当に好きなことが見つかったら、第二人生にも挑戦しやすいだろうから。

 四年ほど前、この世界にダンジョンが出現してから、多くの若者にとって冒険者は憧れの職業となった。

 ダンジョンの出現と同時に、世界中の鉱山、油田、ガス田、炭鉱などが枯れ果て、資源やエネルギーをダンジョンから採取するしかなくなり、それができる冒険者が稼げる、社会的なステータスが高い仕事となったのだ。

 現に今の日本では、全国にあるダンジョンとその周辺の土地がすべて特区となり、そこに大半の冒険者とその家族、彼らを相手に商売をする人たちが住む場所となっている。

 ところがこれから僕が住む、東京上野公園ダンジョンとその半径一キロほどのエリアに設置された特区はあまりに狭く、住居不足を解消するため現在急ピッチでビルやマンションの建設が進んでいるけど、いまだ冒険者なのに、特区の周辺に住んでいる人たちも多かった。

 僕のような新人冒険者が特区内に住めるのは、冒険者高校の寮があったからだ。

 この寮も、冒険者高校の生徒全員が住めるわけではない。

 入試で優秀な成績を収め、自宅からの通勤が困難な者のみという規定があった。

 僕は栃木県の出身で、半ば記念受験で東京の冒険者高校を受けてみたら成績優秀者として合格してしまったので、急遽東京の特区内にある寮へと引っ越してきたのだ。

 冒険者高校はすべての都道府県にあるけど、やはり東京上野にある本校は別格とされている。

 冒険者高校には学区が存在しないので、全国どこの冒険者高校も受験できるけど、上野は日本一、いや世界中にもある冒険者高校の中でも群を抜いて競争率が激しかった。

 学校の近くにある上野公園ダンジョンは、世界で二番目に階層が深いダンジョンであり、生徒たちはすぐにダンジョンに潜るようになる。

 そこで他の冒険者高校の生徒よりも優れた成績を出して当然、みたいな空気があって、それは上野の学校が冒険者高校の第一号だからというのもあるのか。

 全国から本校に入学したい優秀な冒険者たちが集まり、たとえ都内在住でも本校に合格できず、他の道府県の冒険者高校に通うことになった冒険者は多い。

 それに加えて、本校は世界中から優秀な留学生たちを集めており、彼らは学費が無料であった。

 それは国内の奨学生も同様だけど、その試験は狭き門になって当然というか。

 僕も寮生の試験には合格したけど、奨学生の試験には受からなかったほどだから。

 世界中から多くの冒険者たちが上野公園ダンジョンに集う理由。

 それは、本校の三年生である古谷良二に憧れてだと思う。

 彼は一人で世界中のダンジョンをすべて踏破し、その証であるダンジョンコアを所持していた。

 冒険者が死ぬまでに一つは手に入れたいと願うダンジョンコア。

 これがあれば、そのダンジョンのどの階層にも一瞬で移動でき、好きなタイミングで地上に戻ることができる。

 冒険者として稼ぐのに、これほど便利なアイテムは存在しない。

 古谷良二が『世界一の冒険者』として世界中の冒険者として評価されているのは、彼が現在攻略中の『富士の樹海ダンジョン』を除き、世界中すべてのダンジョンのダンジョンコアを持っているからだ。

 そしてそのことで、僕たち他の冒険者たちにも利益がある。

 誰かが一度でもそのダンジョンをクリアーしていると、『スキップ』機能が使えるようになるからだ。

 五十階層までクリアーした冒険者は、次から五十一階層からダンジョンに挑めるようになる。

 ダンジョンコアを持っていないと、帰りは自力で地上まで戻るか、貴重なアイテムである『帰還の羽』を用いる必要があるけど、行きは一階層から五十階層までをもう一度攻略する必要がなくなったので、その功績者である古谷良二が世界一の冒険者である事実は揺るがないだろう。

 世界中のダンジョンの詳細な情報、生息するモンスター、倒したあと品質を落とさない解体の仕方、その他ダンジョン攻略に便利な情報、ランダムシャッフルタイムという冒険者に危険な現象を教えてくれたのは彼だった。

 その情報はすべて動画配信サイトで無料で見られ、他にもモンスターの素材を料理して食べてみたり、よくわからない素材の便利な利用方法を教えてくれたり。

 僕より二歳しか年齢が上ではないのに、今や世界一の動画配信者としても有名であった。

 彼は『古谷企画』という一人法人の社長で、すべての株式を持つ株主でもある。

 噂だと、古谷企画を上場させようと、世界中の証券会社が上場ルールを変更しようとして失敗したとか。

 そんな彼の資産はゆうに一兆円を超えており、去年は某経済雑誌の世界の百人の一人にも選ばれていた。

 しかも、現在時価総額で某林檎を抜いてしまったイワキ工業の大株主でもある。

 イワキ工業の会長は冒険者高校の経営者兼理事長でもあり、これからの世界は冒険者を中心に動くと言って、早期から冒険者の育成に力を入れていた。

 そんな二人に会えるとなれば、世界中の冒険者が上野公園を目指して当然というか。

 僕も古谷良二に会ってみたいと思ったから、この高校を受験したわけで。




「はい、石井さんは307号室ね。これはカードキーだからなくさないでね」


「わかりました」


 到着した湯島の寮は、いわゆるラブホテルを改装したものだった。

 現在特区内のあちこちで高層ビルやマンションが建設中だけど、これが完成するまでは仕方がない。

 学生の寮にしてはえらく豪華なので僕は大満足だったけど、一人でラブホテルで暮らすというのは変な気分だ。

 これが、狭き門を潜り抜けるということなのか。


「ピンポーン!」


「はーーーい!」


 呼び鈴が鳴ったのでドアを開けると、そこには同じ学生冒険者だと思われる男性が立っていた。


「石井君だね? 私はこの寮の寮長を務めている桑木だ。三年生でA組に所属している」


「よろしくお願いします。A組、凄いですね!」


 本校のA組なんて、他の道府県の学校なら特別クラスに余裕で入れてしまうほどの実力者なのだから。


「いやいや、奨学生や留学生が所属する本校特別クラスを見たら、私なんて全然大したことはないよ。それに私はもう三年生だからね。新一年生の石井君にはまだ可能性が残っているから、頑張ってくれ」


 本校A組のエリートが凄いという特別クラス……努力すれば、僕でもそこに入れるのかな?


「寮長とはいっても、冒険者はダンジョンに潜る時間が多いのでそんなに顔を合わせる機会はないと思う。よくも悪くも、冒険者は個々で動くものだからね。だから今のうちに最低限の注意……留意しておいて方がいいことを教えておこうと思ってね。いいかな?」


「はい、どうぞ」


 僕は桑木先輩を室内に入れ、二人分のお茶を淹れた。

 元々ラブホテルだから、お茶、コーヒー、紅茶などを淹れやすいのは利点かな?

 どうして高校生になったばかりの僕が、ラブホテルに詳しいのかって?

 それは漫画からの知識だからだ。

 自慢じゃないけど、今の僕に彼女なんていないし、彼女いない歴年齢なんだから。


「お茶を淹れるのが上手だね」


「僕、父子家庭なので」


「なるほど。じゃあ、自炊もできるのかな?」


「ええ、父はそういうのがまったく駄目なので」


 だから僕は本校に合格した時、本当は辞退しようと思ったんだ。

 でも父は、『せっかく受かったのに勿体ないし、古谷良二に会いたいんだろう? 俺は自分ことくらいは自分でなんとかするし、そうしないといけない、いい年をした大人なんだから。お前は俺のことなど気にせず、東京に行け!』と言ってくれた。

 でもあの父のことだから、きっとスーパーの総菜とコンビニ弁当ばかりになるはず。

 サラダとかも食べてくれるといいのだけど……。


「石井君は自炊ができるのか。古谷良二と同じだな。彼の場合、モンスターの素材を調理して動画にあげると、それだけで数千万~数億円になるけどね」


 彼の動画は、視聴回数がすさまじいからなぁ。

 どの動画も視聴回数が十数億から数十億に達するから、動画配信会社と特別契約を結んでいると聞くし、無断転載にもすぐに対応してくれるそうだ。

 ダンジョンの様子を動画で配信する冒険者は増えつつあり、彼らの副収入源となっていた。

 そんな『冒険者ウィーライバー』の中で、他者を圧倒するトップなのが古谷良二なのだから。  


「桑木先輩は、古谷良二と会ったことがあるんですか?」


「何度か話したことあるけど、普段の彼は普通の学生だよ。正直に言うと、とても世界一の冒険者には見えない。冒険者はレベルが上がったり、ジョブが上級職に変化したり、『追加スキル』を得ると、そこはかとなく圧みたいなものが出てしまうものだけど、本物の実力者はその圧を自然に消してしまう。だから、いかにも強そうな冒険者ってのは、実はよくて一流半だったりする。だから普通に見える彼は、圧倒的な強者というわけだ」


「それは、桑木先輩も同じなのでは?」


 桑木先輩は穏やかな文学系少年に見えるから、多分魔法使い系の冒険者だと思う。

 それも凄腕のだ。


「だったらいいね。私はそれなりに優秀な冒険者ってところだ。石井君がその壁を破れることを祈るよ。注意事項だけど、大半はすでに貰っている冊子に書いてあるけど。常識的な行動を心がけてくれ」


「常識的……冊子って、きわめて当たり前のことしか書かれていませんよね?」


 冒険者となってレベルが上がると、一般人では歯が立たないような力を得られるが、それを利用して一般人に害を与えてはいけない。

 力ある者として、節度ある行動を望む。

 そのくらい普通だと思うけど。


「石井君は常識的な人間なんだね。だけど、冒険者全員がそうではないんだ。中には、その力で一般人に害を与える冒険者もいる。警察に捕まる奴だって、懲役刑を受けてダンジョンに潜っている者もいる。現在、世界中で冒険者特区が作られているのには、我々を隔離する目的というのもあるんだよ」


「隔離……」


「もはやこの世界は、ダンジョンから産出するモンスターの素材、魔石、鉱石がないとやっていけないし、それをダンジョンから持ち帰る冒険者が大金を稼ぎ、贅沢に暮らすことは仕方がないと思われている、だが、いくら力と金があるからといって、一般人に迷惑をかけてはいけない。冒険者はならず者になってはいけないのさ。だけど、それがどうしても守れない者もいる。だから特区ができたという事情もあるのだと覚えておいてくれ」


「はい」


 冒険者特区は、十六歳から車の免許が取れたり、飲酒、タバコが吸えたり、男性は結婚できたり、税金が安かったりと。

 住むには厳しい条件があるけど、冒険者には利点が多かった。

 その代わり、特区に住む冒険者には義務が存在すると聞く。

 それは……。


「冒険者の逮捕は、有志冒険者がするって本当ですか?」


「警察官はおろか、フル装備の自衛隊でも、優れた冒険者に歯が立たないからね。いざという時にはトップクラスの冒険者が集合して捕まえるわけさ」


 特区内の治安維持は、特区に住む冒険者有志が行う。

 冒険者特性を持つ警察官も存在するが、実力差を考えると犯罪冒険者に歯が立たないケースが多く、その際には優秀な冒険者が呼び出される仕組みだそうだ。


「優れた冒険者ほど犯罪なんて割に合わないから、滅多なことでは呼び出しはないけどね。冒険者特区の治安維持に貢献しているから税金が安いんだよ。冒険者特区自体は治安がいいし、冒険者特性を持たない人の居住が大きく制限されている。統治コストが安いから、その分税金が安いというのが実情かな」


 冒険者特区には基本的に冒険者及びその関係者しか住めず、町を維持する一般人は周辺地域から通勤することが多いと聞いた。

 よほどのことがなければ、大物冒険者が犯罪を犯して大捕物なんてあり得ないわけだ。


「石井君、しでかして逮捕されないようにね。逮捕された冒険者は、懲役刑を執行されると強制的にダンジョンに潜らされる。罰金や被害者への賠償を稼がされるわけだ」


 冒険者である犯罪者へは、損害賠償をしやすいと聞く。

 元々稼ぐのもあるが、懲役でダンジョン潜らせることができるからなのか。


「冒険者特区の成立と、こういう仕組みが作られたのは、三橋佳代子の事件があってからだ」


 三橋佳代子。

 元冒険者高校の生徒にして、詐欺、業務上過失致、両親殺し、脱走、警察官を複数負傷させた大犯罪人の名前だ。

 本当なら彼女は未成年なので、その本名が世間に出ることはない。

 だが彼女は、際どい水着姿でスライムを退治する動画を配信したり、SNS上で男遊びの様子を晒したりと。

 事件を起こす前から評判が悪かったので、その本名が世間に広がってしまった。

 彼女のせいで一般人たちの冒険者を見る目が変わったというか、冒険者が近くに住んでいることに不安を持つ人たちが増え、その世論の高まりを各国の政府が聞き届け、急ぎ冒険者特区が作られたわけだ。


「冒険者になって、沢山稼いで、贅沢に暮らす。それでいいと思うんだよ。私は」


「そうですね」


 冒険者は社会的な地位が高く平均所得も多いけど、一般人から怖がられてしまうこともある。

 冒険者特性があることがわかった時点で、僕はもう娑婆の世界には戻れなくなってしまったのか。

 父もそれがわかっていたから、僕に冒険者高校に通えと言ったのだろう。

 きっと僕が無理に一般社会に溶け込もうとすると、普通の普通の人たちから迫害されることがわかっていたのだと思う。


「そこは割り切るしかないよ。僕たちは普通の人たちよりも稼げるようになった。だけど、普通の人たちからは怖がられるようになった。なにかを得ると、なにかを失ってしまう。人間儘ならないということさ。私も、自分の会社を持つくらい稼いでいる冒険者だけど、冒険者高校に入ってからの二年間で家族や友人たちと色々とあったよ。普段はこの特区の中で過ごすというのは、我々冒険者に与えられた試練なのかもしれないね。まったく気にしないで特区の中でのみ過ごしている人もいるけど。冒険者はお金を持っているからね。そのお金目当てに様々な商品やサービスを提供してくれる人なり会社は多い。騒ぎさえ起こさなければ、数日旅行に出るくらいは問題なくできるし。頑張っていい冒険者になってくれよ」


「色々と教えてもらってありがとうございました」


「大したことは話していないから、別に恩に思わなくてもいいよ。じゃあ私は他の入寮者への説明もあるからこれで」


 そこまで話し終わると、桑木先輩は部屋を出て行った。

 大した荷物もないので引っ越しはすぐに終わってしまい、僕は暇つぶしに寮から出て散歩をすることにする。


「建設中のビルが多いなぁ」


 特区は、特にこの上野公園ダンジョン特区は狭いのに、世界中から優秀な冒険者が集まってくるようになった。

 住む場所が足りず、今は暫定処置として特区の周辺エリアに住んでいる冒険者の方が多いくらいなのだから。

 冒険者特区とその周辺の地価が銀座を超えたと聞くし、ワンルームマンションで家賃が月三十万円を超えるなんて話も聞く。

 新築マンションが、一部屋十億円を超えるとか。

 元々庶民の僕からすると、『高いなぁ』としか思えないけど、桑木先輩みたいに本校のAクラスにいれば数年で購入できてしまう金額だそうだ。

 上野ダンジョン特区ほどではないけど、全国の他の冒険者特区も地価や不動産価格、家賃が爆発的に上昇したと聞く。

 あとは、日経平均がついに五万円を超えたとか。

 バブルではないかという懸念もあるそうだけど、今の日本はダンジョンと冒険者特区のおかげで、空前絶後の好景気であるのは間違いなかった。


「スーパーもいい値段するなぁ……早くダンジョンに潜って稼がないとな」


 散歩の途中でスーパーに入ったが、特区内なので高級スーパーだった。

 普通のサラリーマン家庭の子で自炊していた身としては、この価格だと外食に走っても無理はないかと思ってしまう。

 家族のいる冒険者がハウスキーパーやベビーシッターを雇うのは普通のことであり、 それらの職種に慣れていない日本とは違って、海外では高給を取る優れたハウスキーパーやベビーシッター、メイドなどがいるそうで、そういう人たちが呼び寄せやすいのも冒険者特区の特徴であった。


「ハウスキーパーやベビーシッターなんて、僕には関係なさそうだけど」


 単身者は、時間がなければ外食やデリバリーをすれば済む話だからだ。

 僕も、お休み以外はそうなるかもしれない。


「あっ! 彼はもしかして……」


「声をかけてみようかな?」


「やめとけ。 あの古谷良二だろう? 恐れ多いってものだろう」


 凄い!

 僕が一度会いたいと思っていた古谷良二がこのスーパーに買い物に来ていたなんて!

 言葉をかけられるかどうかわからないけど、せめて直に顔を見ようと僕は彼に近づいてみた。


「(全然凄く見えない……でも、なんか底が知れないような……)」


 冒険者特区内でいかにもな冒険者を何人か見かけたけど、古谷良二は一見全然大したことない。

 でもなんだろう?

 言葉で説明しにくいけど、とてつもなく深い底のようなものを感じるのだ。

 まるで限界がないような……。


「(本当に綺麗な先輩たちを四人も連れているんだな)」


 一人目は、金髪碧眼でスタイル抜群の美少女で、彼女は有名人なので僕も知っている。

 イザベラ・ルネ・グローブナーさんだ。

 イギリス貴族で、今は日本に留学しながら冒険者として大活躍している。

 世界の冒険者ランカーの一位でもあった。

 レベルは2000を超えていて、ジョブはルーンナイト。

 ついたあだ名は、『白銀の騎士』だ。


 二人目は、武 紅花(ウー ホンファ)さん。

 ライトブラウンのロングヘアーと、スレンダーながらも出るところは出ていて、引っ込んでいるメリハリボディーの美少女であった。

 彼女の実家は有名な華僑であり、彼女自身は日本に留学しつつ、冒険者としても活動している。

 世界の冒険者ランカーの二位であり、ジョブはロイヤルガード。

 イザベラさんもそうだけど、今のところ上級職に上がったことが確認された数少ない冒険者で世界ランカー二位であった。


 三人目は、艶やかな黒髪と大和撫子然とした雰囲気が見る者の注目を集める鷹司綾乃さん。

 彼女は分家ながらも公家の末裔であり、『黒髪のお姫様』と呼ばれて世間でも人気があった。

 日本人に黒髪は多いと思うのだけど、有名な冒険者である彼女は欧米の男性に人気があったジョブは賢者の上級職であるソーサラー、世界ランカーは三位であった。


 四人目は、リンダ・サージェント。

 アメリカからの留学生にして、現役大統領の孫娘でもあり、優秀な冒険者で、ブロンド美少女なので彼女の人気も高かった。

 ジョブはガンナーの上級職である狙撃手。

 様々な自作魔銃を使いこなす動画は、世界中に多くのファンを生んでいた。

 世界ランカーは五位。


 もう一人、世界ランカー四位にしてアークビショップである拳剛という男性冒険者がいて、この五人は古谷良二とよく行動を共にしているという。

 彼らは今、世界で一番稼いでいる動画配信者でもあるので、それを知らない人はいないはずだ。

 今日は、剣先輩はいないようだな。

 古谷良二が、四人と一緒になにか買い物していた。


 ネットや一部週刊誌の報道では、古谷良二が四人の美少女の誰とつき合っているかという話題が定期的に出てくるが、同時に実は全員とつき合っているのではないかという噂も流れている。

 ただ、この冒険者特区内にマスコミの人間が入るには許可が必要で、そう簡単に古谷良二の取材はできないのだから、事実かどうかわからない報道はしないようにしている。

 と、 いうのが大手マスコミの公式見解だそうだ。

 その前に、曲がりなりにも大手マスコミが必死になってゴシップ記事を追いかけるのもどうかと思うわけで、古谷良二の私生活は謎が多いという結論に至っていた。


「(世界ランカーのトップ5に入る四人と一緒に買い物。羨ましいなぁ)」


 四人とも綺麗だよだよなぁ。

 僕も冒険者として活躍したら、可愛い彼女とかできるのかな?


「こんなものかな? そろそろ醤油が切れるような……」


「まだ大丈夫ですわよ」


「そうだっけ?」


「はい、あと数日は。それに、あまり塩分の取りすぎはよくありませんわよ」


「さすがはセレブ。健康には気を使うね」


「リョウジさんも、今では世間からそういう風に言われる存在ですわよ、さあ帰りましょう」


「帰ろうか」


 古谷先輩と、イザベラ先輩。

 とても仲がよさそうだなぁ。

 結局古谷先輩に声をかけられなかったけど、まだ入学する前の僕が声をかけても迷惑なだけだろう。

 冒険者として頑張って、いつか古谷先輩に声をかけられるようが頑張ろうと思う。

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