第56話 黒幕
「古谷企画の未公開株? そんなものは存在しませんよ」
「ええ、この前作った古谷企画のHPにも、各種SNSにも大々的に掲載しましたが、それでも古谷企画の未公開株詐欺に引っかかる人たちがあとを立たないとか……」
「それは大変ですね」
「ええ、ボチボチ犯人たちが詐欺容疑で捕まっていますけど、どういうわけか被害者たちの中には、古谷さんが損害を補填して当然と思っている人たちがいるんです」
「いやいやいや! そのことを言われても」
「どう考えてもおかしい話ですし、今のところ裁判に持ち込んだ人はいませんね。なにしろ絶対に勝てませんから。だから、情に訴える作戦に出たんですよ」
「情?」
「ええ、確かに古谷企画は詐欺に関係ないが、未公開株詐欺に引っかかったのは老後の生活資金を失った可哀想な老人、子供の教育資金を増やそうと投資したサラリーマンや主婦など、普通の一般庶民ばかり。ここは、持てる者である古谷さんが補填してあげれば、きっと被害者の方々も感謝するでしょう、みたいな論調です。フルヤアドバイスは警戒しているようですよ。被害者たちを手助けする弁護士たちが出てきました。彼らは野党の議員もやっています。その影響で、テレビや雑誌などでもそういう意見を言い始めた芸能人や知識人も出てきました」
「理屈が通らない話ですね」
「そんなことは彼らだってとうに承知しているんですよ。被害者たちだって内心では、無理筋だって理解しています。ですが昔から、『無理が通れば道理が引っ込む』というでしょう?」
「情に訴えて、俺にお金を出させるということですか。で、フルヤアドバイスは?」
「西条さん、東条さん。共に断固拒否ですね。中には『老人たちが可哀想だから、見舞金を出したらどうか?』などと戯けたことを言った奴がいますが、そいつは次の契約更新をしない予定です。本人は譲歩することも交渉だと思っているようですが、もしそれをしたら際限がなくなりますから。そんなことも理解できない人は、たとえ東大出でも必要ありませんからね」
「未公開株詐欺を行なっている連中には、当然黒幕がいるんですよね?」
「そうですね。それについては、東条さんに聞いた方がいいですね。私は、被害者の会の方々の相手をして来ますか。あの人たち次第に調子に乗ってきて、損害の補填ができないのなら息子や孫を古谷企画の正社員にしろとか、イワキ工業に紹介状を書けとか、言いたい放題なので疲れます。こっちは自然と塩対応になってしまいますよ。では」
弁護士の佐藤先生から酷い報告を聞いたあと、入れ替わるように入ってきた東条さんが、古谷企画未公開株詐欺の黒幕について報告してきた。
「確実に後藤が関わっていますね」
「あの人、元警察官なんじゃぁ……」
元警察官が詐欺の黒幕って……。
世も末だよなぁ。
「ただ、操り人形として古谷一族と倉敷一族が主犯の役割を演じていますので、後藤を逮捕するのは難しいでしょうね」
「彼はなにをしたいんですか?」
「世界中の人たちが平等に暮らせる、真の社会主義革命を実行する。彼は、自分が公安にいた時に公安が大嫌いになりましてね。だから退職してコンサルタントをやりながら政治活動もしているわけです」
「世界中の人たちが平等に暮らせるようになることを目指しているのに、どうして詐欺を働くんですかね?」
「未公開株に大金を出せる金持ちからお金を取ったという感覚なのでしょう。基本的に彼のやり方は、持っている人たちから奪って格差是正するですからね。江戸時代のネズミ小僧のリクペクトでしょうか? 先日の三橋佳代子さんの時と同じです。いざという時に責任をおっ被せる主犯を用意し、自分はある程度身代わりから吸い上げたら撤収してしまう。だから後藤は捕まらないのです」
「酷い話ですし、矛盾してません?」
全世界の人たちを平等にと言いつつ、後藤は相当稼いでいることが予想できた。
なら自分の資産は、貧しい人たちのために差し出さないのかと。
「そこが、後藤の壊れた部分なんですよ。やはりエリートなんですよ。自分だけは特別と思っている節がある」
「なるほど」
向こうの世界の貴族にも、そういう人がいたよな。
「彼に説得の類は一切通じないと思いますし、これからも彼は俺にちょっかいをかけてくると思いますよ。東条さんはどう対応されるのですか?」
「難しいところです」
東条さんも、後藤をどうするのか悩んでいるようだ。
ただ、未公開株詐欺の実行犯たちはそれからすぐに捕まってしまった。
『俺は古谷良二の親戚なんだぞ!』
『良二! いい弁護士を寄こせ!』
『警察に言って、俺たちを釈放させるんだ、!』
『僕は、古谷企画の社長になる男ななんだぞ!』
テレビをつけると、逮捕された俺の親戚たちが全国に生き恥を晒していた。
さすがにフルヤアドバイスのパワーが働いて、ワイドショーは俺と彼らは無関係だし、その人間性が最悪であることも含めて報道している。
『無職で働かず、離婚した奥さんと子供に養育費を一円も送らず、被害者等から集めたお金で毎日豪遊していたとか』
『古谷企画は一人法人で、そもそも上場できないんですよね。だけど彼らは、自分は古谷良二さんの親戚だから役員になれて問題ない。社員も集める。上場すれば、未公開株は数十倍数百倍になる。と嘘を言って大金を集めていたとか……』
『とんでもない連中ですね』
『若くして偉大な功績をあげ、日本のため、世界のために頑張っている古谷良二さんの足を引っ張るなんて』
『本当にとんでもない連中です。親戚に集る暇があったら、自分で働けばいいのに……』
『余罪として、暴行や、わいせつ行為や強姦の疑惑もあるとか。被害者たちから集めたお金で女性を集め、自分たちの思い通りにならないと無理やり行為を迫ったとか』
『とんでもない輩ですね。しばらく刑務所から出てきてほしくないです』
人間性に問題がある彼らは、お金が手に入った途端、他の悪事も繰り返していたようだ。
これでは、しばらく刑務所から出てこれないだろうな。
「しかし俺は、日本のためにも世界のためにも働いていないけど」
全部自分のために働いているのだから。
「結果的にそうなっているので、それでいいんですよ」
「まあいいけど。後藤は逮捕されないのかな? 結構連中からお金を抜いたんじゃないの?」
「確実に抜いていますけど、後藤が狡猾なところは、それとわからないようにやるところです。証拠がない以上、後藤には届きません。彼らが豪遊したにしては随分と多くのお金が行方不明になっていますが……」
「なるほどねぇ」
後藤かぁ……。
革命家気取りの、選民思想があるエリート系クズってことだな。
「(佳代子の件にも関わっていたんだよなぁ……危険な男か?)」
後藤は冒険者ではないが、非常に狡猾なので、絶対に俺の得意な土俵に上がってこない。
それでいて、彼独自の謎の正義感から俺を敵視している。
向こうの世界では、こういう時にどうしていたか?
それは……。
「ダンジョンに行こうっと。東条さん、あとは頼みます」
東条さんとの話を終えた俺は、その足で一旦上野公園ダンジョンに入ってから、こっそりと別の場所に向かった。
後藤利一。
俺自身のため、確実に引導を渡してやろう。
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