第54話 霊石とゴーレム

「このように、 寂寥島に新しくできたダンジョンは、いわゆる『亡霊ダンジョン』と呼ばれるもので、モンスターはアンデッドしかいません。レイスは、倒すと元のモンスターよりも高品質の魔石が手に入ります。まれにレアドロップアイテムとして、霊石が手に入りますが、これは高性能なゴーレムの材料となります。ゾンビは、肉などは腐っているので使い道がないですね。ダンジョンに放置すれば勝手に消滅します。『ゾンビの骨』が手に入りますが、これはちょっと特殊な用途の素材なので、集めても今のところは価値がないです」



  寂寥島のダンジョンの攻略と、動画撮影、動画配信をしたら、また多くの視聴回数を稼げた。

 死神の素材については、東条さんが国税庁と相談して物納を勝ち取ってきたようだ。

 オークションに流すと高額で売れるので税収は増えるが、基本的にデフレが続き、このところ経済成長できていない日本の企業は買い負けるので、政治家たちが激怒したらしい。

 物納したオリハルコン、霊石は、国税庁がオークションにかけるそうだ。

 税金を滞納した人たちから差押えた品を競売にかけるのと同じ方法でやるそうだが、別に日本人しか購入できないわけではないので、結局同じことかも。

 三分の一を予定納税で物納し、残りは岩城理事長が喜んで購入していった。

 オリハルコンはとても加工が難しい金属で、今のところ地球のどの国家や企業もできないはずだ。

 唯一イワキ工業のみが加工できるので、岩城理事長がオリハルコン炉を作って素材を鋳溶かし、まずは武器や防具を作成するそうだ。

 日本中から優れた刀鍛冶が集められ、ミスリル製の武具と一緒に量産が始まっている。

 その価格は数億~数十億円だが、現在俺以外でミスリル製装備を手に入れられた冒険権者は全世界で十人にも満たない。

 投機筋が財テク目当てに購入して冒険者が手に入れられない本末転倒な事態を避けるため、現役で活動している冒険者しか手に入れられないようにしたにも関わらず、予約を取ったら数分で初期量産分はすべて売れてしまったそうだ。

 そして、ミスリル製とオリハルコン製の装備を購入した冒険者たちは、これまでの数倍の速度でダンジョンを踏破できるようになった。

 値段が値段なので、すでに活躍している冒険者しか購入できなかったのも大きかったけど。

 弱い冒険者特性持ちでも、ミスリル製とオリハルコン製の装備を手に入れれば十分に活躍できるが、いきなり楽をすると、そのあとレベル上げや経験を積むことを面倒くさがる傾向が強い。

 それに、どんなに優れた装備を持っていても、油断すれば呆気なく死んでしまうのは同じだ。

 なので、そういう冒険者には優れた装備を与えない方がかえって安全かもしれない。

 それがなければ、彼らも無茶をしないからだ。

 ただ最近、『冒険者の装備に差があるなんて差別だ!』とか、『なによりも人命優先です! 国が税金で、弱い冒険者に強い武器と防具を与えるべきなのです!』とか言い始めた自称知識人や政治家が出てきたのには辟易した。

 ちゃんと活動している冒険者ほど鼻で笑っていたけど。

 向こうの世界でそんなことを言う奴はいなかったので、これは現代地球ならではの現象かもしれない。

 当然、そんな意見は日本政府も受け入れなかったし、地球上にそんな国家は存在しなかったけど。

 俺も動画で、弱い冒険者にミスリル製とオリハルコン製の装備はかえって危険だと説明している。

 RPGの『いきなり最強プレイ』じゃないんだと。

 修理や整備の費用を考えると、弱い冒険者ほど無茶をせざるを得ないので、かえって死期を早めますよと。

 ゲームのおかげで、この世界は冒険者とダンジョンシステムを早く受け入れたけど、ゲームとの差を説明すると反発する人が多かった。

 『そんなはずはない!』、『ゲームだとこうなんだ!』と。

 ゲームと現実の差が理解できないなんて……。

 他にあるゲームとの差は、冒険者特性がないと金属製の装備を装備できない。

 いや、正確にはそれを装備して一日八時間戦うのは無理な人が大半か。

 ミスリルは鋼よりも軽いから、冒険者特性がない人でも楽に装備できる。

 だが、スライムやゴブリンしか相手にしないのに、そう簡単に購入できないという問題もあった。

 装備していれば、スライムやゴブリンに殺される可能性は相当低くなるけど。


「 おかえり、プロト1」


「社長、おかえりなさい」


 古谷企画は相変わらず一人法人のままだったが、それでも不都合がなかったのは、裏島を任されたプロト1が、多数のゴーレムたち正確な指示を出していたからだ。

 プロト1や他のゴーレムたちを改良して『霊石コア』を大きくしたので、これまでとは比べ物にならないほど性能が上がっていた。

 霊石は、半導体やCPUに似た働きをする霊石コアの材料となる。

 死神から大量に手に入ったのは幸運で、これでプロト1たちの性能を大幅にアップさせることに成功したのだ。


「動画配信を増やしました」


「またか?」


「ええ、色々と調べて、視聴数が取れそうな動画の作成と編集、配信を行っています」


 プロト1の命令で、十数体のゴーレムたちがパソコンの前で作業を行っていた。

 ダンジョン攻略チャンネルと、モンスター素材の調理や試食をするサブチャンネル。

 俺が向こうの世界で経験、目に焼き付けた映像を求められたので渡すと、これも編集して『魔王退治の旅(自称全部CG)』として動画配信していた。

 向こうの世界はダンジョンの外にも様々なモンスターが存在し、さらに向こうの世界の変わった風景、街並み、植物、文化や食事などもある。

 これらをCGで作った作り物として公開したら、一気に大人気になったそうだ。

 他にも、裏庭の田畑の様子や、海にいる生物の様子など。

 プロト1が、どんどん動画を編集して配信していた。

 特に俺が指示を出さなくても、様々な動画チャンネルを作って配信し、インセンティブ収入を稼ぐようになったのだ。

 あとは、イワキ工業の株価が恐ろしい勢いで上昇しており、同時にイワキ工業と取引をしている企業も連鎖的に株価が上がっていた。

 プロト1は、会社の利益の中からこれら企業の株を買い付け、古谷企画の資産を恐ろしい勢いで増やしていた。

 長期保有をしない株の売買で利益を稼いだり、FXで稼いだり、仮想通貨の売買をしたりと。

 古谷企画の経営者は、もうプロト1でいいような気がしてきた。


「古谷企画は、世界一の一人法人になりました」


「だろうな」


 子会社のフルヤアドバイスに天下りが沢山いるが、彼らは古谷企画の社員ではないからなぁ……。

 現在、日本の大学生に就職したい企業のアンケートを取ったら、古谷企画は二位だった。

 求人はしていないのにだ。

 もし入れれば、一生安泰だと思われているのであろう。

 ちなみに一位はイワキ工業で、だがここも新卒を採用していなかった。

 必要に応じて中途採用をするのだが、実はイワキ工業は、時価総額で〇ヨタはおろか、〇スラ、〇ップルを抜いているのに、従業員が千人もいなかった。

 たまに一人分の求人が出ると、応募者がすぐに一万人を超えてしまうそうだ。

 従業員の平均給与が、三千万円を超えているから当然か。

 イワキ工業は人間よりもゴーレムの方が多いから、生産性、利益率が高い。

 ただ他の企業が真似しようにも、サブジョブのゴーレム使いはまだ少なく、さらにその性能があまり高くない人が多かった。

 それでもゴーレム使いたちは、農業、林業、漁業、養殖、畜産業などで大きく稼げるようになり、日本の食料自給率は上昇し、食料価格はかなり下がったそうだ。

 ゴーレムで生産性を爆上げできるので当然というか。

 ゴーレムは、作れる技術があればロボットよりもコストが圧倒的に安く済むからだ。

 霊石がないと高度な作業を行えるゴーレムが作りにくいけど、作れないわけではない。

 簡単な作業をするゴーレムなら、地球上にある元素だけでも作れるのだから。


「この裏島での、ゴーレムを使っての農業も順調ですよ」


 広い土地を遊ばせるのもどうかと思ったので、プロト1に農業をするように命令したら、ゴーレムたちを動かして上手くやっているようだ。

 農作物は、ダンジョンで手に入れたレアアイテムの種や苗を利用し、完全に無農薬でやっている。

 そして収穫された農作物は、屋敷に隣接しているアイテムボックスの仕組みを利用した倉庫に保管されていた。

 倉庫の中は時間が進まないので、保存した穀物や野菜が腐らないのだ。

 同じく、ダンジョンで手に入れたレアアイテムの『黄金鶏』、『黄金牛』、『黄金豚』、『黄金山羊』、『黄金羊』の卵をふ化させて畜産業も始めた。

 向こうの世界でも、普通の家畜は出産するが、ダンジョンでレアアイテムとして出現する家畜は卵から生まれる。

 頭に黄金がついていれば凄いだろう、といった感じの安易なネーミング。

 まるでゲームのようだが、みんな実際に黄金に輝いているのも事実であった。

 それと不思議なことに、卵から孵した黄金の家畜は繁殖させるとなぜか出産するのだ。

 育てるのに手間はかかるが、その肉や卵、乳は非常に美味で、今ではこちらの屋敷に入る時は必ず食べるようにしていた。

 他にも、『黄金マグロ』、『黄金カニ』、『黄金鮭』、『黄金エビ』、『黄金アワビ』、『黄金ホタテ』、『黄金ウニ』などの卵がレアアイテムとして入手できる。

 ダンジョン内にも似たようなモンスターが生息しているが、ダンジョンの海の階層は深いので、モンスター討伐の難易度が非常に高い。

 それにモンスターなので巨大なため、アイテムボックスがないと食材として扱い難いのだ。

 その点、黄金の海産物シリーズは養殖もできるし、扱いも普通の海産物と変わらない。

 そこで、裏島の海でゴーレムたちに養殖させていた。

 こうして獲得した食材が倉庫に山ほどあるので、もし俺がこの世界でオワコンになっても、裏島に籠って生活できるので気楽だ。

 

「プロト1は頑張っているんだな。会社は赤字にしなければいいから」


「了解しました。引き続き色々と頑張ります。あっ、イワキ工業と組んで、仮想通貨事業を始めることにしました。イワキ工業の製品や、社長が集めたモンスターの食材、この裏島で栽培、畜養、加工された食材を購入できるようにする予定です」


「ちゃんと申請とか出してやってくれよ」


「そちらの業務はイワキ工業に委託して、妥当な委託料を支払う契約です」


「ならいいけど(プロト1が、俺の資産と不労所得を増やしてくれるな)」


 俺はダンジョン探索と撮影で忙しいから、プロト1に全部お任せでいいだろう。

 当面の目標は、寂寥島のダンジョンのダンジョンコアを手に入れることかな。

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