第52話 決着

「そろそろ消えるか? 死神」


「そっ、そんなバカな! どうして死神になったこの私が、たかが人間でしかない良二を殺せないのよ?」


「死神っても、モンスターの名前でしかないから、佳代子が神になったわけじゃないぞ。お前、そんなことにも気がついていなかったのか? それは冒険者としてどうなんだ? 他人に偉そうに教える資格なんてないだろう。ましてや、あんなボッタクリ講座に大金を支払わせて」


「良二、私に意見するの?」


「意見? 俺はただ批判しているだけだ。意見ってのは、それをして改まりそうだと思う人にするものだ。今のお前に意見しても無駄だろう。もうモンスターなんだから。考えてもみろ。動物に意見する奴が、この世にいるか? 俺はただ、お前に駄目出しをしているだけだぞ」


「殺す! 必ず殺す!」


「やれるものならな」



 あれから丸一日が経過した。

 その間、俺はただひたすら、様々な方法で死神にダメージを与え続け、死神は馬車に閉じ込められたレイスでダメージを回復していく。

 どちらが勝つかは、俺が力尽きて倒れるか、馬車の中のレイスがすべて浄化され、死神に持久力がなくなるかで決まる。

 佳代子は、俺が力尽きて負けると思ったようだ。

 だから自信満々だったのだけど、 丸一日戦い続けた俺が大した疲労感を見せないことから、大分焦っているようだ。

 モンスターになった自分と同じように、丸一日戦い続けても平気なので、俺が本当に人間なのか疑っているのかも。


「(一人で魔王を倒した勇者を、侮ってもらっては困るな)」


 当然魔力は何度も尽きてしまったが、その度に魔力回復ポーションを飲んで回復させた。

 睡眠は、二~三日なら休まずに戦い続けられる体力もあった。

 死神……佳代子は、俺の実力を読み違えたというわけだ。

 いくら冒険者として強くても、強いモンスターになった自分が負けるはずがないと。

 普通に考えたら、それは間違っていないのだけど……。


「佳代子、そろそろ終わりにするか?」


「良二ぃーーー! 死ねぇーーー!」


 すでに、死神の馬車には一体のレイスもいなかった。

 全部俺たちが倒してしまったからだ。

 死神はアンデッドなので、治癒魔法や回復アイテムでは治らない。

 必ずレイスを吸収して体力を回復させなければいけない以上、抱え込んだレイスが一体もいなくなくなれば、死神などただの大きなレアモンスターでしかないのだから。


「……クソォーーーー!」


「そうくると思った」


 死神は、亡霊ダンジョン内に逃げ込もうとした。

 また多数のレイスを捕らえ、回復手段を獲得しようとしたのであろう。

 だがそんな行動は、子供にでもお見通しだ。

 俺は死神の進路を塞ぎ、同時に『ホーリー』を乱れ打ちした。


「熱いぃーーー! 体がぁーーー!」


 すでに回復手段をなくした死神は、この攻撃でほぼ瀕死……アンデッドに対し瀕死というのは変か……。

 あと一撃で消滅するところまで追い込んだ。

 そして大ダメージのせいで倒れ込んだ死神は、もう一歩も動くことができなくなっていた。


「良二……まさか、幼馴染である私を消滅なんてさせないわよね? 実は私、子供の頃から良二のことが好きだったのよ」


「……」


 この状況で命乞いとは……。

 呆れてものも言えないな。


「誰にも言えなかったけど、私は……」


「この期に及んで、くだらない嘘をつくな」


 俺と佳代子は、そういう関係の幼馴染ではなかった。

 そして佳代子がB組となった時、E組だった俺と縁を切った。

 俺もそれを受け入れ、ただそれだけのことなのだから。

 世間では俺が冷たいなんて言い出す変な奴がいそうだが、この状況ではもうどうにもならないだろう。

 第一、佳代子はすでに死んでおり、死神というアンデッドモンスターになってしまったのだから。

 モンスターである彼女を、ダンジョンの外の世界で自由にさせるわけにいかない。

 それこそ一般人に害が及ぶのだから。


「あのビッチたちね! ビッチたちが良二を唆して!」


「もうそれ以上聞きたくない! あばよ! 『グランドクロス』!」


「良二ぃーーー! 必ず呪い殺してやる!」


「ふん、本音が出たな」


 イザベラたちのことをバカにされ、無性に腹が立った俺は、『グランドクロス』で死神にトドメを刺した。

 そのあとには、死神が装備していた武具と、 やはりアンデッドだった馬の外殻、そして空になった馬車。

 最後に、死神の大きさと同じくらいの巨大な魔石、そして……。


「霊石がドロップするとは運がいい。これでもっと沢山の高性能なゴーレムが作れるな。しかし……眠い……」


 死神を倒したら、一気に眠気がきてしまった。

 急ぎ死神のドロップ品を回収したところで眠気が限界ととなってしまい、その場に倒れ込んでしまうところを誰かに支えられた。


「剛か……残念」


「良二は正直だな。 寂寥島のダンジョンの件は西条さんと東条さんがなんとかするから、お前は寝るんだな」


「それはありがたい」


 やはり緊張の糸が切れてしまうと、そのあとも戦い続けるのは不可能なようだ。

 無事に死神は倒せたので、今は寝てしまうとしよう。

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