第51話 死神(後編)
「イザベラ、ホンファ、綾乃、リンダ、剛!」
「リョウジさん?」
「どうやら死神は、自身の回復と攻撃を両立させるため、大量のレイスたちを馬車から解放し始めたようだ。イザベラたちは、馬車から飛び出すレイスたちに当たってくれ。俺は、死神本体を倒す」
これは役割を分担しなければ、俺でも倒しきれるかどうか……。
「わかりました、みなさん!」
「おう!」
「うわぁ、次々と馬車から湧き出してくるね」
「毎日、世界中で沢山のモンスターが倒されていますからね。どおりで他のダンジョンにアンデッドがほとんど出現しないと思ったら……こういうカラクリだったのですか」
「銀の銃弾、沢山用意してよかったわ。それにしても、レイスを倒しても魔石が出てこないわね」
「ああ、それは……」
死神に吸収された時点で、レイスたちは個を失ったからだ。
魔石は死神を倒せば、その集大成と言えるほどデカいやつが手に入るさ。
経験値もな。
「楽しみね! どんどん倒すわよ!」
リンダは、魔銃を乱射して次々とレイスを倒していく。
イザベラは、聖魔法を込めたミスリル製の剣で次々とレイスを斬り捨てていく。
ホンファは、聖の魔力を込めた拳や蹴りでレイスをぶちのめし。
綾乃は『ホーリー』を連発。
剛は、装備しているミスリル製のモーニングスターを振り回して、多数のレイスを倒していった。
「(大丈夫そうだな)」
俺は、魔法で宙に浮きながら全高三十メートルの巨人にホワイトメタル製の聖剣で斬りかかった。
ホワイトメタルという金属は、オリハルコン、ミスリル、他色々な金属を用いた合金で、聖の魔力を帯びさせなくても、アンデッドに対し絶大な威力を発揮する。
ただし、ミスリル、オリハルコン以上に入手と製造が困難であり、この世界で所持しているのは俺だけのはずだ。
魔法で飛び回りながら、ヒットアンドアウェイで死神に何度も斬りつけていく。
斬り裂かれた箇所に大きな傷口が発生するが、それはすぐに塞がってしまった。
馬車の中のレイスですぐに回復したのであろう。
死神による渾身の一撃を次々と回避しながら、死神に何度も斬りつけてダメージを与え続けていく。
いつか、馬車の中のレイスが……いや、やはりこの方法では死神は倒せない。
なにしろ死神の馬車の中には、この世界ではこれまでに倒されたモンスターたちすべてのレイスが詰まっている可能性があるのだから。
「リョウジさんは、以前どうやって死神を倒したのですか?」
「方法は簡単なんだ。相手が力尽きるまで、ひたすた攻撃し続ければいい」
馬車に閉じ込めたレイスたちが一体残らず消え去るまで、ただひたすらホワイトメタル製の武器で攻撃し続けるか、聖属性の魔法、必殺技などを繰り出し、死神にひたすらダメージを与えればいい。
他に方法がないとも言えるけど。
「イザベラたちは、駄目そうなら早めに撤退してくれ」
「リョウジさんは?」
「三日でも四日でも戦い続ける予定だから、そうなるとイザベラたちになにかあっても助けることはできない。だから、撤退してくれた方がこちらとしても楽なんだ。大変申し訳ないけど」
「いえ、今の私たちとリョウジさんの実力差を考えれば当然です。戦えるところまでは戦いますけど」
「頼む。いくぞ! 『グランドクロス』!」
「えっ?」
イザベラが驚いていたけど、俺はほぼ全てのジョブや特技、魔法を網羅しているので『グランドクロス』を使うことができた。
それも、『グランドクロス』を覚えたてのイザベラよりも高威力の『グランドクロス』を放てるし、連発も可能だ。
連続して死神に対し『グランドクロス』を放ち、十字の深い傷を刻まれた死神は動きを止めて回復に入った。
同時にイザベラたちが次々と死神の周囲に漂うレイスたちを倒していったので、これでこちらが攻撃を受けることはなくなった。
もし死神から攻撃をすると、回復量よりも受けるダメージのほうが上回ってしまう、俺に倒されてしまうと計算したのであろう。
「良二、このまま勝てないかな?」
「そんなに甘くはないさ。死神は、持久力が売りのアンデッドなんだから」
死神と同レベルの戦闘力を持ったレアモンスターの数は意外と多い。
その中で死神に出会うことが不幸とされる最大の理由は、亡霊ダンジョンで多くのレイスを取り込み、それを躊躇いなく回復源として用いるからだ。
こちらがどれだけ攻撃しても、すぐにレイスを用いて回復してしまうので、無敵の敵と戦っているかのような気分に陥ってしまう。
実際、ほとんどの冒険者が持久力切れで倒されてしまうのだから。
「『グランドクロス』、『グランドクロス』、 『グランドクロス』、『グランドクロス』、『グランドクロス』!」
『グランドクロス』を五回連続で死神に命中させると、 そのまま四つに切り裂かれてしままった。
死神の周囲にいるレイスも剛たちが順調に駆逐していたので数を減らしつつあったが、自身に危機が迫った死神は、馬車からあり得ない数のレイスを出現させ、それを自分の体に取り込むことでダメージを一瞬で回復させてしまった。
「徒労感があるわね! ええいっ、こうなれば!」
リンダは、新しく自作した機関銃型の魔銃を『ウェポンラック』から取り出し、それを連射してレイスたちを一掃し始めた。
「リンダさん、剛毅ですね。お金がかかるでしょうに」
「アヤノ、銀の銃弾を使っていたら私は破産するわよ。通常の銃弾に聖魔法を纏わせているのよ」
理論上はその方法で十分だけど、実際にある人を初めて見た。
消耗の激しい魔力は、持っている魔力回復剤を飲んで対応しているようだ。
アメリカ人らしいやり方だし、リンダが倒しているレイスの数は圧倒的だった。
「でも、お腹タプンタプンよ」
残念ながら、長期戦には向かないようだな。
「リョウジさん」
「非常に助かった。撤退し離れたところから見ていてくれ」
半日ほどの戦闘でイザベラたちは限界がきたが、他の凄腕冒険者たちなら一時間も戦えば限界のはず。
さすがは、俺を除けば世界のトップランカーだ。
「良二ぃーーー!」
「やっと喋ったな、佳代子じゃなくて死神」
「私はぁーーー!」
「その図体で、外国に逃亡できると本気で思っているのか? だとしたら本当のバカだなお前は」
「良二、あなたには人の心がないの? 幼馴染のたった一度の過ちを許さないなんて! だからこの国は駄目なのよ! 女性が虐げられているわ! 外国になんて逃亡しないで、 手に入れたこの力を用いてこの国を支配してやる! 男なんてみんな私の奴隷になればいいのよ!」
「あっそう」
ここまでバカだったとはな。
いや、自業自得とはいえ追い込まれてしまった結果か。
なにがたった一度の過ちだ。
俺をパージした件はどうでもいい。
俺もお返しで、佳代子と縁を切ったからな。
だが、その後の行動はすべて佳代子の自業自得じゃないか。
冒険者としての努力を怠り、バカな奴らに唆された結果、際どい水着姿でスライムを倒してみたり、冒険者講座と称して高い受講料を集めたり。
挙句の果てに、自分に近寄ってくるイケメンたちと遊ぶのに忙しく、実戦講習を素人にやらせて死者を出して逮捕。
最後に両親を殺して留置所から脱走したのだから。
「佳代子、お前はお前の行動の結果、この世から浄化される。気がついているのか? お前はもう死んでいるんだぞ」
死神はアンデッドである。
ダンジョン内で襲われて人格を奪われたということは、佳代子ももう死亡してアンデッドにになっているということなのだ。
「私が死んでいる? まさか」
「お前は死神の体を乗っ取った気分だろうが、それは逆だ」
死神は、出現しただけではなにもできない。
ダンジョン内で遭遇した人間を殺して取り込み、その人間の人格を利用して亡霊ダンジョン内のアンデッドを馬車に詰め込んで持久力を増大させ、以後は遭遇した人間を無慈悲に殺し続ける。
まさかダンジョンの外に出てくるとは思わなかったが、この世界に移転した時点で、亡霊ダンジョンの性質が変わってしまったのかもしれないな。
「普通のモンスターでも駄目なのに、アンデッドを外の世界に出すわけにいかない。他の人間に害を成す前に浄化されろ!」
「やってみるがいいわ。良二、少しくらい強くなったからっていい気になって! 今の私の実力なら、お前なんて簡単に殺せる! アンデッドにして、私が永遠にこき使ってあげるわ」
「それはできないな」
「どういう意味?」
「なぜなら、お前はここで消滅するからだ。そもそも、お前の実力で俺を殺せると本気で思っているのか?」
俺がどれだけ苦労して、今の力を得たと思っているんだ。
少しくらい上手く行かなかったからと言ってダンジョンに潜らなくなった佳代子ごときに負けるわけがないじゃないか。
「三流のくせに他人に迷惑をかけて。もう死んでいるんだから消えろ」
「Eクラスの分際で、私をバカにしてぇーーー!」
死神は、持っていた大剣を俺に向かって全力で振り下ろした。
全高三十メートル以上の巨人が振り下ろした大剣だ。
普通の人間なら一瞬でぺちゃんこにされてしまうが、俺はその一撃を真剣白刃取りで受け取った。
「なぜ死なない……潰れろぉーーー!」
死神はさらに力を込めて俺を潰そうとするが、俺も力を入れてそれを防いだ。
上からの力で足が地面にめり込んでいくが、死神は一向に俺を大剣で押し潰せないでいた。
「なぜ潰れない? どうして死なない?」
「それは、俺がお前よりも強いからだ」
死神は、持久力が売りのレアモンスターだ。
別の世界で魔王を倒した勇者ともなれば、一対一で十分に戦えた。
「そんなことは認め……りょうじぃーーー! いい気になっていられるのは今だけよ! 馬車に詰まったレイスたちがいれば、私は永遠に戦える。お前は力尽きて死ぬのよ」
「そうなるといいな」
「痩せ我慢を! 本当は危ないと思っているくせに。絶対に逃がさないからね」
それは好都合だ。
死神が多くの人間の住む場所に出現すれば、大量虐殺と呼ぶにふさわしい犠牲者が出てしまうのだから。
俺だけ狙ってくれるのであれば、それはかえって好都合というもの。
「いくら良二が強くてもね。所詮は人間よ。私には永遠に近い持久力がある」
「それはよかったな」
「また私をバカにしてぇーーー! 絶対に殺す」
幼馴染と殺しあうなんて、こんなに悲しいことはないな。
だが、 俺は他人のどんな過ちも許してしまうような教祖様ではない。
それにここまで騒ぎを起こしてしまった以上、佳代子に助かる術はなく、すでに死神によって殺されてもいる。
他人に迷惑をかけないよう、俺が死神……佳代子を浄化してやろう。
それが、元幼馴染である俺にできる唯一の善意なのだから。
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