第49話 最期
「はははっ! この程度のモンスターの群れくらい余裕じゃないの! すぐに冒険者として良二を抜いて……必ず殺してやるわ! 女に恥をかかせた報いよ!」
寂寥島ダンジョンに入った私は、その一階層がスライムレイスの巣であることに気がついた。
半透明な実体のないスライムだから、これはアンデッドということよね。
すぐに予備の剣に切り替えてから、スライムレイスを倒していく。
この剣には聖属性が付与されており、これは前のパーティを抜ける時に慰謝料代わりに貰ったものだ。
この私をクビにするなんて言うから、ゴネたらこんなにいい武器を差し出すと思わなかったわ。
リーダーは、負け犬のお人好しだからでしょうけど。
スライムのレイスが簡単に斬り裂かれ、そのあとには魔石のみが残った。
回収してる時間が惜しいので、今はスライムレイスを倒してレベルを上げるのが最優先よ。
とにかく一つでも多くのレベルを上げる。
多分二階層は、ゴブリンのレイスかゾンビがいるってことでしょう?
そのぐらいのことは良二でなくても簡単に予想がつくし、私はすぐに強くなって彼を追い抜いてみせるわ。
大体、E組の落ちこぼれのくせに生意気なのよ!
少しくらい強くなったくらいでいい気になって、この私の好意を無下にするなんて。
必ずや調子に乗った報いをくれてやる!
「そもそもこの私が、あのビッチたちよりも下だっての?」
長年幼馴染をやってあげたのに、あの男は生意気なのよ!
どこにでもいるような普通顔のくせして!
必ず惨たらしく殺してやるわ!
そして私は、外国でイケメンたちに囲まれて暮らすのよ!
「随分と沢山倒せたけど、まだまだ!」
ある程度スライムレイスを倒したら、急ぎ二階層への下り階段を探しましょう。
そう考えながらスライムレイスを倒し続けていると、ダンジョンの壁際になにやら黒い煙のようなものが蹲っていた。
「もしかして、レアモンスターとかだったりして」
通常、ダンジョンの一階層には一種類しかモンスターがいないけど、以前にあった突然強いモンスターが出現する現象の、アンデッドバージョンかもしれないわね。
「今の私にかかれば、あんなただの黒い煙の塊。余裕で倒せるわよ。先手必勝!」
私は、ダンジョンの壁際に蹲る黒い煙を、剣で斬り裂いた。
すると、すぐにその場から黒い 煙は消え去ってしまう。
「呆気なかったわね。でもレアモンスターなら、なにか貴重なアイテムをドロップするかも」
珍しいものが見つかればお金に変えられるので持ち帰った方がいいと思った私は周辺を探し続けるが、残念ながらなにも見つからなかった。
「残念ね。二階層への階段を……あれ?」
突然私は、目の前が真っ暗になってしまった。
目になにか異常があるわけではないようで、これは私の顔を先ほどの黒い煙が覆っているみたいね。
しかもこの黒い煙は真夜中よりも暗く、私はなにも見えなくなってしまった。
「このままだと、モンスターに攻撃されてもわからないじゃないの! なんなのよ、 この変な煙は! この私を誰だと思っているの?」
顔を覆っているであろう黒い煙を両腕で振り払おうとするけど、一向に視界は晴れなかった。
どんなに強く振り払っても、黒い煙が私の顔の周りから離れないのだ。
「このままだと 、スライムレイスにも殺されてしまうわ!」
『心眼』みたいな特技があればいいけど、生憎と私には使えなかった。
とにかく、急ぎ私の顔を覆う黒い煙を取り除かなければ。
「黒いままでなにも見えないじゃない!」
大体、この黒い煙はなんなのよ?
ただ視力のみを封じられて、この黒い煙でダメージを受けたり、毒などに犯されたわけではない。
今のところはまったくのノーダメージだけど、とにかくこの黒い煙を私の顔の周りから取り除かなければ……。
ダンジョン探索において、見えないこと以上の危険なんてそうはないのだから。
「もしかして、この黒い煙はモンスター本体ではないの? ということは、本体はああがっ!」
突如、胸に焼けるような痛みが走った。
これは、何者かの鋭い刃物が私の胸に突き刺さった……のよね。
油断したわ……。
胸の焼けるような激痛は酷くなる一方で、さらに喉の奥から血が溢れ出てきた。
このままだと喉が血で詰まって呼吸が……。
「がはっ! ……致命傷……私は死ぬの?」
いまだ正体もわからないモンスターに殺されて、私はダンジョンで寂しく人生の終焉を迎える?
そんなこと、許されるわけがないじゃない。
私はこのダンジョンで鍛えて世界一の冒険者となり、外国でイケメンたちを侍らせるながら、面白おかしく生きていくはずだったのに……。
「げほっ……私がこうなったのは……全部……良二のせい……」
わざわざこの私が、良二のことを見直して婚約者になってあげるはずだったのに、あんなビッチたちに心奪われるなんて……。
「あの……ビッチたちもよ! ぐはっ……絶対に許さないんだから……」
たとえ今私がここで死んだとしても、悪霊になってても必ず良二とビッチたちに復讐してやるわ!
「駄目だ……意識がだんだんと薄れてきたわね……必ずや良二を……」
残念ながら、私は死ぬみたいね。
でも、良二とビッチたちに必ず目に物を見せてやるわ!
せいぜい覚悟しておくのね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます